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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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85話 小物である程に


社会の中で、“人の和”という言葉を用いる表現を目にする事は少なからず有ると思う。

多くの場合、それを調和・平和・平等・協調という解釈やイメージで受け取っている事だろう。


だがしかし、それは本当に正しいのだろうか?。


和というのは様々な用途、意味を持って用いられ、その時々、その状況により意味が異なる。

例えば、計算に置ける和は主に足し算の(・・・・)解答。

二つ以上の数字を足し、加算した結果を指す。


文化という面では、和は日本の文化・様式を指し、和風・和式・和食といった用いられ方をする。

勿論、これは飽く迄も漢字としての使用例だが。

決して、和という意味を無視しての事でもない。


和という漢字、それを用いる言葉の多くは基本的に繋ぎ合わせるという意味が含まれている。

これは日本の、日本人の感性を象徴している事。


日本語以外の多くの言語では、こういった使用例は殆んど見られず、別々の単語・発音をする。

それは一つ一つを切り離して考える価値観が故。

対して、日本古来の価値観では、和は分断する事の出来無い様々な事象・要因・結果を繋ぎ合わせた、その先に在るとする理念が有った為だと考える事が出来るのではないだろうか。


時が流れ、時代が、社会が、世界が変わった。

それでも、古来から和の一文字に込められた理念は今に至るまで失われてはいないと思いたい。


だからこそ、和について、今一度考えて貰いたい。


政治的な決定により、それに従う事が和なのか?。

目の前の、上辺だけの解決法や取り組む姿勢を見せ根本的な部分を誤魔化す事が和なのか?。

少小を切り、多大を取る、それが和なのか?。

責任の所在を擦り付け合い、自分は逃れようとする醜い言動や姿勢が和なのか?。


──否、そうではない。

そう言い切れる人が、一人でも増えたなら。

今よりも、本の僅かだけれど。

社会は、時代は、世界は、改善される気がする。


和する事とは、一致団結する事でも、満場一致する事でも、意思統一する事でもなく。

御高いに個を尊重し合い、同じ目標や問題解決へと向かって助力し合い、時には妥協・譲歩し合う事で歩み寄って進んで行く事ではないのだろうか。

自分の事ばかりを考えるのではなく。

他人の評価ばかりを気にするのではなく。

社会の矛盾ばかりを指摘するのではなく。

自分も社会の一員・一部であるという自覚。

自分も他人も同じ人間であるという常識。

他人も社会も生きる上で必要であるという理解。

そんな、当たり前の事が、誰かが言わなくても。

当たり前な世の中になった時。

漸く、人は本当の意味で、和する為の第一歩を踏み出せるのではないのだろうか。



「──物資には構うな!、捨て置け!

今は少しでも早く撤収する事が最優先だ!」


「書簡等は如何致しましょうか?」


「放置しろ!、見られて困る様な物は無い!」



きびきびとした指示が飛び交う中。

自らも必要な作業を熟しながら、即断即決。

基本となる骨子──方針さえ決まっており、それが揺らぐ事さえ無ければ。

その才器を存分に発揮する事が出来る。

根が真面目で、頑張り屋で──でも、負けず嫌い。

そんな彼女──孫権の様子を見ながら。

ついつい表情が緩みそうになるのを堪える。

まさか、観られているとは思いもしないだろう。


だからね、時々、動いてズレた下着の位置を直しに手を衣服の中に入れたり、さっと手早く胸や御尻を掻いていたりするのを目撃した事は不可抗力。

決して、意識的に狙っていた訳では有りません。

後々の為に、彼女の仕事振りを拝見している中での偶発的なラッキースケベ──ではなく、何と言うかアクシデントみたいなものですよ、ええ。


因みに、彼女の健康的な太股が眩しい!。

服装こそ、原作みたいな薄着では有りませんが。

孫家の家風なのか、動き易さを重視した衣装。

原作程の露出は有りませんが──中々に大胆。

しかし、女の子の御洒落意識も垣間見られる意匠。

それが彼女達らしさを引き立てる名脇役に。

ジョジョデミー賞の助演賞をあげたい位です。

……いや~、あのスリットは罪深いですよね~。

そっか~、この世界の孫権は意外にも黒か~。

そのギャップが良いですね、ギャップが。



「──しっ、失礼しますっ!

南東の山合いに敵影を確認っ!、その数二千っ!」


「──っ!、やはり早いっ…

準備が出来た隊から順次撤退を始めろっ!

呂納、悪いが私に付き合ってくれ」


「私は姫様の槍で御座います

姫様が戦われるとあれば、この呂子近、地獄にでも共に参りましょう」


「頼りにしているぞ

──だが、姫様は止めろ、子供扱いするな」


「ふふっ…そういう事は、その魅力的な御尻の下に男の一人でも敷いてから言って下さい」


「くっ…好き勝手言ってくれるわねっ…」



気にしているのか、顔を赤くして左手で捲れている訳でもないのに御尻の辺りを押さえる孫権。

何なら、俺が立候補しますよ?。

御尻の下に敷かれても主導権は渡しませんが。


孫権の口調が瞬間的にだが、女の子らしくなる。

原作の甘寧のポジションに当たる存在が呂納。

孫家の武官で、孫権の副将を務めている二十五歳、既婚者で三児の母親。

孫権達姉妹にとっては親戚の姉の様な存在で。

孫策でも、彼女には甘える様に素顔を見せる。

だから、孫権の反応も何も可笑しな事ではない。

ただ、彼女は軍将が務められる才器の持ち主。

孫権の副将という立場なのは、家事・育児を一番に考えている事を理解した上での孫策の提案。

本音は「今、貴女に引退されたら困るの!」だが。

まあ、そういう対応が出来るのが孫策の柔軟さ。

まだまだ孫権には足りない部分だと言える。


それはそれとして。

原作とは違い、孫権もガチガチの石頭ではない。

生真面目な事には変わりないが、柔軟さは有る。

勿論、宅の合格基準からしたら全然低いけどね。

それでも、今の段階としては悪くはない。


その孫権が呂納と共に迎え撃つのが、詠が率いてる宅の先行部隊。

新兵では有りませんが、経験機会の少なかった者を中心として編成してあります。

宅の軍将や、その直属部隊が出たら正面な勝負には為りませんからね。

軍師一人が率いてる位で丁度良いんです。


退路を確保する為には籠城策は愚策。

撃って出るのが注意も引けて良い訳ですが…おっ、ちょっと判ってるみたいですね、偉い偉い。

「べ、別に貴男に褒められたかって、嬉しくなんてないんだからねっ?!」とツンデレる孫権の幻影が。

言いそうだから余計に違和感が有りません。

そして、破壊力が有ります。


孫策や孫尚香はツンデレても態とらしいし、一目で下心や裏が有ると感じてしまうでしょう。

だが、孫権の場合、根が真面目な事が超重要!。

此処、テストに出る──訳有りませんけど。


それは置いといて。

兵の質でも数でも劣りながらも、戦線を維持出来る辺りは孫権と呂納の存在が有っての事。

二人が揃って居なければ、早々と瓦解した。

何方等かが此方等の戦力を軽んじ、一人で受け持つ様な真似をしていたら、此処で脱落。

詠にも「手加減はしても、決して容赦はするな」と事前に言ってあるからな。

確実に叩き潰されていたでしょう。


さて、孫権達の指揮する兵士達ですが。

殺してはいませんが、今は沈黙して貰います。

巻き込まれて死なせない様に、こっそり回収担当も持ち回りで皆に経験させています。

これが地味に難しくて大変なんですよ。

大前提が、こっそり回収、ですからね。

相手に感付かれてもいけません。

殺されないと判れば緊張感が変わりますから。

同じ経験をしても、質が劣るんですよ。


そんなこんなで戦い始めてから約一時間。

孫権の元に伝令の兵士が駆け寄ります。

内容は言わずもがな、撤退が概ね完了した報せ。

それを聞き、孫権は戦況を見る。


今、この瞬間、孫権の目には見えている。

宅の部隊に痛手を与えられる決定的な隙がな。


何しろ、詠には態と隙を見せる様に指示してある。

軍師としては、意図を汲み遣り甲斐の有る面白さと万が一のリスクに対する不安との板挟み。

「何て無茶を遣らせるのよっ、アンタはっ!」と。

胸ぐらを掴まれ、頭突きする勢いで怒鳴られようと可笑しくはないオーダーなんですけどね。

見事に熟してくれています。

安定思考ばかりだと成長が偏りますからね。

こういったリスキーな事も経験としては必要。

まあ、無いなら無い方が良いんですけどね。

「だったら遣らせるなっ!」と言われそうなんで、絶対に口には出しませんし、悟られもしません。

後々気付いた時には憤怒()は冷めていますしね。

その頃には、もうバレても問題有りません。

ゴネたら大人の肉体言語教室で御話ししますから。


──で、当の孫権はと言うと。

今までの即断即決が嘘だったかの様に熟考中。

熟考って言っても、今までと比べたらの話です。

言う程、其処まで長い訳では有りません。


孫権が食い付けば、そのまま落としますが…。

さて、どうなるか………へぇ…これは意外だな。

成る程、目的と引き際(・・・)を見失ってはいないと。

正直に言って、素直に嬉しい結果だな。


孫権は思っていたよりも早く、撤退を決断した。

呂納に窘められたり、献策されて、ではない。

孫権が自ら考え、判断し、きちんと動いた。

その一連の過程が、俺からしたら拍手もの。

熱くなり過ぎて視野が狭まっている訳でもなく。

勝利や戦功に拘り、気持ちの逸るままに突っ込んで悪戯に兵を失いながら、という訳でもなく。

今、自分が何を成すべきなのか。

それを理解した上で、判断が出来ている。

簡単な様で難しく、当然の様で失念し易い。

だからこそ、その采配と決断に拍手を送る。

…まあ、消音中だから聞こえはしませんけど。


──とは言え、簡単に逃がすつもりも有りません。

詠には「背中を見せたら仕掛けろ」と一言。

詠は詠で、今必要な事を判断し、孫権達を追撃。


当然ながら、「きゃっ、孫権捕まっちゃった~」な展開が待っている訳が無く。

孫権達の撤退を援護する様に割り込む一団が。

苛付き、八つ当たりするかの様に攻撃する詠。

しかし、一団を叩いた時には孫権達の姿は無し。

その役目を、目的を、一団は果たしたと言える。


その後、詠達が街に入り事後処理を始めた頃合いを見計らって、俺、登場。

…自分で言うと物凄い恥ずかしいよね、コレって。

勿論、ネタとしては有りなんだけど。

通じないと恥ずかし過ぎるから口には出来無い。

「……え?、あの……ぁ、ああ!」みたいな感じで察して対応されたら、悶死ものですからね。

俺には、素で遣る勇気も覚悟も御座いません。


──なんて考えている間に俺も御仕事の時間です。

目の前には縛られて座る文官武官が四十七名。

決して討ち入りにきた忠臣達では有りません。

孫権達を逃がす為に戦った一団。

それを仕向けた者達です。



「既に判っているとは思うが、俺が徐子瓏だ」


「御初に御目に掛かります、私は孫艾と申します」


「想像以上の若造で驚いたか?」


「…そう、ですね…正直、驚いてはいます

年齢と御噂から想像していた御姿は、もう少し身の丈も大きな方でしたので」


「みたいだな、よく言われる」



挨拶し、俺と臆せず会話するのは二十七歳の男。

孫姓を名乗ってはいるが孫策達と血縁関係は無い。

大きな活躍や貢献に対し、孫姓を与えられた者。

その末裔に当たる立場。


こういった立場の者は少なくなく、長い歴史の中で本物の血筋が入り、一族の末席に加わる。

そういうケースも珍しくはない。


この孫艾の祖先は戦功によって、孫策達の祖先から孫姓を与えられたが、以降は姓が同じなだけ。

大した活躍も貢献もしていない。

だから、冷遇されているという訳ではないのだが、陰口を叩かれ易い立場でもある。


そんな一族の中で立身出世を野心と共に狙う男が、目の前に座る眼鏡の似合う優男。

別に才能が無いという訳ではないが。

「私はキレ者ですよ?」と自信たっぷりな態度は、人によっては苛っとするでしょうね。

当然、俺は心が狭いので苛付いてますとも。





 孫艾side──


孫家の中での立身出世を目論見、どうにか活躍する機会を窺っていたが、その可能性は狭まる一方。

武官の方が重用され易いのは…まあ、仕方が無い。

孫家は名門ではあるが、先代が急逝され、幼かった跡取り娘達では勢力が衰えるのは必然。

それでも、孫策様か孫権様に近付き、どうにかして取り入る事が出来れば──いや、夫に成れれば。

孫家の中で自分の手腕を振るえたのだが。

その可能性は疾うに潰えた。


だからと言って、直ぐに出て行く事も出来無い。

大して実績も無い若造を抱えようと考える物好きは滅多に居はしないのだから。

そして、動き出した時代の波は武を尊ぶ流れに。


そんな中、圧倒的な存在感と共に台頭した英雄。

男社会の中、妻とした者達を要職に就け、家臣にも数多くの女性を重用しているという。

加えて文官への評価が高く、戦で働きを求められる軍師よりも内政を担える人材の発掘・登用・育成に力を入れているという話。

その英雄──徐恕様こそが、我が主に相応しい。

孫家に見切りを付けるにも良い頃合い。


しかも、愚かな孫彦が戦を仕掛け──絶好機。

我が身を呈して孫権達を逃がす格好で投降。

私に賛同し付き従う馬鹿共を使い、場を整えた。



「さて、回りくどい話も時間の無駄、本題だが…

自分達の立場というのは理解しているな?」


「はい、重々と…如何に孫彦殿の独断専行とは言え其方等からすれば内情等は関係の無い話…

その御怒りは御尤もでしょう

ですが、兵や民が犠牲となる事は望みません

どうか、私共の命に免じて御赦し願いたく…」



──という潔さを見せる。

掴んだ情報に因れば、この御方は非常に義に厚く、情が深いという事。

妻とした女性達の中にも、そういう姿勢を評価して傍に置いている方も何名も居る。

しっかりとした情報だから間違い無い。

こうして、相手の好みに合わせて振る舞う。

そういう処世術も上に行く為には必要な事。

正直な話、私以外の奴の事など、どうでもいい。

どうせ使い潰してしまう捨て駒だからな。



「中々に虫がいい話だが、言いたい事は判った

それは御前達の家族や親類縁者も含めて、か?」


「…はい、出来る事ならば、御寛大な御裁きを…」


「成る程な………良いだろう

その潔さに免じて家族等は助けると約束しよう」


「有難う御座います」



一瞬、予想外の問いだった為、驚いたが。

どうやら上手く事を運べた様だ。

深々と頭を下げ、感謝を示す。

これで、私の未来は大きく拓けた。

この御方の下で、気に入られ、活躍し結果を残す。

そうすれば、私の名は永遠に歴史に刻まれる!。

嗚呼、何と素晴らしい日なのだろうか。

抑えたくても、緩んでしまう口元が全てを物語る。

勿論、今は頭を上げられはしないが。



「──では、先ずは筆頭である御前からだな」



そう言って立ち上がられる徐恕様。

…成る程、まだ私は試されている訳ですか。

良いでしょう、私は怯みも致しません。

真っ直ぐに見て、成し遂げて御覧に入れましょう。


堂々と振る舞う私の視界で、徐恕様の剣が閃いた。



──side out



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