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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   針のみぞ無心


歓待準備──ではなく、迎撃準備が整った後。

桃香と焔耶の率いる二部隊(・・・)は出発。

いつも通り、俺は二人の御手並み拝見、という事で特等席に一足先に到着。

華琳の淹れた御茶を飲みながら開戦を待ちます。



「孫彦は兎も角、孫策と諸葛亮は悔しいだろうな」


「事を露骨に遣れば陽動や撹乱はバレバレですが、細かく段階を経てしまえば判り難いものです」


「露骨に遣るのも時と場合に因っては有りだけどな

今回は地道に仕込んできた甲斐が有った」


「隠密衆も頑張ってくれましたしね」


「ああ、本当にな」



担当者達には特別手当てと休暇が与えられる。

だが、長期任務の為、かなり不人気な任務で。

当初、直ぐには担当者が決まらなかった。

それでも、事の重要性を話せば、表には残らないが宅の裏歴史──()記録には名が残る。

その出来が、孫家との戦いの被害を左右する以上、本当に重要な任務なんですよ。

だから、きちんと功績を記録に残す。

報復の対象に為らない様に伏せられるし、記録でも暗号化して、という形にはなるが。

俺は勿論、後世に代々受け継いでいく功績になる。

その名誉で、引き受けてくれた者達への褒美。

尚、その話が出てから悔しがる者も多々。

俺は最初から餌で釣りはしませんよ。

寧ろ、釣れてから餌を遣るタイプです。

全く関係有りませんけどね。


さて、今回の孫彦の動きなんですが。

その全てが、俺達の筋書き通り。

文字通り、操り人形なんですよね~。


孫家自体は、孫策を中心として纏まっています。

ですが、孫家の地盤である右北平郡は、まだ孫家が完全には掌握し切れてはいません。

領地としては、孫家が手中にしてはいますが。

孫家──孫策に不満を懐く反抗勢力も残っており、小さな火種が幾つも燻っています。


そこで、宅の方で少しばかり煽って(・・・)遣った。

どの道、宅が右北平郡を獲れば始末するんです。

だったら、前倒し(・・・)しても結果は同じ事。

ただ、その労力と費用を負担するのが、宅ではなく孫策達だというだけの話です。

当然と言えば当然の事なんですよ?。

だって、今はまだ(・・・・)、宅の領地では有りませんから。


現在、孫策達は噴出した問題に絶賛対処中。

だから身内の火種である孫彦にまで構っている暇は無いんですよね~、これが。

ただ、孫彦も馬鹿じゃないんで。

だからこそ、孫策達も動かないと高を括っていた。

ええ、そうです、甘い!、甘過ぎです!。

ホットミルクに色が変わる位の蜂蜜を入れる程に。

それはもう、ホットハニーでしょう。


──コホンッ…話を戻しまして。

そんな孫策達の「まあ、大丈夫でしょう」の意識の死角を突いて孫彦を動かした訳です。


では、どう遣ってなのか。

それは意外と単純で、孫彦に自ら動きたくなる様に仕向けて遣っただけです。

そう、例えば傍らで囁く様に、です。



「しかし、まさか本当に全く気付かないとはなぁ…

勿論、バレない自信が有る相手を選んだんだが…」


「所詮、孫彦は自分の事しか考えていませんから

御兄様の狙い通り、己の利になると判りさえすれば疑いもせず、側に置き、重用します」


「まあ、だから狙った訳だしな

それでも、孫策達も一切疑わなかったのもなぁ…

勿論、それだけ巧かったんだろうが…

俺としては、もう少し冷や汗を掻く事態が有っても良かったんだけどな」


「それは聞かせられませんね」


「ああ、絶対にな」



聞いたら、「要りませんよねっ?!」と抗議される。

だがしかし、皆の成長を思えば、試練が欲しい。

簡単な御仕事では経験値は入りませんから。


──で、種明かしをすれば。

孫彦の側近──軍師役を務めている李桂ですけど、彼は宅の隠密衆が成り代わっています。

1年程前に、本物の李桂を暗殺してです。

妻子無し、親兄弟姉妹無し、容姿も地味で特徴的な訳でもなく──悪徳文官、と。

ええ、何を躊躇う必要が有りますかって位に整った好物件だったので、さくっと居抜き(・・・)しました。

それから野心家を装わせ、孫彦に接近。

上手く功を上げ、孫彦に気に入られる様に立てて、見事に取り入ってみせた。

その後、孫彦を窘めたりしながら、孫策達側からは中間管理職ならではの板挟み状態に有る、といった誤認される様に振る舞わせ、注意を外させた。

…まあ、だから警戒されていないんですけど。

この世界の孫家って、かなり脇が甘いんですよね。

原作や、前世の歴史の立場とは違うので、仕方無いと言えば仕方無い事なんですけど。

若干、物足りないのも本音です。


──とまあ、そんなこんなで孫彦を動かしたと。

これで孫家が先に仕掛けたという既成事実は完成。

後は、邪魔な孫彦を始末し、そのまま侵攻。

ええ、遣られたら遣り返すのが俺の流儀です。


その孫彦ですが、真桜と直属の工作部隊が頑張って築いてくれた防壁には手が出ず、関所攻めに。

予定通り、門扉を閉めたら、脇に(・・)潜伏。

孫彦なら一気呵成に攻勢に出るだろうから、先鋒に合流する為に我が物顔で孫彦が率いる本隊が関所を通り抜けた後、一定の距離を取りながら追尾。

李桂──成り代わった隠密衆の合図で、脱落者達を纏めて始末し、退路を塞ぐ。


最後は意気揚々と孫彦率いる本隊が空の(・・)砦の中へと入った時点で、掃除を開始。


──っと、ああ、丁度今、始まりましたね。

敵部隊の全てではなく、孫彦を含む半分が砦の中に入った所で、壊された砦の門扉の代わりに予め用意していた丸太を使って塞ぎ、分断。

そう遣って先ずは精神的に揺さ振る。


軽い混乱と大きな動揺、そして警戒心から足を止め一ヶ所に固まってしまうのは無意識的な防御行動。

個ではなく、集団であるが故に起きる反応。

それが忠誠心から来る主君を命懸けで護ろうとするものだったなら、集中力が違うのだが。

実際には「何ですかコレ!?」「助けて下さい!」と集団の頭である孫彦に縋り付く様に群がるだけ。

命令されなければ自主的に判断も行動も出来ず。

死活問題に直面しているのにも関わらず、頭の中で責任の追及を恐れ、従う事を選ぶ哀れな兵達。

まあ、此方としては楽な展開なんだけどね。


砦内部で固まった結果、自分達で逃げ場を潰し合う孫彦達には砦の外壁上部に潜んでいた桃香が率いる部隊が投石と矢の雨を降らせる。

手持ちの楯では正面を含めた一部の攻撃は防げても全方位に対応出来る訳ではない。

加えて、一人一人が楯を持っている訳でもない。

楯持ちが倒れれば、其処に穴が生じる。

落ちた楯を拾おうとすれば狙い撃ちにされ。

楯を下敷きにして倒れられたら回収も困難。

一方的に削られ、追い詰められてゆく孫彦。

「卑怯者め!」「正々堂々と戦え!」等と罵ったり挑発しようと率いる桃香は武人ではない。

宅の桃香は文官──軍師なんですから。

「え?、この人って馬鹿なの?」な訳です。

ええ、そんな非効率的な自己満足に態々付き合って一騎打ちをする様な軍師は居りません。

なので、孫彦の最後は桃香の放った矢にて左目ごと頭を射抜かれて絶命。

軍師ですが、力は有るんですよ、桃香って。


一方、砦外部に取り残された指揮官不在の兵達には焔耶の率いる部隊が一気に襲い掛かりました。

津波が一呑みにする様に、喰らい尽くしてゆく。

軍将は勿論、正面に焔耶と撃ち合える者は居ない。

だから何も出来ず、ただただ駆逐されるのみ。

観ていて清々しい程の綺麗な一掃振りでしたね。


一方的な蹂躙こそが、真の阿鼻叫喚の地獄絵図。

その事実を改めて見せてくれました。



「…正直、あの容赦の無い攻撃は以前の桃香からは想像が出来ませんね…」


「他人事みたいに言ってるけど、誰の影響だ?」


「それは勿論、御兄様です

そう私を育てたのも御兄様ですし、御兄様への愛が桃香をそうさせるのですから」


「…くっ…正論だけに言い返せないな…」



ふふんっ、と得意気に胸を張る華琳。

「さあ、どうなさいますか、御兄様?」と言う様にノーガードで待ち構える我が愛妹。

罠だろ?──だが、その挑戦、受けて立とう!。

しかし、貴様の思い通りにはさせはせぬ。

クククッ…もどかしさの中、悶えるがよいわ!。


………え?、「御兄様、切ないです…」…だと?。

…くっ、いや、惑わされるな、徐子瓏!。

これは孟徳の巧妙な罠だ!。

孔明は今は遠くに居る筈だから関係無いし。

そうだ、そう遣って意識と思考を逸らして──



「…御兄様ぁ…もぅ我慢、出来ません…」


「──仕方が無いな」






──という訳で、結局は華琳の思う壺でした。

まあ、偶の華琳の独占欲であり、甘えですからね。

その遣り取りも含めて、大事なんですよ。


俺と華琳がイチャついてる間に事後処理も終了。

華琳には一足先に孫彦達と入れ替わる格好で孫家の領地となっている遼西郡の肥如県に向かった部隊に合流して貰い、俺は桃香達の所に。



「良い手際だったな、二人共」


「有難う御座います、忍様!」


「はっ、有難う御座います」



桃香は戯れたくて堪らない仔犬の様に抱き付くが、こういう時の焔耶は武人的で冷静。

その一方下がって居られる姿勢の辺りに良妻賢母の片鱗を感じるのは日本人的な感覚ですかね?。

勿論、桃香は桃香で良妻賢母だとは思いますが。

俺の良妻賢母のイメージ像が、大和撫子なんで。


まあ、それを言い出せば世界各地、更には時代でも良妻賢母のイメージ像は違ってくるでしょうけど。

加えて、男の好みも絡むでしょうからね。

千差万別、多種多様だと思います。



「これから落とす肥如県を始め、遼西郡は桃香達に任せるから、順次、統治していってくれ」


「はい、御任せ下さい」


「経験を積ませる意味で、天和達姉妹や下の面子も入れ替わりで遣ってくるから宜しくな」


「それでは賊退治は任せた方が宜しいですか?」


「現場での指揮や戦闘、事後処理を遣らせる分には構わないが、必ず目の届く所に置いて頼む

まだ加減も下手だろうし、尻拭いも難しい

失敗する事自体は構わないが、それが糧ではなく、成長を阻害する様では意味が無いからな

まあ、今度は自分達が導く側に立つ訳だから色々と学ぶ事も有るだろうしな

大変だろうけど、頼んだ」


「判りました」


「私も頑張ります!」



終始冷静に受け答えする焔耶だけど、頭を撫でると擽ったそうにしながらも嬉しそうで。

その控え目な甘え方がギャップも有り、可愛い。


桃香は撫でられながら頬擦り、こしこし、と。

自分の匂いを付けようとする猫見たいです。

本質的には桃香は犬だと思うんですけどね。

犬と猫だと、どうしても猫の頬擦りの方が可愛いと感じてしまうのは、サイズ感の所為でしょうか?。

何方も可愛い事には同じなんですけどね。

やっぱり、自分よりも小さい=保護欲=可愛い。

そんな感じなのかもしれません。


でも、自然界の小さい生き物って恐いんですよ?。

だって、毒持ちとか普通に居ますから。




そんな感じで二人に後を任せ、俺も最前線へ。

合流した時には既に肥如を落とした後でした。

そう指導し育てた俺が言うのも何ですが。

──早ぇな、おい、マジかよ、です。

いやまあ、そう余裕で出来る実力は有ります。

予想外でもない、当然と言えば当然の結果です。

ただまあ、えらく張り切ってる人物が約一名。



「愛紗かぁ…」


「愛紗です」



然り気無く傍らに来ていた華琳が俺の呟きに答え、想像が間違っていない事を肯定する。

愛紗にとっては出産後、最初の復帰戦。

本人の希望も有り肩慣らしとして、がら空き状態の肥如攻略を任せたんですが。

久し振りの戦場で昂ってたかな?。

まあ、それは愛紗だけじゃなくて、関羽隊も同じ。

直属の為、愛紗の産休中は街の治安維持や内勤へと一時的に仕事が変わってたからな。

勿論、それも後々の事を考えての経験なんだけど。

やっぱり、直属だと将に兵は似るんだろうな。


生き生きとして動き回る愛紗と関羽隊。

その姿を見ていれば、誰でも同じ様に思うだろう。

戦狂いという訳ではないが。

共に戦場に立ち、共に生き抜いてきたのだから。




 孫策side──


遼西郡の北部を獲得した後、大きく動き出してから私達は右北平を手に入れた。

──とは言っても、まだまだ上辺だけの話。

実際には彼方等此方等に火種が燻っている状態。

油断は出来無い──という中での嫌な報せ。

それらが幾つも共鳴する様に燃え上がった。

彼是考えるよりも先に、鎮火しなければならない。

そうしなければ、民が犠牲になるのだから。

だから私達は各所に散り、対応に追われていた。


そんな中で、更に嫌な報せが届く。



「──御免なさい、もう一度、言ってくれる?」


「は、はいっ、孫彦様が自ら手勢を率いて肥如より海陽に向け進軍されたとの事です…っ?!……」



その言葉に思わず手にしていた筆が砕けた。

折れた訳ではなく、握り潰した勢いのまま、罅割れ砕け散ってしまった。

だから報告に来た兵士が怯えたのも無理も無い。

寧ろ、よく悲鳴を上げなかったと褒めてあげるわ。


それはそうと、そこまで私が怒っている理由。

目の前に居る兵士が悪い訳ではない。

当然、私が何か失敗したという訳でもない。

それだったら八つ当たりだもの。

では、一体、誰が悪いのか。

決まっているわ──あの髭達磨(糞爺)よっ!。


肥如から海陽に進軍ですって?。

あれ程、朱里から反対されてたでしょうがっ?!。

「今は徐恕さんと事を構える時では有りませんし、下手に刺激するのも愚策です」って朱里からも散々窘められたでしょっ?!。

それに私だって散々「優先すべきは右北平郡の平定であって、徐恕ではない」って言ったわよねっ?!。

それなのに──何遣ってくれてる訳っ?!。

アンタが死んで片付く話じゃないのよっ!!。


──って、机をひっくり返し、手当たり次第に物を投げまくって、怒鳴り散らしたいわ。

勿論、そんな真似出来る訳無いんだけどね。


砕けた筆の欠片を屑籠に放り込み、一息吐く。

少し間を置かないと、愚痴が出ちゃいそうだしね。



「…今更、その報告が私に届いても手遅れね

孫彦は返り討ちに合い、肥如は落ちるでしょう

直ぐに臨渝と令支に全てを放棄して即時右北平への撤退を伝えなさい」


「りょ、両方共に、ですか?」


「何方等かを残しても落ちるのは時間の問題よ

寧ろ、下手に籠城したり応戦すれば、兵力も物質も無駄に消耗するだけ

今は即時撤退が最優先

物質も無理に運び出す必要は無いわ

時間が惜しい、直ぐに動きなさい」


「ぎょ、御意っ!」



兵士に指示を出し、退室させる。

その判断は間違っていない。

口にこそしなかったが、「徐恕なら民を蔑ろにする真似は絶対にしないわ」と。

そう思わず言いそうになった。

自分でも笑ってしまう程に。

彼を信頼している自分に気付いてしまった。



「…にしても、この状況…釣られたかしら?」



誰に、誰が、など口にする必要も無い。

その可能性は一つしかないのだから。

そして、そう考えると腑に落ちるから困る。

納得してしまえば、見えて(・・・)くる。

裏に有る真意がね。



──side out



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