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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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84話 餌無くて釣る


釣り好きの人が、「海は漁、川は釣り」という様に表現する事が有るのだが。

それは魚の数や規模を指して言っている事も有るが一番大きな違いは水深(・・)ではないだろうか。


海釣りは餌を撒き、魚を集める事も少なくない。

だが、針を海底深くへ落とし込み、釣り人も魚達も御互いを見る事が出来無い状況で行う。

その為、如何にして獲るかを重視するもの。


一方、川釣りは御互いが姿を見る事も可能な距離で駆け引きをする事も少なくはない。

それ故に、如何にして相手を欺くかが肝心。


その違いは単純な様で、実は奥深い。

例えば、釣り人と魚ではなくて。

人と人とで考えてみれば解り易いだろうか。


御互いが見えない状態で行うのなら、戦略。

御互いが見える状態でなら、駆け引き。

そう表現する事も出来るのではないだろうか。


商売で言えば、前者は全国規模の市場を対象とした大量生産による販売戦略。

後者は個人、或いは小規模な対象に絞ったを狙い。

オーダーメイドや、受注生産といった所だろう。


こういった事を考えてみると。

“釣り”という行為や言葉を例えに用いる事が多い理由が何と無く見えてくるのではないだろうか。

ただ、勘違いしないで貰いたい。

別に良し悪しを議論しようという訳ではない。

古くから有る例えや諺というのは、人や物事の本質という部分を的確に捉え、表現に用いている。

だからこそ、身近な状況でも活用出来るという事。


ただ、それも社会や時代の変化により、日常生活の内容や在り方、生活様式自体も変化している。

それにより、活用が難しくなっている場合。

或いは、世代によっては意味が判らない、といった認識のギャップという問題も出てくるもの。


技術や学術の発展・進歩により、生活は変化する。

それ自体は良い事なのだろう。

ただ、それにより失われたり、減少してゆく日常の生活習慣や文化、常識を伝え、残すという事もまた必要な事ではないだろうか。


“温故知新”という言葉が有る様に。

人も、技術も、文化も。

あらゆるものが過去の積み重ねにより現在(いま)に有る。

その事実を忘れて、過去を蔑ろにしてはならない。

過去が有るから学べる事、理解出来る事が有り。

過去を介して見る事で、考える事で得る事が有り。

過去に起きたからこそ知る事で繰り返さない様にと備えたり、改善する事が出来る様になる。


過去は現在に至る道であり、未来への標である。

その事を、決して忘れてはならない。

より良い社会を、世界を、未来に成す為にも。




「──御兄様、孫彦が動きました」


予定通り(・・・・)だな、此方も動くぞ」


「畏まりました」



端的に報告し、指示を受けて退室する華琳。

言葉通り、此方等の予定通りなので焦りもしない。

淡々と、事前に作った棋譜通りに手を打ち進める。

ただそれだけなのだから。


さて、名前の出た件の人物なんですが。

孫伯平、孫策の父方の祖父の姉の息子の妻の弟で、子供が出来ず姉の養子になり、孫家に入った男。

血気盛んと言えば聞こえは悪くないが、単なる猪。

──とは言え、獣らしい臆病さも持ち合わせる。

猪の様な性格の(・・・・・・・)人物とは違うから面倒臭い。

──が、今回は此方等にとっては格好の的。

狙い通り、一本釣りに成功しましたよ、っと。


途中だった最後の書簡の確認と指示書を書き終え、氣で速乾させ、机の上に纏めて置いておく。

後は担当の文官が回収し、各所に分けてくれます。

地味ですが、正確さと信頼が大事な仕事です。

だから、文官の中でも特に俺達に近い立場。

機密厳守ですから、遣らかすと一発アウト。

もう一度が絶対に無いので日常的な緊張感が大事。


──と、部屋を出た所で咲夜に会った。



「今から行く所?」


「ああ、まあ、前説(・・)みたいなものだしな

直ぐに終わらせて戻ってくる」


「それはそうでしょうね

──とは言え、今回は私も出たかったわね…」


「原作メンバー相手は、これが最後だしな」



孫策と妹の孫権・孫尚香、そして、幼馴染みである諸葛亮・趙雲・文醜。

その六人で、原作のヒロインは出揃う。

飽く迄も、俺と咲夜の知る範囲の、だけど。



「もう少し遅らせた方が良かったか?」


「それは結局、結果論だしね

私自身、後悔は無いわ

…まあ、出来る事なら、生中継とかで見られたら、何の文句も無いんだけれどね」


「其処は流石に技術的になぁ…」


「ふふっ…判ってるわ、頑張ってね、御父さん(・・・・)


「おう、行ってくる」



他愛無い会話をして、キスと抱擁を交わす。

偶々、ではなく、態々、見送りに来た咲夜。

本人の言葉通り、気持ちの整理を付ける為。

そして、無言の警告(・・)として。


今の所、大きく影を感じたのは月の時だけだが。

“歪み”は確実に存在している。

それが判っている以上、油断は出来無いからな。

咲夜だけでなく、妻子の、臣民の未来の為にも。

俺が倒れる訳にはいかない。




──という意気込みで遣って来ました最前線。

相手が相手なので人数等に縛り(・・)付きですが。

士気が高い事は良い事です。

やはり、活気の有る職場は良いものです。

これから殺し合いが始まる職場だとしてもです。

ローテンション、マイナス思考は頂けませんので。

…まあ、はっちゃけられても困りますが。

真っ直ぐな戦意高揚と緊張感は集中力を高めます。

それが結果的に無駄な死傷を避ける事に繋がるなら良い事なのは間違い有りませんので。

勿論、殺しや戦い自体を楽しむ様な輩は宅の軍には一人として居ませんから。

そんな輩は疾うに排除するか、教育(・・)済みです。


──とか考えながら様子を見ていると焔耶が来る。



「忍様、孫彦率いる部隊の先鋒が海陽に入ったとの報せが届きました」


「そうか……予想通り過ぎて実戦経験としての質は期待出来そうにないな

まあ、その分、此方等の被害は無くて助かるけど」


「その辺りは悩ましいですね」


「勿論、被害が無い方が良いのは間違い無い

ただ、だからこそ──っていう贅沢な悩みだよな」



そう言えば焔耶は苦笑する。

本の少し前までは戦いとなると猪突猛進。

力任せの強引を強引で強引に押し貫くパワー馬鹿。

そんな評価をされても可笑しくなかった焔耶ですが今では一人前の軍将です。

戦闘のスタイル自体は今もパワー系ですが。

脱・脳筋し、きちんと状況を把握・判断し、柔軟な対処・指揮が出来る様に成っています。

そんな短期間での成長も愛が有ればこそ!。

──いえ、冗談ですから、そんな大それた事なんて流石に言いませんから。


焔耶に限らず宅に加入したのが原作メンバー全体で見て三分の一を越えて以降になる者は、ある程度の遣り方が確立されてからですからね。

個人差の調整は有りますが、基本的に教える内容は共通している以上、教える側も要領が判ります。

指導環境が整い、指導者の力量も向上すれば。

以前よりも短期間で成果が出る事は有り得る事。

その上、先輩(・・)に真っ向から叩き伏せられればね。

武官──武人としての意識が有れば、効果覿面。

真摯に向き合い、努力をしてくれます。


焔耶自身、根は真面目ですし、頑張り屋さんです。

だから、解らない事は質問し易い関係さえ出来れば積極的に焔耶の方から教えを請う様に為ります。

後は…蒲公英(ライバル)の存在でしょうね。

何だかんだで認め合ってはいるんですけど。

それはそれ、これはこれ。

性格や戦闘スタイル等真逆な事が多い二人。

数少ない共通点は──共に負けず嫌い。

まあ、これは宅の奥様方には全員共通ですが。



「──あっ!、忍様っ!」



焔耶と居る所に姿を見せたのは桃香。

飼い主を見付けた仔犬の様にパタパタと駆けて来る姿は可愛らしく、微笑ましい。

──その都度、たゆんっ、たっぷゅんっ、と。

蠱惑的に揺れる、怪しからんものを見なければ。

いや、桃香に責任は有りませんよ。

これも全て、男としては言い訳出来無い本能。

煩悩に塗れた我が不徳の致す所に御座る。


──とか考えている間に桃香が抱き付いてくる。

その凶悪な自制心殺し(リビドーブレイカー)を躊躇無く使い。

「ねぇ?、何がイケないの?、ん~?」と上目遣いをしながら俺を押し倒さんとするサキュバス。

其処にはない妖艶な微笑と囁きを幻視する程に。

その一撃は凶器であり、脅威。


──加えて、特性・負けず嫌いが発動し、こっそり俺の片腕を抱き締める焔耶さん。

此方等もまた見事な御餅を御持ちですからね。

いや、焔耶のは西瓜だよね、この張り具合は。

何なの?、この弾力性と柔らかさのハイブリッド。

こんなもので攻め立てられたら、俺の本丸御殿など堪ったもんじゃないです。

あっと言う間に陥落しちゃいますって。


──という弱音(本心)は置いといて。

こういう時にはビジネスモードに移行です。

鉄壁の営業マン・ディフェンスを発動で凌ぐ。

……な、何だと!?、我が伊達眼鏡に罅が!?。

まさか、これが本当のリーマン・ショックか?!。


──とか言う現実逃避は殴り飛ばして、と。

…ふぅ~…危ない危ない。

もう少しで()られる所だったぜ…。

──って、誰だよ!、心の中の極みな俺だよ!。



「二人共、準備は出来てるな?」


「はいっ、いつでも大丈夫です!」


「御命令が有れば直ぐにでも行けます!」



うん、その返事は間違いじゃないんですけどね。

せめて、離れてから言いませんか?。

ちょっと受け取り方を間違われると、ほら…。

桃香は兎も角、焔耶のは物凄い台詞だよ?。

まあ、そんな風に考えてしまっている時点で二人の仕掛けた罠に、どっぷり嵌まってるんだろうけど。

脱け出す気が起きないから困ったものです。


ただまあ、二人が若干発情気味なのも仕方が無い。

今回の孫彦との一戦が終われば、二人には遼西郡の統治を任せる事になっています。

そして、それは俺との関係の前進を意味します。

焔耶は妊娠こそ先の話ですが、桃香の方は一人目の事を考えて始める頃合いなので。

戦果を上げ、実力は示しました。

残るは統治能力。

此方等は多少時間は掛かりますし、心配しなくても桃香には十分な素質は有りますからね。

董家の助力も有りますし、問題は無いでしょう。

勿論、桃香がサボったりする様なら話は別ですが。

幸か不幸か教祖の洗脳が効いていますからね。

俺を失望させたり、落胆させる事は無いでしょう。

だから、きちんと御褒美(・・・)をあげる。

それだけで、頑張ってくれますよ。

…教祖の掌の上だから不本意な事は否めませんが。



「二人にとっては、一先ずの総仕上げだ

今までに学び、磨き、身に付けてきたもの

そして、これから更なる成長の為に必要なもの

それを、この戦いで出し、掴み取れ」


「はいっ!」

「はっ!」



俺を真っ直ぐに見て返事をする二人。

しっかりとした意思と遣る気に満ちた眼差し。

それを見ただけでも、個人的には確信出来る。

原作の劉備・魏延よりも、目の前に居る二人の方が間違い無く成長し、上回っていると。

それだけに俺としても今回の戦いは楽しみだ。


──が……あの、桃香さん?。

貴女、何してるんですか?。

ねえ、貴女の左手なんですけどね、ちょっとばかり空気を読んでませんよね?。

何故、今、そんな場違いな真似を?。

…え?、華琳から「御強請り(・・・・)は事前にする様に」と言われていますから?。

あ、そうですか…。

いやまあ、その方が確かに俺も助かりますが…。

──って、焔耶さん?。

貴女、俺の右手を何処に挟んでるんですか?。

ちょっと指先を動かしただけでアウトですけど?。

まさか…「わ、私にも…御願いします…」って。

くっ…よもやよもや、ガチの御強請りとはっ…。

普段とのギャップの破壊力が…半端無いっしょ!。

桃香はエロくなってもエロさが増すだけですが。

焔耶の仔犬系御強請りは反則でしょう!。

遣るな教祖め!、いい仕事してます!。


…断る?…フッ…そんな選択肢なんざ無ぇよ。

二人纏めて掛かって来いやあっ!!。




 孫彦side──


気付かれぬ様に迅速且つ極秘裏に事を進めた。

その為、用意出来た兵数は三千と少ない。

だが、それ故に無駄な数、質の悪い兵を削ぎ落とし精鋭部隊として編成されている。

数は少ないが質では過去最高の出来だと言える。

はっきり言って敗ける事など微塵も浮かばぬわ!。


だが、相手は今にも幽州を手中とせん徐恕。

決して油断して良い相手ではない。

その辺りは俺も判っている。

奴に敗れた連中は奴を侮ったが故に足下を掬われ、自ら転げ落ちたも同然。

そして、有力所の娘達を妻として娶る事で戦わずに勢力を拡大してきたのが、徐恕という若造。

噂が正しいなら、美丈夫という事で若い娘達からも人気が有るのだろう。

だが、言い換えれば、それだけの男という事。

如何に優れた容姿も戦場では無意味!。

かなりのキレ者だとしても圧倒的な武を前にすれば叩き潰されるのが道理!。

つまり!、俺の勝利は揺るがぬっ!。


そして、その徐恕を倒せば、孫家が幽州を制覇し、支配する事が出来る。

結果、その偉業の切っ掛けとなるであろう戦いが、自らの手による勝利から始まるのだ。

そうなれば、本家の娘というだけで偉そうに命令を下している生意気な小娘を引き摺り下ろし、孫家の実権を俺が握る日も遠くはない。

その未来を想像するだけで、酒が美味くなる。

嗚呼っ、何という天佑か!。

これぞ、俺に「幽州を統べよ」と言う天命!。

ならば!、従わぬ理由など存在せぬわっ!。



「伯平様、御寛ぎの所、失礼致します」


「おお、李桂か、どうした?」


「はい、先程、先鋒部隊からの報告が届きました」


「それで、何だと?」


「予想通り、新たに築かれた領境沿いの防壁は高く堅固な為、関所の突破に入りました」


「…まさか、防がれたのか?」


「いいえ、御安心下さい

彼方等は此方等の侵攻に気付いたのと同時に直ぐに関所の門扉を閉じ、侵入を防ぎに移りました」


「当然の対処だな、砦という訳でもないからな

詰めている人数は高が知れていよう」


「はい、多少時間は掛かったそうですが、抵抗する様子も無かった為、門扉を破壊し突破

どうやら、関所を放棄し即時撤収した様です」


「…成る程な、その為の高く堅固な防壁と関所か

落とされても撤収し、報せる時間さえ稼げれば十分という事ならば、防戦する理由も無いな」


「その様ですね

彼方等は、そのまま防衛拠点の砦まで下がったかと

先鋒部隊は関所を突破後も予定通りの進軍速度にて向かっておりますが、如何致しますか?」


「そのままで構わ………いや、待て

援軍を呼ばれて時間が掛かれば難しくなる

俺が本隊を率いて先鋒部隊に合流し、一気に叩く!

李桂、御前は落ちた者を回収しながら合流しろ!」


「畏まりました」




──side out



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