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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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15話 これが正統派か。


関羽が家族に加わってから早三ヶ月が経過した。

現在、絶惨真冬中です。

…うん、“絶賛”じゃなく“絶惨”ですね、はい。

去年より寒いってっ!!!!。


尚、関羽用の羽毛布団等は準備して有りました。

関羽一人だけ無いとかいう虐待みたいな真似は絶対に有り得ませんので。

母さんが恐いですし。

…いや、怒られなくたって遣りませんけどね。



「あっ、恕、待って下さい

髪が跳ねています」


「ん?、何処だ?」


「右の後ろ……もう少し…いえ、動かないで下さい

私が遣って上げます」


「悪いな、頼む」


「はい、任せて下さい」



そんな何気無い会話をする俺と関羽である。


さて、皆の衆、御気付きに為っただろうか。

関羽の大きな変化に。

そう!、そうなんです!。

何と!、正統派ヒロインの王道にして正道!。

“世話焼きな幼馴染み”にクラスチェンジした!。

……え?、「其処より先に大きな変化が有るだろ?!」ですと?。

…………………おおっ!、成る程、成る程。

いや、確かにそうですな。

私とした事が失念していたみたいで、御恥ずかしい。

まだ髪が原作程は長くない事も有り、ショートカットだった関羽の髪型ですが、今は短いけどサイドテールにしてるんです。

こうね、ちょこん…と有る感じが可愛いんですよ。

ほら、御洒落を覚え始めたばっかりの初々しさがね。

積算精神年齢的おじさんの心にはグッ…と来ます。


ああ、後ね、三ヶ月も経ち大分慣れたんだろうね。

オドオドしなくなったよ。

……まあ、怪談話とかには弱いらしくて、違う意味で保護欲が刺激されますが。

少しばかり残念な気がする今日この頃の俺です。

贅沢な悩みですけどね。



(──にしても、関羽め…

何というポテンシャルだ…

これでまだ、途上とは…)



寝癖を直して貰いながら、俺は内心で戦慄する。

“守りたい系幼馴染み”も決して悪くはない。

だが、愛有る厳しさを伴う真の優しさを持ち、時には男顔負けの度胸を見せる。

そんな正統派の実力を前に俺は屈し掛けている。


それも仕方無い事だろう。

原作での彼女を考慮すれば可笑しな事ではない。

元々、世話焼きな体質。

その上、本人が世話好きで尽くしたがり屋だ。

そういう事を遣る事に対し抵抗が無くて、ストレスを感じないのであれば。

マイナス要素は低い。

ただ、時と場合によっては「奉仕心(愛)が重い」とか「一々構わないでくれ」や「束縛してるのも同じだ」「お前は俺の親か!」等と感じる事も有るだろう。

だが、その一線を見極めて相手を尊重出来る者こそが真の正統派ヒロイン。

正統派“系”ではない。

世に紛い物が溢れる中で、本物は極めて稀だ。

そう、正統派ヒロインとは紙一重の奇跡の体現者。

国宝を越え、世界遺産だと言える存在なのだ。


そして、関羽は本物だ。

その才器は間違い無くな。




──とは言え、原作からは少々外れているとも思う。


原作での関羽は“役に立つ事で自尊心を満たす”様な印象が少なからず有った。

それは一種の強迫観念。

原作内で彼女の過去に関し話題が出る事は少ない。

どういった経緯かは兎も角そうなるに至った理由が、何かしら有った筈だ。

生まれ付き“歪んでいる”人間なんて滅多に居ない。

「全く居ない」とは流石に言いたくても言えないが。

関羽は違うだろう。

そういう歪み方ではない。



(…まあ、今の関羽からはそういう歪みは感じないし遠慮(壁)も無くなったから大丈夫だろうけどな…)



世話を焼かれる身としては自分を尊重しながら遣り、立てるべき時には立てる。

そんな、出来る幼馴染みが居るのは最高だ。


しかし、問題は有る。

そう、正統派ヒロインとは恋愛(攻略)対象なのだ。

決して、偶像崇高ではなく現実的な存在である。

そういった意味で言えば、“触れ合えるアイドル”は上手い商法だろう。

いや、関係無い話だけど。


つまり何が言いたいのかと言うとですね。

将来、関羽は美人・巨乳な良い妻になるから、今から押さえておくべき。

──ではなくて、そういう対象として関羽を見たり、接したりしてるとですね。

華琳(妹)が不機嫌に為って大変なんです、本当に。


いえね?、兄としては実に嬉しい事なんですよ?。

だってほら、嫉妬しながら俺の腕を両腕で抱き締めて上目遣いに若干涙目になり「私の御兄様なんです!」なんて言われてみなさい。

鼻血(愛)が噴出します。

自分の恋愛なんて、宇宙の彼方に旅立つ艦に乗っけて見送っちゃいますって。

生きて帰って来なくても、向こうで幸せに成れるなら喜んで祝福しますから。

いや本当に、マジで。


でもね?、でもですよ?。

それって自分だけじゃなく愛妹(華琳)まで下手すると独身街道一直線な予感しかしないんですよね。

兄としては嬉しさと苦悩の板挟みな訳なんですよ。

……え?、「そう思うなら妹の想いに応えろ」?。

……はぁ〜〜〜〜〜っ……よぉーく聞けぇいっ!!。

愛妹兄(紳士)道とはっ!。

決して、妹を恋愛・性的な対象にしてはならぬっ!。

妹は愛で、守るべき存在で自らが穢してよい存在では決してないのだっ!!。

妹を穢す背徳感に酔う者は我等が同胞ではないっ!。

単なる侵略者であるっ!。

故に!、相容れぬっ!。

同じ宗教を基にしながらも何故か価値観が違っている世界最大派閥宗教みたいに似て非なるものっ!。

愛妹兄(紳士)諸君っ!。

私は決して敗けないっ!。

今は遠き約束の大地で戦い散って逝った戦士達の様に自分達を棚に上げる心無い罵声や批難に晒され様とも雄々しく勇ましく慎ましく貫いてみせようっ!!。




──結論、愛妹の猛攻勢に屈しそうな俺が居ます。

誰か、助けて下さい。

あの日、夢に見た理想郷は何処に逝ったあぁっ!!。




厳冬の中、此の身を包んだ温もりは母性を思わせる。

だから、抜け出せない。

その圧倒的な魅力(魔性)は心身を悦楽の園へと誘い、耳許で甘く囁くのだ。

「フフッ…構わないわよ、さぁ…眠りましょう」と。


だが、俺は抗う。

屈してしまっては今日まで頑張ってきた日々の努力が無駄に為ってしまうから。

そんな事は赦されない。

昨日までの俺に、どの様な顔を向ければいいのか。

考えても判らないから。

だから、俺は手を伸ばす。

足を前へと踏み出す。

明日を失わない為に。

俺は──二度寝に抗う!。



「……やはり、か…」



覚醒した意識が五感を通じ身体に違和感ん感じ取る。

静かに溜め息を吐きながら暗い中で掛け布団を捲るとそれを目にした。

そして、そっと掛け布団を戻して数回、深呼吸。

意を決して再び掛け布団を捲って、確認する。

先程、自分が見た光景が、幻覚ではない事を知る。



「……………あれれー?、もしかして増殖してね?」



態とらしく子供振る探偵の様な一言を呟きながらも、視線は逸らせなかった。

だって、現実逃避したって問題は全く解決しないし。

でも、精神的には現実逃避したくなってしまったから意味不明な言動をする。

いや本当に…何だろうね。



(…はぁ〜〜…何でまた、華琳だけじゃなく関羽まで俺の布団で寝てるんだ?)



そう、俺に寄り添う様に、二人が左右に陣取る。

まあ、華琳は意外と寝相が悪かったりするから今更な話なんだけどさ。

去年も冬場は結構、自分の布団を抜け出して俺の方に潜り込んでたからね。

……何故か、母さんの方に行く事は無いから不思議。

因みに華琳の寝相の悪さを母さんは知らないらしい。

──と言うか、母さん曰く「それはきっと、無意識に貴男に甘えているのよ」と笑顔で言われた日には俺の愛妹兄魂(ブラザーソウル)がシャウトしますって。


それは兎も角として。

つい、昨日までは無かった状況に軽い頭痛がした。



(…華琳は…まあ、判る

一緒に暮らす様に為って、既に一年以上が経ってるしその間に色々と有った事で信頼関係や親密度なんかは上がってるだろうけど…

関羽さんや、貴女は何故、俺の布団に?)



考えても全く判らない。

しかしだ、考えない事には何も解決はしない。

……いや、ゲームだったら確実に好感度か攻略必須系フラグイベントだけど。

…………そういう方向?、いやいや、判らないって、うん、判らない判らない。




──結論、取り敢えず先ず日課の鍛練に出掛けよう。

先送りにしては駄目そうな問題ではあるが、今日まで欠かさず継続してる努力を途切れさせるのは愚行。

だから先ずは鍛練から。

そう、決して現実逃避から“鍛練に没頭しよう”とか考えていません。

ええ、ええ、違います。



「……………はぁ〜〜…」



──で、鍛練が終わった為頭を抱えています。

いやね、こんなの八歳児の抱える苦悩ですか?。

…え?、「だったら、何も考えずに、原作(大局)的に流されてしまえ」?。

それはね?、プレイヤーの観点だから気楽に言える事だったりしますよ?。

現実的に考えてみなさい。

如何に一夫多妻が常識的な時代だったとしてもです。

人間が人間で在るという事には変わりはないんです。

つまり人が二人以上居れば意見の相違・衝突は絶対に起こり得る事な訳で。

少なからず比較してしまい優劣を付けたがるのが人の性であり、業なんです。

だから仲良く平穏に一緒に一夫多妻ライフだなんて、夢幻か架空か妄想の世界の中だけの話なんです。


──と言うかね、八歳児に女の子二人をリード出来る性能を求めないで欲しい。

…は?、「何言ってんだ、お前の特典(チート)なら、出来るだろ?」と?。

下ネタ?、“性能”の字で下ネタなんですか?。

“女神(初恋)”に振られて当面、そういった方向には宛の無い俺に、どう遣って成長しろと?。

抑、甲斐性なんて鍛えれる能力じゃないでしょ?!。

無理、うん、俺には無理、無ぅーー理ぃーーっ!!!!。



「……ただ、今は兎も角、何時かは、向き合わないといけないんだろうなぁ…」



諦める様に見上げる空。

しかし、答えが降ってくるという奇跡は起きない。

……いや、この世界的には“天の御遣い”か変態しか降って来ないけどさ。

…あ、要らないよ?。

フラグじゃなくて、本当に変態達は要らないから。


そうじゃなくて。

二人の気持ちが本物なら、誤魔化せなくなる。

それは俺自身も男として、自分に嘘は吐けなくなる。

その時が来れば、ね。





「御兄様、此方等はこれで宜しいのですか?」


「恕、此処の遣り方ですがこれで良いですか?」


「愛紗、今は私が御兄様に訊いているのよ?」


「華琳、今は私の方が先に訊くべき所ですから」


『…………………』



バチッ、バヂヂッと二人の間に見えない筈の火花的な何かが見えてしまった。

それは宛ら心霊スポットに好奇心で踏み入った結果、刺激して憑かれたみたいな感じというべきか。

ええはい、寒いんです。

滑った時の寒さとは違う、戦慄的な意味の方向で。



(母さん、助けてっ!)



蚊帳の外に居る母さんへと秘技級のアイコンタクトで救助要請を出す。

そうだ、母さんなら息子の危機を救ってくれる。

だって、母さんだもん!。



(あらあら〜、大変ね〜)


(──って、母さんっ?!

“うふふっ”じゃなくて、助けて下さいってばっ!

いや、本当にマジで──)


「──御兄様?」


「──恕?」



──という遣り取りでさえ瞬時に無かった事にして、俺はポーカーフェイス。

板挟み状態では自分からのリアクションは禁物。

しかし、聞こえてない振りというのも禁物。

何故なら対立していた筈の二人が唐突に手を組む。

そして二対一に為る。

この時、彼女達は如何様に意志疎通をするのかは不明なのだが、互いに妥協して利を分かち合うのだ。

尚、そう為った場合の男に救いは基本的に無い。


ならば、この場の正解とは一体何なのか。



「──ん〜、どうかな…

二人共、作業中で悪いけど味見してくれるか?」


「…仕方が有りませんね

御兄様の頼みですから」


「…仕方が無いですね

私で良いのなら」



そう言って二人に共通する話題を振って、逸らす。

その匙加減が重要。

何しろ、この技は諸刃の剣なのだから。




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