表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
189/238

   繋ぐ実ぞ結ぶ


腕を組んで「んん~~…」と唸る白蓮の葛藤は今は置いておくとして。


宅の目下の問題は遼東郡──つまりは袁家。

取るべき人材は確保したし、後は鏖殺してしまえば一件落着なんですけどね。

政治的な配慮っていう面倒な仕事が絡むんですよ。

まあ、要するに麗羽達の立場や地位が危うくなると遼東郡全体に影響が出ますからね。

そういう意味でも、先ずは今まで袁家という大枠で一括りにされていた中から抜け、個人への評価へと臣民の意識を切り替えさせる必要が有るんです。


その為には不透明だった袁家という巨大組織の中を上辺(・・)だけでも民が判る様にする。

簡単に言えば、規制・操作されていた情報の一部を民が知る事が出来る様にするんです。

人の口に戸は立てられない。

ええ、本当にね、その通りだと思います。

そして、それを有効利用出来るのが宅の強味。

伊達に俺の下で鍛えられていませんからね。

本当に優秀なんですよ、宅の隠密衆は。


──で、その遼東郡なんですが。

南半分は宅が獲りましたから当然、改革中です。

北半分は袁家──袁硅の支配下に有る訳ですが。


今の袁家は、曾ての様に袁硅が牛耳っているという状況では無くなりました。

それには、麗羽達が敗れた事や南半分を失った事も一因としては有るんですけど。

一番の要因は袁硅の支持の低下、求心力の乏しさ。

早い話、元から人望が無かった上に、結果も出せず人が離れて行ってるって事なんですよね~。


…え?、「そう仕向けたんだろ?」って?。

ええ、そうです、私が仕組んだんです。


まあ、離間策は珍しくも有りませんし、袁硅相手に当初は意味が有りませんでしたが。

状況が変われば、しっかりと効果が出るんです。


麗羽達を下した後、敢えて放置したのも意図して。

袁硅の性格上、無理に動こうとはせず、防衛主体に切り替えて様子を窺いながら、立て直しを計る。

その上で宅が動かなければ、力を溜める事に傾く。

現状で戦っても勝機は無いと判るだろうし、自分が投降・恭順する意思を見せても重用はされないし、先ず処刑されると判っている。

だから、袁硅には抗う以外の選択肢は無い。

それ故に、力を溜める事を選ぶ訳だが。


それは飽く迄も袁硅の(・・・)考えでしかない。

決して、袁家全体の(・・・・・)総意ではない。


その結果、どうなるのか。

そう、袁硅に対する不信感や不満、反感・苛立ちを募らせ続けて溜めに溜めていた者達が大爆発!。

SNSなんて無い時代ですからね。

大炎上したら、一気に反乱・謀反に向かいます。


そんな訳で、徹底交戦派筆頭の袁並を旗手として、残存袁家は二分化し、外から内へと気付かぬまま、敵意を変えていったので有ります、べべん。



「…それで、何時仕掛けるんだ?

何方等かが淘汰されるのを悠長に待つのか?」


「いや、それは無い

其処まで待ってたら、民に被害が及び過ぎるからな

勿論、今は犠牲が必要な状況だ

だから、流れる血にも、散る命にも、意味が有る

決して、使い捨てにされている訳ではない」


「連中にとっては使い捨てだろうけどな」


「だからだ、その事実が民の袁家への盲信を砕き、痛みと苦しみを伴って、目を覚ます」


「──で、その時、本物(・・)の麗羽達が現れる、と…

面倒な遣り方だけど、荒療治(・・・)としては効果的だな」


「そんな真似をしなくて済むなら遣らないけどな

その必要性を理解しながら遣らないのは愚考だ

何より、遣らないという選択は問題の先送り

時間が解決してくれるって訳じゃないんだからな

だから、可能な限り、早い方が良い

犠牲の規模も、強いる期間も少なくなるからな」



そんな犠牲を出さずに済むなら良いのだが。

人間という生き物は特に痛みを伴わなければ意識を変えるという事が下手だ。

その中でも、集団意識・社会認識という規模による価値観や危機感、常識や道徳心は一際難しい。

だから、犠牲が出ようとも全てを背負う覚悟を持ち遣らなければならない。

無責任な性善説を掲げ問題を塩漬けする様な真似は膿を溜め、見えない所で深刻化させるだけ。

社会問題を本気で解決しようとするなら。

悪行と批難されようとも。

斬る(・・)覚悟が必要不可欠。

綺麗事で社会が、世界が良くなるのなら。

問題が起きても、一つも長引く事は無いのだから。

そうは為らない事実こそ、雄弁に物語っている。

痛みと犠牲無くして、人は、社会は変わらないと。


それに誰かが遣らなければならない事なら。

俺達は子供達や孫達に丸投げするつもりは無い。

勿論、託さなくてはならない事は多々有るのだが。

それは本当に長期的な事であり、俺達の血を継いで生まれてくる以上は宿命・使命だと思って諦めて。

嫌かもしれないし、面倒かもしれない。

だけど、どんなものの上に自分達が立っているか。

その事を理解した上で、棄てるなら棄ててくれ。

ただ、一度棄てたら二度と手にする事は出来無い。

その覚悟だけは、決して忘れないで欲しい。

──という事を、伝えて行きたいとは思います。

背負うものが滅茶苦茶重い気がしますけどね。


大丈夫、俺達でも背負えてるんですから。

その俺達の愛と志と血を継ぐ君達だったら、きっと遣れる出来る頑張れるっ!。

ファイト一発!、乗り越えて行けっ!!。

父と母──或いは祖父母か先祖は見守ってるから。


──という事を考えていたら。

白蓮に押し倒されました。

宅の妻達は積極的になると超肉食なんですよね~。

勿論、俺も肉食なので大歓迎ですけど。

肉食と肉食、相対せば貪り合う事は必然。

ええ、脱線・中断した事は否めませぬ。






「…判ってはいましたが、動きは鈍いですね」


「まあ、それは仕方が無いだろうな

寧ろ、簡単に動くようなら疾うに詰んでるよ」


「…それもそうですね」



白蓮との話を終え、今は稟の所に来ている。

城内の部屋を移動したり、街の北と南の移動という訳ではなく、自領内を郡単位での移動。

宅の中でも俺達夫婦しか遣らない過密日程。

──と言うか、俺しか遣ってませんけどね。

皆には力量差が有る関係で、端から見た時に偏った支持や評価が出ない様に遣らせてはいませんから。

出張や単身赴任は夫の、父の代名詞ですから。

…いや、冗談ですよ?、そんな古臭い考え方はね。

前世の社会では勿論、現生の時代でも、そんな事を言ってたら、出来る事も出来ませんから。


それは兎も角として。

幽州制覇も佳境を迎えている今、小さなミス一つで台無しになってしまう可能性が有る。

勝敗という面では、俺達の勝利は揺るがないが。

それでも、想定以上(・・・・)の事態が起きる。

その可能性を無視出来無い以上、事は慎重に運ぶ。

勿論、慎重になり過ぎても駄目だから難しいが。

その辺りの匙加減は宅の妻達は上手いし、臣兵達も重要性を理解した上で取り組んでいますからね。

関わる者は末端まで責任の重さを知っています。


当たり前な話ですが、現実的には、そこまで全体の認識・意識は伴いません。

経費削減・人員調整・効率重視…等々。

どうしても、そういう所にばかり意識が向きます。

勿論、無駄を省くという事は必要なんですけどね。

そういう事ばかり気にしている上層部の方が実際は無駄の塊だったりする訳で。

「自分達の事を棚に上げて偉そうにするな!」等と言われても何も可笑しくは有りません。

ただ、そうは為らないだけです。

立場という権力を以て、無言の脅迫をしているので声を上げられない。

それだけなんですから。

それを自覚していたら、正面な者なら、辞めます。

でも、現実的には有り得ない話ですよね。

だって、そんな連中は結局は既に、自力で事を進め新しく歩み始める力の無い、其処にしがみ付くしか出来無い寄生虫も同然の輩が多いのなんの。

この手の害虫に効く殺虫剤が早く欲しい物です。


──と、そんな話は前世の彼方に置いといて。

稟に睨まれない内に現実復帰しませんとね。

今は大事な御仕事の最中なんですから。



「ただ、動くべき時には動いて貰わないと困る」


「その為には…ですね」


「そういう事だ

まあ、今の所は特に目立つ問題点も無い

このまま此方等の思惑通りに寸なりと事が運ぶとは流石に思わないが…

多少、手を焼く(・・・・)事態は歓迎する所だ」



そう言うと稟は苦笑する。

苦笑するだけで、否定も反対はしない。

つまり、稟個人の考えとしても「そうですね」と。

その有用性を理解しているし、欲しいという事。

そういう風に教えているとは言え、俺の遣り方にも随分と馴染んできたものです。



「自分の甘さを痛感させられましたからね

嫌でも変わらなくて貴男の隣に立てませんから」


「嫌々なのか?」


「…はぁ……貴男は本当に意地悪ですね」


よく(・・)言われるな」


「そうでしょうね」



そう言いながら稟は身を寄せ、唇を重ねてくる。

稟との初夜はまだですが、キスはしています。

御風呂も一緒に入りますし、一緒に寝る事も。

でも、一線を越えてはいませんよ。

だから、稟の方も少しばかり催促してきます。

「私の番はまだですか?」と。

キスをしながら身体を密着させてきますので。

抱き締めて応えますが──まだ御預けです。

俺にも稟にもね。

今は、間が悪いので。






「──あっ!、子瓏様だーっ!」


「本当だ!、子瓏様ーっ!」

「子瓏様遊んでーっ!」



ちょっと様子見のつもりで孤児院に顔を見せたら、あっと言う間に見付かりました。

そして、逃げも出来ず、取り囲まれます。

…解せぬ、我は気配を絶っていたと言うのに…。



「ふふっ、子供達が御相手では、如何に子瓏様でも勝てはしませんね」


「まあ、こればかっりはなぁ…」



孤児院の院長を任せている女性が幼い女の子を抱き抱えながら此方等に歩いてくる。

彼女、何気に元は関羽隊に所属していた精鋭。

白蓮達が出産する前、本人の希望も有り、護衛役の総指揮も兼ねて院長を任せる事になった。

こういう時代だし、宅と戦った結果、孤児になった子供も少なくはない。

だから、孤児院の数は少なくない。

そんな孤児院だからこそ、厳しく出来る優しさが、時には力を以て護る強さが必要となる。

その人材を、育ててきた成果の一人が彼女だ。


因みに、愛紗の懐妊から少しして結婚。

今はまだ目立っていないが妊娠中。

本人は「娘を御願いします」と産まれてもいないが擁の妾──側室にと愛紗に挨拶していた。

愛紗も愛紗で「分かった、安心してくれ」と返して肯定していたんですが…。

まだ、性別も判らない時期の話ですよ?。

それで何で、不思議に思わないんですかね…。

これも“女の勘”の一種なんでしょうけど。

本当、こればかっりは理解が及びません。


──とか考えていたら、服を引っ張られます。



「ねーっ、子瓏様ーっ、抱っこーっ!」


「よーし、そーらっ」


「きゃあーっ、高ーいっ!」


「子瓏様っ、私もーっ!」


「あらあら……孰れは、この娘達も…ふふっ…」



抱っこを要求してきた女の子を抱き上げてやると、別の女の子も同じ様に望むので先に抱き上げた娘を左肩に乗せ、空いた右腕で抱え上げて肩に乗せる。

それを見て微笑ましそうにしていた彼女だったが、明らかに違う色の光を双眸に宿し俺にだけ聞こえる絶妙な音量で独り言の様に呟く。

明らかな罠だから無視しますが、流すと肯定したと受け取れなくもないので要注意。

ええ、愛紗の部下であり、俺が初期から選抜をして育成してきた人材という事はです。

彼女も教祖の影響を受けている一人。

しかも、任命した時には微塵も信者である素振りを見せてはいなかったから…して遣られました。

教祖の目論見通りか、彼女の機転か。

…或いは、その両方。

最初から計算して、信者を潜り込ませる策か。

何にしても、もう手遅れです。

院長としては文句無いし子供達からも慕われている彼女を別の部署に回す事は難しい。

遣れば出来ますけど、上辺の説明をしても子供達を納得させられる気はしません。

ですから、後は躱して凌ぎます。

教祖には屈しません!。





 other side──


自然界に置いて、危機察知能力は生存率に直結する非常に重要な能力だと言える。

察知出来るか否かで生死を分けるので有れば。

その能力は磨かれる事こそ、必然だと言えよう。


一方で、支配者気取りの人間は如何なものか。

野生動物にこそ劣るが、決して低くはない。

平和な環境に居れば鈍り、衰え、低下するが。

日常的に危機感を感じる環境に居れば、それなりに危機察知能力は鍛えられ、備わるというもの。

俗に、“空気を読む”力だと言われる。


その力により、とある一室の周囲からは兵士以外の姿は見事に消えていた。

「出来る事なら自分も逃げたい…」と。

切実な本音を涙と共に飲み込む兵士達は立派だ。


そんな事など知る由も無い部屋の主は。

部屋の中で大暴れしていた。

特注で作らせた見事な細工の木製の美人像だったが今は細い首と腰が仇となり、三つに砕けている。


力任せに乱暴に座ろうと軋みもしなかった椅子。

それが壁に叩き付けられ、弱点の継ぎ目から歪んで大破してしまっている。


愛飲する御気に入りの酒瓶や甕も怒りに任せた為、二度と使えない無惨な有り様。

勿体無い──が、壁や床は濡れておらず、染み一つ出来てはいない。

空だったのか──投げ付ける前に飲み干したのか。

事の真相は定かではないが、空には違い無い。



「──ええいっ!、あの忌々しい若造めがっ!

奴の御気に入りだからと調子に乗りをってっ!

何が「今は動くべきでは有りません」だっ!

戦の機微を!、血と屍の敷き詰まる死舞台を知らぬ頭でっかちの臆病者が偉そうにっ!

思い出すだけで腹が立つっ!」


「伯平様、御怒りの程は御察し致しますが、部屋を荒らしても出費が嵩むだけです

それを理由に、また、小言を言われますが?」


「ぐぬっ………糞っ垂れがっ…俺にどうしろと?」


「此処で八つ当たりしていても何にも成りません

それよりも実際に結果を出して見せるべきでは?」


「……独自に動けと言うのか?

李桂、如何に俺でも、それが無謀だとは判るぞ

悔しいが、今、この幽州の覇権を粗手中にしている徐恕に俺の手勢だけでは歯が立たん

寧ろ、敗けて逃げ帰る事が出来れば、それだけでも上出来と言える程の相手だ

端から話にならん」


「勿論、それは私めも承知しております

ですが、それは正面から打付かれば、の話です」


「…多少捻った程度では通用せぬと思うが?」


「はい、それも承知しております

抑、伯平様は徹底交戦が御望みですよね?」


「無論だ、話し合いによる和睦など有り得ん!

戦って勝ち獲るか死ぬか…それが俺の生き様よ!」


「──であれば、事の要は如何に交戦に持ち込むか

伯平様が御一人で大勝する必要は御座いません

領地を一部、奪い取る

それだけで、交戦に踏み切らざる得なくなります

向こうにとっては伯平様でなくても同じ事…

そして──徐恕率いる主戦力は遼東属国に向かったそうです」


「…それは確かな情報か?」


「はい、確かな情報です」


「………よし!、それならば俺は動くぞっ!

気取られぬ様に準備を始めろっ!」




──side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ