81話 対する事とは
生存競争に於いて、敗北が死を意味する様に。
社会競争に於いても、勝者以外は等しく敗者。
ただ生存競争と違い、敗北しても死ぬ訳ではない。
だから、再挑戦も遣り直しも可能。
新たな道を歩む事も、である。
敗北しても、その敗北や経験を糧にする。
そうして成長や可能性、新たな選択肢へ繋げる。
それが生存競争との大きな違いと言えるだろう。
しかし、生命には必ず限りが有るもの。
また肉体も衰え、身体機能も低下してゆくもの。
その為、どうしても避けられない終端は有る。
勿論、その終端を何と定めるのか。
それは個人個人の価値観である為、“生涯現役”も決して不可能な事だとは言えない。
それが例え、世間的な現役ではなくてもだ。
その人にとって、そう在る事が人生そのものなら。
そういう生き方も選択肢の一つだと言える。
何しろ、人生は一度限り。
だから拘った生き方も可笑しな話ではない。
尤も、それは飽く迄も自分の事で。
家族や友人・知人、社会的な事は一切考えない。
自己中心的な選択肢である事は忘れてはならない。
そういう意味では、自分の夢や理想ではなく。
目の前に在る現実と向き合った選択肢をする人達は割合としては多いのではないだろうか。
「妥協した人生」と揶揄される事も有るだろう。
しかし、何を背負うからこそ。
その責任を第一と考え、歩める人達は。
自分の夢だけを追う人よりも素晴らしいと言える。
何故なら、自分の夢を追う人達を支えてくれている人達こそが、そういう人達なのだから。
だから、何を成した人が素晴らしいのではない。
その達成を支えた人達こそが、真に素晴らしく。
称賛無き、真の勝者だと言えるのではないか。
──とは言え、それは競争社会での話。
これが生存競争の中で有れば、単なる脱落。
弱肉強食の下に糧となるだけの事。
其処に憐れみや悲しみ、悔しさや憤りは無い。
生きる為に、他の命を奪い、喰らう。
それが自然界の掟であり、必然的な摂理。
全て生命は自ら以外の他の生命無くしては存在する事は出来無いのだから。
だからこそ、人々は今一度考えるべきだろう。
競争社会も、競争相手が居るから成り立つ構造。
文明や学術の進歩・発展も他の存在が在ればこそ。
それを噛み締め、感謝し、敬い、称え合う。
そう出来無いなら、己の醜さを知るべきだろう。
誰しもが、完全な個で存在する事は不可能。
我々は全て、世界の一部でしかないのだから。
「────え?、あの…私も一緒に、ですか?」
「現地の情報に詳しい者が居る方が良いからな」
虚を突かれた様に同行を言われて戸惑う人和。
美以は勿論、天和達も情報面では頼り無い。
──と言うより、偏りが酷かった。
だから、一番正面な人和が選ばれるのは必然。
そして、折角ですからね。
実戦経験を積んで成長して貰おう、という訳です。
将師共に代替わりがスムーズに出来る様にね。
それと…天和と地和も意外と軍将型だから。
“原作”ではアイドル活動一直線で。
その一面として、張梁は軍師向きの資質を見せる。
だから、そういうイメージが有る訳で。
張角は劉備に、張宝は袁紹・袁術に近いキャラ。
つまり、将師ではなく、御輿向きな訳です。
だから改めて本人達の資質を見てみた結果。
天和と地和は軍将向きだった訳です。
まあ、桃香や袁紹という前例が居ますからね。
然程驚きはしませんでしたよ。
「二人は何方かな…」とは思いましたけどね。
力量的には沙和が一つの基準でしょうかね。
多分、同等までには成れるでしょうから。
──とまあ、そういった訳で。
人和には軍師として頑張って貰います。
天和と地和は今回は御留守番です。
まだ軍将として出せる域には到っていませんから。
兵達に不要な負担や犠牲を強いる事はしませんよ。
美以は補佐官として参加させますが。
まあ、実際には見学です。
軍将になる為に必要な事を学ぶ為のね。
さて、それはそれとして。
此処、遼東属国──奈安磐を獲る為には?。
大きく、南部・北東部・北西部の三つに区分された勢力を全て平らげる必要が有ります。
南部は嶺胡を始め、亥駑・早屡・黄尼の四部族。
下手に衝突して犠牲者が嵩む前に片付きましたから予定していたよりも良い結果です。
次に宅が狙うのは北西部に為ります。
此処を取れば、北東部域は孤立化しますので。
逃げも隠れも助けを求めも出来無くなります。
まあ、そんな真似させませんけどね。
「それじゃあ、当初の予定通り最初に獲った此処、嶺胡族の里が奈安磐郡の郡都になる
真桜達が街道の準備してくれてるだろうから先ずは此処までの街道の整備が最優先だ
ただ、それと同時に規模の拡張も必要になる
南部域の四部族──亥駑族達も集めるからな」
「……あの、本当に大丈夫なのでしょうか?
勿論、私達に無意味な対立や抗争を起こしたりする意思は有りませんが…」
「人が集まれば、それだけ問題は出来るからな」
「はい」
「だが、それを理解した上で奈安磐統一を御前達は遣ろうとしたんだろ?
だったら、今更の心配だと思うけどな」
「…それもそうですね」
「そうそう~、人和ちゃんは心配し過ぎだよ~?」
「もう少し適当でいいのよ、適当で」
「…………」
励ましている筈の天和と地和だが。
当の人和は俺を見て「だから不安なんです」と。
そう言わんばかりの視線を向けてくる。
…うん、本当にね、苦労してるな、人和。
これからは少しは負担を軽くしてあげるから。
…え?、「少しだけなのかよっ?!」ですと?。
それはね、姉妹は姉妹だからです。
その繋がり、関係は死んでも無くなりません。
そう生まれた時点で、そう有る宿命なので。
だから、多少は軽減して遣れる程度です。
まあ、天和は兎も角、地和が問題でしょうけど。
地和の教育には時間が掛かりそうですからね~。
こればっかりは仕方が有りません。
洗脳したりする訳にはいきませんので。
「向こうからも工事をしながら向かってくるけど、此方等からも工事をしながら進めていく
街道整備の現場指揮は焔耶と詠に任せる」
「はっ!」
「判りました」
「里の整備の指揮は亞莎に任せる
白蓮、警備の指揮と補佐を頼む」
「ああ、任せろ」
「がが、頑張りますっ!」
頼もしい白蓮に比べ、緊張している亞莎。
そんな君が初々しくて可愛らしい。
いや、微笑ましいかな?。
まあ、その辺りの感想は人各々なんだろうけど。
戦闘時の指揮能力は十分に高い亞莎なんですが。
普段は人見知りが出て、指揮能力に影響します。
ある程度、顔を合わせて話をしていれば慣れますが初対面では人見知りが勝ります。
それでは軍師としては困る訳でして。
この機に少々、荒療治をば。
本当は亞莎一人に任せてもいいんですけど…。
まあ、一応のフォロー&ケアで白蓮を付けます。
原作でも屈指の中間管理職能力を見せた我が嫁。
それは現実に於いては更なる進化を見せています。
華琳が統率力なら、白蓮は調整力。
其処に月の調和力や他の面子の個性が加わって…。
うん、改めて考えても宅の妻達は凄いわ。
そんな妻達と愛し愛され、リア充ライフ。
転生した当初は想像してませんでしたね~。
ええ、もっと血生臭いのをイメージしてました。
だって、そういう時代、そういう世界なので。
本当…俺ってば、頑張って生きてるなぁ…。
──という独想は置いといて。
白蓮を残すのは街道の開通後、直ぐに動く為。
侵攻云々ではなく、貿易関連でね。
何しろ、この奈安磐は超の付く未開地な訳でして。
“前世”で言う所のアマゾン的な場所なんです。
それは単純に未知が豊富なだけではなくて。
今後の為にも、しっかりとした調査・管理をして、生態系を無闇に破壊しない様に気を付ける。
そうして、未来へと託し、繋いでゆく。
その為に、必要な事なんです。
──で、稀少価値の有る物を商品として見繕う。
矛盾している様ですが、重要なのは管理体制。
密猟や密輸等は絶対に赦しませんし、死罪です。
また、生きたまま他郡に移動させる事も禁止。
畜産・養殖・栽培する場所にも管理を徹底。
“外来種”問題を知ってて起こさせはしません。
それが俺の強みであり、他の政治家に出来無い事。
だからこそ、「有難う」と言いたい。
間違いだらけだった前世の社会へ。
その間違いが、俺に色んな事を教えてくれた。
「こう為ったら、もう御終いだ…」ってね。
それを、ちゃんと俺は活かしてるから。
其方の社会の政治家みたいには為らない様に。
自分がニュース等を見て、「何でだ?」と思ってた疑問を懐く様な矛盾した事は遣りません。
間違った結果が判ってるんだから。
そんな馬鹿で暗愚な人間には為りませんよ。
母さんに顔向け出来ませんから。
そして、我が子達に負債を背負わせない為に。
自分が出来る事は、自分で片付けます。
それが大人であり、成人です。
言葉の意味を考える事って大事ですよ?。
──だなんて偉そうに言える程、立派な聖人君子な人間じゃ有りませんけどね。
俺は只の欲塗れの俗物ですよ。
ただね、稀少価値を理解しています。
数が少ないから、限りが有るから。
稀少価値が生まれる訳でして。
数が増えれば、捨てる程有れば。
稀少価値なんて生まれませんからね。
それは所謂、特産品にも言える事。
真似の出来無い、地域特性を活かした物産。
それを見出だし、発展させていく事が、その地域の生産性や経済力に直結してくる訳です。
だから下手に自然環境に手を加える事はマイナス。
如何に現状から変え過ぎず、発展させられるか。
その為に人は培った知恵や技術を用いるべき。
決して、「アレを真似してみよう!」と安易な事を選択している様では駄目。
それが本当に合うのか?、必要なのか?。
じっくりと多角的に分析・思案をしてからでも。
間違った結果、遣り直すよりも時間も労力は費用も負担は軽くて済みます。
その思考力こそが、人類の最大の特性なのだから。
“急がば回れ”という有り触れた一言。
しかし、それが如何に人間にとっては大切な真理を説いている言葉なのか。
正しく理解している人は少ないでしょう。
言い替えるなら、「動く前に考えて」。
「遣る前に想像して」と。
そういう感じになります。
勿論、「考え過ぎても駄目なのでは?」と言われる事も有る訳ですが。
それは覚悟の有無です。
どんな結果であろうと、自らが責任を負う。
その覚悟が有りさえすれば、良いだけの事。
その覚悟が無いのなら、考えてみましょう。
ただそれだけの事なんですよ。
でも、それだけの事が出来無いのが人間です。
だから、前世の社会の問題は解決しそうになくて。
解決した未来が現実味を伴ってはいない。
妄想・妄言でしかない。
そう感じていたなは、俺だけではないと思う。
まあ、俺には既に関係無い世界の話ですけどね。
ただ、その経験は活かせます。
この世界を、そうしない為に。
それが、人の考える力ですから。
「──御兄様、火急の御報せです」
「どうした?」
「北西部域を巡って争っていた左罵・洒假ですが、別の勢力に敗北し──吸収されました」
『────なっっ!!!!!!??????』
華琳の言葉に天和達は勿論、白蓮達も驚く。
予期せぬ一報だけに、驚きは小さくない。
それは俺にしても同じだが、驚いても仕方が無い。
事実は事実。
それなら、事実を理解し、考えなくてはならない。
そう遣ってきているから、特に動揺はしない。
それは華琳も似た様なもの。
だから冷静だ。
そして、その報告で一番気になる事は。
「二部族を何処が落とした?」
「“狼理”と名乗っている一団です」
そう答える華琳の眼差しが物語っいる。
「現状では正体不明です」と。
此方等が後手に回った事を。
other side──
世の中というのは、理不尽で、無慈悲で──残酷。
思い描いていた未来は、弾ける泡の様に消えて。
想像したくもなかった辛い現実を突き付ける。
そして、それは覆しようの無いもので。
奪い去り、決して、取り戻す事は出来無い。
どんなに望んだとしても。
何を代償として引き換えにしたとしても。
絶対に、再び掴む事は出来無いのだから。
そう思いながら、自分の右手を見詰める。
特に何も変わった所は無い。
だって、何も取り戻してはいないのだから。
この掌は、まだ空っぽなまま。
満たされてなどいない。
それを判りながら。
暗い染みの様に心に生まれる不安と葛藤。
誤魔化す様に掌を閉じて握り潰す。
掌から視線を外し、空を見上げる。
白い雲が流れる澄んだ青い空。
同じ世界である筈なのに。
何処か、遠い別の場所の様な不思議な存在。
だからなのか。
空を見上げると、色んなものが薄れてゆく。
そんな風に感じられるのは。
「──ねーね!、ねーねっ!」
──と、私を呼ぶ声に意識は向いた。
視線を空から声の聞こえる方に──此方等に走って近付いてくる足音のする方に移す。
真っ直ぐに向かってくる小さな人影。
私の前まで遣って来て止まる──事が出来なくて。
行き過ぎて止まり、戻ってくる。
元気だと言えば元気なのだけれど。
もう少し、力加減というものを覚えて欲しい。
此方等は貴女とは違って丈夫な身ではない。
容易く殺されてしまう様な脆弱さなのだから。
「兎良、そんなに慌ててどうしたのです?」
「ねーねっ、大変っ、何か変なのが居たっ!」
「…変なの?」
慌てている事から大事な事では有るのだと思う。
ただ、どうしても鵜呑みには出来無い。
それは私と彼女達とは考え方が違うから。
勿論、信頼していないという事ではない。
しかし、大した事でもないのに大騒ぎをする。
そんな、見た目通りに子供な彼女達だから。
一呼吸置いてから、受け答えする。
そういう感じが丁度良かったりする。
「うん!、弥芥が、ねーねに報せろって!
何かが向こうの山から此方を見てたって!」
「──っ!!」
そう言って彼女が指差した方向を反射的に見た。
「しまったのですっ!」と自責の声が頭に響く。
しかし、反応してしまったものは仕方が無い。
それに…兎良が気付いた事に気付いているなら。
今更、私が其方等を見た所で何も変わらない。
「…判ったです、兎良、紗夢は?」
「ぅーんと……多分、寝てる!」
「なら、直ぐに起こすです
それから弥芥に見張りはいいので私の所に来る様に伝えて欲しいです」
「判った!」
元気に返事をして走り去る兎良。
その後ろ姿を見送ってから、再度、山の方を見る。
私の思っていたのとは違う何かが居る。
そして、流れが変わろうとしている。
そう感じて、両の掌を強く握った。
──side out