表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
180/238

   可愛い猫には


孟獲──美以(・・)を加えた俺達。

…え?、「純粋な獣っ娘を誑しやがって!」と?。

何を人聞きの悪い事を…。

これは美以が選び、決めた事なんですよ?。

それはまあ?、俺達が新しい選択肢(・・・・・・)を提示した事は否定しませんけどね。

それでも美以の意思に委ねています。

美以には“俺達と敵対する”選択肢も有った中で、それは選ばなかったんですから。

だから誑してなんていませんよ。


まあ、美以の心の隙を狙った事は否定しませんよ。

ただね、駆け引きって、そういう物ですから。

騙し騙され、化かし化かされ、と。

それが嫌なら駆け引きなんて向いてません。

馬鹿が付く位に真っ正直に生きて下さい。

人を疑わず、騙されても笑顔で受け入れて。

そういう風に達観した方でしょうからね。

俺達とは立っている場所が違いますから。


俺達は何と言われようが、背負う責任が有ります。

それを自分の評価の為に投げ出す事はしません。

だから、駆け引きも必要なら躊躇無く遣ります。

ただそれだけの話なんですよ。



「御兄様、嶺胡族の事後処理が終わりました」


「早かったな──って言う程でもないか」


「そうですね、整理整頓(・・・・)しただけですので」



そう答えた華琳の表情から疲労感は窺えない。

実際に疲れてはいないだろうしな。

嶺胡族で一番の要注意人物だった美以を落としたら近場で警戒する相手は居ない。

その為、一時的に氣の使用を解禁。

蒲公英や沙和の「あ゛ぁ゛ー…暑かったぁー…」と一気に安堵した反応が物語っていた様に。

氣による体温・体感温度の調節が可能に為った事で最大の障害である酷暑から解放された。

それだけで疲労感は消えてしまっているからな。


此処に咲夜が居れば、「これは真夏日に辿り着いたクーラーやエアコンの効いた場所ね」と。

判り易い例えをしていてくれた事だろう。

尤も、それは現代人(前世)の価値観で、の話。

現世で言っても「蔵?」「絵、アカン?」とか。

通じない例えですからね。

こういう時、「異世界だな~」って改めて思う。

…うん、滅茶苦茶、今更なんだけどね~。


──という話は放り投げて。

美以を下した後、俺達は真っ直ぐ嶺胡の里へ。

先ずは奈安磐での活動拠点が欲しい所だったので、迷う事は有りませんでした。

待機中の本隊を呼び、合流する為にもね。


里に着いたら、門を守っていた男達が美以を見て、彼是侮蔑してきたので瞬殺し、後片付け(・・・・)は華琳達に任せて俺は美以に案内して貰い奥へ。

里の外れに有る洞窟に入り、座っていた長老らしい四十代後半という男を瞬殺。

…え?、「話し合いは?」っで?。

それは話す価値(・・・・)が有ればです。

美以の話は勿論、調べは付いていますからね。

一方的に挨拶だけしたら「じゃ、さよなら」です。


その後は長老の首級を集められた嶺胡族に見せ。

「同じ様に死ぬか、俺に従うか選べ」です。

問答無用な様に思えますが、こうした方が嶺胡族の犠牲は少ないんですよ?。

だって、戦えば美以以外は鏖殺確実ですから。

仮に、戦うのが男達だけだったとしても。

嶺胡族の働き手は一気に失われますからね。

そういった後々の事まで考えると必要最小限。

長老と馬鹿な連中さえ排除すれば終わりです。


そんな感じで、大体五十人程で済みました。

また弱肉強食(実力)主義な彼等ですからね。

彼我の実力差が理解出来無い程、愚かではなく。

今は新しい嶺胡の長となった美以に従っていて。

その美以が主とする俺に対しても従順です。


また、一族の若い世代は実力的には低くても新しい環境に対する適応力は高いでしょうからね。

これからは美以の興す孟家を支える家臣達と成って活躍してくれる事でしょう。

勿論、その為にも、きっちりと教育はしますから。



「さて、本隊が合流するまでに手を入れるか…

沙和、女性陣の半分を集めて外の衣装に関する話を聞かせて遣ってくれ

直ぐに直ぐ必要ではないが、準備は早めに、だ」


「了解なの~」


「蒲公英、男達の半分を連れて西側の森を伐採して里の範囲を拡げてくれ

焔耶、残り半分を連れて周囲の警戒を頼む」


「はっ!」


「しっかり見張っててよね~」


「御前も、ちんたら遣るなよ」



御互いに挑発し合う蒲公英と焔耶は置いといて。

沙和も問題は無いだろう。

“原作”の様な執着心は無いが、センスは確か。

衣装関係の知識も幅広いので適任だろう。

明命は既に本隊に向かって貰っていて不在。

…美以の安堵振りが凄かったけどね。



「華琳と美以は俺と一緒に畑仕事な」


「んニャ?、()様が畑仕事をするのニャ?」


「新規開拓地なんかは大体が俺が最初に指揮をして耕したりしてるからな

まあ、そういうのが珍しいのは知ってるけど…

田畑の出来は民の生活の根幹だからな

それだけに確実に自分で確認する様にしてる

だから、一段落したら後任や担当者に任せるよ」


「民が飢餓に苦しむ事が無い様に、という事よ

御兄様程、民に寄り添う主君は居ないわ」


「おお~っ、流石は忍様なのニャ!」



美以の純粋な眼差しは恥ずかしいが、嬉しい。

しかし、その純粋さに付け込み、しっかりと信徒を更なる深みへと導いている華琳(教祖)

なんて恐ろしい娘…いや、もう今更ですけどね。




そんなこんなで嶺胡の里の農耕事情改善大作戦。

…そこまで大袈裟な話じゃないんですけどね。

ただ、嶺胡族って狩猟民族だから農耕技術や知識は本当に稚拙でした。

情報としては把握していましたが…うん、酷い。

そして、その程度(レベル)が奈安磐の標準、と。

さっさと獲って本気で改善していかないと。

狩猟だけでは食糧としては勿論だけど、栄養面での不安は解消出来無いからな。

いや本当にマジでね。

美以が特別小さいって訳じゃない。

女性と子供の痩せ具合が目に余ります。

男共には価値観改善の為の特別授業を遣ります。

だから、手早く奈安磐を獲らないとね。



「これはまた…中々に深刻な状況だな…」


「ああ、だからこそ早く片付けないとな」



夕方──日没前に本隊が里に到着した。

里の規模から考えると兵三千の本隊でも脅威的で。

一目見ただけで圧倒されていた。

そして、それを率いているのが俺達な訳で。

判り易い程に嶺胡族の皆さんは従順に為りました。

ええ、美以ですら「忍様には逆らわないのニャ」とガクブルしてた位ですからね。

兵歩の常道が物量戦推しなのも納得です。

数は力ですからね。


そして、時代と共に形を変えたのが選挙(・・)です。

だってほら、アレも数が物を言う訳ですから。

ただ、だからこそ、()が伴わない事も現実です。

何しろ、多数決(・・・)なんですから。

質を問わず、数という結果だけを見る。

そういう特権政治(システム)なんですもん。

だから、碌でもないのが混じるのも仕方が無い事。

そう、それを“民主的”なんて考えて正しいと思う人々が多数な時点でね。


でもまあ、上手く考えたと思いますよ。

選挙って方法を浸透させた政治家さん達はね。

そう遣って自分達の利権を守った訳だから。

巧みだったとしか言えません。


──とまあ、そんな話は置いといて。

里の様子を見て顔を顰めた白蓮の言葉通り。

外界と隔絶した環境に有る為、気付かない。

本人達には普通(・・)の事なんだろうけど。

俺達から見たら問題だらけだからな。

これを改善し、意識改革するのは中々に大変。

但し、その上で伝統的な文化や風習を排除する様な全否定する真似は遣っては為らない。

勿論、非人道的な事や差別的な事は除外するが。

遺しても問題無い部分は存続させていく。

美以達の身に付けている衣装なんかの様にね。


俺や咲夜からした単なる上級者のコスプレだし。

害悪って訳じゃないしな。

勿論、その衣装の為だけの乱獲や狩猟は別だけど。

腕試しや食糧調達、害獣駆除の結果としてなら。

其処まで煩く言う事じゃ有りませんからね。

その辺りは、俺は尊重すべき文化だと思います。


何でもかんでも禁止すれば良いって話ではない。

──と言うか、それなら国という区別自体を廃し、人類は皆、同一であると宣言。

人種差別は即公開処刑(・・・・)とする。

それ位の事を遣らないと意味が無いでしょう。

人間って、差別が文化(・・・・・)なんですから。



「忍様、本陣の構築が終わりました」


「了解、体調を崩してる者は?」


「此方等までは必要最低限ですが氣を使えましたし時間的にも日が傾いて翳ってくれてましたので」


「それでも熱中症になる事は有るからな

浄水(・・)作業は俺が遣っといたから、しっかりと水分を補給しておく様に言って置いてくれ」


「はい、畏まりました」



そう言いながら、クスッ…と笑う紫苑。

これが我が子達の事なら「心配性な御父さんね」と揶揄われている感じだろうな。

まあ、実際には宅で心配性なのは母親達の方だが。

それは経験の差ですからね。

仕方が有りません。


ただ、ちょっとだけ紫苑と白蓮を襲いたくなる。

白蓮は巻き添えだけど、こっそり同意したしな。

ククッ…読心術が女子(おなご)だけの秘技と思うたか?。

この徐子瓏を甘く見るではないわっ!。

クカァーッカッカッカァッ!!。



「御兄様、偵察隊が戻りました」



──なんて老いたボケ烏が脳内で鳴いていた所へ。

華琳と一緒に明命が戻ってきた。

明命は本隊に合流後、精鋭十名を連れて偵察に。

その任務を終え、帰還した訳です。

今日は明命が大活躍してますよ、マジで。



「御苦労様、明命、どんな様子だった?」


「はい!、亥駑族の部隊は南東から迫っています

最後に確認した時点では“邪螺止ヶ原”に駐屯…

どうやら此処から分かれて攻め込む様です」


「満更無策って訳でもない、か…」



明命の言った邪螺止ヶ原は此処の辺りでは数少ない野戦に適した開けた場所だ。

──とは言え、それは奈安磐の戦力の規模での話。

正直、三千も入れば鮨詰め状態。

つまり、宅も全戦力は投入出来無いという事。

勿論、流石に遣りませんけどね。


其処を避ける、という事は野戦は遣りたくない。

そう捉える事も出来る訳だけど…。

嶺胡の戦力は、ぶっちゃけ美以だけだった。

戦力となる一族の男達は五百程居るには居るけど、組織立った動きは無理だろう。

狩猟民族だから個人の身体能力は低くないが。

戦術・戦略という考え方が存在していないからな。

はっきり言って、団体行動には不向きだ。


まあ、だから長老も美以に任せたんだろうけどな。

一対多の方が実力差が有れば戦い易い。

それに──美以は使い捨ての駒だったんだろう。

勿論、美以が勝てば次期長に据えただろうが。

美以が死んでも数を減らしてくれれば、後は何とか里の戦力でも押し切れるだろう。

理想を言えば相討ちを望んでいただろうしな。


──といった情報は持っていないにしても。

亥駑が野戦を避けたのは戦力差からではない。

それは戦力(・・)を温存する為で。

嶺胡を倒した後、組み込む(・・・・)事を考えて。

だから、御互いに消耗する野戦は避ける。

そういう意図が有っての事だと判れば。

同じ情報でも見方が変わるというものだ。



「相手の戦力は?」


「約二千人、といった所です」


「…亥駑だけではないわね?」


「はい、どうやら非交戦派の“早屡”と“黄尼”を説得し、吸収(・・)した様です

その為、各々から四百ずつ加兵しています」


「説得して、となると頭が回る者が居るわね…

御兄様、誘って(・・・)みますか?」


「その必要は無いだろう

キレ者が居るとしても一人(・・)

二人以上居るなら、何方等かが既に先行して此方に仕掛けて探ってるだろうからな

だから、それ(・・)は本番の中で遣ればいい」


「判りました」



そう返す華琳だが、華琳自身が仕掛けたいんだな。

まあ、その機を与える俺も甘いんだけどね。

仕方無いじゃない。

華琳が楽しそうなんだから。

愛妹紳士()としては曇らせられません。





 other side──


灯りを落とす様に空が暗くなってゆく。

空から大地を包む様に訪れる深い闇。

それを嫌う様に、人々は灯りを点す。

一日が終わってゆく中で。

抗うかの様に照らし出す炎。

それは本当に正しい事なのか。

きっと、考えても答えは無いんだと思うけど。

ふと、そんな風に考えてしまう。


だけど、それも仕方が無いと思うの。

だって、明日には嶺胡族の里に攻め込むんだから。

ちょっと、憂鬱な気持ちにも為っちゃうよね~…。



「──ちょっと…ちー姉さん(・・・・・)、聞いてるの?」


「聞いてる聞いてる、ちゃーんと聞いますって」


「…じゃあ、今、私が言った事、説明して」


「だから~、私が最初に南から嶺胡の里に向かって攻め込んで注意を引き付けた所に、北に回り込んで背後を取った人和(・・)が襲い掛かって…

それから最後に姉さん(・・・)が東から突撃!

──で、いいんでしょ?」


「……判ってるのならいいの…」



そう言う人和ちゃん。

だけど、顔には「…合ってるけど…」と不満そう。

私も時々怒られちゃうけど、人和ちゃんって私達の中で一番真面目だもんね~。

だから色々気になっちゃうのも仕方無いよね~。


でもね?、御姉ちゃん達も頑張ってるんだよ?。

ただ、ちょびっとだけ、難しい事が苦手なだけで。

一生懸命、聞いてはいるから。

…まあ、理解出来てるかは別なんだけどね~。


ちーちゃんは、いい加減そうなんだけど。

意外としっかりしてる。

ただ、調子に乗り易いから、失敗する事も多い。

それでも、そんなちーちゃんの勢いが有ったから、私達は三姉妹揃って居られられる。

それも間違い無い事実なんだよね~。

だから、人和ちゃんとしては、もう少しでいいから落ち着いて欲しいんだと思う。

ただね~…落ち着いてるちーちゃん。

………うん、想像しただけで気持ち悪いよ~…。

寧ろ、人和ちゃんが「ちー姉さんの偽者っ!」って大騒ぎしそうな気がするもん。



「そんな事よりもさ、人和

嶺胡の“屠牙”ってヤバいんでしょ?

其奴はどうするの?」


「最初はちー姉さんの方に食い付くと思うわ

だから、それらしい相手を確認出来たら守って

下手に倒そうとしたら、被害が大きくなる可能性が高いから抑え込む様にして

そうしたら私が攻め込んだら此方等に向かってくる可能性が高いから、離れたら一気に攻めて」


「それは判るけど…大丈夫な訳?」


「どんなに屠牙が強くても一人…

それに守るべき里が無くなるまで戦いはしないわ

だから、ちー姉さんが持ち堪えてくれさえすれば、私達が敗ける事はないわ」


「そっか~………って、アレ?

それって~…私が一番大変?」


「兵の半分──千人を回すから大丈夫……多分…」


「ちょっ!?、多分って何っ!?」




──side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ