表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
18/238

14話 小さな秋の憂い


関羽を助け、彼女が家族に加わってから早一ヶ月。

俺の日常は劇的に変化して──なんていない。

同い年の幼馴染みな位置に関羽が加わったという点は大きな変化ではあるが。

特筆すべき事は無い。

母さんは……ほら、まあ、俺の事も割りとあっさりと受け入れてくれた人だから関羽の話を聞いた直後には抱き締めて「安心してね、今から私達が貴女の家族、貴女は独りじゃないから」と言っていた位だ。

俺と華琳は助けた時、既に決意していた。

母さんに説明する必要性は理解していたけど説得する必要は無いと思ってたのは母さんには内緒だ。


念の為に、皆には内緒だが関羽から話を聞いた翌日、関羽の故郷が有ったという場所を見に行ってみた。

正直、生存者が居るなんて全く思ってはいなかったし賊退治のつもりだった。

其処に屯している可能性は低いとは思ったけど。


結果としては──居た。

但し、実際に襲撃していた賊ではなく、その御溢れを狙って集まっていた連中。

数は二十人程だった。

其奴等を始末し、片付け、関羽の故郷の人々の遺体を一ヶ所に集めて埋葬する。

本当は火葬にしたかったが必要な火力が足りない。

火葬をする時間も無いし、土葬しか出来無かった。


関羽を連れて来て遣れれば良いんだろうけど。

今は色々と難しい。

因みに、此処まで来るのは俺一人だったら問題無い。

少し早く起きて行動すれば普段の鍛練の開始時間には戻れる位の場所だからね。

尤も、山と谷と断崖絶壁を直線的に越えて、だから。

普通の人に無理な事。

特典(チート)持ちだから、可能だったりする。


──とまあ、それ位だ。

此処一ヶ月で起きた中で、出来事(ニュース)と言える程度の話は。

出来事(メモリー)の方なら無かった訳ではないが。

まあ、別に誰かに話す様な事じゃないんだけどね。


ああ、そうだ、真名ね。

俺の時はさ、男だったから一年も掛かったんだけど、関羽は女の子だからね。

母さん達は関羽とは直ぐに交換し合っていた。

…べ、別に「関羽みたいに早く交換したかった」とか思ってないんだからね?!。

ただちょっと「やっぱり、それが当然だよなぁ…」と原作内での真名の扱い方を思い出してただけで。

嫉妬なんてしてないから。

いや、振りじゃなくて。

本当に、本当だから。


──尚、俺と関羽の交換は関羽の方から申し込まれ、直ぐにOKしたかったけど色々考えて先送りに。

いや、華琳の時でも色々と葛藤が有ったからね。

それが同い年の、美人系で将来性(※意味深)が有る、幼馴染みなんですよ?。

男としては右手を伸ばして「おなしゃーっすっ!!」と頭を下げて申し込みたい所だったりしますって。

皆が皆、そうだとは言いはしませんけどね。


まあ、そんな感じで色々と葛藤してた訳です。

残念そうな関羽なんだけど母さんに何か言われた途端顔を真っ赤にしていたが、俺は…勇者には為れない。




真名は預け合った者同士が呼ぶ分には問題無い。

だが、難しいのが、預けた相手が複数居る場合。

全員が御互いに預け合った状態なら問題は無いけど、今の宅みたいな状態の場合少々ややこしくなる。

ただ、大半の場合、真名の問題は基本、当事者同士で解決する物らしい。

なので、俺の真名を関羽が居る状態で母さん達が呼ぶ事に、逆に俺が居る状態で関羽の真名を呼ぶ事に対し俺と関羽は了承している。

まあ、華琳は「御兄様」が標準装備だからな。

俺の真名は基本、母さんが呼ぶ位だ。

交換し立ての頃には華琳も呼ぶでたけどね。

因みに、華琳は関羽の事を何故か「御姉様」と呼ぶ気は無いらしく、真名呼び。

ちょっぴり残念そうな顔の関羽が印象的だったけど、その辺りは見ない振り。

指摘すると三方から攻撃を受けそうな気がするから。

未熟者な俺一人で三面作戦なんて無理ですもん。



「──あっ!?」



驚きの声と共に体勢を崩し地面に足を付いた関羽。

そのまま顔を歪めた。

別に、今ので怪我をした、という訳ではない。

単純に負けた悔しさから、顔を顰めてるだけ。

うん、やっぱり負けず嫌いなんですよ、彼女も。



「ふふっ、甘いわ、愛紗

私は日々、御兄様によって鍛えられといるのよ?

そう簡単には負けないわ」


「…くっ…」



愉悦に浸る華琳と、本気で悔しがり拳を握り締めてる関羽を見ながら思う。

「…え?、何これ?」と。

普段の可愛らしい華琳が、愉悦(覇)王の片鱗を何故か見せてるじゃないですか。

……まさか、これが有名な御都合主義(強制力)か?!。

──なんて、シリアス調な一人脳内芝居をしながら、ほっこりしている。


いやね、考えてみてよ。

目の前で、六歳児(華琳)が八歳児(関羽)に日課である手押し相撲で勝って、凄い得意気に然り気無く当然の事みたいにさ、兄(俺)の事自慢してるんだよ?。

可愛過ぎるじゃない!。

身長差+高低差も有るから逆だと引くけど、実際には華琳の方が低いからね。

威圧感は然程感じない。

寧ろ、その華琳のドヤ感が可愛くて仕方無い。


尚、その偉大な兄は未だに無敗を誇っております。

当方、不敗です。



(ただなぁ…最近の華琳は油断出来無い位に体捌きが上手くなってるんだよ…)



伊達に、チート持ち(俺)を相手に経験を積んでない。

勿論、本人の才能も有るが磨き上げる存在(環境)が、成長の度合いを左右する。

同じ時間、努力をしても、その質が異なれば成長率は小さくない差と成る。


原作の曹操の成長の経緯は判らないけど、宅の華琳は技術的には大人顔負けかもしれないレベルだ。

いや、兄馬鹿ではなくて。


護身術程度に鍛えてた筈が英才教育的な効果を発揮。

誰が予想出来ただろう。

……ええ、出来ますよね、ちょっと考えれば。

妹の可愛いさに眼が眩んだ事は否定しない!。

だって可愛いんだもん!。




さて、一方の関羽だけど。

彼女も華琳同様、その身に宿す天賦は本物の様だ。


手押し相撲という技術面が物を言う勝負では、経験で上回る華琳には及ばない。

それは仕方が無い。

だが、単純な力比べなら、華琳は関羽に勝てない。

六歳と八歳の差も有るが、やはり素質が根本からして違っている。

華琳は覇王──“王器”の天賦を持っている。

関羽は武将──“将器”の天賦を持っている。

それ故に、比較するという事は正しくはない。

せめて同じ土俵でなければ正当な比較とは言えない。


ただ、それはそれとして。

彼女の才能は凄い。

一応、同い年だという事、本人の希望も有って、毎日一定時間の指導(手合わせ)をしてるんだけどね。

上達速度が凄まじい。

ちびちびと重ねてきた俺の努力を嘲笑う様に、関羽は教えた事を吸収してく。

いや、その点に関してなら華琳も同じなんだけどね。

“余計な知識”が有る分、「本物は違うよな…」的な嫉妬を懐いてしまう。

器の小さい話だけどね。



「──哈あぁっ!」



──で、その関羽の咆哮で瞬間的に出張してた意識が現実へと帰ってくる。

視界に映るのは木棍。

振り下ろされる木棍に対し木刀を軽く当て、弾かずに受け往なして、逸らす。

踏み込み、力んだ状態って普通に思う以上に、脆い。



「──っ!?」


「これで、詰みだ」



前に躓く様に体勢を崩した関羽が転ばない様に必死に踏み留まった所に、木刀をそっと突き付ける。

驚きながらも勝負の結果を受け入れ、「参りました」と素直に口にする関羽。

実に彼女の真面目な性根が表れていると思う。


ただ、勝つには勝ったが、俺は内心では安堵する。

考え事をしていられる位に力量差は有るから、余裕な事は間違い無い。

しかし、それでも一日一日彼女達は成長している。

特典(チート)が無かったら絶対に敵わない。

そう断言出来る。

それ程に、その天賦は凄い物なんだって判る。

……まあ、それが判るだけ増しなんだろうけどな。



(しかしまあ、アレだな…

まだ八歳でも大人顔負けの膂力をしてるのか…)



多分、力比べをしたら村の成人男性の大半は負ける。

残りは引き分けが濃厚。

真っ向勝負をしても関羽に勝てる者は居ないと思う。

駆け引きをすれば別だが。

それ程に突出している。


正直な話、今は亡き故郷で関羽が差別されていたかもしれないと思ってしまう。

社会は異質を拒むから。




まあ、そんな関羽には何も問題は無い。

鍛練の姿勢も真面目だし、負けず嫌いではあるけど、指摘すれば耳を傾けるから教え易いからね。


うん、鍛練に関しては。



「……あ、あの……」



鍛練中は集中しているから大丈夫なのか。

俺の知っている関羽らしい感じなんだけどさ。

それ以外の時がね…物凄いオドオドしてるんです。

伏せ目勝ちに為りながら、何かを言おうとする。

けど、上手く言えなくて。

それでも伝えたいからか、指先で服の裾を本の僅か、ちょぴっと、摘まむ。

引く様な事はしない。

本当に摘まむだけ。

だから、ちょっと気付かず前に進めば抜けてしまう。

それ位な、ちょぴっと。


人に因っては、苛っとするかもしれないと思う。

俺は驚きの方が強いけど。

だって、あの関羽だよ?。

それが、コレですよ?。

何か、保護欲が凄いっす。


そんな関羽への接し方は、兎に角、焦らずに待つ。

それと下手に頭を撫でたりしないという事。

性格的には犬っぽいけど、現状は怯える仔猫。

警戒心ではないが、本人も色々と戸惑っているという状態なんだと思う。

だから刺激しない事を俺は第一に心掛けている。



「……っ………あ、あの、私にも…出来る…事は…」


「んー…それじゃ、一緒に魚を獲りに行くか?」


「──っ…は、はい!」



特別扱いはせずに、華琳と話している時の様に。

自然な態度を崩さない。

…意識的な自然な態度って可笑しな表現だけどね。


慣れた手付きで準備をする俺達と一緒に行動する姿は親鳥の後を負う雛の様で、妙に微笑ましく思う。


ただ、人手が増えるのは、俺としても有難い。

華琳だけでは足りないって訳じゃあないんだけど。

ある程度、俺の実力を知る“共有者”が居てくれると俺も自由度が増えるんで。

母さんの手伝いにしても、一人よりは二人。

色々と訳有りな身だけに、村の人達には簡単には頼む事は出来無いからね。

その辺りは仕方が無い。

世の中、何でかんでも思い通りには為らないものだ。




──性的な興奮を覚える物とは何だろうか。


それは人各々だとしか言う事は出来無いだろう。

明確な答えは出せない。

似通った趣味嗜好は有れど必ずしも同じではないし、その度合いも異なる。

ただ、同好の同志として、理解し合えるのも確か。

其処には、お互いに対する尊重が有るべきである事を忘れてはならない。


──何故、そんな事を俺は考えているのか。

それは視界に映る、関羽の太ももが眩しいからだ。

いや、まだ幼女なんだから肉感は無いんだけど。

短く捲り上げた裾により、普段は見えない部分。

それに加えて跳ねる飛沫が掛かると穢れを知らぬ肌を伝って落ちてゆく。

それだけなんだけど。

何故だか、蠱惑的だ。

流石にガン見はしないが、ぼーっ…とした振りをして視界の中に映し続ける。


一言、言っておく。

俺はロリコンではない。

だが、良い物は良い。

ただそれだけだ。



「…………御兄様?」


「ん?、どうした?」



絶対零度に近いのに何故か焼き付くされそうな熱量が籠められている眼差しに、動揺する事無く応える。

ぼーっ…としている態度を崩しては為らない。

兄の名誉に懸けて。



「……もう少し上流にまで行ってみますか?」


「そうだな…」



華琳の言葉に考える振りをしながら関羽を見る。

…行けそうな気はする。

ただ、あまり深入りしても慣れていない関羽には色々負担も多いと思う。



「いや、今日は帰ろう

帰りが遅くなると母さんが心配するだろうしな」


「判りました」



そう言うと、華琳は関羽の方へと歩いて行き、今日は終わる事を告げて帰宅する準備へと移ってゆく。


静かに見上げる空の彼方は薄く紅を差す様に染まり、一日の終わりを告げる。

沈み行く山並みは更に深く紅く色付いてゆく。

玄に近付く様に。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.4

















 曹操side──




△△月▽日。

あれから一ヶ月が過ぎて、関羽も馴染んできた。

御兄様という前例が有る為受け入れ易かった、という要因も有るでしょう。

勿論、一番の要因は彼女が天涯孤独だという事。

嫌な話ではあるのだけど、後々の面倒事が無い。

それが意外と大きい。


それは兎も角として。

御兄様が関羽を気に掛ける様子が最近増えた。

当然と言えば当然だけれど御兄様には、もっともっと私の事を構って貰いたい。

勿論、御兄様に迷惑に為る真似はしないけれど。

……もう少し「二人きりで居たい…」とは思う。

我が儘は言わないけれど。




──と、書かれた日記。

其処に嘘は無い。

しかし、書かれてはいない感情は確かに存在する。

字にして書けない想いが。



(…何?、何なのかしら?

後から出て来た癖に、私の御兄様に馴れ馴れしい…

いえ、家族という意味では許容範囲だけれど…

……〜〜〜〜〜〜っ……)



考えれば考える程に胸には何かが募り積もる。

モヤモヤとした感覚。

まるで深い靄が立ち込めるみたいに不確かで。

けれど、確かに存在する。

それ故に、苛立つ。


ただ、それを表に出す事は私には出来無い。

御兄様に嫌われたくない。

失望されたくない。

邪魔だと思われたくない。

だから、言えない。

言えずに、飲み込む。

それが気が狂いそうな程に苦しい事だとしても。

ただそうする事しか私には出来無いのだから。



「華琳、準備出来たか?」



声を掛けられた瞬間、私は御面を付ける様に御兄様に向かって笑みを浮かべる。

“良い妹”に為る。



「はい、御兄様」


「それじゃ、行くか」


「…御兄様、愛紗は?」


「ああ、羽には今日は畑で母さんの手伝いを頼んだ

村の人達にも慣れていって貰わないといけないしな

だから今日は二人でだな」


「──っ!!」



筋の通った理由。

それを態々疑うのは単純に性格が捻くれている者だけなのでしょう。

それでも構わなかった。

だって、その差し出された左手は私達が出逢ってからずっと繋がっている。

それだけで理解出来る。


溢れ出しそうな涙(感情)を堪えながらも浮かべるのは御面(偽り)ではなく。

私の素顔のままの笑顔。

「判りました」と御兄様に返す声も弾みそうになる。

それでも甘えきれないのは意地っ張りだからか。

それとも不器用だからか。


判らないけど、構わない。

だって、今だけは御兄様は私を見てくれている。

私が独占出来ている。

それで十分なのだから。


立ち込めた靄は晴れゆく。



──side out。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ