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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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80話 綺麗な花には


“健康・健全”という言葉が有る。

主に身体や心身を指して用いられる言葉だが。

時として、社会そのものに対しても用いられる。


では、“健康・健全な社会”とは何なのだろうか。


身体で言えば、病気や不調が無く正しく新陳代謝が行われている、といった感じだろうか。

心身という意味では、悩みや不安が無い、といった意味合いになるのかもしれないが。

現実的な話をすれば悩みや不安を一切抱える事無く生きていくという事は不可能。

ただ、“気にし過ぎないで”生活する事は可能。

そういう意味でなら、成り立つのかもしれないが。

悩みや不安は生きている限り傍に有るものだ。


また、“健全な精神”というのも今では曖昧。

何を以て、「これです」と断言出来るのか。

それが不可能な時点で、抽象化しており。

抽象的で有る以上、解釈(・・)は個々に委ねられる。

つまり、人によって意味合いが変わるという事。

それ故に、「それは違う」とは言い切れない。

勿論、社会的・道徳的な倫理観を逸脱している様な場合には言い切る事は出来るのだが。

微妙な所を判断する事は非常に難しいと言える。


さて、そういった事を踏まえて。

社会に適用した場合、どうなるのだろうか。

身体とは違う以上、病気というのは比喩となる。

勿論、疫病や癌等の難病の様に社会的にも脅威的な場合には比喩ではないのだが。

社会の病気とは、“社会問題”と言えるだろう。


一口に社会問題と言っても様々である。

人権・差別・自然・領土・宗教…等々。

大分しても、それなりの数が挙げられるのだ。

それを細分化し、よりピンポイントでピックアップすれば何れ程の数になるだろうか。

つまり、人間の社会というのは問題だらけで。

微塵も、「健康・健全だ」とは言えないという事。


ただ、それを政治家等は口にはしない。

何故なら、正せない・解決出来無い事が悪とされ、自分にとって不利益(・・・)に繋がる為。

だから、余計な事には触れる事すらしない。


しかし、本来ならば、それに取り組み、引き継ぎ、少しずつでも前進しようと努力する事。

それこそが、本来の有るべき形ではないのか。


そうは出来無い理由。

それが“社会の新陳代謝不全”だろう。


自然界に於いて、新陳代謝とは世代交代(・・・・)を伴う。

そうする事で、種を、社会を活性化させ、未来へと繋げると共に繁栄させていくのだが。

事、人間社会に限っては、それが機能していない。


その最大の理由が、人間特有の社会老化(・・・・)


いきなり若く未経験な者達が大役を担うという事は難しく不安やリスクも少なくはないだろう。

その為、経験豊富な人物やベテランが担う。

それ自体は決して可笑しな事ではない。

親から子へ教え伝えられる様に。

子が親から学び取る様に。

そうして少しずつ成長は促され、知識や技術は積み重ねられ、進歩・発展していくのだから。


だがしかし、その後が続かない事が大問題。

本来は後進に道を譲るべき先達が退かない(・・・・)事。

それにより、本来起こるべき新陳代謝が起きない。

その結果、目詰まり(・・・・)を引き起こし。

更には道を塞ぎ、腐らせる事へと繋がる。

少し想像すれば判る事なのだが。

権力社会(・・・・)である人類は、それが出来無い。


例えば、大きな社会的・国際的な組織を率いる者が高齢である事は本来であれば望ましくはない。

如何に技術が発達しようとも、老化は起こる。

肉体の衰退は精神にも影響するのは当然で。

認知症や心不全等、個人の死のリスクを高める。

そして、その死が大きな影響を及ぼすのであれば。

その様な立場に在る事は避けるべきだと言える。


例え、どんなに素晴らしい功績が有ろうとも。

一定年齢を過ぎた人物が柔軟に変化が出来るのか。

はっきり言って、それが出来る人物の方が稀。

多くの者は、変化を嫌うのだから。

「古き良き伝統を重んじる」と言えば聞こえだけは良いのだが、言い換えれば保守的で。

変化を嫌い、排他的・閉鎖的な思考が強い訳で。

そういった人物が巨大で、時代や社会への適応力を求められる組織を正しく(・・・)率いられる可能性は低い。


現実的には、そういった人物が率いる組織が多く。

既に時代錯誤である事を自覚出来無い事。

それこそが最大の社会問題ではないのだろうか。


「老兵は黙して去れ」の様な極端な事は言わないが社会の新陳代謝は正しく行われて然るべき事。

その為には、次代に道を譲る事。

先代の志を継ぐ事。

代を重ね、繋ぎ、育む事。

それを続けていける社会性を再構築(・・・)する事。

それが何よりも先決なのではないのだろうか。


人類が進化した為に疎かにしてしまった正しさ。

それは思想や権利等よりも本来は必要不可欠な事。

社会性の新陳代謝こそが、今、必要なのでは。



「…ぅ゛う゛ぅ゛~…何なの此処~…」


「…此処って本当に幽州なのぉ~?…」



溶けるアイスの様な印象を受ける蒲公英と沙和。

ただ、そうなるのも無理も無い。

気怠そうに項垂れ、身体を重そうに動かす。

額から、首から、腕から、脚から汗が流れる。

熱気は勿論だが、湿度(・・)がヤバい。

はっきり言って、俺や華琳でも少々厳しい。

勿論、氣を使えば問題無いんだけど。

相手に気付かれる可能性が有るから、使えない。

だから、今は自力です。

耐えるしか無いんです。


…え?、「御前には転生特典(チート)が有るだろ」?。

まあ、それはそうなんですけどね。

熱暑(・・)耐性は鍛えてますので。

正直、沸騰した湯にも氣無しで入れます。

ええ、火傷もしませんよ。

でもね?、蒸し暑さ(・・・・)には不慣れなんです。

「サウナでも造って入ってれば良かったなぁ…」と密かに思ってたりしますからね。

──とは言え、それでも皆よりは全然楽ですが。


尚、宅の完璧な愛妹様は汗一つ掻いていません。

勿論、氣も未使用です。

「汗だくになる姿など見せません」との事。

…まあ、裸なら汗だくでも気にしませんしね。

その辺りの事は口にしませんし、直ぐに忘却です。



「…私も待機組(・・・)が良かったのぉ~…」


「沙和、不満なら一人で戻っても良いわよ」


「ぅっ……それは嫌なの~…」


「だったら我慢しなさい

貴女だけが暑い訳ではないのよ?」


「は~いなの~…」



華琳に一刀両断され、愚痴るのを止める沙和。

暑い時に「暑い」と連呼すると余計に暑くなる。

アレは一瞬の自己催眠みたいなものなんだろうな。

まあ、だからと言って「暑くない」「涼しい」とか言っても快適になる訳でもないんだけど。

本当、可笑しな話だよなぁ…。


──というのは置いといて。

沙和が言った待機組とは宅の本隊(・・)の事。

麗羽・詠・風・亞莎が兵三千と共に駐屯中。

念の為、白蓮と紫苑に付いて貰っている。

今回は何方等も単独なので自分の部隊は不参加。

飽く迄も、麗羽達に経験を積ませる為だからな。

前に出過ぎてしまうのは困るんですよ。


──で、別動隊として俺達が居る訳です。

俺に華琳・焔耶・蒲公英・明命・沙和の六人。

少数精鋭ですが、メインは焔耶・蒲公英・沙和。

俺達は補佐、明命は準メインという感じでね。


そんな俺達が居るのは“魅晦侖”という山。

山なんですけど、かなり厄介な難所でも有ります。

入り組んだ地形をしている遼東属国なんですが。

彼方等此方等に特有の気候や生態系が分布。

その為、下手に行軍すると環境に適応出来無いと、あっと言う間に体調を崩す事に。

その所為で隠密衆の面々も苦労していました。

俺が居るから戻りさえすれば治療は出来ますが。

単独だと、かなり危険な場所なんです。

だから蒲公英や沙和の愚痴も仕方が無い事。

どうしようも有りませんけどね。



「明命、焔耶、ちゃんと水を飲んでるか?」


「はい!、大丈夫です!」


「そんなに渇いてはいません」


「渇いてからじゃ遅いんだ

こういう状況だと尚更に小まめな給水が必要だ

いざという時、動けなくてもいいのか?」



そう言いながら、然り気無く蒲公英を見る。

そう遣って焔耶の視線を誘導して、具体的な状況を自分の嫌な展開で想像させる。

そうする事で、「…それは嫌だ」と思わせる。

特に蒲公英とは初めて会った頃からの好敵手(ライバル)

焔耶にとって蒲公英に助けられる事は屈辱だ。

だから此処で無意味に強がったりはしない。



「……そうですね、判りました」


「沙和、貴女は飲み過ぎない様にしなさい

下手に臭い(・・)を生めば、気付かれるわ」


「──っ!?、判りましたなの~…」



沙和の“びんじょう”!、沙和は水筒を取り出す。

華琳の“アイのムチ”!、沙和に効果抜群だ!。

沙和は水筒をしまうしかなかった。

──とかいうテロップが脳内に表示されました。

アレって、自分の所の子達同士を戦わせる機能って実装されないんですかね?。

経験値は入らなくても良いから。

まあ、もう俺は新作もプレイ出来ませんけど。


それは兎も角として。

華琳が沙和に注意した理由はトイレ(・・・)問題。

獣並みの嗅覚を持つ相手の縄張りに俺達は居る。

そんな場所で迂闊に痕跡(・・)を残す。

それは自殺行為に等しいと言える。


ただ、意図的に(・・・・)遣るのなら別。

その場合は、相手を誘い出す為の罠だからだ。

…いやまあ、流石に遣らせはしませんけどね。



「────っ、御兄様…」


「…ああ、見てる(・・・)な…」



少し後ろを歩いていた華琳が横に並んで呟く。

明命も気付いただろうが、動揺も緊張もしない。

そういう変化を見せない様に修練を積んでいる。

勿論、俺と華琳も悟らせはしない。

華琳も直ぐに元の位置に戻ったので一瞬の事。

注意力の下がっている蒲公英や沙和は気付かないし焔耶にも気付かれはしない。

氣を使っている訳ではない。

俺達は視線(・・)を感じ取っているだけ。


視線感知は対人(・・)特有の技能。

獣が相手なら気配と殺気、臭いの消し方が大事だが視線は然程重要ではない。

その視線に殺気等が籠らなければ大丈夫。

一方、人間は“見られる事”に対して敏感。

だから対人技能として視線の切り方や外し方という特有の技能が必要となってくる。

中でも、追跡や監視の際には特に高い技量が必要。


しかし、相手は対人慣れはしていない。

その為、俺達への視線はバレバレだったりする。

──とは言え、気配や殺気の消し方は上級者。

いや、獣じみている(・・・・・・)と言うべきだな。

何と無く、恋と出逢った時の事を思い出します。




直ぐに仕掛けてくるかと思ったが、意外と慎重。

だが、そうなるのも仕方が無いのだろう。

此方が六人に対して、相手は一人だ。

最初は相手が偵察である可能性も考えたんだけど。

一向に報せに戻ったり仲間が合流する様子が無く。

けれど、見逃すつもりもないのだと感じていた。

だから、殺る気は有るのだろう、と。

それ故に、慎重に動いているのだと思える。


──で、そんな感じで一時間程。

距離を取りながら此方等を観察しながら追尾。

二度程、休憩と会話で隙を見せて誘ってはみたが、動く気配が無く、華琳がSっ気を出し掛けた。

そういう(・・・・)手合いを相手にするのが好きですからね。


そして、漸く「行ける」と判断したのだろう。

明らかに仕掛けてくる動きが見えた。


俺は華琳と明命にしか解らない仕草(ハンド・サイン)で合図。

二人は話し掛ける形で然り気無く移動。

俺を先頭に焔耶・沙和・明命・蒲公英・華琳の順に列びを変更し、襲撃に備える。


「──御ミャー等っ、待つのニャーっ!

ミャーは“嶺胡”最強の──ぅニャァアーっ!?」


「──喋る御猫様ですっ!!」


「やっ、止めるのニャぅにゃぁあ…ふにゃあぁ…」


「……………あの、御兄様?」


「…はぁ…一瞬で終わったな」



華琳ですら、呆れてしまう超神速の一撃。

俺達の前に登場した刺客は明命により捕獲(瞬殺)

為す術も無く、モフられております。

うん、こうなるよね。





 于禁side──


忍様の所に来てから、賊討伐等は経験してきた。

だけど、本当の戦争という意味で戦は初めて。

だから今回の遼東属国への遠征は物凄く緊張する。

それでも蒲公英ちゃんも一緒だから増しな方。

蒲公英ちゃんが居なかったら、無理だったと思う。

──と言うか、出来れば別の機会にして欲しい。

想像を遥かに超えた暑さに頭も身体も可笑しくなる未来しか思い浮かばないから。

せめて、氣を使わせて欲しいの~…。

無理だって判ってるんだけど。


そんな遠征中の事。

少数精鋭で進む私達の前に飛び出してきた人影!。

「敵襲っ!?」って思って慌てて腰の剣に手を伸ばし柄を掴もうとして──空振った。

慌て過ぎて普段とは違う構え方に為ってて。

それに気付いたのは、蒲公英ちゃんに後ろから軽く頭を叩かれて「沙和、慌て過ぎ」と言われて。


その次の瞬間、横を華琳様が通り過ぎた。

「怒られるっ!!」と思わず目を瞑った。

それで回避出来るって訳でもないんだけど。

反射的な事だから仕方が無いと思うの~。


でも、華琳様に怒られる事は無かった。

その理由が──



「嗚呼っ、草と太陽の匂いが一杯ですっ」


「は、離すのにゃぁ…みゃ、みゃぁはぁ…」


「此処ですか?、此処が気持ちいいんですね?」


「ち、違っ、ぅにゃぁぁ~……た、助けるにゃ…」



──と、襲撃者だった女の子を捕まえてモフってる明命さんだったりします。

私は慌ててたから気付いたら、こうだったけど。

忍様達は見ていた見たいです。

まあ、実力も経験量も違うから当然なんだけど…。

……うん、私も負けない様に頑張ろうっ。

蒲公英ちゃんに置いて行かれたくはないもんね。



「…あの、放って置いて宜しいのですか?」


「別に殺しはしないだろうからな

…まあ、動きは完璧に殺してるけど」


「見事な読みと捌きですね

アレを普段から出せれば…」


「それは無理だな

アレは子泰の秘技、“御猫様極楽拳”なんだから」


「それってつまり、猫専用って事なんだよね?」


「まあな、応用が出来無い訳じゃないんだけど…」



蒲公英ちゃんの質問に忍様が明命さん達を見る。

女の子は明命さんの膝の上で身悶えしているけど。

その表情は、とっても幸せそう。

ちょっと油断すると涎が垂れちゃいそうな感じで。

明命さんの指業に屈しています。



「アレ、対人で(・・・)使うなら限られるだろ?」


『────っっ!!!!』



忍様の一言で華琳様を含めて私達は顔を赤くする。

だって忍様の言う“限られた状況”って…ね~…。

しかも、他人事なら兎も角。

自分が(・・・)女の子の立場だったとなると。

忍様の膝の上で、全身を撫で回されて……って。

しかも気持ち良くて涎が垂れちゃってたら…。

うん、何かもう、それだけで死ねそうかも。

勿論、本当に死ぬ訳じゃないんだけど~…。

ちょっと想像しただけで、こうだもん。

そして、妻である華琳様でさえ、こうなんだよ?。

それが何れ程の羞恥心を強いる事なのか。

言わずとも判ると思います。

うん、私には無理です。



──side out



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