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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   未来の一片か


霞が動いた事で賈駆は否応無しに対応を強いられ、生じた穴を塞ごうとする様に二千の兵を出した。

それ自体は悪い手ではない。

ただ、受動的な一手と主導的な一手では違うもの。

その違いが、戦の流れを左右する。


賈駆の動きに合わせる様に稟は引き込んだ敵部隊を一転して包囲、無力化してゆく。

それを待っていたかの様に宅の本隊が動く。

霞の後を追う様に進むのは華琳が率いる兵四千。

遠目に巨大な槍の様に見える姿は雄々しく。

文字通り、戦場を貫く様に進撃する。

それ(・・)を最終局面と踏んだ賈駆も動く。

兵七千を率いて自ら戦場へ。

宅の本隊を叩き、勝利を掴もうとする。


まあ、其処に俺は居ないんですけどね。

「そんなのって有りな訳っ?!」とか言われそうだ。

うん、賈駆ってさ、ちょっと苛めたくなるよね。

あの“原作”の董卓でさえ、揶揄ってた位だもん。

リアクションを含めて可愛いから。

知ってたら、「小学生低学年の男子かっ!」なんて賈駆が半泣きで顔を真っ赤にしてツッコミそう。

その後は容赦無く貪りますけど。

ええ、「じゃあ、教えてやるよ」な展開ですよ。


尚、似た様な事を咲夜と遣ったりしてますが。

賈駆が相手だと、委員長キャラなんで萌えます。

問題児の多いクラスを纏める苦労性の委員長。

原作が学園物だったら、間違い無く賈駆が委員長。

賛否共に意見は色々有るでしょうが。

俺的には賈駆推しです。


尚、華琳は次期生徒会長を狙う野心家。

白蓮も立候補しているけど、正統派の噛ませ犬。

…うん、自分の妻だけど、こればかりは仕方無い。

だって、相手が悪過ぎるんだもん。

──あっ、因みに女子校設定ね、そこは絶対に。

だから、ちょっと百合物になっちゃうかな~。

若しくは、ドタバタ女子校コメディかな。


──なんて妄想は置いといて。

…ちょっと楽しかったのは内緒です。


防御陣を敷いていた敵部隊を蹴散らした翠の部隊が霞と合流し、中央の進路を邪魔する敵を退かす。

其処を全く脚を落とさずに駆け抜けた華琳の本隊が出て来た賈駆の率いる敵本隊と打付かった。

予想以上の進軍速度に袁紹軍の兵は驚愕。

それによって僅かだが生じた混乱を収める手間を、賈駆は強いられ、その分、遅れる。


世の中には“後の先”なんて言葉が有るけど。

現実的には相当な実力差・経験差が無いと不可能な事だったりするんですよ、それは。

基本的には先手を取った方が有利であり、主導権を握る事になるのは当たり前の話だったりする。

勿論、その主導権を握った方が油断したり、大事な場面でミスをしたら、逆転する大チャンスですが。

そういった突け込む隙が無い相手なら。

先手を取られたら難しくなるのは必然な訳です。



「……本当、良い仕事(・・・・)してるなぁ…」



激突する両軍の本隊。

言うまでも無く、宅の方が実力的にも上ですから、普通に遣ってたら、あっと言う間に終わりです。

それでは経験を積めませんから、ハンデ付き。

──とは言え、それでも厳しいのが現実。

其処を華琳が上手く捌きながら、動かしています。


ただ宅の皆に経験を積ませるだけではなく。

相手の兵達には圧倒的な彼我の実力差を見せ付け、賈駆達には己の未熟さと現時点での課題を示す。

それは言外に「高み(此処)まで来なさい」と。

宛ら、教え導いているかの様に。


「全て、私達が御兄様に教わった事です」と。

華琳が屈託の無い笑顔で言ってる気がしました。

ええ、それが“気のせい”だったら構いませんが。

宅の華琳なら、言いますし、考えてそうですから。

「それは流石に自画自賛過ぎるよなぁ…」と考えて苦笑する場面ですが、違う意味での苦笑に。

まあ、困る事じゃあないんで構いませんけど。


さて、賈駆は華琳の倍近い兵数を抱えてはいますが完璧に掌握し、動かせている訳ではない。

徴兵した兵士というのは当然ながら、臨時(・・)雇用。

正規兵に比べて組織的な連動性は低い。

だから、どうしても命令は単純で簡単な物になる。

その為、賈駆の判断から、指示・伝達・命令と。

実行までには最低でも三つの過程を必要とする。


しかし、宅の場合は新兵だろうが、基礎を修了(・・)した正規兵ばかり。

個々の身体能力は勿論だが、兵の判断力・理解力も袁紹軍とは比べるまでもなく。

将師の指揮に従うだけではなく、理解して動く。

その思考力を鍛え上げているから、動きが違う。

早い話、同じ過程が必要でも一つ一つの速度が違うという事であり、省略出来る過程も出てくる。


勿論、軍将の専属部隊に比べれば精度は落ちるが。

個人専用に特化する専属部隊とは違い、汎用部隊に求められるのは即応性だったりしますからね。

そういう意味では、両者の価値は別物なんです。


尤も、それも皆の日々の努力と研鑽の賜物。

決して、一朝一夕では出来ませんし、成りません。

だからこそ、宅では正規兵の待遇は良いんです。

しかし、同時に規律は一般人よりも厳しいです。

不祥事を起こしても軽罰(・・)では済みません。

そういった責任の有る立場に居るのだという自覚を日常的に無意識(・・・)で持てる様に。

宅の修練は厳しいんです。

人間性を鍛え上げる、という意味でもね。

ああ、俗に言う“精神修養”とは違いますよ?。

まあ、その辺りを言葉で説明するのは不可能に近い事なんですけどね。


だって、そうでしょう?。

もし、“全てを話して理解し合えるのなら”。

世界に戦争や対立、差別や支配なんて存在しない。

それが実現していない時点で、それは妄想(・・)

問題から現実逃避する思考放棄も同じな訳で。

不可能な事を「これが正しい事です!」と声を上げ自らの愚かさをアピールしているんですから。

何も解っていない、妄想家の妄言だって事です。


理想や持論を持つ事は大切です。

しかし、その実現の為には必ず犠牲が必要です。

それは生命的な意味だけではなく。

既存の概念や社会性の破壊という犠牲。

それに伴う混乱や対立、それにより生じる犠牲。

そういった犠牲無くしては、不可能なのだから。

だから、より具体的な手段や方法が必要で。

より確固たる覚悟と責任を負う意志が必要で。

熱意や口先(・・)だけでは駄目だという事。

何でも綺麗事(・・・)だけでは済ませられません。


──とか何とか考えている内に戦況が動く。

華琳が自分の影に潜ませ、林へと隠し入れた()

桃香の率いる兵千人の別動隊が林を抜け、袁紹達の居る砦へと突っ込んで行った。


当然、それに気付いた賈駆は阻止しようとする。

しかし、それを華琳が許す様な甘い訳が無い。

そんな余裕は与えず、だが、認識はさせる。

自らの無力さを味あわせながら、叩き潰す。

何処ぞのドSな覇王様の笑みが浮かんで見えるな。

勿論、それも賈駆という稀代の才器を育む為。

決して、己の趣味嗜好で、ではない。


賈駆という司令塔と切り離されてしまった袁紹達。

ただ、賈駆も最後の護衛として千を残していた。

袁紹は決断を迫られる。

状況を見れば敗北が濃厚──いや、必至だ。

結果を考えれば、無益な争いをせずに降伏。

それが最も早く、最も犠牲の出ない最善手。


しかし、それでは戦った意味は無くなる。

そんな事は最初から判っていた事。

無駄な戦い(それ)を承知で、臨んだのだから。

此処では貫かなくてはない。

例え、如何に不様で恥辱に塗れる事になろうとも。

自らが決断した、その責任を果たす為に。



「…そうでないと助ける価値は無いからな」



そう言った口元が、思わず緩んでしまう。

袁紹と袁術が五百ずつを率いて砦から出たから。

“原作”の袁紹・袁術であれば、有り得無い事。

調子に乗っての出陣とは違う。

敗北を受け入れ、その上で示す為に応じた。

その気高さを、俺達は好ましく思う。




──とは言え、現実というのは無情だ。

如何に部隊的には二対一でも、桃香の方が上回る。

華琳の洗脳(指導)と、短期間での実戦経験と結果。

それらが桃香に確かな自信を持たせている。

つまり、“絶好調”な訳なんですよ、今は。

だから、結果は想定通りに決着しました。

ええ、両軍合わせて負傷者は二万を超えていますが死者は無しです。

皆、よく頑張ってくれました。


──で、事後処理を稟達が頑張っている間に。

俺は華琳を傍に置き、袁紹達と対面する。

…ん?、「護衛は居ないのか?」ですと?。

いやいや、俺達に居要ると思いますか?。

公的な場なら形式的に付けますけど。

基本的に護衛は要りません。

その分、人件費の削減にも為りますので。

勿論、必要な面子には付けてますけどね。

宅の内部に遣らかす(・・・・)馬鹿は今は(・・)居ませんから。



「さて、こうして顔を合わせるのは初めてになるな

色々と呼ばれ方は有るが…“大太守”の徐子瓏だ」


「御存知かと思いますが、袁本初と申します

右から軍師の賈駆、従妹の袁術、軍将の張飛です」



袁紹の紹介で彼女の後ろに並ぶ三人が頭を下げる。

別に何も可笑しくはないけど、原作では「礼節って何なのだ?、美味しいのだ?」な感じの張飛。

しかし、賈駆という教育係りと名門袁家という環境だった為か、無礼な印象は無い。

子供らしい、年相応の無邪気さは感じるが。

決して、「強ければ良いのだっ!」な脳筋主義的な猪っ娘ではない。

それは袁術にも言える事で、幼いが知性を感じる。


まあ、原作はキャラ付けされてますからね~。

そういう印象が強くなるのか当然と言えば当然。

仕方が無い事ですよね。



「言わなくても判っているとは思うが、御前達には如何に不満だろうと拒否権は無い

まあ、それは袁家全体に言える事だが…」


「はい、重々承知しております

私達は如何なる処遇も受け入れます

ですから、何卒、民には御寛大な御慈悲を…」


「ああ、その辺りは判っている

宅の遣り方には従って貰うが、蔑ろにしたり酷使し使い潰したりする様な事はしない」


「有難う御座います」



そう言って額が床に付く程に深く頭を下げる袁紹。

原作とは違い、人の上に立つ意味を知る彼女は己の自尊心など容易く捨てられる。

しがみつき、縋る様な事は無い。

だからこそ、目の前の袁紹には魅力が有る。

白蓮達と同じ様に、民の上に立つ者としての。

確かな意志と、本当の誇り高さが。



「それで、御前達の処遇だが…

賈駆、御前には軍師見習いとして働いて貰う」


「……宜しいのですか?、私は敵でしたが?」


「宅は実力主義だし、老若男女・身分は問わない

勿論、俺に従えない奴は要らないがな

その辺りは訊かずとも判っているだろう?

それとも、不満が有るか?」


「…いいえ、光栄なばかりです

誠心誠意、励み、御仕えさせて頂きます」


「ああ、期待している

それから宅では一人で背負う必要は無い

だから、先ずは肩の力の抜き方を覚えろ

眉間に皺を寄せていては可愛い顔が勿体無いぞ」


「──っ!?、~~っ……ど、努力致します…」



男からの誉め言葉──御世辞にすら免疫の無い事を情報としては知っていたが…うん。

真っ赤になって俯いてる反応は萌えますなぁ~。

このまま誉め殺しながら可愛がりたい。

性的な意味ではなく、撫で回し、抱き締めたい。

勿論、そう為ったら為ったで俺も励みますけどね。



「次に袁術、張飛、御前達二人は宅の遣り方による基礎教育を受けて貰う

歳の近い者も居る、解らない事や困った事が有れば気軽に相談したり、頼る様に」


「「はい」」



彼是言わず、素直に返事だけをする。

この場の自分達の言動の意味を理解しているなら、将来的にも期待出来るな。



「そして、最後に袁紹」


「はい」


「御前には俺の妻となって、袁家の正統な(・・・)跡継ぎを産んで貰う」


「──っ!?、で、ですが、私は──」


「袁家を潰し、再興、或いは新設する事は容易い

しかし、歴史(・・)を築くには時を要する

今代で大きな過ちを犯したとしても、それはそれだ

これまでの多く者の努力は評価されて然るべきもの

過ちを正し、繋ぐ事が御前達の使命だ、以上だ」






 曹操side──


袁紹軍を相手にした戦い。

──とは言え、勝利が揺らぐ事は絶対に無い。

如何に複数の条件(縛り)が有ろうとも。

普段の、御兄様が相手の鍛練に比べたら。

はっきり言って児戯にも等しい事だもの。

だから、油断・慢心・過信は無いけれど。

万が一の可能性すら無いと言い切れるわ。


抑、御兄様が御覧に為っているのだから。

不様な姿を晒す訳にはいかないもの。

………それはまあ?、態と失敗して気落ちした体で御兄様に慰めて貰う、というのも有りだけれど。

流石にそれは……………っ……いいえ、駄目よ。

ちょっと……いえ、かなり、心が揺れるけれど。


それはそれとして、今は戦いに集中しないとね。

御兄様に任せられている以上、無難(・・)は怠慢。

御兄様の想定以上の結果を出してこそよ。



(…ただ、そうは言っても中々に上積み(・・・)をするのが難しいのが正直な所なのよね…)



宅の将師と兵に経験を積ませる。

賈駆や袁紹達に実力を理解させ、兵にも力を示す。

その為の棋譜(・・)は既に出来ている。

けれど、それでは、それ以上は期待出来無い。

無難という訳ではないのだけれど…。

私自身としても少々物足りない(・・・・・)わ。


でも、どうしようかしら。

追加するとするなら…やはり、中央、かしらね。

そうなると………そうね、私も動きましょうか。

本来なら、あまり活躍しない様にするのだけれど。

必要な場合には、それも致し方無いものね。


それに御兄様なら此処で動かれるわ。

限られた機会を如何に有意義に活用するのか。

其処で妥協される御兄様ではないもの。




──といった訳で、予定を変えて仕掛けた訳よ。



「不殺は兎も角、不倒というだけでもキツいのに、途中から追加で誘導まで遣らせるとは…」


「まだ桔梗は指示が来てるから増しだっての…

アタシなんて自分で考えないといけなかったんだ…

それはまあ、必要な事なのは判るけどさ…

いきなりは厳しいっての…」


「何甘えた事を言ってるのよ…

この程度の相手に手間取っている様では、この先、格上相手に孤立したりした場合、どうするの?

その時、私は勿論、御兄様の助けも直ぐにはない

そんな状況で貴女は兵を見捨てるの?

「アタシには無理だから諦めてくれ」なんて言って責任を放棄すると言うつもりなのかしら?」


「ぅぐっ……それは………アタシが悪かったよ…」


「言われて想像し、理解出来るなら、そういう事を自分で自主的に出来る様にも成りなさい

兵だけではなく、家を、一族を預かる身なのよ

御兄様が居るとはいえ、私達は私達自身で自分達の家や一族の事を背負わなくてはならないわ

いざという時、誰かを頼らなくては何も出来無い

そんな者には背負い切れないわ」


「………そうよな、確かに考えが甘かったわ」


「まだ子供も産んではいないけれど、必要な事よ

その時になって慌てても既に遅いのだから」




──side out



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― 新着の感想 ―
[良い点] 賈駆をいじめたくなっちゃうの……分かる( ˘꒳˘ ) [一言] >>決して、己の趣味嗜好で、ではない。 お兄様の目を見て言いなさい、本当ですか? しかし『原作』の麗羽も好きだけど、こっ…
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