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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   基本通りの忍耐


宅の領内なら、氣で強化して走れば日帰りは楽勝。

そうでなくても、最近は特典(チート)の恩恵により鍛えられ素でも出来る様に成っていますからね。

いや~、本当、我ながら怖くなる程の冴えです。

あの時の自分を誉め称えて祀り上げたいです。

まあ、そんな事を口にしようものなら宅の教祖様が直ぐに動き出しますから言いませんけどね。

日々信者が増殖(・・)していますから油断大敵。

何処に目や耳が有るかも判りません。

ええ、甘えている時、愛し合う時は可愛いのに。

事、その一点でだけは解り合えません。

故に、我が最大の宿敵と言える訳です。

尤も、それも戯れ合いみたいなものですが。

本気も混じっているからヤバイんですよ。



「師匠ぉーっ、此方やぁーっ!」



──とか考えて、軽い現実逃避していたから真桜が声を掛けてくれるタイミングが遅ければ通り過ぎて戻ってくるという間抜けな姿を晒した筈。

まあ、だからと言って特にマイナスになるといった事でもないんですけどね。

俺も男ですから、愛する女の前では格好付けたい。

そんな、ちっぽけな自尊心も有るんですよ。

…え?、「よくギャグってる癖に」ですと?。

それはコミュニケーションだからノーカンです。


──という訳で、余裕綽々な体で真桜の前に着地。

笑顔で抱き付いて来てキスを強請る真桜に応える。

…真桜のテンションが高くてディープだったので、危うく脱線してしまう所でした。

ええ、人目が有りませんから危ない所でした。

何とか気合いで堪えましたとも。

ただ、その我慢の責任は後で取って貰います。

だって真桜の所為なんですから。



「──で?、何が有ったんだ?」


「あー…取り敢えず、現物(・・)見たって」



そう言って腕を組んだまま歩き出す真桜。

普段は華琳達が居るし、御互いの立場の事も有る。

だから、こういう事は滅多にしないのだが。

真桜だって女の子だし、俺の妻で、恋人だ。

イチャつきたくなる気持ちもだろう。

事実、二人きりの時には甘えてくるからね。

普段、「この位の距離感がウチは良ぇんよ」なんて言っている分、デレる時の真桜は可愛い。

ツンデレのギャップ萌えとは違う。

言うなれば、“トモデレ”だろうか。

普段は友達の様な距離感なのに、時折、垣間見せる独占欲や嫉妬が甘えに重なって効果倍増!。

──みたいな感じですかね。

まあ、兎に角、宅の真桜の可愛い一面なんです。


真桜に案内されたのは領境防壁の設置予定地。

既に左右に100mずつ程、離れた場所では大勢の作業員が工事を行っている。

重機等は無いが、宅の誇る土木・建築系の精鋭だ。

その技量は今更言わずともチートです。


そんな状況下で、途中で放棄された様な一角。

ええ、明らかに何か有るんだって判りますよ。



一時設置(・・・・)や言ぅても強度は要るやろ?

せやから、基礎工事で一丈(3m)は掘って、支柱を入れる所から始めるんは師匠も知っとる通りなんやけど…

此処等辺だけ七尺程掘った所で突き当たった(・・・・・・)んよ」



そう言いながら真桜が視線を向けた先には縦穴が。

直径は1m程、深さは2m程の荒堀した穴。

その奥底は御影石の様に為っている。

──とは言え、本当に御影石なら真桜なら無問題。

楽勝で貫き、掘削している。

つまり、そう出来ていない時点で、異常(・・)な訳だ。



「この様子だと範囲は横に長いのか?」


「此処を中心に左右に二十三丈強って所やね

残りは繋ぎ(・・)部分の為に空けとる」



ああ、成る程な、それは確かに必要だな。

どうなるか判らない以上、勝手な事は出来無い。

だが、工事自体は必要で、進めなくてはならない。

だから、追加工事がし易い様に糊代(・・)を設ける。

そうする事で繋ぎ部分を造り易くなるし、万が一に建造場所を変更するにしても遣り易い。

ちゃんと考えてある訳だ。


──で、範囲は左右約70mで合計140m程。

まあ、最悪砦でも造って載っけて置けばいいが。

此処は将来的には開墾予定地なんだよなぁ…。



「けど、幅は一丈有るか無いかって所なんや」


「そうなのか?」



真桜の言葉に顔を向けると左右の数ヶ所を指差し、念の為に確認した跡を見付ける。

小さいから言われないと判らないんだけどな。


ただ、その跡を辿り、線で結んでみると──見事に帯状の直線になった長方形の範囲が浮かび上がる。

自然物(・・・)とは考え難い程に、きっちりと。


改めて穴の底を見る。

太陽光を浴びながらも金属的な反射は無い。

いや、研磨もされていないんだから当然だけどね。

御影石っぽいが、恐らくは岩石の類いではない。

岩石なら、どんなに特殊だろうと破壊出来る。

そういう物質的な構造をしているからだ。


だが、真桜が貫通も破砕も出来無かった。

そうなると鉱物の可能性が高い。



「…氣は使ってみたのか?」


「気は進まへんかったけど、確認せん事には工事の変更も出来へんから…一応は」


「その結果が?」


何も(・・)起こらへんかった」



真桜の言葉に思わず頭を掻き毟りたくなる。

氣を使っても破壊が出来無い、となると正直な話、打つ手が無いと言ってもいい。

それはまあ?、火薬や指向性爆破の威力を使ったり試してみる価値が有る方法は有る。

けど、多分、無駄な気がする。

だって、この世界では氣って頂点に近い力だもん。

それが通用しない時点で…ねぇ…。

本当に…どんだけなんですか。


──なんて愚痴を胸中で溢しながら穴に降りる。

着地した時の印象は岩盤っぽい。

しかし、右足の爪先で軽く叩いてみると岩石よりも鉱物に近い反響(・・)反応が返る。

少なくとも、見立ては的外れではないだろう。

尤も、問題は此処からだが。


屈み、右手で直に触れて感触を確かめてみる。

ザラザラとした手触りだが、それは今日まで土中に埋まっていた為、細かい土が付着しているだけ。

それを払い退け、改めて触れてみる。

“前世”の墓石を思い出させる様なツルツル感。

その為、一瞬、嫌な想像が脳裏に浮かんでしまった事は仕方が無いと言いたい。


切り替える意味も含めて、右手を握り、拳を静かに押し当てたまま、武術の寸勁の要領で、一撃。

──が、衝撃が伝わる手応えと音は響いただけ。

はっきり言って、変化は微塵も窺えない。

今度は拳を解き、掌を当てて撥勁の様に氣を放つ。

──が、やはり、何の変化も起きなかった。


──とは言え、収穫が何も無かった訳ではない。



「…氣は通し(・・)てるな」


「あ~…やっぱ、そうやったんやなぁ~…

けど、師匠、これ、どないするん?

まあ、大して幅も有らへんから避けて工事するんは全然問題有らへんけど…」


「流琉と季衣は?」


「二人共、彼方と其方の現場で工事中やな」


「なら、直ぐに此方に来る様に伝えてくれ」


「………師匠、まさか…掘り出す気なん?」


「ああ、そのまさかだ」


「いや、せやけど…深さは判らへんで?

それにコレ…掘り出して、どないするん?」


「昔、老師が生前に一度だけ話してくれた事が有る

世の中には“仙残鋼”という金属が有るらしい」


「仙残鋼?、ウチ、初めて聞くんやけど?」


「老師が酒に酔って言ってた事だからなぁ…

俺自身、今の今まで忘れてたよ」


「それならしゃあないわなぁ…」



そう言うと一つ溜め息を吐いてから部下を呼び。

流琉達への伝令に走って貰う。


戦場ではないが、時が有限な事に変わりはない。

だから、こういう時の反応は内々で査定に響く。

二人共、真面目に遣っているので良し。


尚、タラタラ走って行っていたら、特別合宿です。

宅の地獄の鬼軍曹フルコースに御招待致します。

それで更正しない者は居ないというメニューです。

完全予約制、内容非公開ですので御容赦を。



「ほんで?、その仙残鋼って何なん?」


「名前の通り、古の仙人が残したとされる金属でな

それは氣を使う者にとっては仙器(・・)も同然

だから、武器や防具にすれば“鬼に金棒”らしい」


「…何や、微妙に胡散臭い話やなぁ…」


「まあ、話自体が嘘みたいなものだからな…

ただ、コレを目の前にしたら、他に思い当たらない

そして、放置するには勿体無いし──危険だ

避けられる以上、万が一(・・・)は要らない

だから、真っ先に採掘して回収する

尚、加工方法は知らん」


「うわっ……え?、もしかてウチに丸投げとか?」


「それは流石に無い…が、しても良いか?」


「止めてっ!、ウチ禿げてまうわっ!」



そう言って自分の髪を両手で庇う真桜。

いや、禿げる心配の無い毛量だと思うけど?。

──と言うか、氣を使う俺達には要らぬ心配だろ。

薄毛・禿げとは無縁なんだからな。


それは兎も角、本当に老師が言ってた物なら。

俺達にとっては正に“鬼に金棒”になる筈だ。

実際、氣の伝導率は100%に近いと言える。

金属である以上、熱で熔解するとは思うし。

加工方法自体は存在している事は間違い無い。

…ん?、「何故断言出来るんだ?」と?。

それはですね~、コレが加工品──インゴット的な状態で埋没している可能性が高いからです。

だってほら、考えてもみて下さい。

こんなに綺麗な長方形が自然に出来る訳が無い。

だったら、コレは人工物(・・・)でしょう。

何故、此処に埋まっていたのかは謎ですが。

まあ、現在、此処は宅の領地ですからね。

発見・採掘したら、宅の物です。

所有権も拾得物扱いも関係有りませんので。


ただまあ、その加工方法を探さないとね~…。

単純に高温度で熱したら出来るって訳が無い。

そんな単純な方法で加工出来るなら、他の素材でも氣の伝導率は100%は無理でも高くなる筈。

しかし、現実には60%が精々なんです。

それも時間を掛けて己の氣を染み込ませる様にして漸くなんですからね。

その伝導率の高さが如何に凄いのか。

御解り頂けたのではないでしょうか。


…まさか、加工方法も何処かに埋もれてる、とか。

いや、そんな訳有りませんよね~。



「けど、それが事実やったら凄い話やなぁ…

今でも十分に戦力的には問題有らへんけど…

やっぱ、元々の強度自体は上げられへんしなぁ…」


「そうだな、そればっかりは仕方が無いからな

だからコレが加工出来るなら、強度は大きく上がる

まだ総量が正確には判らないが…

少なくとも、一尺程度の厚みは有るだろう

加えて、原材料としては既に完成品(・・・)だな」


「なら、幾らか減るにしても相当な量やな~

師匠に皆の武具だけやのぅて防具も行けそうやな」


「その場合、俺の次に真桜のを製作するからな」


「マジでっ?!、ウチが二番目で良ぇんっ?!」


「何にしろ、加工には真桜の協力は不可欠だろうし第一発見者は真桜な訳だからな

その辺りの事を考えれば当然の権利だろ」


「師匠ーっ!、滅っ茶愛しとるでーっ!!」


「清々しい程に欲塗れの愛だな」


「欲塗れは嫌なん?」


「いいや、欲塗れで結構

真桜だから、俺は愛しているんだしな」


「──っ!?、~~~~~っ……今のは狡いでぇ…」



──と、俺の不意打ちに顔を赤くする真桜。

拗ねる様に睨み付けながらも静かに抱き付き。

「…今夜は覚悟してや?」と囁く。

「それは此方の台詞だ」と返しながら抱き締め。

意気込み(・・・・)を押し付けて伝える。

それを嬉しそうに迎え、キスしてくる真桜。

いや本当にね、近くに森の一つでも有れば…。

ちょっと、散歩(・・)でもしてくるんだけどね~。



「──とか言ってる内にも来るからな~」


「まあ、直ぐ其処に居るんやし、当然やろな」



そう言って、二人して苦笑する。

俺も真桜も白昼堂々と色惚けは出来ません。

ええ、其処まで羞恥心は捨てきれませんので。

露出狂でも視姦趣味でも有りませんから。

だから普通に氣で周囲を探知してます。

その為、流琉達が気付く前には離れてますよ。

尤も、流琉は御老成(・・・)さんですからね。

気付いてても可笑しくは有りません。

あと、触れて来ないので助かります。





 賈駆side──


徐恕軍との戦いにより多くの袁家一族が亡くなった事で内部の権力比にも変化が生じている。

特に袁平達の壊滅は保守派の者達には効果覿面。

何方付かずで傍観しようとしていた連中は、軒並み麗羽か袁硅を支持し取り入り始めた。

袁平達の様な第三勢力(・・・・)は居ない。

絶対に出て来ないという訳ではないけれど。

少なくとも、今の袁家の実状では難しい。

だから、確固たる地盤を持っている者に付き従う。

ある意味、一番簡単で楽な選択よね。


ただ、そうなるのも当然でしょう。

袁家は統治していた領地を既に半分近く失った。

投入された兵士──民の数も無視出来無いし。

その為に捻出された費用も確実に財政を圧迫する。


何より問題なのが、その投じられた費用の行方(・・・・・)

こんな状況だから気にする者の方が稀。

…いいえ、何処か可笑しいのかもしれないわね。

でも、気になったからには調べて置かないと。

そういう性分だから仕方無いし、損だとは思う。

ただ、今回に限って言えば知りたくはなかった。



「…本当にっ……何処までなのよっ、徐子瓏っ…」



両手で頭を抱え、机に突っ伏す。

そうなってしまうのも仕方が無いと思うわ。

だって、袁家の投じた費用は殆んどが彼方に流れて徐恕の懐に──統治下に入っているのだから。


何重にも人を介し、何十にも流れを分散させて。

けれど、最終的には一つに纏まっている。

驚く程に徹底されている経済的な(・・・・)削ぎ落とし。

嫌になる位に、その効果を理解出来てしまう。


戦は大金を喰らう“金喰い蟲”だ。

だから、資金が無くなれば戦は続けられない。


戦や紛争を長引かせたい商人なんかは、その辺りで上手く立ち回って資金を循環させながら稼ぐ。

普通に商売をするよりも遥かに利益が大きいから。


徐恕が遣っているのは、それに近い事。

けど、真似したくても出来無い。

それだけ高度な経済戦を気付かない所で仕掛けて、表側では袁家の敗戦という目眩まし(・・・・)だ。

私が気付けたのは偶々(・・)でしかない。



「…………………………偶々?……────っ!?」



不意に引っ掛った自分の思考。

その次の瞬間、思わず椅子を倒しながら立ち上がり机を見下ろしていた。


そうね、冷静なら、少し考えてみれば判る事だわ。

此処まで徹底しているのに、偶々で気付く?。

有り得ない、そんな事は有り得ないわ。

なら、それは意図的に仕組まれていた事。

罠ではない、これは──私を(・・)試すもの。



「…っ……忌々しい位に喰えない男ねっ…」



そう言いながら、口元が緩む自分に気付く。

この状況を愉しむ(・・・)私が居る事に。

「自重しなさいっ!」と怒鳴りたくなるわ。


それは兎も角として。

徐恕の動きは意外にも止まっている。

私達が動くなら今しかない。

…まあ、明らかに罠なんでしょうけど。

それに乗らざるを得ないのが今の私達の実状ね。



──side out



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