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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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76話 釣りの極意とは


世の中には“天の邪鬼”という言葉が有る。

辞書等では“人の意見に逆らう者”といった意味で掲載されている事だろう。

或いは、仏教の仁王像の足下に踏み付けられている小鬼等の事を指すのだが。

一般的な解釈(イメージ)は“我が儘な者”ではないだろうか。


実際の所、辞書等の解説と“我が儘な者”の解釈に明確な線引きをする事は難しい。

勿論、両者が同義(イコール)ではないのだが。

“言う事を聞かない”や“自分勝手”という意味で括るのであれば、両者共に的外れな訳ではない。


そういった様に、言葉と解釈の解離は時代を経れば経る程に進んでゆくもの。

英語を含め、外国語の単語でもイントネーションや発言時のテンションやシチュエーション等によって様々な意味で使用される事が多い。


その中でも、日本語というのは特に顕著である。

それは日本という社会が良い意味で多文化を認め、受け入れたり、取り入れたりするからなのだが。

その弊害として日本語の変質が起こっている。


本来であれば、古来より受け継がれてきた日本語を正しく伝え、理解し、使用する。

それを教育の一環として行われるべきなのだが。

日本の社会は、国の政治家達は。

何を勘違いしているのか、問題視しもしない。


ただ、「日本語の変質が問題ですか?」と。

そう問われれば、多くの人々は「いや、別に…」と思うのが本音ではないだろうか。

実際問題、変質しても然程生活に影響は無い。

寧ろ、その変質に付いて行けない事の方が問題で。

それだけ、日本語の変質は急激だという証拠。


世の中に流行り廃りは有るにせよ。

日本語の変質は、世界でも稀な社会現象であり。

他の追随を許さない事だとさえ言えるのでは?。

そう考えた事が有る人が何れだけ居るのだろうか。


──とは言え、やはり、変質自体は仕方が無い。

時代の需要と供給(ニーズ)に因るものなのだから。

それ自体は決して悪い事ではない。

表現や思想の変化は可能性の一つなのだから。


ただ、失われてから取り戻す事は至難であり。

手掛かりすら失われてからでは遅すぎる訳で。

その辺りの事を人々は考えなくてはならない。


これは決して他人事ではない。

何故なら、今、貴方の話している、読み書きする、その言葉は──本当に日本語(・・・)なのか?。

そう、認識させられているだけの可能性も。

その問題が進めば出てくるのではいだろうか。



「袁平の戦死と軍の全滅の一報は効果覿面ですね

残る袁家の有力者達は揃って戦闘に懐疑的です

袁硅自身も敗北で慎重さが強まっています

少なくとも袁家は(・・・)暫くは動かないかと」


「まあ、それ位の判断は出来てくれないとな」



華琳から隠密衆の報告を纏めた内容を聞きながら、頭の中で袁家の一族名簿(リスト)の抹消処理を行う。

戦死だけではなく、責任追及(・・・・)による処断。

それによって消えていった名前も少なくない。

──とは言え、惜しむ理由も悲哀も憐憫も無いが。

寧ろ、綺麗さっぱりと根絶やしにしていきたい。

勿論、俺達が遣るのは戦後処理(・・・・)で。

現時点では戦場でしか手は出さないが。

別に遣り様が無いという訳ではない。

要は、そういう(・・・・)類いの報告なんです。


それは兎も角として。

手元に有る地図と台帳に目を落とす。

袁平軍を開戦から五日で壊滅させてから二日。

既に新体制の統治の為に各地で動いている。


袁硅・袁平の両軍を破って手にした新しい領地での以前の統治内容等を見ているんだけど…ねぇ…。

まあ、これが予想通りというか。

判ってはいた事とは言え、「酷いな」の一言。

いや本当にね、何してたんだよ、袁家の連中は。


五つの県の総人口と総納税額は確かに凄い。

──が、産めよ増やせよな割りに、重税政策。

それなのに、領民への還元率は低いの一言。

一部の商人達や豪農辺りとは癒着に近い関係だから金の流れが出来ているが下では循環していない。

はっきり言って、領民は奴隷に等しい扱いだ。

「政治舐めてんのか?、ぁ゛あ゛?」と。

思わず、胸ぐらを掴んで睨み付けたくなる。

まあ、その連中は既に死んでるんだけどね。



「…しかし、これで領民が反抗しないとはな…

上に期待はせず、泣き寝入りに等しい諦念か…

それとも、逆らうだけの気力すら生じないのか…」


「何方等にしろ、それも過去の事ですね

御兄様が御治めに為られる以上、変わりますから」


「それは勿論だが、急激な変化は危ういからな…

特に、こういった奴隷気質の領民を一気に開放的な状況に放り込むと自分を見失うだろう」



抑圧されていた反動、というのか。

「ヒャァアッハアァーッ!!」な事に為り易い。

それが個人で、数人の事なら気にもしないが。

こういう事は何故か伝染し易く、拡大する。

それが可笑しな方向に進むと、農民一揆に繋がる。

勿論、宅の戦力的には楽勝で鎮圧出来ますけどね。

そうなると領民の数が大きく減る訳です。

それはつまり、生産力や税収にも直結しますから。

そういった事態は避けるべきなんですよ。


尤も、袁家の連中に反抗しなかったのは長い歴史が作り上げた不可視の壁(・・・・・)が有ったから。

祖父母が、父母が、子孫に植え付ける恐怖。

ある種の洗脳教育(・・・・)による支配。

それが、あまりにも長い為、深くに根を張る。

“雑草魂”は良い意味で使われるんだけど。

そういう悪い意味での“雑草性”も有るんですよ。


これが本当の草なら、超強力除草剤を撒いて片付く御手軽な問題なんですけどね。

人の心の奥深くに根を張ってるから質が悪い。

こればっかりは時間を掛けるしかない。

寧ろ、短期的・早期的な解決は考えてはならない。

そうしようとすると、必ず歪みが大きくなる。

それは結果として問題を深刻化させるのだから。

焦らず、慌てず、どっしりと腰を据えて臨む。

ちょっと居眠りしてしまう位、気長に構えて。

そんな感じで丁度良いんですよ。



「取り敢えず、先ずは納税額を二割引き下げる

それだけでも十分な税収が有るからな

その税収で農地と街道の整備を優先する」


「移住は行いますか?」


「いや、袁家の影響が濃いから混ぜない方が良い

特に啄郡からの行商は暫くは禁止だ

何だかんだで宅の領民の中で一番染まってるからな

互いの価値観が打付かり合うのが目に見えてる」


「それでは暫くは軟禁(・・)でしょうか?」


塩漬け(・・・)とも言うけどな」


「塩漬け、ですか?」


「塩を使って“浄める”って話はしたよな?」


「確か、御葬式等の後にする簡易式の浄化の儀式の事だったと思いますが…」


「ああ、それで有ってる

──で、塩は保存食作りにも用いられるだろ?

その二つの意味を掛け合わせて、厄介な物事とかを長い間隔離したり封印したりする事を指す訳だ」


「成る程…食は生活の基本ですから、そういう事の喩えにも用いられる訳ですね」



深く納得する様に感心している華琳。

妻として、女として、成長し、貫禄も有るが。

こういう時の表情や仕草は相変わらず可愛らしい。

ついつい、その頭を撫でてしまうのは仕方が無い。

だって、可愛いものは可愛いんですから。

愛妹を前に頭を撫でぬ兄など居らぬわっ!。

──あ、勿論、兄妹仲が良い事が前提ですよ?。

仲の悪い兄妹が遣ったら、喧嘩になりますって。


尚、脱線しない程度に引き際は弁えています。

「続きは夜、ですよね?」という催促の眼差しには兄は頷く以外の選択肢は御座いません。

いや、兄じゃなくても男なら仕方が無いよね~。



「袁平軍との戦いで皆に経験の場が出来ましたし、次は御兄様が直々に動かれますか?」


「どうして、そう思う?」


「御兄様、楽しそうですから」


「そういう華琳も楽しそうだけどな」



そう言って、二人で笑顔を浮かべ合う。


“原作”とは違い、華琳と袁紹に因縁は無い。

──と言うか、歴史的な意味でも無関係だからな。

はっきり言って宅の華琳に袁紹に拘る理由は無い。

寧ろ、原作を知るが故に、俺や咲夜の方が袁紹達を変に意識しているかもしれない位だ。


ただ、それはそれ、これはこれ。

それは飽く迄も個人的な話でしかない。


俺にしても、咲夜にしても、袁紹達も別人だ。

だから、原作の事を丸々当て嵌めたりはしない。

参考資料にするとしても、二割程度だからね。


だからこそ、楽しみでもある。

原作の袁紹には無かった“窮地での真価”を。

戦場でしか花開かぬ才器の進化を。

期待してしまうだけの可能性を秘めているから。



「袁紹の参謀──秘蔵っ娘の“賈駆”でしたか…

彼女が余計な柵が無くなり、前だけを向く

その状況に置かれ、どうするのか…

私としても、とても興味深いです」



そう言いながら地図を見詰めている華琳。

「そう言えば…」的な言い方をしているが。

明らかに賈駆を意識している。

勿論、能力や実績から言えば華琳が格上だ。

それは兄馬鹿でなくても判る位に、はっきりと。


しかし、武の実力差が時に覆される様に。

智謀にもまた、時に思い掛けない事が起こり得る。

そんな予想外(・・・)を期待している。

今までに出逢った軍師や文官達とは違う匂い(・・)を。

華琳の類い稀な才器が嗅ぎ取っている(・・・・・・・)



(…曹操と賈駆、だからか?

或いは、原作の賈駆の不幸体質(設定)か?)



そう考えながら、その設定の理不尽さを思い出す。

うん、アレはネタ設定以外の何物でもないよな。

しかも董卓にだけ無効って…何なんですか。

だったら、董卓に幸運設定付けてあげてよ。

──って言うか、漢ルートよりも董ルートでは?。

いやもうね、本当に今更なんだけどね。

あの二人、公孫賛以上に不憫なんですけど?。

少しは救われるメインルートを用意しましょうよ。

ある意味、一番ヒロインしてますよ、彼女達は。


──で、幸不幸の話題の序でになんですが。

袁紹の悪運って、実際には微妙じゃない?。

確かに逃げに徹すれば最強かもしれませんけど。

それって考え方次第では攻勢にも使えますよね?。

だって、自分が囮になって逃げ回れば、その悪運で相手を引き摺り込んでしまえる訳でしょ?。

曹操だろうが、孫策だろうが、呂布だろうが。

逃げて、逃げて、逃げ回る事が戦い方で。

文字通り、“逃げるが勝ち”なんですから。


まあ、そういう意味では、その彼女の最強の悪運を潰しているのが、高飛車な性格と設定でしょう。

曹操に頭痛を引き起こさせる様な存在なんです。

それはもう、打ち消し合っても余りますわ。

──と言うか、そういう性格だから活きない訳で。

その設定が此処でも有効だったら…怖い存在だな。

まあ、そんな心配は無さそうですけどね。



「ああ、そう言えば、御兄様

真桜が領境の防壁の件で確認して欲しいそうです」


「ん?、真桜が?、何か有ったのか?」


「説明し難いので直接来て欲しいとの事です」


「今居るのは……ああ、安市県の北側か…」



真桜に任せた工事の予定を思い出し、地図を見る。

以前、自分で地図を作成する際に下調べをした時の事を思い出してみるが………特に思い当たらない。

硬い岩盤にでも当たったか?。

…いや、宅の真桜なら余裕で突貫出来るな、うん。

だとすると………何だ?、思い当たらないな。


それに其方関係で真桜が説明し難い事か…。

正直、想像し難いんだけどな。

まあ、兎に角、現地に行ってみれば判るか。



「此方で急ぎの仕事は有るか?」


「御兄様でなければならない事は特には

既に最低限の人員は配置していますので細々とした雑務や調整は各々の成長と経験の為にも必要です

ですから、御兄様は御気に為さらずに」


「それなら、ちょっと真桜の所に行ってくる」


「はい──あ、真桜に荷物を届けて頂けますか?」


「構わないが……持てる物だろうな?」


「大丈夫です、以前の様な物では有りませんので」



苦笑する華琳を見ながら、思い出す。

高さ7m、重さ2tは有る巨大な岩石。

それを運んで欲しいと頼まれた事を。





 袁紹side──


袁硅に続き、袁平までが敗れた。

しかし、彼等が死のうと別に構いはしない。

問題なのは彼等の所為で多くの民が亡くなった事。

これが賊徒等の罪人を投入した結果で有ったなら、気にする事ではないのですが。

亡くなったのは家庭を支える働き手や次代の者達。

その影響を考えると頭を抱えるしか有りません。

──とは言え、私自身も先の侵攻で犯した過ち。

二人や一族の者達を咎める資格は有りません。


ただ、だからこそ、その罪の重さを知っています。



「のぅ、鈴々…姉様(・・)、元気が無いのじゃ…

何か心配事が有るのかのぅ…」


「む~…鈴々には難しい事は判らないのだ…」



考え事をしながら歩いていた時、聞こえてきた声に思わず足を止め、近くの壁際に隠れてしまう。

別に何も疚しい事など有りませんが。

思わず、そんな反応をしてしまったのは、声の主が私が今、何よりも護りたい美羽だった為。

勿論、一緒に居る鈴々や幼馴染みの詠もですが。

一人娘だった私にとって、美羽は実妹も同然。

詠に「過保護じゃないの?」と言われようとも。

大切なものは大切なのですから。

ですから、仕方が有りませんわ。


──という話は置いておきまして。

美羽には政治的な事は教えない様にしています。

私自身が色々と嫌な思いをしましたから。

出来る限り、美羽には味わわせたくは有りません。

その辺りは詠や、我が家に仕える者達は理解をし、協力してくれています。


尚、本当は鈴々には詠が教育したい様ですが。

彼女の性格的に嘘や隠し事が下手ですので。

同じ様に必要最低限の事しか教えてはいません。

──あっ、政治的な情報は、という意味でですわ。

人として、女として身に付ける事は教えています。

……身に付いているのかは、また別の話ですが。



「じゃがな、鈴々、何も無い訳が無いのじゃ

普段、そういう事には触れぬ妾でも判っておる

今、袁家全体が大きく揺れ動いておるという事は

それに姉様が関わっておるじゃろう事もじゃ」


「ぅにゃあ~………バレバレなのだぁ…」



あっさりと認める鈴々に「もう少し粘りなさい」と言いたくなってしまいますが、仕方が有りません。

世間知らずな様で、美羽は聡明な娘ですからね。

私や詠の様子から気付きもするでしょう。


それに鈴々にしても……いいえ、私や詠でも。

今の美羽の言葉を聞けば、誤魔化せませんわね。

余計な心配や苦悩はさせまいとしても。

結果的に、そうさせてしまっている。

儘ならないものですが、それも有り触れた事。

気にし過ぎたら何も出来無くなりますもの。

その辺りは上手く割り切り、切り替えませんと。


…しかし、あの美羽の言葉遣い。

亡くなった美羽の祖父母の影響なのですが。

アレだけは直りませんわねぇ…。

それはまあ?、可愛い事は可愛いのですが。

やはり、女性としては如何なものですの?。

私に似ているなら兎も角。

どうして、アレだけが……。



──side out



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