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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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75話 純潔であるより


今や様々な技術が研究・開発・確立され、日増しに進歩しているとさえ言えるだろう。

昨日よりも今日、今日よりも明日。

本の少しずつでも前進しようと努め。

時には後退する決断も必要となろうとも。

諦める事無き信念が、軈て結実すると信じて。

人類は今日も想像を実現する為に挑み続ける。


そんな人類の文明の発展・進歩に於いて、今日まで最も大きく影響を齎した事とは何なのか?。

それは“病と戦”に他ならないだろう。

生き残る為に、敵を殺す為に。

人々は幾度も、幾多も、繰り返してきた。

即ち、「人類の歴史とは生存競争だ」とも言える。


ただ、本質的には同じでも印象や表面は異なる。


戦の理由や経緯、目的は様々であり、複雑だ。

しかし、総じて同じ人間同士の殺し合いである。

使う言葉や文字、肌・眼・髪の色、或いは地域。

その違いだけで、「自分達とは違う!」と。

そんな下らない理由で、人々は同じ人間を蔑視し、異物(・・)として排除しようとしてきた。

殺して殺して殺し尽くすまで虐殺を繰り返し。

或いは支配し奴隷として酷使して使い潰し。

時には濡れ衣を着せたり、生け贄(・・・)とし。

人を人と思わぬ所業を行う為、用いてきた。


一方、病という曾ては眼には見えなかった敵に対し人類は様々なアプローチを繰り返し、抗ってきた。

その原因は自然界だけではない。

人間社会その物の中にも多々存在しており。

抑として、人は自らの肉体に原因を抱えている。

それなのに生きる為に病に抗う。


死は、全ての生命に与えられた唯一平等な結末。

その死に方や、死の影響力、失われた価値は異なる事は仕方の無い事ではあるが。

死という結末自体は、間違い無く平等である。


ただ、人間に限らず、全ての生命は種を保存・存続させる為に様々な生存戦略を行使している。

そういう意味では、人類も医術・薬術といった形の生存戦略を日々追究し、研鑽している訳だ。


それなのに、人類は互いに殺し合う。

増え過ぎたが故に、生態系の均衡・食物連鎖を守る為に間引く(・・・)という訳ではない。

ただただ、違うから、邪魔だから。

そんな理由で殺し合っている。


生きる為に殺し、その命を食らう事は仕方無い。

多くの生命は互いに補完し合って生きている。

だから、それは正しい在り方だと言える訳だが。

人類の場合、それから明らかに逸脱している。

そんな人類の、人間という種の存続は。

果たして、本当に必要なのだろうか?。

人類の勝手なエゴで生き足掻いているだけならば。

滅び(・・)もまた、一つの解ではないのだろうか。



「本当、綺麗さっぱり駆除しても直ぐに何処からか遣って来て増殖する黒い奴みたいで嫌になるわね」


「まあ、それも生存競争を勝ち抜く戦略だしな

真っ向から否定するのは此方の勝手な都合上だから必ず何処かが矛盾し、破綻してくるものだって」


「それはそうだけど……その本音は?」


「滅ぼせるものなら全力で根絶やしにします」


「ええ、本当にそうよね」



掌を返す様に一転して肯定的な俺に咲夜は苦笑。

それでも、本音と建前が有る事は判っている。

──と言うか、施政者の言葉なんて、それが複雑に入り雑じっている状態ですからね。

ある意味では何方等も事実であり、自分の言葉。

ただ、それを口にするのか、否か。

口にしても良いのか、否か。

その判断が出来無くなると施政者としては終わり。

余計な火種や騒乱を生まない様に引退しましょう。

“立つ鳥、跡を濁さず”ですからね。

自ら潔く身を引く事が、最後の仕事です。

つまり、“自潔”が大事だって話です。

聴いてますか?、世の中の施政者さん。

自分が害悪や弊害──“老害”になる前に。

自分の尻は自分で拭って綺麗にしましょうね。


──なんていう愚痴は置いといて。

袁硅軍を破った後、俺達は陣替え──前線の戦力の入れ替えを行い、一時帰宅していたりします。

必要最低限しか前線には行っていませんが。

日常的な事務仕事も多々有るので仕方有りません。

押し寄せる竹簡の波は引く事を知りませんので。

押して押して押し寄せては溜まって山に為ります。

塵の比じゃ有りませんからね。

可能な限り、毎日コツコツ片付けるのが建設的。

決して、明日に回しては為りません。

そのツケは必ず自分自身に返って来ますからね。

何事も日々の積み重ねが最後に物を言うんですよ。



「それはそうと、袁平の動きは早いみたいね」


「袁平にすれば、袁硅が転ければ(・・・・)、漁夫の利だ

寧ろ、それを期待して先手を譲ってるんだしな

当然ながら、袁硅と戦って疲弊している所を狙って仕掛けてくるつもり満々だったんだから早いさ」


疲弊している所に(・・・・・・・・)、ねぇ…

立場が違うと見える景色(・・・・・)は異なるものよね」



そう言って意味深な視線を向けてくる咲夜。

まあ、薄く笑っている口元が意図を理解していると物語っていますが、指摘はしません。

ええ、それは無粋ですから。


当然だが、袁硅軍を追い詰めながら、袁平に対する情報戦──印象操作等を仕掛けていた訳で。

袁硅が命辛々逃げ出していったのと入れ替わる様に此方等の気が緩むには十分な間を見計らって進軍。

一気に攻め立てて落として遣ろうと意気込む訳で。

それはもう、「今から行きますから鍋の準備を」と鴨が葱に豆腐に白菜に椎茸にと。

具材を揃えて遣って来ている様なものです。

当然、歓迎(・・)の準備は出来ております。



「それはそれとして、袁硅を相手には勿体無い位の豪華な御持て成し(・・・・・)だったんじゃない?

接待試合(前座)にしたら、主力勢揃い(オールスター)だったんだし」


「解ってるんだろ?、だからこそ(・・・・・)だって」


「一応の確認よ」



小さく笑って肩を竦める咲夜。

本来なら、其処に自分達も加わっている筈だ。

──が、実際には妊娠中という事で不参加。

軍師だし、氣も使えるから出られはするんだけど。

流石に「絶対に大丈夫」とは言えません。

ああ、本人達自身に関しては言い切れますけどね。

御腹の子供達の事を考えれば、慎重にも為ります。

俺自身は妊娠しませんし、皆、初産ですからね。

神経質には為りませんが慎重な行動を心掛けます。

まあ、初産ではなくても妊娠中は気を付けますよ。

ある意味、最も不安定な状態では有りますからね。

それだけ大変だって事なんです。

女性が子供を産むっていう事はね。


さて、それはそれとして。

咲夜が言う様に過剰とも言える戦力投入。

加えて、袁硅軍を圧倒して殲滅した訳ですが。

袁紹の時には徴兵された民の戦死で労力等の低下を危惧していた筈なのに。

何故、今回は殲滅したのか。

その理由は戦その物の性質(・・)に有ります。

過剰な戦力投入にも、ちゃんと理由が有ります。

寧ろ、袁硅が相手だったからこそ、此処等の実力をしっかりと見せ付けた訳ですから。

袁硅は慎重で臆病で用心深く警戒心が強い。

そうする事で、その裡に深々と棘を刺す為に。

恐怖心という心淵(・・)に刻み込まれる傷痕。

それが後々、意味を持ってくるんですよ。


それから袁硅軍の兵士達も同じです。

兵数約五万の内、生き残ったのは僅かに三百弱。

壊滅と変わらない状況で、命辛々逃げ延びた。

そんな彼等が自らの意思で宅に楯突こうだなんて、正面なら、先ず思う訳が有りませんよね?。

つまり、徴兵されれば死刑宣告な訳で。

そんな徴兵に従う馬鹿は居ません。

彼等は袁硅の下から去るか逃げ出す訳です。

そして、その状況を彼等は彼方此方で話す訳で。

それを聞いた者達は当然ながら徴兵に懐疑的になり袁硅の、引いては袁家の戦力を削ぐ訳です。



「…ただ…判ってはいても、儘ならないものよね」


「だからこそ、絶対に慣れた(・・・)り割り切るなよ

その葛藤を覚えなくなったら俺達自身も終わりだ

それはもう、社会を、民を脅かす害悪でしかない

今の袁硅達みたいにな

まあ、そう成りそうなら、さっさと後進に託して、隠居生活に入るだけだけど」


「ふふっ…そうね、頑張って子作りしないとね」



真面目な話だが、考え過ぎれば億劫で憂鬱なだけ。

だから、全てを背負い続けられるとは思わない。

差異は有れど、誰しもが限り有る命。

人一人、背負える一時代は限られている。

それなら、最初から完璧な理想など求めはしない。

自分達は自分達に出来る事を成し、次に託す。

本の少しで構わないから。

上積みし、また託してくれれば十分。

そう遣って、代を重ね、時を費やし、築き上げる。

俺達の死後、遥か未来へと繋がり続けるなら。

完成(・・)する必要など何処にも無い。

寧ろ、不完全なまま、未完成なままで構わない。

人が、社会が移ろい、変わり続ける様に。

描く理想もまた、常に変化を求められるもの。

だから、古い理想を頑なに遵守する必要は無く。

その流れに伴い変化していかなくてはならない。

そういう意味では、決して終わりはしない。

それが国を、社会を、人を導くという事。

俺達が始め、子孫達と共に託しながら築く未来だ。


──なんて事は口が裂けても言えませんがね。

いや、重いでしょ?、そんな糞みたいな思想は。

俺は聖人君子じゃ有りませんからね。

欲に血に色に塗れに塗れた、只の人間です。

ええ、ちっぽけで、ちんけな、ちゃちな人間です。

だから、結局は好き勝手に遣ってるだけですよ。

どうのこうのと偉そうに言う気は有りません。

言えば言うだけ、言葉が軽くなる気がしますから。


ほら、“言霊”って有るじゃないですか?。

確かに、そういうのって有ると思うんですよ。

“呪い”って字にも()が有るみたいにね。

でも、だからこそ、軽々しく口にするのは逆で。

その想いや覚悟が有るなら、秘めて宿すべき。

そして、本当に必要な時に。

自分の想い等も含め、口にするべきだと思います。


安売りしている量産品の「愛してる」よりも。

困難の先の唯一つの「愛してる」の方が。

遥かに付加価値(・・・・)が有ると思いませんか?。

要するに、そういう事だって話です。

まあ、飽く迄も俺個人の価値観ですけどね。



「その価値観が、私達を惹き付け、変え(染め)るのよ」



そう言って抱き締めてくる咲夜。

男っていう生き物は単純だって思いません?。

だってね、どんな状況だろうが愛する女の温もりを感じれば求めたくなるんですから。

…え?、「そんなに盛れる奴は居ない!」と?。

あー………まあ、そうかもしれませんね。

俺の場合は前世から旺盛な方でしたが。

現生では更に特典(チート)と氣が有りますからね。

うん、確かに普通じゃあないですよね、うんうん。



「あら、単純なのは女だって同じだと思うわよ?」


「男からしたら、女性程複雑な精神構造をしている生物は居ないと思うんだけどなぁ…」


「それも否定はしないわよ

世の全ての女性には“取り扱い注意”の注意書きが何かしら一つは書かれているもの

勿論、それが見えるかは人各々だけれどね」


「寧ろ、「これですよ」って親切丁寧に教えてくれ

男にはハードルが高過ぎると思います」


「そのハードルを躓きながらも越えていく事により男達は逞しく成長していくんじゃない」


「成長する前に脱落してるって

──と言うか、篩に掛けられてるとしか思えない

男女平等を謳ってる世の中だろうと、男女で問題が起こったら“女性が被害者”って意識が強いのって男女平等に反してると思わない?

女性が弱い?、男が強い?

その価値観自体が男女平等に反する考えだろ

男女平等を掲げるなら、性別で強弱を考える事自体間違ってると思いませんか?」


「誰に訊いてるのよ?」


「さあ?」


「……貴男、前世で何か遇ったの?」


「いや、特に女性問題は無かったよ」


「…………」



そして、私は愛する妻に笑顔で蹂躙されました。

目出度し、目出度し。

──って落ちるのは、愛が有るからだよね~。

愛が無かったら、憎悪が募るだけです。

勿論、男女の立場が逆でもね。

愛って大切ですよ。




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