74話 近道よりも
物事の良し悪しは、その多くが結果に基づくもの。
つまりは、結果論であると言える。
それは逆に言えば、「これが最善だ」と思えても、終わってみれば最悪に到る選択だった、と。
そう思う可能性も否定は出来無いという事。
勿論、全ての物事の結果が選択する時点では一つの可能性でしかないなのだから。
その選択の是非もまた、結果論に過ぎない。
ただ、多くが問題を抱えた場合、その選択自体への疑問や批判、懐疑的な事を言い出す訳で。
それは責任転嫁、擦り付け合いに他ならない。
そして、見苦しく、暗愚な事だと。
当事者達は自己防衛に必死で気付かないもの。
端から見れば、“御約束”的な掛け合いネタ。
コント等なら、馬鹿馬鹿しく面白がれるのだが。
事、政治的な場合には呆れるしかない。
笑うに笑えず、見るに堪えない醜態なのだから。
そんな物事の良し悪しが結果論な世の中だが。
多くの場合、過程に注視し勝ちである。
料理に譬えるなら、結果は完成品。
過程は調理行程や調味料の選択だと言える。
しかし、実際に一番重要なのは事前準備。
その出来こそが、後々を左右すると言える。
それは全ての物事も同じだと言えるのだけれど…。
「では、何処からが、そうなのか?」と。
その明確な線引きや基準が無いのが現実であり。
実際問題、それを、その当時の時点で「そうだ」と認識する事は先ず不可能だと言えるだろう。
しかし、結果論を主観とする場合には、その責任を理不尽なまでの不条理で押し付けられる訳で。
それが果たして“正しい事”なのか。
そう疑問を懐く者は稀だと言える訳で。
誰しもが、自分が槍玉に上げられたくはないから。
それらしい者が居れば、「右に同じ」で頷く。
そんな、いい加減な正しさが横行し常習化している世の中に生きているという事実を。
人々が考える事無く、鸚鵡の様に声を上げる。
物事というのは、突然始まり、突然終わる。
そう思われ勝ちだが、実際には連鎖し続けている。
その連鎖の中、僅かな一部を切り取っている。
ただそれだけであるという事実を。
人々が認識しなければ“正しい判断”というものは世の中には存在しないと言えるのではないか。
ただ、判断の正しさを、是非を問うよりも。
一人一人が自らに責任を持ちさえすれば。
その判断や選択は、間違いには成らないと思える。
そういう世の中を実現して貰いたいものだ。
「──“馬鹿は動くのが早い”って所かしら?」
「まあ、そういう一面が有るのは否定出来無いな」
“原作”の曹操の一言を引用する様に呟いた咲夜は呆れた様に小さく溜め息を吐いた。
その気持ちは嫌という程に理解出来てしまう。
原作の袁紹というキャラを知るが故に。
否応無しに、想像してしまうのだから。
──とは言え、それはそれ、これはこれ。
原作の袁紹と、現実の袁紹は似て非なる存在。
流石に彼処まで、ぶっ壊れた性格はしていない。
アレは文字通り、演出個性でしかないのだから。
まあ、それは兎も角として。
実際、馬鹿というのは考え無しに言動をする。
或いは、感情任せの直情的な浅慮な言動を、だ。
だから客観的に見ると、そういう言動が目立ち。
結果、馬鹿というイメージと結び付いてしまう。
事実、馬鹿というのが、どんな者なのか。
それを明確に定義する基準というのは決め難い。
何しろ、それは個人の価値観に依存する事で。
どんなに似通っていても、人各々異なるのだから。
だから、一括りにするのは難しいと言える。
…まあ、結局は、馬鹿は馬鹿なんだけどね。
「──とは言え、流石に袁紹は動かなかったわね」
「正確には動けなかっただろうけどな」
「それも当然と言えば当然よね」
そう、咲夜の言う通り。
袁紹が先の戦いで敗北したのは事実。
如何に宅や孫策の所が裏で絡んでいても。
その事実は覆し様の無い事。
だから、此処で直ぐに袁紹の参戦は無い。
──と言うか、したくても出来無いのが現実。
確かに袁家は名門であり財力も幽州で三指に入る。
しかし、それは湯水の様に使える訳ではない。
…時代的には湯は高価な部類だし、水も汲んだりと労力を必要とするから簡単ではないが。
いや、そういう意味ではなくて。
戦というのは、どんな世界でも金が掛かるもの。
戦略系SLG等を遣れば、如何に資金繰りが重要で難しい事なのかを少しは感じられる筈。
課金さえすれば、どうにかなるシステムとは違い、ガチでプレイヤーの腕前が試されるので。
あ、課金商法が悪いとは言いませんよ?。
アレも一つの商売の形なんで。
勿論、悪質なのは論外ですけどね。
要は、敗者の袁紹は爪弾きされたという事。
そうなると、残る袁硅と袁平の主導権争いでして。
失態続きで力を落としている袁硅は崖っぷち。
どうにかして挽回しないといけない状況ですから、袁平よりも先に動きたい訳ですよ。
余裕が有れば、袁平に先手を譲り、状況を見ながら上手く立ち回れたんでしょうけどね。
生憎と、そんな余裕は袁硅には有りません。
まあ、そうなる様に仕向けた訳ですからね。
この状況は宅の思惑通りって事です。
「──とは言え、それでも五万を投入出来るんだ
未だに袁家の中では袁硅が頭一つ抜けてるのも事実だって事には変わらないからな」
「徴兵された民は憐れでしかないけれどね…」
頭では理解していても、戦で犠牲者は出る。
綺麗事を言うつもりはないが、それも時には必要。
敵軍五万を“不殺”で下す事は不可能ではない。
しかし、それを最善とするのか。
それとも単なる自己満足なのか。
似ている様で、その性質は大きく異なる。
今回の場合で言えば、犠牲者を出さずに終わる事は正直に言って政治的には良くない。
勿論、後々の評価・支持という点では、悪くない。
けれど、今回に限って言えば、袁硅は勿論、袁家の統治能力への猜疑心を領民が懐く事。
言わば、“見限らせる”事が目的。
袁紹達と一部の正面な者達さえ居れば十分。
肥大した結果、破綻し掛けている組織は解体。
その後、再構築し再興させればいい。
少なくとも、その方が丸々抱え込むよりも良い。
肥大した袁家中に不良債権が蔓延しているからな。
先ずは綺麗さっぱり清算しないといけません。
立て直しの基本は経費・人員の見直しからです。
ただ、それはそれ、これはこれ。
犠牲者が出る事には慣れてはいけないし、間違い。
それでも、後の世の為の礎となる犠牲が必要な事も理屈としては理解しなくてはならない。
その葛藤を、もどかしさを。
俺達は忘れてはならない。
その意味を、その責任を。
忘れてしまえば、俺達は害悪でしかなくなる。
自分達が「正義だ」とは言わない。
そんな事は自分達が一番理解しているのだから。
だから、“悪と罪”を背負い、俺達は歩む。
その道の先に実現する未来の為に。
決して、背負ったものを忘れはしない。
「………もぅ…そういう顔をするから困るのよ…」
少し遠くを見る様に考え込んでしまったからか。
咲夜の呟きに気付いた時には唇を奪われていた。
…うん、深くは考えません。
取り敢えず、その要求に応えます。
「──で、脱線して遅くなった、と?」
「ハイ、ソノ通リデ御座イマス」
腕を組み見下ろす閻魔愛紗の前で正座する俺。
浮気現場をスクープされ、妻に問い詰められている恐妻家の有名人かの様なシチュエーション。
だが、宅の妻達は鬼嫁でも恐妻でもない。
“鬼みたいに強くて一部では恐れられている妻”と言われれば否定は出来ませんが。
決して、夫に対して支配的・高圧的な妻ではない。
勿論、悪さをすれば怒るのは当然ですが。
俺は、その手の悪さは致しません。
遣るとしたら妻達相手にです。
──では、何故、こうなっているのか。
理由は単純です。
自分で決めて伝達した癖に遅刻したら…ねぇ…。
俺が愛紗の立場でも怒りますって。
だから、これは自業自得。
良い子の皆、遅刻は駄目だからな?。
10分前行動が理想的だぞーっ!。
「──反省していますか?」
「はいっ!、勿論ですっ!」
付き合いが長い故に、馬鹿な思考は読まれ易く。
愛紗の右足の踵が正座している左太股に食い込み、普通なら絶叫ものの痛みを贈呈してくれます。
…氣?、使ったら即バレですが?。
そんな真似をして見なさい。
愛紗も使って強化するに決まってるでしょうが。
そして、それは火にダイナマイトを放り込む行為。
つまり、爆発しない訳が無いって事です。
ただね?、ちょっとした疑問も有る訳で。
…うん、あの…何故、今“ピンヒール”を?。
──いやまあ、それは俺がネタで作りましたが。
「コレで踏んでっ!」って訳じゃ有りません。
単純にファッションとして。
あと、歩き難いからです。
ええ、ちょっとした訓練の没ネタでした。
それ、普段履きや戦闘には不向きですよね?。
どうして、そんな物を履いていらっしゃいます?。
……え?、「必要な気がしました」?。
…………ソウデスカ。
「愛紗、それ位にして置きなさい
何だかんだ言ってても話が進まないわ」
「………はぁ~…仕方が有りませんね」
自業自得とは言え、無様な兄を見捨てない愛妹!。
華琳!、君こそが妹の鑑!、世界一の妹だっ!。
そのエンジェルスマイルが眩しいっ!!。
でもさ、“天使の微笑”て安い気がしない?。
だってほら、天使ってスマイル0円精神の筆頭格でサービス業の先駆けみたいな商売でしょ?。
いい顔してなきゃ、信徒という客が来ない。
つまり、天使って笑顔でナンボな訳で。
笑顔じゃない天使って、プライスレス?。
いいえ、リストラものでしょう。
そう考えると、堕天した天使って、ブラックな神に対して「何時も何処でも笑顔でなんて無理!」って逆らった結果、リストラされた。
そんな風にも解釈出来るんじゃないですか?。
“ブラックな組織体質だったので神に文句言ったら堕天させられて追放されましたが?”とか。
神話や宗教って、そんなラノベの先駆けかもね。
そして、後世の人々が逆輸入的にネタに転用。
つまり、二次創作って事だよね~。
「遅刻の御詫びは後でして貰いましょう
それで宜しいですね、御兄様?」
「──ァ、ハイ、判ッテオリマス」
差し伸ばされた掌を掴んだ訳ですが。
必ずしも、その掌の主が天使とは限りません。
素敵な笑顔で魅了するサキュバスだっています。
そして、サキュバスが1体だけだと誰が言った?。
そう、ラスボスが1体限りだと、誰が決めたのか。
一つの物語が終われば、次の物語が始まる訳で。
ラスボスを倒せば、次のラスボスが姿を見せる。
それが自然の摂理なのかもしれません。
ただ、それは人の身には余る領域の事な訳で。
凡庸な我が身では到底理解出来ぬ叡智なれば。
きっと、考えるだけ無駄なのかもしれません。
しかし、それでも考える事を止められない。
諦める事が出来無いのが。
我々、人間という種の背負う業なのかもしれない。
「────御兄様?」
「──さあ、御仕事御仕事!
張り切って行ってみよーっ!」
笑顔の華琳に対し、立ち上がって遣る気を示す。
「取り敢えず、明後日まで空けますか?」と。
言外に、「総力戦で搾り取りますが?」と。
そう含まれては逆らう事は出来ませぬ。
…いやまあ、遣れば出来ますよ、遣ればね。
でも、その為に色々な犠牲や影響も出ますから。
ええ、背負うと決めた以上、投げ出せません。
次代に繋ぎ、託す時までは、ね。
──という訳で、真面目に御仕事を始めます。
いや、勿論、いつも真面目に遣ってますからね?。
スマホを弄りながら集中しないで適当に仕事をする振りばっかりの給料泥棒な真似はしてません。
そんな社会の害虫には成り下がりたく有りません。
仕事も遊びも恋愛も全集中で頑張ってますから。