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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   学ぶ事が大切


どんなに素晴らしい才器や潜在能力を持とうとも。

それを磨く事をしなければ“宝の持ち腐れ”だ。

そして、その為には環境と機会が重要となる。

それらが伴わなければ、才器というのは熟さない。

所謂、「生まれる時代が違えば…」的な才器を持つ人物に共通する悲劇だと言える訳だ。



「──破ァアアアッ!!」


「──くぅっ!?」



“原作”の武器とは違うけど、それでも見るからに巨大で重量が可笑しい青銅の金棒──と言うよらも赤ちゃんをあやすのに使う“ガラガラ”を巨大化し叩き潰す(・・・・)事を主目的とした鈍器を振るう焔耶。


その見るからに重い(・・)剛撃を受ける蒲公英。

練習用ではあるが、愛用している鉄槍が軋み。

蒲公英も「…あ、コレ、マズイ…」といった表情で直ぐ様、衝撃を受け流しに移行する。

小柄な蒲公英が身体を一回転させ、回転ドアを潜る様に焔耶の身体ごと攻撃を往なし、入れ替わる。

焔耶の一撃が地面を破砕するのと同時に、蒲公英は距離を取る為に三歩()飛び退いた。


対峙しているのが翠で有れば、致命的な技後硬直中である焔耶の隙を見逃さずに反撃をする所。

仮に、その隙を誘い(・・)と警戒したとしても。

飛び退くのは一歩で十分だと言える。


勿論、それだけの翠と蒲公英の実力差は有るが。

蒲公英が距離を取ったのは本能的な危機感から。

そして、若干、顔が引き吊っている。



「…ねぇ?、アレ、氣は未使用なのよね?」


「ああ、まだ焔耶は氣を認識し始めたばかりだしな

当然ながら、意識的に使う事は出来無い」


「そうよね……それでアレって……何れだけよ…」



そう呆れた様に呟き、溜め息を吐くのは咲夜。

まるで芸人みたいな美容系実業家の流行語みたいに思い切り叫びたい所なんだろうけど。

誰が笑ってくれる訳でも無いから遣りはしない。

──と言うか、アレってギャグなのか?。

或いは、単なるキャッチフレーズなのか。

…多分、結局は人各々なんでしょうけどね。

その辺りは認識や価値観に因りますから。


まあ、それは兎も角として。

それだけの重量が有るとは言っても、一撃で地面を凹ませた上に直径3m程のクレーターを生み出した威力は咲夜ではないが感嘆に値する。

流琉達でも最初から出来た訳ではないからね。

そういう意味では焔耶の膂力は天然物でしょう。

勿論、彼女自身の努力や経験の成果な訳で。

「天賦の物だな」なんて風には思いませんよ。

結局、才器というのは資質や適性みたいな物ですが成功や成熟が確約・確定されている事では無くて、それを至らせる努力等は必要不可欠です。

だから、それを評価しない真似はしません。


…え?、「それじゃあ、至らなかったら?」と?。

それはそれで、その人の経験に成りますよ。

努力をしない人が、他者に教える事は難しい訳で。

試行錯誤を繰り返し苦労し努力を積み重ねた人程、他者を教え導く為の手札(・・)は多い訳です。

尤も、それと教育・指導の能力は別物ですけどね。

マニュアル(・・・・・)通りにしか出来無い人は不適格者。

臨機応変に対応出来る柔軟性が大事です。

その事を、世の大人達には意識して貰いたいね。


──という一つの教育論は置いといて。

渾身の一撃を往なされた焔耶は舌打ちをする。



「チッ!、ちょこまかと…逃げるなあっ!!」


「逃げるに決まってるし!、この馬鹿力ぁーっ!!」


「何だとーっ!?」


「そんな馬鹿力と正面に撃ち合う訳無いでしょっ!

少しは駆け引きって物を考えたらっ?!」


「このっ──言わさせて置けばああぁっ!!」



蒲公英の一言──挑発に見事に引っ掛かる焔耶。

顔を真っ赤にして蒲公英に向かって行く姿からは、態とらしさは感じられない。

つまり、本当に本気で腹を立てている訳で。

当然ながら、イニシアチブは蒲公英が握る事に。


俺と咲夜は目を合わせると、「知らないとは言え、同じ様な事言ってるよな?」と苦笑。

翠や沙和との遣り取りからも、蒲公英が原作に近い挑発や意識誘導の上手さを持っている事は確認済みだったりしたんだけど。

こうして一つの定番と化していた二人の遣り取りを実際に目の当たりにすると感慨深いものが有る。


…まあ、焔耶からしたら傍迷惑で不本意・不名誉な事なのかもしれないが。

俺達からすると、ちょっと嬉しいんですよ。



「それにしても…蒲公英って巧い(・・)わよね…」


「ああ、特に()ってると思わせない自然さがな

アレは間違い無く才能に因るものだろうな…

意識し過ぎれば不自然になるし、遣り足りなければ違和感から気付かれる可能性が高くなるから…」


「つまり、天然の悪戯っ娘(・・・・)って訳ね」



瞬間的な誘い(・・)とは違う。

戦闘や会話、或いは日常生活の中で。

特定の対象に意図的に仕掛ける思考誘導とは違い、挑発というのは実は考える以上に難しい事。

“売り言葉に買い言葉”とは言うのだが。

それは其処に至るまでの過程(・・)が有ってこそ。

何の脈絡も無い罵倒や挑発は、相手に「…は?」と思われてしまう可能性が高い。

…まあ、原作の夏侯惇や華雄みたいなのは現実には居ないと思っていいでしょう。

──と言うか、居ても要職には就けません。

上に立つ以上、その辺りの自制心は大事ですから。


…ただまあ、世の中の戦争や対立という物の一部は上に立つ者達の私情から始まる事も否めない訳で。

そういう立場に立つ者達が如何に自制心を必要とし自身の言動に対する責任の重さが有るのか。

それを歴史から学び、心得て貰いたいものだ。


──と、そんな事を考えている間も二人の手合いは続いている訳で。

焔耶により、クレーターが量産されています。

うん、予め開墾予定地を使ってて良かったね。

耕し易くなるし、修復しないで済むから。

我ながら、ナイスですね~。




そんなこんなで、2時間程。

二人の手合いは終わり、焔耶が座り込んでいる。

蒲公英も疲労はしているが、主導権を握り続けて、終始、流れをコントロールしていた。

それだけでも焔耶との差は明確だと言える。

加えて、蒲公英は宅の鍛練を熟しているからね。

焔耶が悔しそうに蒲公英を睨むのは仕方が無い。

ただ、其処で素直に自身の未熟さを認められるのが焔耶の良い所だし、成長を期待させる所だ。

寧ろ、まだ氣を認識し始めたばかりで蒲公英相手に2時間も食らい付けていたんだから凄いんです。


その辺りの事は蒲公英も察している様で。

焔耶を見る眼差しには対抗心が窺えます。

ええ、何だかんだで、この二人は良い関係です。

犬猿の仲、水と油、しかし、切磋琢磨する好敵手。

その上に俺の妻という共通点が加わりますので。


呼吸を整えると蒲公英は自力で仕事へと向かう。

原作でなら「少しは休ませてよ~…」と文句を言いサボりたがる場面かもしれませんが。

宅の蒲公英は頑張り屋さんで、意地っ張りです。

焔耶(ライバル)を前に本気の弱音(・・・・・)は見せません。

逆に「それじゃ、御先に~…ぷぷっ…」的な含みを持った視線を向け、焔耶を煽る位です。

いや~、本当、いい根性してますよね~。



「──っ、キャアアァッ!?、じじじ忍様アァッ!?」



自力では立てない焔耶を軽々と抱き上げる。

所謂、お姫様抱っこでです。

──とは言え、それだけで焔耶が悲鳴を上げる程、動揺する訳では有りません。

それには、ちゃんと理由が有ります。


前世では特に珍しくもない身長でも、今世では女性としては「大柄だ」と言われる長身の焔耶。

その為、女の子らしくは扱われ難い訳で。

だから、こんな風に自分が女の子っぽく扱われるとかなり照れてしまう様でして。

ええ、勿論、狙って遣ってますが、何か?。

可愛いんだから良いじゃない。



「自分じゃ歩けないだろ?

此処で歩ける様になるまで待ってる訳にはいかない以上、こうするのは当然だと思うが?」


「そ、それでしたら私は這ってでも──…………」


「それは、遣りたくないだろ?」


「………………………………………………はい…」



俺の目の前で、そんな醜態は晒せない。

蒲公英への対抗心も有るが、女としての尊厳。

弱さを見せるのとは違う、文字通りの醜態だ。

それだけに、羞恥心も半端無い訳で。


想像し、理解した焔耶は素直に抱っこされたまま。

「…す、少し位、良いですよね?」と言う様に。

俺に身体を預け、甘えてくるので応じます。


焔耶の死角に入る様に少し後ろを歩いている咲夜。

その邪魔をしない様に配慮しつつも、俺に対しては視線で「判ってるわよね?」と催促。

焔耶に気付かれない様に了承。




城内に戻ると咲夜は自室へ。

其処で然り気無く自分が居た事を焔耶に意識させ、羞恥心を煽ってから立ち去る辺りは流石。

その御陰で俺は照れて縮こまる焔耶を堪能出来る。

司馬建公…素晴らしき内助の功なり!。


──という心の感嘆と共に焔耶の部屋に到着。

焔耶を寝台に寝かせると──ていっ!、と半回転。

俯せにして、マッサージを始めます。



「──アァああああのっ?!、忍様何をヲぉっ?!」


「疲労回復の為にも使った筋肉を解さないとな」


「そっ、それでしたら他の者にでもっ、ンンッ!」


「慣れてくれば、御互いに出来る様になるけどな

最初は特に加減が難しいから俺が直に遣ってるんだ

それとも…俺に触れられるのは嫌か?」


「そんな事は有りませんっ!──っ!?」



迷い無く、きっぱりと言い切ってから。

自分の言葉の意味に気付いて顔を真っ赤にしながら布団に顔を埋める焔耶。

その初々しい反応に、このまま襲いたくなります。

…まあ、襲っても問題無いんですけどね。

其処はまあ、俺なりの線引きが有るんです。

…え?、「周泰や甘寧には色々してる癖に」?。

それはそれ、これはこれ。

一応、悪戯するにしても時と場合と相手は考慮し、後々の事も考えた上で、ですから。


それはそうと、焔耶って実は意外と身体が固い。

いや、女性らしい柔らかさは十分なんですけどね。

関節や筋の柔軟性が…無ぇ…冗談じゃなくて。

素の膂力が高い分なのかは定かでは有りませんが、冗談抜きで身体が固いんです。

──という訳で、マッサージに加えて更に念入りに柔軟体操をば。


「む、無理です忍様っ、それ以上はアァッ!?」と。

外に聞く耳が有ったら誤解されそうなワードを連発してくれている焔耶。

大丈夫、少しずつだが確実に柔軟性は得られる。

苦痛?、それは身体的な努力には付き物さ。

ハァーッ、ハッハッハッハアァーッ!。

──というのは置いといて。

前屈すると自分の胸で窒息し掛けるとか…。

うん、何んだけですか、貴女。

そして、ちょっとばかり、それを経験してみたいと本気で思う俺は男として間違ってはいない筈!。

だって、とっても魅力的なんですもんっ!。


それはまあ?、紫苑や祭、冥琳に咲夜、愛紗等々。

窒息させ掛けてくれる妻達は居ますけどね。

そうじゃないんです。

そうなる前の関係で、そういう経験がしたい!。

そう!、所謂、“ラッキースケベ”な経験を!。

…其処!、「魏延は嫁確だろ」とか言わない!。

確かにそうでも、まだなんだから!。

まだなんだから、まだセーフ!、ギリギリOK!。



「──失礼します、御兄様」


「やっと、袁家(・・)が重い腰を上げたか?」


「はい、此方等に向かって進軍する気です

──とは言え、彼方等の狙いは海陽と陽楽ですが」


「まあ、直に仕掛けてくる気概が有るなら最初から袁家総出で動いてるだろうからな

そう出来無い時点で、袁家の内情が見えてくる」


「袁硅・袁紹、そして袁平(・・)

三者を旗手に袁家の勢力は予定通り(・・・・)に割れました

如何に名門でも、一度罅が入れば脆いものですね」


「組織としての基盤が磐石なら違うんだけどな

所詮、私利私欲の絡む利権争いが根深い以上、少し突っ突かれれば、見せ掛けの一枚岩は割れ易い

まあ、そう為らない様に宅も気を付けないとな」


「そうですね、御兄様」



──という華琳との会話の間に焔耶は落ちてた。

だから俺達の事には気付いてません。




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