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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   自堕落者ぞ


“原作”の袁紹に負けず劣らずの行動を起こして、波紋を広げてくれた遼西郡を巡る騒動。

それは宅と孫策が動き、介入した事で一先ず決着。

分割されている為、最終的な解決は後々。

まあ、幽州を平らげるのが宅の目標ですからね。

孰れは、そう(・・)なる時は必ず来るでしょう。


まあ、それはそれとして。

実質的に宅が動いてから約三週間の出来事。

袁紹が動いてからだと大体一ヶ月半。

いや~、改めて宅の実行力はチートだと思うわ。

うん、そんな風に自分で遣っといてもですよ。


此方が取った遼西郡の南側──海陽・陽楽の二県。

真桜達の手際も良く、直ぐに領境に防壁を設置し、余計な衝突を生まない様に出来た。

尤も、孫策(彼方)にも攻める気は無いだろうけど。

こういうのは見える様にした方が効果は高い。

特に、格上になる此方から遣る方が更にだ。

勿論、それも絶対という訳ではない。

ただ、俺が孫策なら、今は(・・)動かない。

その可能性が高いから、それで十分だったりする。



「忍様、桃香さんですが…宜しかったのですか?」


「ん~…悩まなかった訳じゃないんだけどなぁ…

他に良い手段が無かったのも事実だからなぁ…」



竹簡山脈(チョモランマ)を制覇し終えた所に。

今日は俺の補佐をしている斗詩が御茶を出しながら桃香の事に付いて訊いてきた。

別に隠したり誤魔化したりする理由も無い。

だから、正直に斗詩の疑問に答えてやる。



「桃香も将来性を考えれば疑う余地は無い

ただ、桃香の場合、年齢に問題が有る

宅の中でも年長組の桃香には時間が足りない

年下なら、待ってやれる猶予が有るけど…」


「……確かに…難しい立場になりますよね…」


「武官だったら鍛える姿を見せ、手合わせを通して成長や実力を示す事が出来る

けど、文官の場合、どうしても即戦力でなければ、如何に対価(・・)とは言え、要職は任せられない

勿論、単純に俺の私物として扱うなら別だけどな」


「それでは彼女は飼い殺し(・・・・)ですしね」


「ああ、だから、荒療治(・・・)だが、仕方が無い」



桂花は即戦力だし、焔耶も鍛えていけばいい。

しかし、桃香の場合、あまり悠長に待ってやる事が出来無いのが現実だったりする。

それこそ他の妻達とは違い依怙贔屓(・・・・)になる。

だが、武官ではなく文官である桃香の今の実力では宅で要職を担うには明らかに実力不足。

はっきり言って亞莎の方が戦力としては有能。

──いや、それは亞莎に対して失礼だな。

亞莎は努力しているし、頑張っているからな。

まあ、それは全員に言える事なんだけどね。


それは兎も角として。

桃香には短期間で実力を上げて貰うしかない。

だが、武力と違い、智力は簡単には上がらない。

それそこ、劇的な変化(覚醒)でもしない限りは。


其処で、俺は一つの劇薬の投与を試みた訳です。

ええ、華琳(教祖)による洗脳(布教)という劇薬を。

正直に言って、一番遣りたくはない方法だ。

だが、背に腹は変えられない。

咲耶をして「…彼女、ヤンデレ化しない?」と。

想像出来てしまう可能性(未来)を示唆され。

思わず、考え直したくなったのは──秘密だ。

いや、本当にね、有りそうだから怖いんですよ。

桃香──“原作”の劉備って依存気質だったし。

今までの皆の傾向からして、根っこは似ている。

だからほら、桃香も…ねぇ…。

──とは言え、それは飽く迄も可能性の話。

確定しているゲームのシナリオやイベントではないという事を忘れてはいけません。

──という訳でね、これは俺も咲耶も墓まで持って逝かないといけません。

他言していい話では有りませんから。


…まあ、違う意味では、斗詩の様に疑問に思う者も少なくないのも事実ですからね。

その辺りは華琳(教祖)の事を知っていればこそです。

ええ、布教活動は順調な様ですよ……グスン…。



「後は感化(・・)され過ぎないか、だな…」


「それは……手遅れだと思いますよ」



“?”付きの疑問文ではなく。

「無理だと思いますよ?」という苦笑でもなく。

ちょっと恥ずかしそうに。

けれども誇らしそうな笑顔で断言する斗詩。

我が事の様に確信している、その姿からは。

原作の顔良の“残念さん”振りは窺えず。

出逢った頃の“わたわた感”も感じられない。

……たわわ(・・・)感は増していますが。

なっ!?…まさか…まだ成長するっ…だとっ!?。

──な感じですからね、楽しみです、ええ。


──と、それは兎も角として。

斗詩が何を言いたいのか。

それが解らない程、鈍くは有りません。

スキル【鈍感EX】は持っていませんので。


…ええ、まあ、そうなんでしょうけどね。

斗詩にしろ、桃香にしろ、同じな訳ですよ。

華琳に洗脳されている訳じゃなくて。

結局、俺への想いを深く、強く、自覚(・・)する。

それだけでしかないんですから。


それはまあ?、其処で華琳の思考誘導は有ります。

相手に気付かれない程度の、本当に小さな誘導。

些細な一言、表現の仕方、言葉選びなんですが。

実際の所、それで十分なんですよ。

その後は、各々の自己解釈(想像力)任せで。

勝手に納得してくれますからね。


誘導したい先さえ明確なら。

その相手の性格や価値観を理解さえすれば。

何を言えば最も適切な誘導になるのか。

それを見極められるのが、華琳な訳です。

…それを教えたのは俺なんですけどね。

まさか、こんな使い方をされるだなんて…ねぇ…。

幼き日の自分に言えるなら言いたい。

「宅の愛妹の愛が信仰化する件に付いて」と。


……取り敢えず、期待の眼差しを向けている斗詩の頭を撫でながら抱き寄せます。

まだ斗詩とは致してはおりませんので。

ええ、今はキスとハグまでですよ、今はね。




そんなこんなが有りながらも時は流れる訳です。

ええ、時の流れというのは残酷ですよ。

人を変えてしまうには十分な要因なのですから。



「忍様っ、何でも御申し付け下さい!

この劉玄徳、如何なる手段を用いてでも成し遂げて御覧に入れます!」



真っ直ぐで、キラキラとした眼差しは本気で。

俺の声を聞き漏らすまいと向けられた犬耳と。

千切れてしまわないかと心配になる勢いで振られる犬の尻尾を幻視しそうな雰囲気で。

方膝を付いている桃香が見上げてくる。

…思わず、「御手」と言いたくなるが。

俺が悪い訳ではないと思う。


──いや、そうではない。

ちょっと、原作の夏侯惇や荀彧にも見えるが。

其処は気にしてはならない。

うんうん、気にしな~い、気にしなぁ~い。

──って出来るかあっ!!。

どう考えても洗脳してるだろっ、コレはっ?!。



「いいえ、御兄様

これも桃香の御兄様への想いが故です」


「故って言うか、元の桃香が故人になってるだろ」


「そういうツッコミが出来る辺りがらしい(・・・)わね」



俺の心の声に普通に返答してくる華琳は今更。

そんな些細な事は気にもしません。

したって何も変わらないし、改善しませんから。

其処!、「人、それを諦念と云ふ」とか言うな!。

他にどないしろっちゅうねんっ!。

「もうええわっ!」で終わらないんだからねっ?!。


──という愚痴は飽く迄も心の中に留める。

口に出しても誰も特をしないし、傷付くだけ。

そんな愚痴は愚痴でしかないのだから。


尚、咲耶のツッコミはスルーします。

其処に絡むと大脱線しますから。


そんな訳で、華琳から“三日合宿”が終わったとの報告を受けたので、その確認をしている訳です。

咲耶が居るのは、原作を知っている為です。

比較検討をする場合、材料は多い方が良いので。


──とは言え、その仕上がりには戸惑うしかない。

いやまあ、こう成る可能性は予想はしてましたが。

それでも………うん、ちょっとコレはねぇ…。



「あー…桃香?」


「はいっ!、何なりと御申し付けをっ!」


「………………た、立って、此方に来なさい」


「はいっ!」



“何も命じない”や「いや、止めなさい」と言う。

そんな選択肢は、桃香の眼差しの前に消え去る。


いやね?、これが洗脳でグルグルな狂気の眼差しで遣っているなら愛有る拳で目覚めさせる所です。

しかし、どう見ても、桃香の意思で、なんですよ。

華琳に強要されたり、教育された訳ではなくて。

桃香が自分で考えて、導き出した一つの答え。

それが──コレなんだって。

その屈託の無い眼差しを見て、理解してしまう。

理解してしまえば──強くは言えません。


──という訳で、取り敢えず立たせて、手招き。

「御座り、待て」から「よし」と言われ、飼い主に戯れ付いてくる仔犬の様に。

傍に来た桃香の頭を撫で──抱き締める。

その瞬間、俺の腕の中、腹筋に当たり、潰れる。

その柔らかさは妻達の中でも一番でしょう。

まるでスライムを握って潰したかの様に。

こう、むにゅぅ…ぅんっ、と。

物理法則や身体構造を無視した潰れ方をします。


いや本当にマジでね、どうなってんスかね?。

これが悪魔だとか天使だとか鬼だの龍だのだったら人外って事で「そういう物なんだ」なんだけど。

普通に人間ですからね。

不思議で仕方が有りません。


だって、普通なら垂れてますよ?。

いや、一般的には(・・・・・)そうなんですが。

何故か、一部の皆様は例外らしくて。

ええ、飽く迄も垂れ型(・・・)なだけです。

決して、本当に垂れてはいません。

だから余計に摩訶不思議なんですよ。


つまり、美味しそうに実っていますね、貴女。

いや、まだ手は出しませんけどね?。

幾ら対価として成立している事だとは言ってもね。

──と言うか、寧ろ、今は手を出せない。

抑、それに因って生じる問題が有るから、こうして華琳という劇薬を使った訳ですからね。

此処で俺が簡単に桃香に手を出したら無意味。

華琳に頼んだ意味も無くなりますから。

だから、今は手を出しません。

………ま、まあ、少し味見(・・)をする位は…ね?。



「いいか、桃香、よく聞け

今、御前に足りないのは実力と実績だ

本来なら指導し、時間を掛けて積み上げる所だが、今の状況では、それが難しい

その事は理解出来るな?」


「はい…私が至らないばかりに申し訳御座いません

この身の非力・非才を恨むばかりです…」


「そう悲観するな、御前の才器は俺が保証する

ただ、ゆっくりと時間を掛けては遣れない…

宅の──俺と同年以上の俺の妻達は皆、要職に就き政務や軍務に携わっている事は知っての通りだ

だが、それを端から見ると俺の依怙贔屓に思う者が少なからず居る事も否めない

だからこそ、殆んどの者は結果を出してからだ

一部例外は有るが、それは立場も含むが故だ

しかし、桃香、御前の場合、それが難しい」


「はい…私は実績も立場も有りませんから…」


「いきなり要職を任せると色々と面倒が起きる

桂花は本人の実力と血筋が、焔耶は武力が有る

それに比べると、二人との関係を除けば、現状での御前の実力は評価が低くなるのは仕方が無い

其処で、短期間に成果を出して貰いたい」


「…私に出来るでしょうか?」


「先程の言は嘘だったのか?」


「そんな訳有りません!」


「なら、俺は御前を信じて任せる

結果を出して──俺の妻に相応しいと皆に示せ」


「忍様っ……っ………はいっ!」



逡巡した後、顔を上げて力強く返事をした桃香。

笑みを浮かべ、「これは先払いだ」と唇を奪う。

一瞬の驚きと硬直。

だが、直ぐに目蓋を閉じ、受け入れる桃香。

──いや、訂正。

此方の予想を越え、舌を絡めてくる桃香。

「誰に仕込まれたっ?!」と思わず考えてしまう。

いや、“男に”って意味じゃなくてね。

宅の妻達の誰かに、という意味でです。

容疑者の筆頭は華琳(教祖)な訳ですが。


そして、然り気無く姿を消している二人。

「気を遣い過ぎだ」とか「余計な配慮を」とか。

そんな愚痴は思っても言いません。

これも桃香に対する二人なりの激励ですから。

「頑張れば、その先(・・・)が有るわよ」と。

俺という餌で遣る気を釣る訳ですがね。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.23

















 曹操side──




△△月●日。

幽州統一に向け、全ては順調。

──と言いたい所だけれど、小さな問題は有る。

勿論、殆んどは御兄様の手を煩わせる事ではなく、私達だけで片付けられる程度なのだけれど。


先日の遼西郡の一件で輿入れが決まった三人。

その長姉的な位置に居る桃香の扱いが難しい。

勿論、御兄様の妻となる事は確定なのだけれど。

如何せん、彼女の才器と実力・実績が…ねぇ…。


尤も、才器に関しては御兄様が認めていますから。

其処は心配してはいません。

問題は彼女の立ち位置──職務に関して。


年齢的に見て私以下なら時間を掛けて育てるだけ。

それで何も問題無いのだけれど。

御兄様以上となると色々と話が変わってくる。

──とは言え、今までは年長組は実績持ちばかり。

立場や家柄・血筋という面の理由も有ったわ。


けれど、彼女には孰れも無い。

この状態で御兄様の御寵愛を受け、要職に就けば、先ず間違い無く、悪い前例を作る事に。


それが判っているから、御兄様も苦肉の策で私に。

普段、御兄様と遣り合ってはいるけれど。

アレは私なりの甘え方──構って欲しいから。

だから、其処まで本腰は入れてはいないわ。


ただ、今回は…ねぇ…。

本当に……どうしようかしら。




──という愚痴を書いてから三日。

仕上がった桃香を御兄様に御覧に入れた。

ええ、自分で言うのも何なのだけれど。

半分、自棄糞だった事は否めないわね。


そんな桃香を御兄様に委ね、素早く咲耶と退散。

その辺りの意図は咲耶も理解しているでしょう。



「──で、実際の所、どうなのかしら、桃香は?」


「御兄様が認めるだけの才器は確かに有るわ

物覚えも良いしね

甘さは有るけれど…それは先の一件が効いたわね

桂花の覚悟が彼女の意識を良い方向に変えた様で、二人から見ても一皮剥けた(・・・・・)そうよ

まあ、御兄様と同じで書き仕事よりは現場仕事…

能力的に文官型だけれど、軍師までは…ね」


「そうね、其処までという感じではないわね

ただ、白蓮みたいな器用という訳でもないし…」


「ええ、正直、どう扱うのか、困る所だわ…

せめて、血筋が確かなら御飾りの当主という扱いが出来るのだけれど…」


「それ、本人に言ったら駄目よ?」


「流石に私も言わないわよ

まあ、取り敢えずは御兄様が考えていた内政関係の仕事を遣らせて様子を見るしかないわね

ただ、彼女の性格や人柄を考えると、陳情対処には回さない様に気を付けないとね」


「一つ一つの話に真剣に付き合い過ぎるでしょうし下手をすると言質を取られたりし兼ねないものね」


「“優しさ”と“甘さ”は似て非なるものだもの

桃香のは甘さ、御兄様のものこそが優しさよ」



だからこそ、私達も一緒に背負わなければ。

気を抜くと御兄様は一人で背負い込まれるもの。

私が言うのも何だけれど、御兄様は甘え下手。

少し強引に背負う物を奪う位で丁度良いのよ。



──side out



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