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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   何もしない


戦らしい戦をする事も無く、引き上げた訳ですが。

個人的に言えば、不満や不燃焼感は有りません。

寧ろ、好き好んで戦なんて遣りたく有りません。

金は掛かるし、時間は要るし、仕事量が増える。

ええ、即「戦じゃあっ!!」と言えるのは馬鹿だけ。

ワンマンなトップのブラックな組織体制じゃないと普通は「いやいや、ちょっと考えましょうっ?!」と止める者が一人は出て来る筈ですからね。

「当然ですよねっ!」って満場一致は無い。

そんな脳筋主義な組織は危うくて御免です。


その点、我が社は理論主義な組織です。

ただ、勘違いしないで頂きたい。

それは決して効率主義(・・・・)では有りません。

論理的な思考、建設的な計画、道徳的な政治。

揺るぎ無き根幹の上に成り立つ組織体制です。

上っ面だけの、何ちゃって組織とは違います。

此方等はガチで命懸けで遣ってますからね。

覚悟が違いますよ、覚悟が。


──とまあ、そんな組織論は置いといて。

人が生きていく上で必要不可欠なのが──食事!。

そして豊かな食事が、心を穏やかにするんです!。

──という訳で、私の研究と努力の成果をっ!!。



「………なあ、忍?、これは…牛の乳か?」



そう言って、東屋の石卓の上に置かれた特製の壺に入っている白い液体を指差すと、眉間に小さく皺を寄せる白蓮が訊いてくる。

だが、怪しんでいるのではない。

実は、白蓮は牛は勿論、山羊の乳も苦手で。

その為に、警戒心を見せている訳なんです。

自分は、しっかりと母乳を出してたのにね~。

──とか思ってても言いません。

余計な一言は自分の首を締めますからね。



「そう、搾りたての“牛乳”だ

──とは言っても、普通の牛の乳じゃないけどな」


「──と言いますと?」


「何百、何千頭と居る牛の中から“搾乳”に適した個体を見付け、飼育し、それから搾ったものだ」


「つまり、かなりの稀少品、という訳か…」


「現状、此処にしかないからな」



そう稀少価値に対し思案顔をする冥琳に答える。

まあ、世界規模で探せば判りませんが。

少なくとも幽州の中には存在してはいません。

──と言うか、牛乳って言葉自体が存在しません。


ですが、それも仕方の無い事なんです。

酪農産業が発展──はしていなくても、根付いてて普通に牛乳が出回っていれば苦労はしません。

だって、酪農って余裕が無いと無理ですもん。

今の時代──社会事情では酪農産業は困難。

この世界の何処かになら、遣ってる人が居るのかもしれませんけど。

宅の場合、俺達が居るから出来てるだけです。

だから、一般的に食品(・・)という認識は低い。


ただ、牛や山羊の乳を使う事自体は有ります。

しかし、生で(・・)飲む事は有りません。

特に匂いの癖が強く、苦手な人が多いので。

殆んどが沸騰させてから何かと混ぜます。


これは世の中の牛が“乳牛”ではない為です。

まだ乳牛という品種──概念が有りません。

加えて、雑菌の処理も出来ませんからね。

生で飲むと中る(・・)んですよ、これが。

ですから、普及せず、白蓮の様な反応に為ります。



「──とは言え、まだまだ発展途上だけどな

これから種牛も含め、個体の選別を広げて行って、更に代重ねもして、漸く普及に至る…

一般家庭の食卓に並ぶまでには十年は掛かるかな」


「壮大な話じゃのぅ…」


「…其処までして飲みたい物か?」


「まあ、普通のだったら、要らないだろうからな

疑問に思う気持ちは仕方が無いだろうな

──という訳で、物は試し、御試飲有れ」



そう言って、壺から小さい木杯に汲み、並べてから両手で「ささっ、グイッと」と促す。

俺への信頼から皆、一応は手に取る。

100ml程の量なので一気飲みすれば一口。

しかし、華琳(教祖)ですら躊躇している。

その事実を目の当たりにすれば、手は動かない。


そんな中、咲夜だけは気にする様子も無く飲む。

当然だが、咲夜には“牛乳を飲む”概念が有る。

加えて、俺が中途半端な試作品を出さない事も。

だから躊躇する理由が無いんですよ。



「…ん…思ってたよりは濃いのね、臭みも無いわ」


「一般的に量産しようとすると手間が掛かるけど、宅で使う分なら、氣で片付くからな

そういう意味では品質は特上(・・)にし易い」


「ああ、成る程ね」



そんな会話をしている中、華琳達が次々と試飲。

そして、知識や想像とは違う現実に衝撃を受ける。

白蓮なんか「え?、これ…え?」な感じだし。

久し振りに皆が良い反応をしてくれている。

ククッ…そうだ、その顔が見たかったのだよ。


──とか浸ってると、咲夜から「それで?、これで終わりっていう訳は無いわよね?」と催促が。

ええ、これだけで俺が終わる訳が有りません。

牛乳が有るなら。

色々と料理の幅が広がりますからね。


そんな訳で、支持票を獲得する為の秘密兵器をば。

特製の三重構造の壺を取り出し、宅の上に置く。



「御兄様、其方等は?」



真っ先に食い付いたのは好奇心旺盛な華琳。

一度、警戒心が解ければ突き進むのが覇道です。

それは武や戦や政治だけに限らず、料理も同じ。

探求心に火が点いたら、簡単には消えません!。

──ァッ、ハイ、直ぐに御用意致しますので。


華琳だけではなく、一同からの圧を受けて動く。

“女の勘”の成せる技なのか。

或いは、独特の嗅覚なのかは判りませんが。

何と無く、察しが付いたのでしょうね。

皆、先程までとは目付きが違っています。



「これは牛乳で作った“氷菓”だ」



つまり、王道のミルク・アイスです。

氷菓自体は以前から作って食べていましたけどね。

砂糖は稀少でしたが、果物は多いので。

氣を使い、ちょっと工夫して作れる様に。

ええ、そんな方向にばかり器用になってますよ。

だって人間だもん。

欲には勝てません、抗えません。

それが他者に害を成さない以上、悪ではない!。

ただ、夜中の高カロリー食は悪魔的ですけどね!。


空になった先程の木杯を回収し、壺の中から氷菓を掬い取って入れ、竹の小匙を付けて再び手渡す。

こういう時、何も言わなくても喧嘩もせずに直ぐに行儀良く一列に並んでくれるので助かる。

…まあ、意外と少数の時の方が喧嘩に成り易いのは仕方が無いんだろうけどね。

大抵、気安い関係で固まり易いんだから。


──とか考えている間にも早い者順に食べ始める。

「皆が揃うまで待ちなさい」とは言いません。

だって、アイスだもん。

冷たくて何ぼ。

溶けちゃったら意味無いじゃないですか。

だから、思わず「美味っ!?」と叫んだ白蓮を始め、皆の反応に我輩は口角を上げるのであった。


そんな妻達は自由に、俺は息子達に食べさせる。

虫歯や腹痛の原因にもなるので控え目に、ですが。

基本的に俺が与える物に疑念を持たない息子達でも個性は有り、四者四様の反応を見せてくれます。


誠は母親の白蓮に似て、リアクションが大きい。

俺としては、そのリアクションの良さが嬉しいし、とても可愛いのだが。

嘘や演技力が下手なのは生来の素直さが故の物。

“御人好し”過ぎれば考え物だが、そうでなければ人の和に恵まれる事だろう。

まあ、今は然程気にする事ではないんだけどね。

五歳になる頃には俺達も考えないとな。


維は紫苑に似て大人しく、聞き分けがいい。

だが、四人の中では一番の頑固者だったりする。

何でもかんでも、何時でも何処でもではないが。

こう(・・)と決めたら、動かない。

所謂、職人気質なんだろうな。

それが長所になる様に考えていかないと。

偏屈な頑固者にはさせません。


久は一番元気で活発だが、一番寂しがり屋。

それは母親にそっくりだったりする訳で。

それを口に出そうものなら、確実に母親は拗ねる。

…まあ、拗ねるだけでは済みませんけどね。

今の所、特に気にする点は有りません。

久の“胸好き疑惑”は仕方が無いもの。

ただ、生涯言われる事でしょう。

強く生きろよ、我が息子。


最後に義ですが、四人の中では一番落ち着いていて手が掛かりません。

母親である梨芹の脱・脳筋が効いたのか。

俺的には一番、大物感を感じています。

いや、別に他が駄目って訳じゃなくてね。

単純に、「──っ!、此奴…遣りおるわ…」な姿が一番似合いそうな気がするだけです。

ええ、父親には無いカリスマ性だと思います。

──とは言え、それでも、まだまだ甘えん坊。

他の兄弟が居なければ、父を離しませんから。

ほっ、ほっ、ほっ…初奴よのぉ~。


──とまあ、そんな息子達もアイスを堪能し。

俺と一緒に避難(・・)しています。

さっさと御昼寝体勢に入れる辺りは流石です。

君達が女性に逆恨みされる可能性は低いでしょう。

ええ、空気が読める事は大切ですからね。


皆が壺の中の残りの争奪戦の真っ最中ですから。

まあ、武器や氣を使わないだけ増しでしょう。

……うん、美味い、我ながら上出来です。

決して、現実逃避では有りませんから。


そんな俺の傍に来るのは唯一不参加の咲夜。

別にアイスが嫌いって訳じゃあない。

ただ咲夜からすれば其処まで珍しくはないだけ。

伊達に前世持ち(・・・・)では有りません。



「バニラ抜きでも十分に美味しかったわね

やっぱり、今の方が味覚的にも敏感なのかしら?」


「多種多様な料理や調理法が有る分、繊細さという点では否応無しに鈍くなり易いんだろうな

そうじゃなきゃ、“ソムリエ”なんて資格・職業が成り立つ事自体難しいだろうからな」


「あー…確かにそうよね

他人の味覚を頼りにするなんて、ちょっと考えたら可笑しな事だものね

その人の好みが自分と同じとは限らないんだし…

それでも任せるって余程じゃないと無理よね

──と言うか、改めて考えると物凄い歪な事だし、今となっては私には無理な話だわ」


「それに関しては同感だな

普段、一緒に生活している相手なら信じられるけど初対面の相手には無理だろうな」



それが、如何に厳格な試験により選別された結果、許可される資格・職業だったとしても。

味覚は別物なんだから。

初めて入る店や、注文・購入する場合は兎も角。

やはり、味覚の判断基準は自分自身なんだから。



「それで?、今は何れ位が取れるの?」


「多く見積もって一日に10Lって所だな

毎日、となると量を減らさないと質が落ちるし…

乳牛の方が体調を崩すだろうからな」


「一時の欲望の為に無理強いは禁物、と…

生産力っていうものが、短期的に向上するって事が無いんだって、よ~~…っく判ったわ」


「正に、“継続こそが生産力(ちから)なり”だな」


「牛乳が安定して手に入れば色々と作れるのにね」


「まあ、宅で楽しむだけなら問題無いけどな

流石に独占し続けると問題にもなるからな」


「この世界に“独禁法”は無いんだけどね」



そういう法律が有っても無くても人の欲は無制限。

欲に呑まれ、良からぬ動きをする輩は居るもの。

珍しい物、金に成る、というのは特に判り易い。

その筆頭格が宝石・食材・芸術品。

だから、牛乳も例外ではないって事です。



「因みに、牛乳を使った料理と言えば?」


「俺は無難にシチューだな」


「私は断然、プリンね」


「あー…プリンか~…なら、生クリーム有りで?」


「んー…何方でも良いわよ

其処まで生クリーム好きって訳でもないしね」


「…まあ、考えて置きます」


「期待していますね、旦那様」



そう言って頬にキスしてくる咲夜。

アイス争奪戦をしている皆よりも一歩、先んじる。

前世の知識が有るから、と言えば、そうだが。

意外と抜け目が無いと言うか。

こういう時の強請り方は一枚上手だと言える。

…まあ、これが咲夜なりの甘え方だしな。

俺としても話がし易いから問題は無い。


ただ、華琳へのフォローは忘れてはならない。

華琳には話して有りますからね。

別に後悔はしていませんよ?。

それで華琳の、咲夜の、俺の心が楽になるなら。

悪い選択では無いので。


…しかし、アイス争奪戦って。

殆んどが十代って言っても……ねぇ…。

子供じゃあないんですから。





 張遼side──


この世には男と女しか居らん。

それが事実やし、現実な事は変わらへん。

せやから、互いに惹かれ合うんが自然な事。

容姿や性格の好みは別にしてもや。


つまり、惹かれ合う事は何も可笑しな事やない。

まあ、世の中には男同士・女同士も有るんやけど。

それは個人の価値観、好き嫌いの自由やしな。

ウチは自分に関係有らへんかったら興味無い。

正直、どうでもえぇ事やな。

他人の好みなんか知った事やない。

ウチにとっては、ウチの事が全てなんやから。


──で、そんなウチは忍に逢ぅて、恋を知った。


意外かもしれへんけど、冥琳の影響も有ってな。

ウチ、物語を読むんは結構好きなんよ。

好みは大体が英雄物や冒険物なんやけど。

恋愛物も嫌いやない。

ただ、「いや、これは流石に無いやろ…」と。

場面を想像して──萎えて(・・・)まう。

せやから、途中で感情移入も出来ん様になって。

何やかんやで、面白ぅのぅなってしまうんや。


そんなウチやけど、唯一好きな恋愛物語が有る。

“”っちゅう話でな。

英雄の父に憧れ、武人を志す娘が主人公で。

最終的には自分に勝った男に娶られるんやけど。

その男が、実は父親の決めた婚約者で。

主人公が父親に反発する意味も含めて家出を出て、諸国を放浪して強者を求める切っ掛けなんよ。

つまりや、大人しく結婚しとったら、遠回りせずに理想の相手と一緒になれとった、ちゅう話や。


ただな?、これには「親の言う事を聞け」っちゅう意味合いが含まれとる訳で。

暗に「反抗なんてするな、馬鹿者」と。

遠回しに子供に刷り込もうとしている訳や。


まあ、それはそれ、これやこれや。

物語自体が好きな事には変わり有らへん。

そんな、運命的な展開(・・・・・・)は現実には無い。

有る訳無いやろ、こんなん。

──っちゅうとった昔の自分に言ぅたりたい。

「自分、そんな主人公になるんやで?」と。



「──そっ、それアカンッ、忍っ、あかんてっ…」


「ん?、何がだ?」


「せ、せやから…其処はアァッ!?」


「んー?、どうしたー?、聞こえないぞ、霞?

ほら、ちゃんと言わないと?」


「ちょぉっ、んンッ!、ァアッ!、」



念願だった忍との初夜を迎え、数度目の夜。

まだまだ恥ずかしさが有るんやけど、堪えられる。

恥ずかしがっとったら忍は容赦無く攻め立てる。

……まあ、それはそれで良ぇんやけどな。

如何せん、閨での忍は鍛練の時以上に鬼や。

此方の快楽の限度を超える快感を与えてくる。

それだけやのぅて、此方が悦んどると遣る気を出し更に更にと攻め手が増してくる。

それに加えて、かなり忍は意地悪だったりする。

だから、攻めに回った忍は…ヤバイ、滅茶苦茶な。

「ちょっと揶揄ってみたら判るさ」っちゅうとった冥琳の言葉の意味が、よ~~…ぅ判ったわ。


ただ、それを身を以て実感しながらも。

貪られる事に歓喜しとるウチが居る訳で。

…つまり、何も悪い事やないって事や。

忍も、ウチも、幸せなんやからな!。



──side out



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