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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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72話 明日を見る


世の中には“教育の平等”という言葉が有る。

誰しもが、等しく教育を受ける権利が有り。

それを是とし、実施する事の出来る社会性を。

理想とし、世界規模での実現を目指す。

そういった思想の一つなのだが。


さて、此処で一つ、疑問という一石を投じよう。


“教育を平等に受ける権利”は素晴らしいものだ。

しかし、平等な(・・・)教育を受ける事。

それは本当に正しい事だと言えるのだろうか?。


スポーツ等の分野では“飛び級”というのは普通でメディアにも度々取り上げられたりする。

芸術・芸能等の関連でも、若い内から活躍する事は珍しい事だとは思わないだろう。


──では、事、学術といった面では、どうか。

“IQが高い”といった注目は集める事は有れど、その子供達が社会的支援を受けられるのか?。

現実的な話をすれば、否と言わざるを得ない。


学術に置いては、何故か、飛び級は許容されない。

それは言い換えれば、学術的な才能は社会的不平等によって潰されている、という事になる。

しかし、それを深刻な社会問題(・・・・)だと。

そう捉えている人々は、一体何れ程居るのか。


何故、人々は疑問を懐かないのか。

その答えは単純。

そういう風に(・・・・・・)教育されている為だ。


平等な教育、それは言い換えるなら。

“コピペ教育”と言わざるを得ない。

確かに知識という面では同じ事を学ぶ訳だが。

思考能力──アプローチや経緯は様々である。

数式の様に、正解が一つしかない(・・・・・・・・・)なら兎も角。

何かを研究・模索したり、発見・創造する場合には試行錯誤や、常識を外れる(・・・・・・)事も必要だ。


けれど、平等な教育は違い(・・)を否定する。

才能の有る子供には見えている(・・・・・)事が。

才能の無い者には見えない(・・・・)

それはつまり、理解が出来無い訳で。

圧倒的少数派となる才能有る子供達は。

差別(・・)により、その可能性を潰される。


深刻な社会問題、“凡人が天才を殺す”である。


また教育に置いても、何故か一点特化(・・・・)は不遇。

例えば、数学──計算能力が高い子供が居て。

それ以外の分野が、月と鼈だとしたなら。

多くの教育者は、「他も頑張りなさい」と。

「同じ位、遣れば出来る筈」等と。

そんな事を言うだろう。


しかし、実際には、そんな必要は無い。

その子供が数学が好きなら、とことん遣らせる。

それだけで、自然と他の分野も身に付く。

古い資料を見ようとしたり、論文を読もうと思えば語学を自ら学ぶだろう。

一つの数式に対する理解を深めようとすれば経緯を調べるだろうし、歴史を知る事にも繋がる。


学術とは、専門的であろうと単独では成立しない。

必ず、何かしらの分野を伴って、学ぶ事になる。


その事を教育者や指導者、政治家や大人達が。

理解していないという事こそが。

何よりも、深刻な社会問題ではないだろうか。


嘗ては、或いは、発展途上国であれば。

平等な教育は素晴らしいものだろう。

しかし、其処を過ぎたなら見直さなくてならない。

国を、社会を支えるのは常に新しい世代。

其処に有るべき形の、正しい教育の権利を。

人々が考え、変えていく事。

それが、より良い社会へ、国へと繋がる事だろう。



「──────何故だ?」



そう思わず声が出てしまう程に。

今、俺は猛烈に理解出来無い現実に直面している。

──いや、別に妻が浮気したとか、愛想を尽かして出て行ったとか、覚えの無い妊娠をしたとか。

そういった事ではない。

息子達が、俺との抱擁(スキンシップ)を拒むのだ。



「だから、その匂い(・・・・)が原因なのよ」


「馬鹿な…乳児に優しい苺乳(イチゴミルク)の匂いだぞ?」


「私達からしたら、甘くて美味しそうだけどね

子供達からしたら未知過ぎる(・・・・・)のよ

特に乳幼児なんだから、匂いには敏感だしね」


「むぅ…」



結構、苦労して開発したんだけどなぁ…。

まあ、それを押し付けるのは俺の傲慢か…うん。

嫌な物は嫌なんだし、仕方が無いよな。

俺だって、どんなに好い感じの匂いでも最初っから無条件に受け入れられるって訳でもないし。

寧ろ、見た目とか他の要素も重要になる。

見た目には見慣れた父親だけど、明らかに知ってる匂いとは違っていたら、それは警戒もしますよね。

うん、父さん、反省するよ。

──という訳で、氣で瞬間消臭っ!。

さあ、おいで!、愛しき息子達よっ!。



「はぁ…本当、そういう小技、無駄に上手よね」



一転して、笑顔を見せる息子達を抱き締めながら、父の愛を遺憾無く発揮する俺の横で溜め息を吐き、そう愚痴り苦笑する咲夜。

小技って言うな、便利技って言いなさい。

お値段以上な百均グッズみたいに。



「それはそれでどうなのよ…」


「百均を侮るなかれ、百均を嗤う者は百均に泣く」


「そんな諺なんて無いわよ」



うん、そうだね、そんな諺無いね。

でもね?、言いたい事は判るでしょ?。

マジで百均って凄いんだよ?。

日本が世界に誇るアニメに次ぐ得意分野。

低コストで高パフォーマンス!。

しかも日々、改良・改善、新商品の開発。

進化が止まらない百均業界!。

それを讃えずして、何を讃えると言うのか!。

一般人でもアイデア1つで一攫千金の夢も有る!。

これぞ、百均ドリームッ!。

………いや、今のは語呂が可笑しいか。

それだと、“百均に行ってる夢”っぽいし。

…なら……百均ゴールド・ドリーム?……微妙だ。

──と言うか、本来なら、魅力的な筈のゴールドやドリームの単語が、安っぽく聞こえる!。

くっ…これが百均の限界なのか?!。

…いいや、まだだ、まだ、百均に可能性は有る!。

そうだ!、取り敢えず百均に行ってみよう!。

──って、現実(この世界)に無いじゃん!。

痛恨のミスッ!。

当たれば威力三倍の技だが、ハイリスク!。

外れたから、このターンの敵からの全被ダメージが二倍になるっ、大ピンチッ!。

──なんて、事は有りませんけど。



「御兄様、御茶が入りました」


「有難う、華琳」



御馬鹿な独り妄想が一段落したのを見計らった様に華琳が桂花・流琉と一緒に遣ってくる。

今日は久し振りの御休みで、東屋で咲夜と息子達と触れ合いながら待っていたんです。

白蓮達は今日は仕事で出掛けているから不在だが、仲間外れにしている訳ではない。

妻達の仲が悪い訳でも有りません。

本当に偶々です、偶々。


──とまあ、それは置いといて。

息子達をベビーチェア──俺の力作──に座らせ、運ばれてきた御茶と御菓子を頂く。


……うん、これはこれで美味しいんですけどね。

キンッ…キンッ!に冷えたビールに、焼き鳥。

それを昼間っから望んでしまう、マダオな俺。

だけど、仕方が無いじゃない。

一度知ってしまったら、忘れられはしない。

その禁じられし、甘露な至福の一時、密かな贅沢。

夜中のカロリー無視の秘密の楽しみの様に。

止められない、止まらない、その背徳感っ!!。

嗚呼っ、どうして貴方は知らないのっ?!。

それは未成年(坊や)だからさ。

──とか考えてたら、咲夜から肘打ちが。

息子達に悪影響が出ない様に自重しますです。


それはそれとして、加入して間が無い桂花ですが、息子達は嫌がったり警戒したりはしません。

…まあ、桂花が息子達を見て「忍様の遺伝子…」と息を荒げ、目を血走らせ、ハァ、ハァッ…してたら警戒もするんでしょうけど。

そんな事は有りませんしね。

普通に、息子達の可愛らしさに頬を緩めてます。


──で、息子達は桂花から俺の匂い(・・・・)がするからか。

抱っこされても平然としています。

何故、俺の匂いがするのかは謎、という事ですが。

ええ、深く追及してはいけません。

良い子の皆、御兄さんとの約束だぞ?。



「──それで?、暫くは静観するの?」


「ああ、今は宅から仕掛ける理由は無いからな」


今は(・・)、ね…

それじゃあ、愛紗の出産待ちかしら?」


「いや、流石に其処まで悠長には出来無いな

──と言うか、其処まで動きが無いと面倒になる

膠着状態が数年間続いても可笑しくはない」


「それは……確かに面倒な話ね」



そう言って小さく溜め息を吐く咲夜。

それを見て、「心配しないで、大丈夫だよ」とでも言うかの様に、小さな右手を一生懸命に伸ばして、咲夜の頬を撫でるのは義。

咲夜が「有難う」と微笑み返せば、義も笑う。

俺に似ず、中々の高モテスキル持ちだな。

実は御前も“転生者”とか?。

「それはないわよ、解ってるでしょう?」と。

咲夜にジト目を向けられ、素直に頷く。

ええ、解ってます、そういう(・・・・)システムですしね。

態々、破綻させる様な真似はしませんよね~。


そんな俺達には構わず、華琳は誠に、桂花は維に、流琉は久に御菓子を食べさせている。

こんなに小さな頃から「はい、あ~ん」を体験して育つとは…君達っ、勝ち組ですなぁっ!。

べ、別に羨ましくなんてないんだからねっ?!。

で、でも…まあ、どうしてもって言うんなら?。

か、考えてあげてもいいわよ?。



「何処のツンデレヒロインよ」



──と、咲夜が俺以外には聞こえない様に一言。

うむ、このツッコミが有るから、ボケられる。

ツッコミが来ないと虚しいだけだもん。

そう…咲夜が来るまでは、ネタも縛られてたしな。

その反動が、今っ、来ているっ!。

「来なくていいから」と。

そう言う気にもならない言外のツッコミ高等テク。

その冷たい眼差しに痺れる憧れる!。

──なんて、一人で遣ってても寂しいので。

さっさと止める事にします。

…其処、「だったら、遣るなよ」とか言わない!。

そういうノリ(・・)って大事でしょ?。

日常的な余裕、他者への寛容さ。

それが“遊び心”ってものです。



「──あ、そうそう、忘れる所だったわ、はい」


「…………コレは?」


「見て解らない?」


「見て解ったから、確認の為に訊いてる」


「何時もの、貴男への御見合い(・・・・)話ね」


「…………………………」



折角の家族団欒の時間が台無しです。

叶うなら、全力で“卓袱台返し”がしたい。

卓袱台は無いし、遣りませんけど。

気持ち的には、「ウガアアァァーーーッ!!」です。


目の前に有るのは“御見合い写真”ではない。

“写真”は我が家の秘匿技術なので、そういう風な形ではないのですが。

咲夜が出してきたのは、数十通の書状(・・)の束。

製紙技術の研究・発展・普及を推進させているから以前よりは出回っているとは言え、紙は高級品。

それを、惜し気もなく使っている訳ですから。

まあ、相手側も本気なのは間違い有りません。

それがドロッドロの政略結婚だったとしても。

そういう事を是とする時代・社会ですから。

その当たりは俺も判ってはいます。


──とは言うものの、それはそれ、これはこれ。

俺が了承する訳無いんですけどねぇ…。

「万が一にも、もしかしたら…」と。

そう考える気持ちも判りますけど。

「もう少し、俺の性格とか理解してよ」と。

そう愚痴りたくなります。

言って減るなら言いますけどね。

下手すると、それを逆手に取られますから。

面倒ですが、堪えるしか有りません。

当然、無視して破り捨てる訳にもいきません。

俺が、一通、一通、対応しなくては為りません。

ええ、物っ…………っ凄くっ!!、面倒なんです!。


──と言うか、俺、妻子持ちだからなっ?!。

差出人(御前等)判ってるっ?!、なあっ?!。

それなのに持ち掛けるとか──馬鹿じゃないっ?!。



「モテる男って大変ね~」



──と、他人事の様に義に話し掛けている咲夜。

まあ、確かに他人事では有るが…俺の妻ですよ?。

妊娠中だから俺が手を出さないと判ってるしな。

…だがな、咲夜よ──いや、司馬建公よ!。

その考えが甘いという事を教えてくれるわっ!。

今宵の徐子瓏は飢え狂いて修羅と化し候うっ!。

全身を隅々まで洗って待っているがいいっ!!。

クァーッ!、カッカッカッカァアァーーーッ!!。





 甘寧side──


今は遠く、過ぎ去って行った幼き日々の欠片。

多くの者が忘れてしまうだろう、無垢な想い。

夢を、希望を、願いを。

誰に憚る事も無く、口にしていた。


けれど、成長し、知恵を付け、理解が深まると。

誰しもが諦念と妥協を覚え、挫折と絶望に屈する。

そうなる前に逃げてしまう事が正しい(・・・)とされ。

失敗しない事こそが、成功者の人生だと。

そんな、歪んだ価値観に呑み込まれ、溺れて。

気付かない間に染められてしまう。


──ただ、それでも。

極々、稀にでは有るのだが。

それらを越えて、超えて、突き進む者が居る。

それは天才や英傑と呼ばれる“本物”で。

だからこそ、人々は惹き付けられる。

その輝きが、その眩さが、その煌めきが。

眼に焼き付き、胸を焦がし、心を燃え盛らせる。


そして、そんな人に。

人生で一人でも出逢う事が出来たなら。

“世界”は大きく変わってしまう。



「…じ、ん様っ…んっ…ちヂュッ…ちゅヅッ…」



嘗ての自分からは想像し難い程に積極的に。

忍様を求め、「もっとぉ…」と御強請りする様に。

両腕を首に回し、離さない様に引き寄せて。

実戦(・・)で教えられたばかりの遣り方を。

覚え込む為に復習するかの様に。

何度も、何度も、何度も、繰り返し、繰り返し。

けれど、全く同じという事は無く。

試行錯誤を続け、貪欲に向上心と好奇心を費やし。

更なる高み(・・)を目指してゆく。



「…ん…ぢュッ…忍様…私…まだ…」


「夜は長いからな、遠慮しなくてもいいぞ」



そう言って優しく微笑まれ、応えて下さる。

それが素直に嬉しくて、欲求は満たされる事無く。

更に、更に、更に。

もっと、もっと、もっと。

際限無く、求めてしまう。

満たされているから、満たされない。


冷静に考えれば、可笑しな話なのだが。

“幸福感”というのは、実は刹那的な感覚で。

“不幸感”というのは、持続的な感覚だ。

だから、不幸な印象は強く長く残るのに。

幸せな印象は儚く短く薄れゆく。


──と、忍様から聞いていたのだけれど。

確かに、その通りなのだと。

自分自身が感じて初めて理解する事が出来た。


これは満腹感や満足感も同じで。

“良い事”というのは、大体が、そうなのだと。

改めて考えると、納得する事が出来る。


ただ、だからこそ、人々は欲望を募らせるのだと。

そう考える事も出来る訳ですネェァアッ!?。



「──考え事とは余裕だな?」


「ち、違いますっ!?、ワ、私はァアッ!?」


「その余裕、奪ってくれよう」



そう言って口角を上げられた忍様に。

私の心も身も即座に反応してしまう。

「はいっ、御願いしますっ!」と。

迷わず懇願し、嬉々として享受する。

そんな自分の姿が脳裏に浮かび──肯定する。


腹を空かせた獣に、自らを差し出し貪られる。

自然界では有り得無い事ですが。

ですが、そういう欲望を持つのも人間。

何も可笑しくは有りません。



──side out



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