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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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70話 指先に触れる


世の中に溢れる問題は多々様々。

死に直結する事も有れば、倫理面・社会秩序面での課題・論争となる様な物まで。

日々、増えては減り、減っては増えてを繰り返し。

増減だけを見れば過剰に増加している事だろう。


そんな問題の中の一つ。

長い間、世界中で議論されているのが動物愛護。

その更に穿った問題の一つ。

現代社会で問題となっている“多頭飼育崩壊”。


しかし、それは飼育不可能な数(・・・・・・・)が問題ではない。

そうなるまで、ずさんな飼育管理をしている人物の無責任さと無能さ・無計画さの問題。

少し考えれば、避妊・去勢処置の必要性は解る事。

その判断が(・・・・・)出来無い人物が、飼育が可能(・・・・・)な事自体が何よりも大きな間違いなのだが。

果たして、其処に気付く人は何れだけいるのか。


動物()飼育する(背負う)事に対する責任への認識の薄さ。

それこそが、何よりも問題だと言えるだろう。


故に、極端な解決策を提案するならば。

“動物飼育資格”を国家資格として成立させる事。

つまり、責任を負えない者に飼う資格は無い、と。

そう国が定めてしまう、という方法である。


勿論、これを実現しようとすれば反発は必至。

「自由の侵害だ!」等々と騒ぐ事だろう。

しかし、それは人間のエゴ(・・)でしかない。

何故なら、其処に動物達の権利(・・・・・・)は無い。

飽く迄も、人間の欲求に基づく傲慢な言い分。

決して動物達の事を考えている訳ではない。

其処に、本当の意味での動物愛は存在しない。


動物愛護の精神は立派な事だ。

だがしかし、抑として、その動物達が世の中では、公然と売買(・・・・・)されている。

その現実を、何故、誰も指摘しないのだろうか。

また、その売買(・・)こそが最大の温床である事に。

何故、誰も疑問を懐かないのだろうか。


これを人身(・・)売買に置き換えたなら。

果たして、人々は許容出来るのだろうか?。

身勝手な理由で売り買いされ、物として扱われ。

売れ残れば不要品(・・・)として処分される。

そんな扱いを、自分達が経験しなければ、想像する事さえ出来無い様な傲慢な人間達。

支配者気取りの、勘違いも甚だしい愚者達。

見えている(・・・・・)事実が不都合なら。

無かった(・・・・)かの様に曲解し、顔を背ける。

そんな人間達の犠牲者は一体誰なのか?。

先ずは、其処から考え直すべきではないだろうか。


勿論、皆が皆、そうではないだろう。

真剣に取り組み、向き合う人々も居る事だろう。

だが、圧倒的に多いのは、無責任な偽善者達。

結局は上辺だけの動物愛護の精神。

多くの人々は“賛同する事”が重要であり、自分を良く見せたいが為の口先だけの賛同で。

本気で取り組む人々を、利用しているだけ。

「私は正しい事をしている」と。

何もしないで宣う卑怯者。

そんな者が多い事が何よりも大きな社会問題だと。

一体、何れだけの人々が気付いているのだろうか。


それが正しくても。

周囲と違う事を遣れば、奇異の視線を向けられ。

“社会の輪”から弾き出されてしまう。

そんな世の中が、正しい(・・・)と言うなら。

世の中の問題は、何が(・・)問題なのか。

問題の根幹を見ない者に、真実は見えはしない。


世の中が変わる事は──期待すべき事ではない。

変えたいという覚悟を以て、行動しなければ。

決して、変わる事など有りはしないのだから。



「──いや、やっぱり、此方の方が……いやでも、これだと色が被るし、あれは意匠がなぁ…」


「………………だぁぅ~…」


「そうだな、母さんは優柔不断だからな~…」



誠を抱き抱えながら数々の衣装を並べて右往左往し悩んでいる白蓮を眺めていると。

流石は我が子と言うべきなのか。

或いは、流石に赤ん坊でも判るのか。

白蓮の様子に呆れた様に声を出した。

「……御母さん、まだぁ?」と。

そう聴こえても可笑しくはない様な一言だ。

ファッションに対する関心が無ければ、基本的には老若男女問わず、こういうリアクションになる。

だって、待ってる方は本当に暇なんです。



(──と言うか、梨芹達は上手く逃げた(・・・)なぁ…)



此処には居ない三妻三子三組を思い浮かべながら、事の経緯を振り返り、そう感心してしまう。


それは誠達が生後半年を越えた為、俺の提案により親子三人で記念撮影(・・・・)をしよう、と。

…え?、「いや、記念撮影って…どう遣って?」と仰有りたい、其処の貴方に朗報です!。

今回御紹介するのは“簡易式カメラ”です。

ピンホールカメラの原理に氣に反応する特殊薬品を組み合わせて実現させた“写真”技術っ!。

今しかない、その一瞬を。

大事に切り取って、永遠に残しませんか?。

──というボケは置いといて。

写真技術自体は結婚式の時には確立してました。

ええ、話題に出来る程、量産は出来無いので。

限られた時にのみ、撮る事にしています。

因みに、誠達が産まれた三日後にも白蓮達が抱いた姿を写真に収めて有ります。

…え?、俺?、フィルムが勿体無いので無しで。

大事なのは母子の姿の方ですからね。

俺の事は妻達の記憶(フィルム)で十分です。

……後々、要らぬ証拠は残しはしませんよ、俺は。

揶揄い話のネタにされたくは有りませんからね。


──とまあ、そんな訳でして。

記念撮影をする事に為った訳です。

最近、製造量が増やせたのも大きな理由ですが。

それでも頻繁には撮れませんからね。

その一枚に気合いが入るのも仕方が有りません。


──が、やっぱり白蓮は白蓮なんですよね~。

そして、女同士だから祭達は俺よりも理解が深い。

こんな感じで“迷い始めたら長い”と判っていた。

だから、記念撮影に一日使う形を提案してきたし、自分達は順番決めに勝って早い日を取った。

負け残ってしまって落ち込んでいた白蓮だったが、思わず「…え?、私が最終日で良いのか?」と。

そう言って喜んだ様に。

こういう時は勝手が判る後半の方が有利だ。

余った時間(・・・・・)を有効に使えるからな。


因みに、俺としては記念撮影だけで済ませるつもりでしたから、一日で終わらせる予定でした。

時間を取れない訳では有りませんが、時期が時期。

万が一に備えて動ける様に心掛けてはいますから。

…まあ、上手く華琳達を抱き込んだんでしょうね。

既に根回し(・・・)済みでしたから。

尤も、一日で遣るとなれば白蓮の後は大変な事に。

そう考えれば、祭達も結託するし、華琳達も同情し提案を飲んでしまうのも当然かもしれないな。


尚、初日は梨芹、二日目は祭、三日目は紫苑。

連日ではなく、予定を空けながら、なので飛び飛びだったのは仕方が有りません。

他の母子とも同じ様に準備からでしたが…うん。

比べるまでもなく、白蓮が一番長いです。

祭なんか真逆で滅茶苦茶早かったしね。

俺が久の着付けを済ませて戻った時には完璧で。

さくさく撮影を済ませて、着替えて終了。

その分、空いた時間で親子水入らずの時間を作り、楽しんでいた辺りは流石だと言えるな。


…紫苑?、空いた時間で搾り(・・)取られましたが?。

ええ、早く二人目(・・・)が欲しいそうです。

あと、梨芹は意外と普通でしたね。

悩んだのは着付け前に少しだけ。

それ以降は祭や紫苑と同じ様に滞り無く、です。


だから、こうして考えても、三人は上手かったな。

こういう状況になると面倒だから、逃げた訳だし。

……仕方が無い、此方から動くしかないか。




──といった感じで無事に撮影は終了。

残りの時間を親子水入らずで過ごします。

…まあ、誠は爆睡中ですけどね。


そんな愛息を抱き抱える白蓮を抱き抱える俺。

俺の膝の上に座っている格好の白蓮ですが、表情は穏やかという訳では有りません。

寧ろ、今、誠が起きたら「御母さん、大丈夫?」と思わず心配してしまうのではないだろうか、と。

そう思ってしまう位に、余裕の無い表情をして。

小さく身体を揺らしながら、呼吸を乱している。

要するに、時間の使い方も家族団欒も様々(・・)と。

そういう訳なんですよね~。




そんなこんなで、一日一日と過ぎまして。

気付けば、雛里も悪阻に苦しむ今日この頃。

ええ、無事に妊娠しましたよ。


また、記念写真の出来も上々でした。

「白蓮が眼を瞑ってたりしないかな?」とか咲夜と前世の“あるある”で少し盛り上がったり。

写真って、色んな形で話題になるんですよね~。



「袁紹軍の快進撃、ねぇ…」


「まあ、彼我の人数の差が差だしねぇ…

別に可笑しな事ではないわよね…」


「三万相手に、多くても一万が上限だからな

そういう意味だと、遣った者勝ちなのは否めないな

…現実としては、順調過ぎる(・・・・・)けどな」


「ええ、そうよね…」



隠密から上げられた報告と、袁紹軍の進軍の結果。

それを簡易地図に配置しながら、咲夜と見下ろす。


基本的に県レベルで見た戦力は高くはない。

余程、普段から万が一の事態(・・・・・・)を想定し、臆病な程に準備をしていなければ。

常時抱えている戦力は五~六千も居れば多い方で。

一週間も有れば、一万に届く位には徴兵も可能だ。

だが、三万もの相手による唐突な侵略に対しては、抗う術は無いに等しいと言えるのが実状。

その為、その快進撃は何も不思議な事ではない。

──が、らしく(・・・)はない。

そう、俺達の目には映っている。



「…“原作”の袁紹なら兎も角、此方の袁紹からは想像し辛いわよね…こういった内容の行動は…」


「ああ、どう考えても袁紹の気質とは合わないな

侵略後の略奪行為(・・・・・・・・)、なんてのは特にな…」



原作でなら、“反董卓連合”が洛陽を攻略した際に袁紹軍を始め、幾つかの勢力が遣っていた蛮行。

だが、現実の袁紹は其処まで馬鹿でも暗愚でもなく本当に領民から慕われている善政者だ。


俺達が潰したとは言え、彼女は政略結婚に対しては肯定的(・・・)だった事は間違い無い。

「それが領民の為に成るのでしたら…」と。

自らの犠牲を厭わない、官吏──領主の模範。

そういった立場や血筋に生まれた役目を理解して、受け入れられる位に。

袁紹は出来た人格者だと言える。

自身が非力で、非才で、他よりも劣るのだと。

自覚を持った上で、出来る事を遣っている。

そういう彼女だから、俺達は助けようと思った。

決して、“原作キャラ”だからではない。


そんな彼女が、こんな事を遣るだろうか。

例え、思考を誘導されていたとしても。

その者の根幹を、価値観を変える程の変化を。

少なくとも俺は、個人的には受け入れ難い。

勿論、納得出来るだけの要因が有れば話は別だが。


報告に上がっている情報。

その中から、俺は一つの名を指差す。



「──“李表”、此奴が明らかに怪しいな

この部隊だけが、唯一全てに関わっている

そして、袁紹の率いる本隊は必ず(・・)別行動中だ」


「……単純に袁紹の目を盗んだ犯行?」


「その可能性も否定は出来無いな…

だが、コレ(・・)が知れ渡って()をするのは誰だ?」


「………っ、袁硅っ…」


「ああ、直接的な復権には為らないが…

失墜した信頼を取り戻す切っ掛け(・・・・)にはなる

そして、そう考えると、見えてくる悪意()が有る」


「…っ……つまり、ずっと前から(・・・・・・)

袁硅は袁紹を警戒し、領内に、臣下に自分の(・・・)手駒を潜り込ませ、隠していた訳?

宅に──いいえ、貴男に関係無く?…」


「それも、裏切る事が無く、自制(・・)出来る奴をな」


「…とんだ()を仕込んでいたものね…」



勿論、俺達の推測が正しければ、の話だが。

少なくとも可能性は捨て切れない。


この手の伏兵というのは、時間が経てば経つ程に、相手に近過ぎて感化され易くなるものだ。

“彼を知り、己を知りて、道を正す”と。

要は、“他人の振り見て、我が振り直せ”だ。

それが無い、絶対の忠誠心を持った毒棘。

これ以上無い布石だ。




 other side──


“果報は寝て待て”と言う様に。

物事は必ずしも、行動と結果が直結はしない。

勿論、そういう事も有るでしょうけれど。


一方で、“蒔かぬ種は生えぬ”とも言う様に。

何もしないのに良い結果だけを期待するというのは身勝手で都合の良い話だわ。

何もしないなら、結果は期待出来無い。

いいえ、期待する事自体が烏滸がましいわ。


だから、行動と結果は繋がっているという事。

ただ、それが自らの力により、確定は出来無い。

其処には“天運”の様な不可視の力が。

或いは、“時代の選定”を受けるかの様に。

忽然と齎されるのも確かだと言えるでしょう。


そんな、少しでも良い結果を期待している日々。

少しでも、御姉様の、私達の努力が報われるなら。

「どうか、御姉様に一欠片の奇跡を…」と。


そう願わずには居られない中で──耳にした一報。

ソレ(・・)は“凶報”でしかなかった。



「袁紹軍の勢いは衰えず、侵攻を続けています

少なくとも…遼西の三分の一は獲られるでしょう」


「…たった一週間で、もうこんなに………っ…」


「糞っ、このまま私達は何も出来無いのかっ…」



御姉様が、焔耶(・・)が、顔を歪める。

悔しくもあり、忸怩たる思いに、堪らず俯く。


けれど、それは仕方の無い事。

私達は決して全知全能という訳ではない。

出来る事にも、遣れる事にも、限りが有る。

どんなに尊い志を懐こうと、それを成せはしない。

理想を実現する為には、力が、金が、人が要る。

その何れもが、私達には無いのだから。


遼東郡を治める名門・袁家の突如の遼西への侵攻。

それだけでも十分なのに、戦力は三万にもなる。

はっきり言って、絶望する以外には無かった。

──私達が普通の弱者(・・・・・)だったなら、ね。


三万もの軍勢。

相手よりも多くの兵数を用意するのは戦の常道。

つまり、数の暴力(・・・・)は戦では常識な訳で。

だから、この結果自体は想定の範囲内(・・・・・・)

逆に言えば、まだ想定外の事は何も起きていない。

それは私達にも投じる一石(・・・・・)が有る証拠。



「…御姉様、私達の立場から考えれば、この遼西を袁紹が獲ろうと大して意味は有りません

何かが、劇的に変わる訳では有りませんから」


「──っ!?、桂花(・・)っ!、御前は──」


「──止めて焔耶ちゃんっ!」


「──っ!?、ですが姉上っ?!」



淡々と言った私の胸ぐらを焔耶が掴み、殴り掛かる勢いで引き寄せて距離を縮める。

それを御姉様が止める。

だが、私は焔耶を見据え、冷静に言葉を続ける。



「早とちりしないでよ、筋肉馬鹿」


「なっ!?、桂花っ、御前なあ──」


「──私は、戦う(・・)、アンタは?」


「────っ!?」



その一言で胸ぐらを掴んでいた焔耶の手が緩む。

私は「乱れたじゃないの」と愚痴りながら服を直し──御姉様を真っ直ぐに見据える。



「御姉様、戦う覚悟(意志)は御有りですか?」





──side out



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