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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   繋ぐ志の灯


咲夜が妊娠している、という事はだ。

現在妊娠中の妻達の中では、一番最初だった愛紗は七ヶ月を越えている訳で。

その御腹は大きく膨らんでいる。

…御腹に負けじと膨らんでいる双峰もだが。


大変さは有るだろうが、慣れない訳ではない。

寧ろ、皆は悪阻の方が厳しいらしいからな。

白蓮達も今の愛紗位の時期は平気な様だった。

まあ、氣を扱えるという事も大きな要因だろうが。

基本的に、一般の女性達よりも皆、身体が丈夫。

穏も「これでも昔は病弱だったんですよ~?」と。

今では苦笑しながら言っている位に健康ですから。

宅が如何に、日々の生活の基盤に健康管理の理念を重んじているか、判るかと思います。

その成果な訳ですから。



「愛紗、違うわよ、其処は此方から通して…」


「……ああ、成る程、そう遣る訳ですか

通りで忍の(・・)御手本と比べて編み目が可笑しいと…

やはり、実際に遣り方を見せて貰うと違いますね」


「それはそうよ──と言うか、御兄様のを御手本に遣ろうとすると失敗して当然よ

基本が出来ていなければ応用や複合は出来無いわ

御兄様の場合、昔からだから年期が違うもの」


「確かに……昔は興味が薄かったので気にしませんでしたが、普通に遣っていましたからね」


「御兄様以上に家庭的な(・・・・)男性は居ないわよ

料理の腕前なら料理人は高いでしょう

でも、それは料理の技術や知識に限られた話…

家事(・・)の能力とは直結しないもの」


「あー…確かに、忍って物凄い家庭的だよな

普段の仕事振りや武の力量とか見てると其方ばっか意識してて気付き難いからなぁ…」


「御兄様御自身、「俺は家事が得意だぞ!」という自己主張はされないし、するつもりもないもの

御兄様にとっての家事は生活の中の一部…

私達が息をするのと同じ様に、当たり前なのよ

だから、言われてみないと気付き難いのは当然ね

そして、そんな御兄様以上に家庭的な男性は居ない

居るとしても、それは“家事に限っては”よ

全てを含めれば、御兄様以上の男性など居ないわ」


「言い切るよな~…まあ、肯定しか出来無いけど」


「ふふっ…ええ、そうですね」



──と、華琳・愛紗・白蓮が談笑している。

その手には編み棒と毛糸による作り掛けの作品が。

そして、卓上に置かれているのは俺が編んだ冬着。

ええ、所謂セーターですよ、かなり上級編のね。


そりゃあ、華琳の言う様に失敗しますって。

愛紗は裁縫自体は上手いですけど、編み物は今まで遣った事が有りませんからね。

俺も華琳以外に教えたのは咲夜と月だけです。

だから、いきなりで出来無いのは当たり前です。


そんな三人の様子を誠達と眺める。

スヤスヤと息子達は寝息を立てていますけどね。

態々起こす理由も有りませんから。

健やかに育ちなさい、我が愛しき息子達よ。


──で、こんな風にのんびり出来るのは久し振り。

最近は書類に埋もれながら仕事をしていたからな。

…いや、書類仕事に塗れた日々だったからな。

一段落付いたんで、漸く平穏が訪れた訳です。

いやもうね、本当にね。

前世で考えると、留年無しの大卒のサラリーマンが定年退職するまで皆勤賞で働いて書き上げるだろう一生分の書類仕事を片付けた訳ですから。

………いや、それ以上でしょうね、間違い無く。


それはまあ?、そういう立場なんですからね。

仕方が無い事は判ってるんですけど。

今の──今生(・・)の世の中にはデータ処理が出来る様な機械技術(ツール)は存在していません。

しかも、墨と筆が主要な訳ですから。

「判子レスな社会をっ!」とかのレベルではなく、あらゆる面で手作業な訳ですよ。

寧ろ、判子の有無が重要な位ですからね~。


判子レスな社会は手間が省けますが、詐欺や偽造の犯罪が増加する事は否めない現実的な問題。

その対策を先に考えてから実施しないと…ねぇ。

それが想像出来無い政治家って、要りますかね?。

少なくとも、宅には要りませんね。

政治家として立つ瀬は愚か、自称(・・)の域です。



「…………………ふぅ………有りません」


「有難う御座いました」



──と、目の前で投了した冥琳と一礼し合う。

二人の間には愛が──有りますが、碁盤が。

傍には少し離れて対局を見ていた月と雛里が来て、終わった盤面を覗き込んでいます。

所謂、検討が始まった訳です。



「此処で守勢に回らざる得なかったのが痛いな…

やはり、此処で勇み足に為ったのが悪手か?」


「どうでしょうか…私でも此処では引けませんから同じ様に踏み込んだと思います

それよりも忍さんの此方等の切り返しが上手くて…

此処で粘り切れなかったのが響いたのでは?」


「そうですね……ただ、此処の広がりが此方等への繋がりを見据えた忍様の誘い(・・)でしたから…」


「ああ、確かに………ふぅ…まだまだ読めぬか…」



そう言って溜め息を吐きながらも、何処か嬉し気に口許に笑みを浮かべている冥琳。

負けず嫌いではあるが、同時に挑む楽しみが続き、遣り甲斐を感じているのだろう。

そう見せないだけで此方は必死ですけどね!。

貴女達、成長速度が早過ぎますよっ!。

少しは傲る兎(・・・)に為りませんか?。

…まあ、為ったら、為ったで、厳しくしますが。

俺、自分を鍛える時間が激減してるんですから。

……………はっ!?、これも孔明の罠かっ?!。

──まだ出逢ってもいませんけど。


──と、切り替えた冥琳が此方を見る。

否、正確には俺の頭の上を(・・・・・・)、だ。



「──で、忍、ソレ(・・)はどうしたんだ?」


「ああ、コレ(・・)ね…一種の禁断症状、かな?」



そう言って苦笑する事しか俺には出来無い。

初めて目にするから、戸惑うのは仕方が無い。

俺だって、初見で見たら「…大丈夫か?」と思わず訊ねてしまうだろうからな。

だから、冥琳達の反応は可笑しくはない。

寧ろ、よく今まで何事も無かったかの様に気にせず無視(スルー)出来ていたと感心してしまう。

前世なら「見ちゃ駄目よ!」な案件だろう。


そんな事の原因は──恋なんですよね~。

暫く、一緒に過ごせる時間が少なかった事も有り、今日は朝から張り付いて(・・・・・)離れません。

ええ、文字通りに俺に肩車状態で、俺の頭を抱えて離さない様に抱き締めているんです。

──あ、締め付けてはいませんよ?。

だから、ある意味では危険な柔軟地獄(天国)ですね。

そして、華琳並みに無駄な技量の使い方を。

俺に負担が掛からない様に軽氣功を使ってますし、引き剥がされない様に氣で張り付いています。

ええ、本当にね…何故、そんな無駄な使い方を…。


──とまあ、愚痴りたい気持ちは有りますが。

恋が寂しがっていたのも理解は出来ます。

なので、こうして許容している訳です。

あの華琳でさえ、「仕方が無い娘ね」と苦笑。

「恋だけなんて狡いです!」と言わなかっただけ、華琳も成長している訳です。

…まあ、どうせ後から御強請りされるでしょうが。

それはそれ、これはこれ、という事で。


尚、大体の者は見て見ぬ振り。

「私は何も見ていませんが?」と微笑む侍女達。

逆に怖いので止めて欲しいです。


それから息子達は俺に似て聡い様です。

「触らぬ呂布に祟り無し、ですよね?」と。

そう言わんばかりに、全く気付きません。

ええ、視線も意識も向けませんからね。

…生物としての本能が自己防衛を優先しているからなんでしょうかね、これって。


そんな訳で、恋は絶賛べったり中なんです。

最早、「新商品“呂布めっと”!、これで今日から貴方の安全を絶対防御!、しかも今なら大変御得な旧式ヘルメットを下取り致します!」と。

謎の通販番組を受信しそうです。

因みに、その呂布めっとは安眠中です。

それでも機能するんだから凄いですよね~。



「ふむ…禁断症状か…ならば、仕方が無いか」


「月さんは御存知だったんですか?」


「恋さんは私が忍さん達と出逢い、旅立たれた後、家族に成られたそうですから…」



俺の言葉に納得したのか、小さく頷く冥琳。

雛里の質問に、月は小さく頭を横に振る。

困ってはいないが、少しばかり言い難そうに。

だが、それも仕方が無い話だったりする。

何を隠そう、恋の禁断症状に関しては、宅の中でも知る者が少ないのだから。

凪と真桜も家族に成って長いが、知らない。

つまり、それ以前の関係者に自然と限られる。


俺達からすれば、それも当然と言えば当然だ。

恋の俺への依存度が高いのには出逢いも理由だが、その後の生活環境も大きく影響している。

当時、家族内で最年少だったのが恋だ。

だから、俺は兎も角、華琳も愛紗も梨芹も甘い。

恋の可愛らしさも有り、可愛がりまくっていた。


あれは…そう、老師が亡くなった時。

見た目には平気そうだったが。

実際には恋の心に小さくない痛みを刻んだ。

ただ、それでも俺達の存在が有ったから堪えられ、凪達の加入で姉弟子(・・・)という立場にも。

環境の変化が恋の成長を促した事は間違い無い。


──が、それはそれ、これはこれ、という訳で。

基本的には寂しがり屋で甘えん坊な恋。

実質的な姉である華琳・愛紗・梨芹には甘え易いが後発組の白蓮達年長組には一歩引いてしまう。

遠慮している訳ではない。

要は恋の人見知りな部分が、そうさせているだけ。

決して、白蓮達に隔意が有る訳ではない。

信頼もしているし、気も許してはいる。

ただ、まだ幼かった恋に愛情を注いでいた俺達との差は埋められない大きな違いな訳で。

家族が増える事は恋自身も素直に喜んでいるが。

それとは根本的な違いだったりする。


今の家族──白蓮達は俺を中心に増えている訳で。

恋を中心に、迎え入れた俺達とは少々異なる。

勿論、それも俺が中心だと言われれば否定する事は出来無かったりもするのだが。

それは、ちょっとした主観の違いでしかないが。

恋の深層意識には大きな違いとして根付く。

それだけ、俺達の存在は特別だと言う訳で。

特に、俺に対する感情は華琳にも負けず劣らず。


──とは言え、多少は成長を促す事も必要です。

だから、意図的に距離を取ったりする訳ですが。

結果、こうして“切なさ爆発”が起きる、と。

まあ、これを経て恋が成長する事は解ってます。

だから俺も華琳達も大して気にはしていません。


例えるなら、恋が成長する為に()に成っている。

そういう状態なんですよ、現状のコレが。

…まあ、かなり久し振りだったのは事実ですが。



「だがまあ、もう少しすれば誠達が遣るのだろうな

その時は恋の様には出来無いだろうから、忍の首の負担は気にしなくてはならないな」


「流石に子供一人の体重で痛めはしないって…

いや、それはまあ、成人男性の平均体重で三人分も有る様な巨漢の三歳児とかなら話は別だけどな」


「…そういう風に直ぐに妙な例えが思い付くのは、ある意味では才能なのだろうな

正直、そういった類いの表現は私には難しい事だ

どうしても小難しい言い方をしてしまう…」


「そうですね…それは私も同じですね…」


「忍さんは昔から、そういう例えが上手でしたね

私も初めて御逢いした頃、話を聞いているだけでも楽しかった事を忘れてはいませんから」


「確かになぁ…私も何度も感心した事が有るしな

例えが上手いって言うか、想像し易いんだよ」


「……そうだったか?」


「ええ、そうですよ、貴男は昔から上手です」


「御兄様は幼い頃から私に色々な話をしてくれて、私が理解し易い様に工夫して下さっていましたから

それが愛紗や梨芹、恋と家族が増えて更に磨かれ、より多くの者に教え導いた事で洗練されて…

けれど、それが御兄様には当たり前な訳です

特別な事ではなく、伝える(・・・)為の創意工夫…

理解を強要しない、優しくて素晴らしい教導です」



──と、ベタ褒めしてくる華琳。

そして、気付けば妻達に包囲されている訳で。

ええ、判りますよ、流石に判りますとも。

つまり、「恋ばっかり構わないで下さいね?」と。

要するに、そういう事なんでしょう?。





 馬超side──


“男女の機敏”なんて物、見える訳が無くて。

それを、「察しろ」だの「見抜け」だの。

勝手な事言うなっての!。

判んないものは判んないんだから。


…ただまあ…それは?、私だって判る様に成るなら判る様には成りたいけどさ…。

そういうのって簡単に出来る事じゃないんだし。

計算みたいな確かな答えや方法が有る訳でもない。

自分の経験や感覚から、その都度、最適解を選ぶ。

言葉にすれば単純そうだけどな。

現実的には、それって滅茶苦茶難しいんだよな。


勿論、そういった(・・・・・)のが得意な奴にとっては簡単な事なんだろうけどさ。

アタシは、そういうのが苦手な方だからなぁ…。

正直、自分でも自分には期待してない。



「──んっ、ヂュッ…チヂュッ…ヂュヅッ…んぅ…

こんな感じで良いのか?」


「ああ、大丈夫、気持ち良いよ」


「そっか……ん、ちゅっ…ヂヅッ、ヅヅュッ…」



同じ騎馬戦術を得意としている白蓮に習った事。

白蓮は梨芹から聞いたらしいけど…よく判んない。

正直、これの何が気持ち良いのか。

ただ、忍様の様子を見てる限り、間違いは無い。

…まあ、考え方を変えれば、銜えてる(・・・・)場所が違う。

それだけの事なんだけどさ。

これに必要性は感じない。

感じないんだけど………ちょっと、楽しい。

忍様の感じてる呻き声や表情を見てるのが。

それが嬉しくなってきて。

──で、アタシの方が我慢出来無くなって。

座ってる忍様の膝の上に座る格好で、御強請り。

培ってきた騎乗技術を、こんな形で使うなんて。

まあ、以前の自分からは考えられなかったな。

もう、考えてる余裕は無くなってきたけどォッ!。




もう五日目になる夫婦の営みを終え、忍様の胸元に頭を預け、抱き締められながら眠る。

それが想像以上に心地好くて──癖になる。

まあ、他の男に嫁ぐ訳でもないから困らないけど。

許されるなら、何日でも、忍様となら出来る。

一日の殆んどの時間を費やしても構わない位にな。


──とは言え、最初からって訳じゃない。

そういう経験は勿論、恋愛経験自体が初めて。

だから、色々不安だったしな。

けどさ、女の身体ってさ、本当に凄いよなぁ…。

…いや、勿論、私も、その女なんだけどさ。

初夜の時、最初は緊張してたけど、忍様は妻が多く経験豊富だから直ぐに緊張は解れて……感じて。

──で、本番って所で見た訳だ。

好奇心からだったんだけど。

「…………ぇ?、そ、そんなのが……入る…?」と言ってしまった位に、衝撃だったんだけどさ。

実際には、ちゃんと入るんだから不思議だよな。

…まあ、痛みが全く無かったって訳じゃないけど。


あと、“馬並み”って例えが理解出来た。

いや、馬のなら小さい頃から見慣れてるんだけど。

比喩って、近いから比喩なんだなって。

まあ、他のは知らないし、知りたくもないけどな。



──side out



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