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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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68話 紡ぐ命の唄


“偉業”──そう世の中で称賛される出来事を。

多くの人々が、何かしら一つは、その人生の中で。

生きて、知る事は少なくはないだろう。

それはとても素晴らしい事であり、光栄な事。

時には誇らしく、興奮を以て歓喜する事である。


その偉業の多くは、“初めて”の事の達成や発見、或いは開発や完成の事だったりする訳だが。

それは当然と言えば当然の事だろう。

前人未到、或いは前人未踏というのは。

それを目指しながらも、思い描きながらも。

誰も手が届かなかった、掴めなかったからこそ。

その偉業は高く評価され、称賛される。


そして、二番目(・・・)二度目(・・・)では。

偉業と呼ばれる事は、極めて少ない。

勿論、無くはないが、それは最初から、ある程度の年月を経ても、成し遂げる者が居ない場合で。

多くが、スポーツ関係の記録だったりする。

言わずとも、技術等は普及してしまうのだから。

最初こそが偉業で、次から次へと技術の進歩により改良・発展した新たな技術は世の中に生まれてゆく。

そういう意味では技術的な偉業は文字通りに始端。

だからこそ、特別な偉業だと言えるのだろう。


さて、そんな偉業と同じ音である“異形”。

大体の場合、良くない印象や意味で用いられるが。

それは、ある意味では仕方が無い事だろう。

とある者には普通でも、初めての者には未知(・・)

それ故に、畏怖や警戒心、時には嫌悪感や不信感を懐いてしまう事は、何も可笑しな事ではない。

寧ろ、そうなる事は自然だと言える。


ただ、多くの場合、其処に排除(・・)意識が働く。

姿形、言葉、食文化、信仰心…等々。

異なる価値観が故に、拒絶という選択をし易い。

何故なら、その異なる価値観を理解しようと努める事は決して簡単ではないのだから。

──とは言え、それ自体も仕方が無い事。

最も簡単で、判り易い対応・対処なのだから。


問題は、それが差別や暴力、時には虐殺に及ぶ事。

自然界ではない、人間にだけ有る、特異な性質。


群れる事で生存率を上げる事は可笑しくはないが。

人間には「自分達こそが地上の支配者だ!」と。

勘違いし易い性質が有る。

その自己顕示欲が、支配欲へと繋がってゆき。

結果、傲り偏った価値観が出来上がってしまう。


そんな自己顕示欲を狙ったツールが。

人類に流行り、社会問題の温床となる事は。

皮肉な事ではなく、必然だとしか言えない。

つまり、人類の根幹は全く進化などしていない事を形を変えただけで、示しているのだから。



「──ぅ゛っ……っ………はぁ…想像以上だわ…」


「個人差は有るけど楽な話は聞かないからな」


「……これも“産みの苦しみ”って訳ね…」


「その通りだが…使い方が違う気がするぞ?」


「貴男にだけは言われたくはないわね……ぅっ…」



──と、俺特製のソファーに深く座る咲夜。

ぐったりと、疲れ果てているかの様な態度を見ると心配せずには居られないが。

まあ、一方で今では見慣れてもいる。

だから、慌てず焦らず普段通りに。

咲夜にハーブティーを淹れ、手渡す。


言うまでも無い事だが、咲夜は妊娠している。

勿論、俺との子供を、です。

予定通り、愛紗が妊娠六ヶ月を越えましたからね。

避妊を止めて子作りに励んでいた訳ですが。

…うん、愛紗じゃないけど、早かったね。

何しろ、同じ様に妊活に入った雛里は…まだだ。

それなのに、咲夜は「待ってましたっ!」と言わんばかりに最短で妊娠した訳ですからね。

「いや、待望し過ぎじゃね?」と言いたくなるのは決して可笑しな事ではないだろう。

まあ、待望なのは俺としても同じだけどな。

咲夜に限らず、誰との子供も待望の我が子。

だから、妻の懐妊は本当に嬉しい限りだ。


尚、雛里が「私も負けてはいられません!」と。

皆と同様の負けず嫌いを発揮していますが。

ええ、もう二週間もすれば成果(・・)が出る事でしょう。



「………それより、本当に良かったの?」


「ん?、この時期に妊娠した事か?」


「ええ…それはね、私は嬉しいし、幸せよ

だけど、状況が状況じゃない?

流石に先送りにしても仕方が無いとは思うもの…」


「それを気にしてたら家族計画は成り立たないしな

…まあ、華琳と凪以外は回せば(・・・)行けるからな

そういう意味では、家族計画も実行し易い」


「それは………まあ、そうよね、ええ…

あの二人は──特に華琳は要だしね」


「…違う意味でなら、恋も後回しだけどな」


「あー……それはねぇ……悪くはないんだけど…」


「良くも悪くも恋は純粋だからな…

俺が──俺達が、配慮して遣らないと危うい

間違っても我が子を殺める事が無い様にな」


「誰かが産んだ子供とは違う分、心配だしね…」


「それでも昔の事を思えば成長はしているからな

御前や雛里が出産し終えた頃には更に成長している──と良いんだけどな…」


「…其処で急に不安に為らないでくれない?」


「いや、恋に限っては言い切れないんだよなぁ…

ある意味、俺達自身も予想外()に慣れてるだけに」


「………………言い返す言葉が見付からないわ…」



そう言って溜め息を吐く咲夜。

何を思い浮かべ、どう考えたのか。

一々聞かなくても理解出来てしまう。

それ位に、我が家では当たり前に為っている事。

決して、恋が悪い訳ではない。

ただ、ちょっとばかり、純粋過ぎるというだけ。

そう、たったそれだけの話。

しかし、それだけの事が、意外と大きく影響する。

世の中の少数派が淘汰され易い事は否めない。


──とまあ、そんな話は置いといて。

…え?、「そんな話じゃないだろっ?!」って?。

いやまあ、確かに重要な事では有りますけどね。

我が家では恋は肯定されるので心配要りません。

恋の純粋さを矯正しようとは思いませんから。

純粋なまま、成長させるだけです。

…まあ、それが難しい事では有りますけどね。

それ自体は、ずっと俺達が遣って来た事なんで。

ある意味、今更なんですよ。

だから、特に問題には為りません。

要は、此方等が焦れたりしない事です。

導く事と同様に、“成長を待つ”事も大切です。

人は皆、全く同じではないのだから。


──で、宅のプライベート事情は置いといて。

新しく領地として統治下に置いた西側ですが。

新体制への移行は、流通網の拡大と活性化を狙って商機を匂わせたら、積極的に往き来する様になった商人達の口という広告塔を使い、意識を誘導。

「私は啄郡の出身ですが、徐恕様の統治は以前より治安も良くなり、飢える心配も無くなりました」等生きた感想を、生の声で届け、広める。

そうすると、民衆の不安は明確に解消される。

何故なら、口先だけではなく、現実なのだから。

その甲斐も有り、反発は無いに等しかった。

勿論、全く無い訳ではないですけどね。

その手(・・・)の相手は大体が対処し易いので。

さくっ、と片付けて御仕舞いです。

柵だらけの前世では考えられない早さでしょう。


問題らしい問題は有りませんが──玄菟郡の四家。

厳家・張家・楊家は俺の血が入るので構いませんが結果的には更に格差が生じるのが李度亡き後の李家だったりする訳です。

──とは言え、今の李家の直系の跡取りは居らず、李度も独身でしたからね。

兄弟姉妹も居ない為、一番血筋的に濃い人物を──李度の父親の腹違いの平民の男性に嫁いでいた妹を探し出しました。

現在、息子が二人に、娘が一人という事です。

その娘を俺が娶る──なんて事は有りません。


しかし、後を継がせる訳にも行きません。

だって、農家の出身なんですもん。

はっきり言って能力が足りません。

ただ、親である夫婦は常識的でして。

変な欲望や野心を持った人物では有りません。

其処で、一番年下の娘さんを預かり、育てます。

将来的には婿を迎え、娘を(・・)産んで貰う。

その娘に俺の息子が婿入りし、李家を再興します。


遣らかしているから潰しても良いんですけどね。

李度がアレだっただけで、基本的に李家は領民から信頼されていましたし、慕われていた家でしたから残して置いた方が心証が良くなる訳です。

政治って、印象操作が大事ですからね~。


──とまあ、そんな感じで、西側は順調。

代官を置き、俺達は東側に備える為に啄郡へ。

久し振りに本拠に構えるので、気分が楽です。

……定期的な出張はしないといけませんけどね~。



「……ねぇ、ちょっと訊きたいんだけど…」


「どうした?、御代わりか?」


「違うけど、それはそれで貰うわ」



以前なら、ツッコミの様に声を張る場面だが。

その気力も無い様で、面倒臭そうに言う咲夜。

苦笑しながら空に成った茶杯を受け取り、注ぐ。



「そのね…私って、ほら、名前からすると…」


「…ああ、成る程な、“司馬八達”の親だしな

そうした方が良いのかって事だろ?」


「ええ…あ、勿論、子供自体は沢山欲しいからね?

一人だけって事はないから

ただ…ほら、司馬家って……アレでしょう?」


「とある一つの世界(・・・・・)の歴史だな

そんな事、一々気にする必要は無いって」


「それは…そうなんだけどね…」


「だったら、九達・十達と増やせばいいだろ」


「……其処で減らさないのね」


「子供は多い方が嬉しいし、現実的に必要だからな

兎に角、俺の子供は多い事に越した事は無い

物凄い政略的な理由だけどな」


「…そうよね、貴男って、そういう人なのよね…

はぁ~~~~~~っ……悩んでて損した気分だわ」



大きく伸びをして、表情を明るくする咲夜。

その苦悩は必然的だと言えば必然的な事。

彼女自身が、そういう立場だったのだから。

色々と考えてしまう事は、ある意味仕方が無い。


歴史だ原作(・・)だと気にしても。

或いは気にしなかったとしても。

それが、必ず現実となる訳ではない。

だったら、自分の思う様に、意志を以て歩む。

そう割り切ってしまった方が生き易い。

其処に行けるまでが、多少時間を要する訳だが。

一度辿り着いてしまえば、霧は晴れてゆく。

二度と、同じ迷いを懐かない位に、さっぱりとな。


──と言うか、原作(ゲーム)に司馬家って居ないし。

……ああ、後続シリーズが出てたら、判らないか。

結論としては、どうでもいいんだけどな。



「ねえ、司馬八達って歴史上だと八兄弟じゃない

原作に倣うなら、八姉妹になるのかしら?」


「可能性だけなら、一人目で五分五分だな

ただ、原作の話をするなら、唯一子供が出来ている呉ルートでは全員娘だったからなぁ…

そういう意味だと、もう違ってるだろ?」


「そうね、真逆で全員跡取り(・・・)息子よね

…貴男、本当に意図的に作ってないわよね?」


「それは流石に無理だな

妊娠させるだけなら、出来無い訳じゃないが」


「それ、華琳が聞いたら喜びそうね」


「言うなよ?、言うんじゃないぞ?、言わないで」


「私ね、此処が少しムズムスしてるのよ…ね?」



そう言って咲夜は交換条件(口止め料)を要求してくる。

俺に「だが、断る!」と言う選択肢は無い。

滅茶苦茶言いたいけどねっ!。

言ってから、咲夜を食って遣りたい。


しかし、現実は非情なんですよ。

咲夜相手だから、うっかり口を滑らせましたが。

華琳にだけは知られては為りません。

知られたら最後、愛妹(教祖)が遣るを出しますから。

絶対にっ!!、知られては為りません。



「私ね、取り敢えず三人ずつは欲しいかな」


「作り分け、産み分けは出来ませんが?」


「二年に一人のペースでなら最短で十一年だけど…

一回でも双子以上が出来たら早いわよ?」


「………それは、つまり…俺に遣れ(・・)と?」


して(・・)くれるなら、三度目以降よね

少なくとも二度目は、まだ自然に(・・・)任せたいもの」


「……………ぜ、善処させて頂きます…」


「期待してるわね、愛しの旦那様」



華琳には知られたくはないが。

口を滑らせた自分が恨めしい。

子供が出来る事は良いんですけどね。

意図的には……いや、妊活も意図的だもんなぁ…。




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