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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   何かしらの


…え?、代県の県令・丁亮?。

「……あー…そんなの居たな」程度の存在か。

だから、記憶に御座いません!。


──いや、嘘ですよ、嘘。

丁亮ですよね?、うん、ちゃんと覚えてますって。

スムーズな掃除の為に重要な事は手順と標的の確認ですからね。

その辺りは把握していますし、人任せにはしないで自分で確認をする様にはしていますから。


…え?、「なら、何で嘘を吐いたんだ?」って?。

やだなぁ~、何ですか、その刑事ドラマの取調室で聴取してるみたいな恐~い顔は。

ほら~、笑って笑って、ハイ、おっぱっぴー。

あっ!、面白くないからって石を投げないっ!。

良い子が真似したら、どうするんですかっ?!。


──みたいな、どうでも良い事なんですけどね。

ええ、サクサクッと片付きましたよ、代郡の件は。

上谷郡や玄菟郡の事を思えば、大楽勝です。

だって、現在の宅の軍将、思春しか出てませんし。

賊徒の討伐も今回は軍属の部隊だけで十分な範疇。

着実に練度も実力も上がっていますからね。

主力が動くまでも有りません。


まあ、軍師は必要なので華琳と咲夜と亞莎が同行。

事後処理は董家と鳳家の臣家から抜擢しました。

だってね、大小問わず無能な代郡の官吏を処分した結果、全滅だったんですもん。

仕方が無いじゃないですか。

尤も、民からは嫌われてた連中ですからね。

居なくなって喜ばれても、悲哀や憎悪は皆無。

ある意味、地味に凄い事なんですけどね。

だってほら、官吏全員が嫌われてるって滅多に有る事じゃないんですから。

そういう意味では腐敗が酷かった訳ですよ。

いや~、綺麗さっぱりしましたよ、本当にね。



()様~、此方等も御願いしま~す」


「………のぉ、七乃(・・)さんや?

さっきから御前さんが部屋に出入りする度に竹簡の山が増えてってる気がするんじゃがのぉ?」


「嫌ですね~、そんな訳無いじゃないですか~

まだまだ呆けるには早いですよ~」


「ほっ、ほっ、ほっ、そうかぃ、そうかぃ…

──って、んな訳有るかぁあーーーいっ!

明らかに増えてるわーっ!

──と言うか、何でチマチマ持って来るのかな?

纏めて持って来れないのかな?、かな?」



卓袱台ならぬ、執務机返し(・・・・・)を遣りたい衝動を抑え、頑張っていた俺は偉いと思う。

いや本当にね、よく頑張ってるよ、俺。

だけど、納得している訳じゃあ有りません。

ええ、理不尽に対しては抗いますとも!。


──なので、頭を抱えて叫ぶ様にして見せてから、七乃が意識を逸らした一瞬で背後に回り込みます。

七乃が「正面に相手をすると面倒臭そうですから、さっさと退散しましょうかね~」といった雰囲気で回れ右をした直後でしたから。

丁度、机を背にした七乃を挟み込む格好に。

壁ドンではなく、机ドンですかね。

あと、顎クイではなく、顔ズイです。

机に押し倒す勢いで顔を近付けて遣ります。


不意打ちには七乃でも吃驚してますが、立て直しの早さは見事と言うしか有りません。

あの、人を食った様な笑顔は標準装備の様です。



「あははは…あ、あの~…忍様~?

その…御顔が物凄~く、近いんですけど~?」


「近付けてるからな、何なら黙らせようか?」


「そうしたら、何も話せませんよ~?」


「寧ろ、何でも喋ってくれるかもしれないぞ?」


「それは………まあ、そうかもしれませんけど…」


「──と言うか、喋れない事が不都合だと思ってる時点で何かしらの理由が有る訳だよな?、ん?」



そう言いながら逃がさない様に身体を密着させる。

イナバウワーばりに仰け反りながらも机に倒れない七乃の身体の柔らかさには、ちょっと吃驚です。

まあ、流石に御尻は当たってますけどね。


身体が固いと、姿勢を保てず転倒している所。

頭を打たない様に俺が手を差し込み支える。

しかし、下半身は反っていた反動で上がる訳で。

最終的な体勢は、俺が七乃を机に押し倒し襲ってる様に見える格好に為っていた事でしょう。

そして、誰かが部屋に来て目撃、と。

それが、ラブコメ展開の御約束でしょうね。


そんな御約束を自力でブレイクする七乃。

其処に痺れる憧れる!。

──訳が有りませんけどね。


取り敢えず、言外に「口を割るまで逃がすか」と。

笑顔と視線で圧力を掛けて落としに掛かる。

「ほら、早く吐い(ゲロッ)ちまいな」と。

気の短い暴力刑事の取り調べみたいにね。

勿論、俺は手を上げはしませんけど。



「──っ………え~と…その~…………てへっ…」


「よし、良い度胸だ、その勝負、受けて立とう」


「えっ!?、ちょっ、じ、忍さぅんんっ!?」



七乃の態度に久し振りに遣る気スイッチがON!。

七乃に触れない様に覆い被さり、両手を机に着いて逃げ場を無くす様に腰も足もギリギリまで寄せる。

その状態で顔を七乃の首筋に近付け、唇を落とす。

触れる様に、啄む様に、撫でる様に、啜る様に。

首筋から、肩口、顎下、鎖骨、耳朶、胸元…と。

優しく、時に強く、擽る様に、焦らす様に。

じっくり、ネットリ、たっぷりと攻めて遣ります。






「仕方が無かったんです…

御嬢様が「ちょっと現場に確認に行って来る」って出て行ってから、全然戻って来なくて…

でも、その間も片付けないといけない仕事は次々に涌いて来ますし、溜まっていく一方で…

せめて、御嬢様じゃなくても私や忍様が出来る物は片付けてしまわないと…」



──と、机に背を預け、床に座り込んだ七乃が俺を濡れた眼で見上げながら話す。

目尻に浮かぶのは涙。

しかし、悲哀や痛みからではない。

苦悶では有ったかもしれませんが。

与えられる快感と、もどかしさと切なさ。

経験者なら「御預け(・・・)なんて酷いです」と睨んでくる状態に追い込みましたからね。

流石に口を割ります。


──と言うか、この七乃は原作の張勲とは違うので彼処までの愉快犯な性質は有りません。

…多少は、悪戯好き・揶揄い好きでは有りますが。

基本的には、真面目ですし、非常に忠誠心が高い。

だから、桔梗に対する忠誠心は今でも強いですし、桔梗や七乃を救った俺への忠誠心も高い。

打算と計算だけで権力に屈する事は無い。

そう見せ掛けて利用し、逆に喰らおうとする。

そういう強かさを持ってはいますけどね。


だから、今の七乃の言葉は信じられる。

嘘や冗談を言う状況ではないからな。



「はぁ~……それなら最初から、そう言えって…

桔梗(・・)の件は別問題だとしても、仕事自体を片付ける事には俺も協力はする

それに、その程度で桔梗や七乃の立場を悪くしようなんて事は考えもしないって」


「申し訳有りません…」



そう言って謝る七乃だが、考えは間違いではない。

一言有れば称賛すべき事なのだが…仕方が無い。

それを見逃すと組織的な乱れに繋がるからだ。

まあ、処罰しない訳にはいかないけど、大きな罰を課すまでではない。

その辺りの対処が面倒臭いから、こういった案件は起きないで欲しいし、起こさない様にしている。


まあ、原因の桔梗に()はしますけどね。

ええ、それに関しては仕方が有りません。

桔梗自身の責任、自業自得ですからね、ええ。


それはそれとして、これは後から後からチマチマと上げてる組織の下位構造にも問題が有るな。

勿論、いきなり宅の遣り方に切り替えて、今までと違う状況で「ミス無く完璧に遣れ」とは言わない。

──と言うか、そんな事言う馬鹿が居たら、自分も全く違う状況に強制的に置かれて、何の準備も無く完璧に遣れてから、言えと思う。

俺なら、実際に遣らせるね、容赦無く。

当然、出来無かったら罰するしね。


ただまあ、職人さんとかって、そう遣って後継者を鍛え上げる訳ですからね~。

全部が全部、悪いって訳でも有りません。

習う側、未熟な側にも問題は有るでしょうしね。

そういう事に部外者が口を挟むのは悪手です。

基本的には当事者同士の対話が一番重要な訳で。

世間体や一般論は必ずしも正しい訳ではなく。

飽く迄も、一例・参考でしかないのだから。


尤も、目に余る程の暴力行為が有るとかだったら、第三者の介入も必要ですけどね。

ただ不思議な物で、そういうのは前世の方が多く、現世では賊徒や一部の特権階級の悪事は有りますが市井では意外と少ない訳です。


それは皮肉な話で、弱者を守ろうとする社会こそが新たな弱者を生み出し、苦しめている訳で。

権力者(・・・)ばかりが豊かで楽しく生活する。

政治的、経済的な意味合いだけではなく。

他者に対し、物事に対し、影響力を持つ立場なら。

それは十分に特別であり、権力者だと言える。

其処から正し、変えて行かなくては無理な話。


さて、人類の滅亡と、真の世界平和。

一体、何方等が早いのか。

御偉い方々(・・・・・)に訊いてみたいものだ。

まあ、今の俺には未来(過去)の話だけどね。


取り敢えず、放置してた仕事を片付けないとな。

──と思って椅子に戻ろうとしたら、控え目に服を引っ張られ、振り向くと俺を見上げる七乃が。



「…………あの、忍様…その、大変申し上げ難い事なんですけど…」


「何だ?」


「……腰が抜けて動けません」


「………………すまん」


「いいえ、私にも非は有りましたので…

ですから、取り敢えず、責任を取って下さい」


「はい」



そう言って動けない七乃を御姫様抱っこし、運ぶ。

腰が抜けていても仕事は出来ますが、移動がね。

…え?、「氣を使って治せよ」ですって?。

いえね、それが“腰が抜ける”って不思議な物で、原因が特定出来無いんですよ。

ヘルニアとか、骨折や脱臼なら治せるんですけど。

だから腰が抜けた場合、時間経過による自然回復を待つ意外に特に何も出来無いんです。

本当に人体って不思議ですよね~。


──という訳で、七乃を七乃の部屋まで運びます。

その際、俺の首に両腕を回して、しっかりと密着。

その破壊力十分な双砲を突き付けてくる。

加えて、きっちりと仕返しもされる。

首筋に、耳朶に、顎下に、鎖骨に、キスされて。

チラッと咎める様に見れば、熱っぽい眼差しを向けながら「先程、貴男が私にした事ですよ?」と。

言い返せない反論をされ、されるがままに。


部屋に着いて下ろすと「これで終わりですか?」と何か(・・)を期待する様に眼差しを向けてくる。

思わず、「良いんだな?」と誘われそうに。

流石に踏んだ場数が違いますからね。

しっかりと踏み止まれましたよ。

…まあ、七乃との距離が縮まったので良しとする。

悶々、ムラムラしてるのは忘れましょう。

仕事が俺を待っていますから。

………ちょっと悲しくて、壁に凭れてしまったのは仕方が無い事だと思うんですよね……グスッ…。






「──で、君達は何をしているのかな?」



部屋に戻って来たら、華琳に凪に咲夜が居た。

いや、連れて来てるから居るのは可笑しくはない。

任せた仕事が終われば、報告にも来るからね。

だから三人が部屋に居ても可笑しくは有りません。


ただ、何やら獰猛な気配を纏っていなければ。

その迫力に思わず後退り仕掛けたのは内緒です。



「御兄様、七乃としましたか?」


「…いきなり何を訊いてくるのかな、御前は?」



溜め息を吐きながら、デコピンをしようとしたら、凪が割り込んで来て阻止する。

その意外な行動に驚き、間を与えてしまう。

華琳と咲夜が意志疎通(アイコンタクト)するには十分な。



「凪、何を──」


「御兄様、その口付けの跡は七乃に、ですよね?」


「──────え゛?」



華琳の一言に、思わず左手で触ってしまった。

俺は見られたら七乃が困るだろうからキスマークが残らない様に力加減をしていたんだけど。

七乃からしたら、その意図は判らないでしょう。

だから、残っていても可笑しくはない。

──普段から、氣で証拠隠滅をしている事を忘れ、反応してしまう程に動揺していなければ。

上手く誤魔化し切れたのに。

そう、舌舐め擦りしている三人の雌獅子を見ながら片付かないままの仕事に手を合わせて謝る。

もう少し時間を下さい、と。





 張遼side──


ふと、見上げた空を飛ぶ二羽の小鳥が瞳に映る。

仲良さそうに戯れながら行く姿は、見ているだけで思わず口元が緩んでしまいそうになる。

ちょい前までやと、そんな余裕は有らへんかったし大して気にもせぇへんかった事やけどな。

今は、そういう事にも意識が向く様になった。


せやから、何と無く考えてしまう。

「あの二羽、兄弟姉妹か?、親子か?、親友か?、それとも──夫婦や恋仲か?」と。

以前のウチやったら、考えもせんかった事や。

そう考えてしまう様にしたんは──忍や。


勿論、ウチかて結婚とか考えた事が無い訳やなく、冥琳達と話した事かて有る。

それでも、それは所詮は“たられば”の話で。

真剣に考えて話してた訳やない。

飽く迄も、「まあ、結婚するんやったら…」位の。

自分に都合の良ぇ理想や条件を口にしただけ。

深く考えて言った事や無かった。


つまり、ウチ自身は結婚を意識した事は無い。

「結婚はしたい?」と訊かれたから、「せやな」と返した程度の浅慮な、他愛無い相槌みたいな物。

それよりも、己が武を磨く事が楽しかった。


そんなウチが、今は忍の事しか見えてへん。

いや、勿論、更なる武の“高み”は目指してるし、それを此処では普通に遣っとるからなぁ。

ウチにとっては願ったり叶ったりなんやけど。


……そうなんやけど…なぁ~…。

何やかんや有って、忍の側には居れるんやけど。

一向にウチ等の関係は進展せぇへんしなぁ…。

まあ、ウチに魅力が無いっちゅう訳や無い事だけはウチかて判っとるんやけど。

儘成らんなぁ~…。

今かて、此方に来る仕事が有ったから冥琳に頼んで捩じ込む形で遣って来たんやけど…。

忍、書類仕事が多ぅて外に出て来ぅへんし。

仕事の報告は偶々会ぅた華琳に言ぅて終い。

忍に会う理由には為らへん。

…ウチ、まだ嫁でも、恋人でも有らへんしなぁ…。



「──ん?、御前…霞か?」


「ぁ゛あ゛?…って、何や、桔梗やないか

此ないな場所で何してんねん?」



沈んどった所に真名を呼ばれてたもんやから態度の悪い反応をしてもうたけど、相手は桔梗やった。

桔梗とは武者修行の旅をしとった時に知り合うて、似た者同士やったから意気投合。

真名を預け合い、酒を酌み交わし、死合いもした。

──って、冷静に考えたら、そら此処は桔梗の地元なんやから居るわな。



「いや、それは此方の台詞だが………ん?、霞よ、その羽織りは新調したのか?」


「へ?…ああ、コレか、どうや、似合っとるやろ?

ウチな、今、噂の大太守に仕えとんねん!」



そう言って一回転して忍から貰ぅた特製の羽織りを桔梗に見せる。

冥琳達も各々貰ぅてるけど、忍の御手製や。

これを着とるだけで、抱かれとる気がするんよ。

……まあ、気がするだけやけどな。



「そうなのか?……いや、御前なら当然か…」


「せやろせやろ?」



そう言いながら、ウチの機嫌は直る。

桔梗と積もる話も有り、盛り上がり──二人で忍に叱られるんは、その後の話や。



──side out



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