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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   少なからず


上谷郡・玄菟郡と取った為、新体制への移行に伴う仕事に追われている今日この頃。

上谷郡では内乱を利用して取捨選択出来ましたが、玄菟郡では李度を処罰しただけです。

──と言うのが、表向きな発言。

実際には李度との繋がりや、裏で遣っていた私腹を肥やす為の不正等の証拠を抑えていましたからね。

ばった、ばったと“切り捨て御免!”です。

ええ、そういう連中は宅の組織には要りません。

将来的な発癌性物質みたいな物ですから。

健全な組織の為には必要な処置でしょう。



「……改めて貴男の凄さに畏怖と尊敬を懐きます」



そう俺を見ながら言ったのは対面に座る稟。

二人で、山積みにされた上谷郡に関する竹簡山脈(チョモランマ)を一生懸命に攻略している真っ最中の事。

その為、最初は自分の手際の良さだと思った。

思わず、「まあ、伊達に世界最高峰級の山を幾つも制覇してはいないからな」と言い掛けた。

うん、普通に勘違いしても可笑しくないよね。

ただ、俺は直ぐに気付きましたよ、ええ。

だから勘違いは一瞬だけ。

決して、口には出しませんでしたから。



畏怖(・・)の方が先に来るんだな」


「…意外ですね、貴男でも気になりますか?」


「それはな、他者に与える自分の印象を正しく把握出来ている事は処世術では重要な事だろ?

見せ方と同じ位に見え方(・・・)も大事だ

それは言い換えれば、自分に求められている要素を知る事にも繋がるからな」


「成る程…確かに、そうかもしれませんね

ただ、そうなる事は仕方が有りません

それだけの手腕を目の当たりにしたのですから…

勿論、だからこそ貴男に素直に従える訳ですから、決して悪い事ではなかったと思いますが」


「ふ~ん…それは女としてもか?」


「──っ……まあ、そうですね

恐らく、私自身が“自分より優れた男性”と認める事が出来るのは、貴男以外には居ないでしょう

もし、仮に居たとしても──貴男と比較するまでも有りませんね

それ程に貴男は格が違うという事ですから

そんな貴男に経緯はどうであれ、見初められた事は一人の女としては光栄な限りです」


「むぅ…日増しに耐性が出来ておるな…」


「気にされるのは其処ですか?」


「勿論、“トキメキ”は大事なんだからな?

これから俺達は長い人生を一緒に歩いて行くんだ

夫婦関係に置ける“慣れ”は飽き(・・)に等しい

勿論、慣れる必要が有る事も有るのは確かだけどな

“相手が居る事が当たり前”になると、共に在る事自体が如何に特別な事なのか…

それを忘れてしまい易いからな

少なくとも、俺にとっては御前と共に在る事自体が一つの奇跡を掴んでいるに等しい事だ」


「~~~~~~っっ!!??」



──と言えば、顔を真っ赤にする稟。

あらあら、まあまあ、可愛い事で。

まんだまんだ防御力は紙装甲だなやぁ~。


華琳なんて進化し過ぎて防御力が攻撃力に転化して隙有らば攻め立てて来ますからね~。

勿論、可愛い事に間違いは有りません。

宅の愛妹が宇宙一なのは間違い有りませんから。


──というのは、置いといて。

今、稟に言った事は本音ですし、本気です。

所謂、倦怠期や夫婦関係の冷め(・・)は心理的要因が主な原因だと言っても間違いではない。

勿論、それだけという訳ではないし、それが絶対に当て填まるという訳でもないでしょうけど。

“結婚”という一つの区切りを迎える事によって、男女関係が夫婦関係に変わってしまうのは物理的や法的な関係上ではなく、心理的な面が強い。


特に家事と仕事、加えて育児を夫婦で行う訳だが、多くの夫婦は分担制(・・・)にし勝ちだ。

勿論、効率等を考えれば悪い訳ではない。

しかし、そう決めたのは自分達だが、相手に対する感謝や気遣いは日増しに薄れて行き易く。

繰り返し繰り返しの生活に対する不満ばかり募り、自分だけが不公平な様に感じ易くもなる。


それを改めて話し合い、変えていけば良いのだが。

大体は意見が分かれ、喧嘩になる事だろう。

仮に、「良いね」と前向きに遣り始めたとしても、御互いに「違う違う、そうじゃなくて!」等々と、不慣れな相手に苛立つもの。

ずっと遣っていた方からしたら手際が悪いし無駄な事ばかり目に付いてしまう事だろう。

しかし、それは不慣れなのだから当然の事。

何しろ、年期(・・)が違うのだから。

経験値が違えば、技量は違って当然。

ゲームで言えば、レベルの違いの様な物。

レベル1が、レベル80オーバーに簡単に並び立つ活躍が出来るとは、普通は考えられないだろう。

どんなに優れた装備品を身に付けても。

所詮は、レベル1はレベル1。

ゲームのシステム上にバグでも内限りは不可能。


そう、ゲームでなら考えられる筈なのに。

現実の事となると、人は客観視が出来無くなる。

その結果、最初から明確な答えを見失う。


まあ、そういった事を行う事で色々と経験し合って御互いの大変さを理解しよう、と。

そういう意図が有るなら、全然有りだろうが。

ただ遣るだけでは、遣る意味は無いに等しい。

何事に置いても経験をする事は確かに重要だが。

真剣に取り組まなければ意味の無い事も有る。

それを見極めて遣らなくては、時間の無駄。

別の事に使った方が有意義だと言えるだろう。


──とまあ、そういう考え方なんですよ、俺はね。

現生(・・)だからではなく、前生(・・)からです。

…独り身でしたけど。



「そう言えば、稟、御前の宅での役職の事だけど、軍師じゃなくて、普通の文官(・・・・・)で良いのか?」


「…っ、はい、それで構いません

対立していた立場だったとは言え、郭栄()の遣った事への責任が無い訳では有りません

貴男や上谷郡の民が赦してくれたとしても私自身が直ぐに受け入れる事が出来ません

…「頭が固い」とか、「糞真面目」とか言われても仕方が有りませんが」


「自分で自虐的に言える様なら大丈夫だけどな」



そう言って二人で苦笑し合う。

意図は理解している上で、確認しただけ。

飽く迄、それだけの話。

それ以上でも、それ以下でも、それ以外でもない。


勿論、稟の才器を考えれば直ぐにでも軍師の役職に就いて経験を積みながら活躍して貰いたいのだが。

ちょっとばかり、生々しい話をするのなら。

“俺の妻に為れば要職が約束されている”みたいな勘違いをされても困るし、面倒臭い。

だから、稟の様に一度()をする必要が有る。

そう見せておく(・・・・・)事も必要。

斗詩は顔家の後継ぎだから代われないしな。


尚、思春に関しては表沙汰には出来無い話なので。

過去に対する禊は彼女自身の働きを以て、です。

勿論、心配はしていません。

……あー…いや、違う意味では心配ですけどね。

それは思春に限った話ではないので。

ある意味、俺にとっては経験豊富な問題です。

その手の専門家(エキスパート)とすら言えますよ。



「まあ、それも名目上だけで仕事自体は、がっつり深い部分まで関わって貰う事になるけどな」


「はい、それは勿論です

何しろ、私は──貴男の妻(・・・・)になる訳ですから」



ちょっと、「だからって楽はさせないけどな」って冗談っぽい視線を送れば、見事に切り返してくる。

本当、俺の奥様方は揃いも揃って負けず嫌い。

それ位じゃないと、遣ってられないけどね~。

あ、俺が亭主関白だとかって訳じゃないよ?。

単純に一夫多妻の家庭状況で生活する事が、です。

仲が悪い訳じゃないし、昼ドラとかのドロドロした判り易い“女の争い”は有りません。

………いやまあ、違う意味でドロドロな女の争い(・・・・・・・・・)は否定出来ませんけどね。

うん、仕方が有りませんよね。

だって、ボク、男の子だもん!。


──という訳で、少しだけ、妻身(・・)食いをば。

尚、誤字では有りません、文字通りです。

ちょっとだけ、本当に、ちょっとだけです。




机という名の牢獄に繋がれての仕事を無事に終え、少し身体を動かそうと近くの山まで出掛ける。

別に城の庭や鍛練場で遣っても良いんだけど。

誰かと組み手をする程でもないんでね。

それを見られるのが…まあ、個人的に苦手です。

それに、移動だけでも軽いランニングに為ります。

…え?、「近くの山って言ってるけど、街から一体何れ位の場所に有るんだよ」って?。

んー…大体、15㎞って所ですかね~。

…ん?、「それ、近くっていうか?」ですと?。

いやいや、街から一番近い(・・・・)訳ですから。

ちゃんと、“近くの山”ですって。


──とまあ、そんな事は置いといて。

小さく溜め息を吐いてから、左後方を見る。



「────で?、何故付いて来てるのかな?」


「其処に御兄様が有るからです!」



──と、ドヤ顔で言い切る華琳の姿が。

うん、可笑しいなぁ…本当に可笑しいなぁー…。

「あれれー」と棒読み台詞の少年探偵みたいに。

「どうして御前が此処に居るっ!」と、眠るだけで御金が貰えてる探偵みたいに言いたくなる。

別件の処理で街から離れていた筈なのに。

城内は勿論、街を出る時にも誰にも行き先を言わず直ぐに戻ってくる程度の御出掛けだったのに。

何・故・にっ!、判ったっ?!。



「私には御兄様の居場所が判るのです!」


「そんな無駄な能力は廃棄しなさい」



「御前はGPS内臓かっ!」と叫びたいッス。

…いや、この場合、俺にインストールされてる?。

知らない内にアプリ入れるとか犯罪じゃないの。

のぉや、我が愛妹さんや?。

御前さん、そんな可笑しな能力を何処で覚えた?。

怒らんけぇ、兄に言ってみんしゃい。



「無駄所か、これ以上の能力は有りません!

何故なら、私は何時・何処に居ても、御兄様の事を感じ取る事が出来るのですから!」


「よし、じゃあ、こうしよう

その能力を棄てるなら、代わりに一つ、まだ誰にも教えていない俺の秘技(隠し玉)を一つ教えよう」


「──っ!!」



そう言うと、普段は振れない華琳が動揺する。

その様子を見ながら、胸中で口角を上げる。

あ、今と為っては滅多に見れない表情と反応なのでブラザーズ・メモリーに永久保存しながらね。


──で、華琳が逡巡するのは可笑しく有りません。

基本的には俺の使える技術は誰かしらに教えています。

だから、全員は使えなくても、最低一人は居ます。

逆に言えば、一人だけの場合──俺と二人だけしか使う事が出来無い技術、という訳ですから。

それはもうね、妻達の間での優越感が半端無い。

だから、その場合には他の妻達は協力して三人目が居ないか探し、修得を試みます。

そう遣って、“二人だけの物”を潰し合う訳です。


まあ、何だかんだで仲が良いし、成長に繋がるから特に俺から言う事も有りませんが。

今、華琳に言った技とは華琳は勿論、咲夜でさえも知らない、本当に俺しか知らない技でして。

華琳が修得し、黙っているなら。

それは文字通り、二人だけしか使えない訳でして。

だから、華琳が本気で悩んでいる訳です。


──と言うか、その能力の精度が気になります。

それ、感度や感知範囲は何れ位なんですかね?。

勿論、怖くて訊けませんけどね。


後、今まで俺が気付かなかった能力ですから。

「廃棄しました」と言われても証拠は有りません。

完全に自己申告ですし、信じるしか有りません。

そう、つまり華琳が悩む必要は無い訳で。

「判りました」と飲めば、一挙両得な訳です。


それなのに悩んでいる華琳。

「これは御兄様の私への試験なのでは?」と。

そういった類いの疑念を懐いているから。

そういう思考が出来る様に育てましたからね。

我ながら見事な成果だと言えます。


後は──考えてる間に撒ければなぁ…。

咲夜が居れば、「出来るの?、御兄ちゃん?」とか言って揶揄ってくる場面でしょう。

そして、「出来無ぇよっ、畜生!」と。

御約束の遣り取りで、落ちが着くんですけどね。


いやね、本当に…何?、その才能の無駄遣いは。

そんな事に使うより、別の事に回しなさい。

容量(メモリ)は無限じゃないんですから。

御店で買って増設は出来ませんからね。





 甘寧side──


暗殺をしに忍び込んだ結果──私は救われた。


それだけを聞けば意味が判らない事だろう。

私自身、そんな話を聞かされたなら、「…は?」と思わず言ってしまう事だろう。

その僅かな情報から想像するならば。

長年恨み続けてきた相手を殺せたのか。

圧政を敷く管理を打ち倒せたからなのか。

或いは、もう手を汚さずにすむ事なのか。

自らの死を以ての解放なのか。

──とまあ、その辺りの事ではないだろうか。

事実としては、何れもが少しずつ掠めている。

そして、何れよりも可笑しいな話だと言える。


それでも、今の自分が「幸せだ」と言い切れる。

それ程に、奇跡的な出逢いだった事は間違い無い。

風は華琳様達に付き、色々と学んでいる。

私も忍様や愛紗様達から色々と学んでいる最中。

そして、知れば知る程、“高み”が有ると判り。

同時に、あの時の自分の浅はかさを実感する。

そう、私など忍様が爪先を使う必要も無い格下。

どう遣ろうとも、害する事は不可能なのだと。

そう理解せずには居られない。


そんな日々を送りながら、政務にも携わる事に。

当初、何かの冗談だと思った私は可笑しくない筈。

何故なら、私は札付き(・・・)の悪だ。

裏での必要な仕事を担うのなら兎も角、表立っての目立つ立場や仕事は駄目だと思ったのだけれど。

「何が駄目なんだ?、誰が決めた?、ん?」と。

忍様に笑顔で詰め寄られ………い、色々と悪戯を…いや、何でもない、そう、何でもない!。

──とっ、兎に角っ!。

忍様に反論出来ず、気付けば自分の部隊が。

それも私の能力や戦い方を熟知している様に適切な人材を集めた少数精鋭。

緊張した反面、高揚したのも事実です。


──とは言え、それは私以外にも言える事で。

愛紗様達も当初は専属の部隊の人数は百人前後。

其処から一部は別隊への隊長等として移動が有り、残った古参組の下に付く形で新兵を増員。

それでも最大で千人、隊に因っては五百人と様々。

それは隊主である軍将の能力や戦い方に合わせて、忍様が最大限に力を発揮出来る最適な形を見極め、構成を行われている為です。


専属部隊ではない汎用部隊の軍属兵の調練の内容を比べて見れば一目瞭然ですからね。

如何に専属部隊が特別なのかが判ります。


私自身、彼是と考えるよりも遣り甲斐の有る仕事を与えられ、勤しむ日々が続きます。

そんな中、忍様に「さて、肥やし(・・・)も十分に貯まった事だし、耕しに行くか」と。

そう言って連れて行かれたのは代郡。

放置状態だった代郡で官吏達が動こうとしていた。

正に、その直前を見計らった様な急襲。

言い訳も出来ぬまま、一網打尽にされました。


私を見た丁亮の驚いた顔と。

「なっ!?、何故御前が生きているっ?!」と叫んで、自ら墓穴を掘った間抜けさに溜飲が下がった。


忍様は私に討たせる事はさせず、丁亮を破滅させ、同時に私を日の下へと連れ出して下さった。

その慈悲深さと才器の偉大さに更に心は惹かれて、益々夢中に為ります。



──side out



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