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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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12話 深緑に咲く




はいは〜い、幼女神様?、元気してます〜?。

今更だけど、管理職なんて大変なんでしょうね〜。

俺には無理な仕事です。

前世では下っ端の経験しか無いんで、その苦労とかは実際には判りませんけど。

好き好んで遣りたいと思う仕事じゃないですね。

個人的な意見としては。


それは兎も角として。

“あの世”的な其方等にも四季は有るんですかね?。

いや、本当に今更な事だし現実的には無関係だけど、ちょっと気になったので。

深い意味は有りません。


俺が言うのも何なんですが健康には気を付けて。

それじゃ、また何時か。




──と、心の便りを空へと紙飛行機を飛ばすかの様にイメージして投げ放つ。

届く、届かないは問題には為らない。

信仰心とは自らの裡に在り意味を成すのだから。

まあ、俺には信仰心なんて微塵も無いんだけどね。

あっ、因みに、さっきのは“紙と神”が掛かってるの気付いてくれた?。

神様に届ける紙飛行機。

………うん、面白くない。


そんな、どうでもいい事を考えながら見上げる空は。

青く、高く、澄んでいる。

白い絵の具を絵筆に付けて適当に遊ばせた様な雲が、幾重にも重なっている様に厚みの有る濃淡を主張し、空の果てを連想させる。


さらさら〜、さらりと。

此方等に来て一年が経ち、俺は八歳児に成りまちた。

でちゅが、まだまだ子供。

甘えたい盛りでちゅ。

……すみません、嘘です。

だから、離して下さい。

恥ずかし過ぎるので。


俺を抱き上げていた人物は母さんではない。

村の二十歳のお姉さんだ。

因みに、既に二児の母。

結婚・出産が低年齢な時代だっていうのは判るけど、目の当たりにすると色々と違和感が凄い。

…いや、幼妻とか憧れない訳ではないけど。


それでも、現代日本人的に犯罪臭を感じてしまう。

ただ、現代日本では女性は十六歳から結婚出来るから恋愛等に問題は無い訳で。

それが本当に犯罪ではないのであれば、誰が口を挟む事ではないんですよ。

寧ろ、男性が十八歳以上な部分は男女差別では?。

まあ、今の俺には関係無い事なんだけどね。


お姉さんから解放されると俺は然り気無く距離を取り捕まらない様にする。

いやね、このお姉さんてば結構な子供好きなの。

うん、悪い事じゃないよ。

性癖が絡んでる訳じゃなく純粋に子供が可愛いと思う世話好きな人なんで。

でもね?、頬擦りするのは止めて欲しいんです。

あと、人前でも平気で俺を背後から抱き上げるのも。

「俺の後ろに立つな!」を遣ってしまいそうになる為本当に、物理的に危ない。

男が相手なら金的の一つも食らわせて遣るけど。

無辜な一般女性に手を出す訳にはいきませんから。


あっ、俺は真の男女平等を謳う者では有りません。

自分の存在価値観に正直な“平等な差別”主義者。

だから、嫌いな者は嫌い。

はっきり言います。




そんなこんなで一年という時の流れに身を任せた今、俺は村にも顔を出す機会が意外と増えていた。


別に母さん達が世捨て人な生活をしていた訳ではなく村人が母さん達を村八分にしていた訳でもない。

単純に、当初は俺の精神的負担を考慮してくれていただけだったりする。

つまり、村人と接している事で“故郷”を思い出して辛い思いをしない様に。

母さん達が配慮してくれて距離を取っていただけ。

だから他意は無い。

因みに、俺みたいな孤児は珍しくないらしい。

その為、村人も必要以上に憐れんだり同情しない為、此方等としては好都合。

だって、“そういう設定”なだけだからね。

正直、感傷も無いから。

だから訊かれたりする方が俺的には困ってしまう。

そういった事情から現状は俺には有難い訳です。



「おっ!、孺子!、今から帰りかっ?!、ならっ、これ持ってきなっ!」



母親の深い包容(愛情)から無事に逃げ延びて家に帰る俺に向けて掛けられた声に振り向けば、視界の大半を濃い緑が占めていた。

反射的に両腕を上げながら一歩後ろへと下がった。

咄嗟の事だとは言え、飛び退かなかった自分を誉めて遣りたくなる。

八歳児らしからぬ反応を、この衆人環視の中で晒してしまう事に為るのだから。

両腕で受け止めたのは中々重量感の有る、硬い物。

ゴツゴツとした凹凸の有る表面ながら、ツルツルした手触りが印象的だった。



「──っとっ…南瓜?」


「ははっ!、どーだっ!、立派だろうっ?!

其奴を食って、元気に夏を乗り切んだぞっ!」


「うん、有難う!」


「おうよっ!」



江戸っ子っぽい男性に対し笑顔を浮かべて礼を言い、受け止めた南瓜を抱えると改めて家に向かって歩く。


その一方で、先程の一連の遣り取りを思い返す。

別に何も可笑しな事は無い微笑ましい光景だ。

その“下町”的な雰囲気は日本人には親しみ易い様に感じられる事だと思う。


しかし、考えてみよう。

自分達が食べる分だけでも大変な時代なのだ。

そんな中での、先程の遣り取りは起きている。

違和感を感じる筈だ。

だが、可笑しくはない。

それには理由が有る。


この村は山の奥深い場所に有るからなのか、意外にも飢餓とは無縁だった。

勿論、納めるべき税が有る事には変わらないのだが、幸いにも領主が善政を敷く場所らしく、他所に比べて民も生活し易いそうだ。

加えて賊徒の被害が少ない事も一因だろう。

だが、村自体が裕福という訳ではない。

飽く迄も、食料事情的には自給自足で賄える範囲内、というだけだ。


ただ、それが意外と大きな違いだったりする。

人に限らず、生物は須らく食べなくては生きられない存在であるが故に、それを巡って争う。

だが、この村では食料的な問題が起きない事も有り、人々は互いに助け合う様に自然と為っている。

それが、先程の遣り取りを可能にしている。




新しい人生を始めて一年。

あの巨猪関連イベント以外思ったよりも平和な日常を俺は過ごしている。


ただ、冬は…エグかった。

何ですか、あの寒さは。

念の為に用意した火鉢等が本当に役に立った。

母さん達からは「凄い」と「いいわね」という御声を多々頂きました。

けど、俺からしてみると、あれを耐え凌いで越えてた母さんと操の方が凄い。

いや、村の皆さんも含めて凄いって思います。


だって、もしも俺が現れた時期が冬場だったら絶対に凍死してたと思うもん。

無理、あの寒さを現代人が何一つ防寒具・暖房器具も無い状態じゃあ生き残る事なんて先ず出来無い。

余程場数を踏んでいるか、そういう所で生まれ育った──遺伝子レベルで耐性や適応・順応・対応する力を持ってないと無理。

そういう意味では人間って退化・劣化して行ってるのかもしれないよね。

どんなに文明が高度に発展・進化していっててもさ、それが無くなってしまうと無力に為ってしまう。

今、俺が生きてる時代では考え難い事だよ。

この時代の人々は身一つで生き抜いていける。

そう確信させられるだけの力強さを持ってる。


「何方等が正しいのか?」という話ではない。

現代人が今の時代では先ず生き残れないのに対して、現代では今の時代の人々は先ず生きて行けない。

能力的な問題ではない。

少なくとも、身元不明者が自立する事は困難な時代が現代社会なのだから。


だから、なのだろう。

“過去”へ転生・転移する物語は多いが、“未来”に向かう物語は少ない。

想像も創造も遣り難いのも一因には有るだろうが。

その辺りは、物語の主軸を何処に、何に置くのか。

それが定め辛いから。


因みに、原作の未来に軸を置いて二次創作をした時、原作キャラが居るか否かが大きなポイントだと思う。

原作キャラが居ない場合、原作キャラが親以上の立場だったとしたら、ある意味オリジナルに近い。

もし物語に関わるとすればキャラとしてよりも原作の設定を活かす為だけに必要というだけだから。

逆に、ガッツリと主人公に関わるのなら、それは正確に言えば原作のエンド段階からの二次創作になる為、未来物としては微妙かな。


まあ、面白ければ何だって構わないとは思う。

だって、物語なんて結局は書き手の考え方次第だし。

皆に何かを伝えたいのか。

単に仕事や商売の一つか。

純粋な自己満足の趣味か。

それにより、物語の起因は根幹から違うのだから。




──なんて事を考えつつ、軽い現実逃避をする。

…いえね、事件的な問題は確かに起きてない。

それは間違い無いんだ。


厳し過ぎる冬を乗り越えて迎えた春の有難味は恐らく現代人には伝え切れない事なんだって思うよ。

「…生きてるよ、俺…」な一大感動巨編だったもん。

マ・ジ・でっ!!、春が来た事に歓喜した。

狂喜乱舞と言ってもいい。

「春になると頭が緩むのか可笑しな奴が出て来る」と現代でも言われているが、本気で春の有難さを知れば狂喜乱舞もするだろう。

一回、防寒具も暖房器具も何も無い状態で平均気温が5℃にも満たない積雪量が鬼な山奥で冬を迎えてみて越えてみればいいんだ!。

その過酷さが判るから!。

………ああうん、駄目だ。

思い出すと泣けてくる。


まあ、そんな感じで無事に春を迎え、今は既に夏。

暑いのは暑いけど、都会の暑さとは質が全然違う。

過ごし易いよ、かなり。


…ただね、宅の操がね。

最近──と言うか、冬場に入った辺りから、母さんと妙に仲が良くなってる。

いや、実の母娘だから別に悪くも可笑しくもない。

とても良い事なんだよ?。

母娘仲が悪い家庭に居るのなんて最悪な訳だし。

家庭が円満なのは最高だ。

勿論、元々仲が悪いとか、素っ気無い淡白な関係とかではなかったからね。

あまり意外ではない。


ただね、妙に母さんの俺を見る眼差しや笑顔…その…「あらあら、まあまあ♪」感に溢れてるんです。

しかも、操の俺を見る目や表情もね、こう…期待感が込められているんです。

勿論、「お前さ、ちょっと自意識過剰だろ?」って、俺も思ったんだよ?。

思いたかったんだよ?。

でね?、操に何気無い体で訊いてみたんです。

「操は将来、どんな男性と結婚したい?」と。

…エエ、兄トシテハ修羅二堕チル質問deathネ。


コホン…それでまあ、操は答えてくれた訳です。

「御兄様です」、と。

うん、兄としては至福だ。

しかし、“みたいな人”と言ってはいない。

判るかな?、この葛藤が。

俺の明日は…何方だっ?!。




黄昏に黄昏ながら誰ぞ彼。


村の外れで南瓜を抱いて、深い溜め息を吐く。

幸せが逃げて行くのなら、今だけは信じたい。

……いや、もしそれで操が不幸に為ってしまうなら、俺は意地でも逃がさないが──出来る事なら、違った方向で幸せに為って欲しいと思うのは贅沢ですか?。

…それはまあ、操は美人に成るでしょうし、原作より性格は丸く成る様に育てるつもりですから、妻として嫁として申し分無いという事は俺が一番判りますが。

それは兄としてであって、男としては……してはぁ…………はぁあぁぁ………。



「──おい、聞いたか?」



──と、不意に耳に入った緊張感の有る声に、自然と意識は引っ張られた。

丁度、今自分が居る位置と彼方等の位置は死角同士に為るのだろう。

彼方等は俺に気付いている様子は感じられない。

息を潜め、耳を澄ます。



「んぁ?、何の事だぁ?」


「ほれ、村長ん所の次男が帰って来てんだろ?」


「あぁ…向こうは田舎者に厳しいんだかなぁ…

可哀想によぉ…

随分痩せちまってまぁ…」


「いや、それじゃねぇよ

つい最近だ、隣の村が賊に襲われたって言ってたって話の事だって」


「あぁ…けんど、隣の村は随分離れてっからなぁ…

宅は心配要らねぇだぁ」


「そらぁ…まあ、そうだな

俺等が孺子ん頃から一度も賊が来た事は無ぇしな」


「んだぁ、そっただ事より今年は毛虫が多いんだぁ…

何か手を打たねぇと…」


「なら、皆を集めるか」



そう言って遠ざかる足音。

嫌な話を聞いた。

何と言うか…“フラグ臭”満載な話じゃないですか。

しかも、話してる当人達がフラグ立ててるし!。

…いや、これは現実だ。

まだ確定した訳じゃない。

フラグなんて物は無い!。

今日は南瓜の煮物だ!。




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