67話 人が集えば
“組織”という物は、構築する事も難しく事だが、それ以上に維持・改善する事は困難である。
発足・結成した当初は素晴らしく、革新的でも。
十年、二十年と、或いは僅か五年と経たずとも。
それが時代遅れになる事は珍しくない。
何故なら、組織は社会の中に存在する一部である。
日々変化する可能性が有り、社会的な需要・常識に伴って適時、変化が求められるのは必然。
その為、組織の変化・適応性は必須能力である。
しかし、現実的には組織改革というのは難しい事も事実であり、大きな負担である事は否めない。
優れた統括者が纏め、有能な人材が揃い支えれば、然して難しい事ではないのだが。
その全ての条件を満たし続ける事は至難だろう。
組織と同様に、人も同じ様に変わる必要が有る。
組織の様な全体の変化よりかは個人の方が容易い。
ただ、それは組織と個人を比べれば、の話で。
実際には個人の事だとしても、変わる事というのは決して言う程に容易い事ではない。
それを遣り続けるという事は物凄い大変な事で。
大多数の人々は、途中で止めてしまうもの。
何かしらの理由等を付けて、或いは他者や社会等に責任転嫁して、自分は悪くないとして。
それで文句や批難だけは人一倍する。
人間という生物が、如何に身勝手なのか。
それを表す代表的な言動だと言えるのだろう。
変化の必要性は組織や個人だけではない。
それは法律にも言える事である。
──とは言え、何でもかんでも変えればいいという訳ではなく、必要性に伴って、である。
変えては為らない、尊守し未来へ受け継ぐべき事も確かに存在はしているのだから。
ただ、「法改正に民意が反映されるか?」と訊けば多くの民からは「否」と返る事だろう。
政治とは、国の為、民の為の物である筈だが。
多くの政治家達は自分流の権力闘争の為の票獲得に利用している様にしか見えない。
「その様な政治家が黴の様に増殖している事こそ、政治組織の最大の改革点ではないのか!」と。
そう声を上げる民意が少ない事も事実である。
政治組織の改革を民意で行う事が出来無い。
それは結局は閉塞的で、独裁的な事ではないのか。
その様な、偏り穿った見方をする者が。
一体、何れ程居るのだろうか。
政治への関心の薄さを嘆く声は多いのだが。
そんな社会性を変えられない政治への嘆きの声は、意外にも少ない事こそが深刻な問題ではないのか。
「流石に反応が渋かったわね…」
「まあ、仕方が無い事だけどな…
いきなり、「今日から全ての土地の所有権は領主の俺に有る為、勝手な真似は赦さない」と言われれば不満は出るし、戸惑いもするだろうからな
それでも、これは必要な事だからな」
「前世の社会問題を知ればこそ、よね…」
そう咲夜と話しながら遼陽県の城内を歩く。
李度の件は偶然ではなく、知っていた訳だが。
ああ為らなかったとしても結果は変わらなかった。
あの場では使う事は無かったが、郭栄と李度の間で交わされていた書状を隠密が入手していた。
だから最初から俺には黒幕も狙いも判っていて。
その上で、李度の茶番劇に付き合っていた訳です。
ええ、自分でも「大根役者だなぁ…」と思ったので演技力に関しては追及しないで下さい。
まあ、それでも斗詩よりは増しですけどね。
尚、郭栄の屍が有った米蔵の後始末ですが。
他の米俵への影響を調べてから、米蔵内を氣で殺菌消毒してから、臭い消しも兼ねて大量の墨を米蔵へ運び込ませました。
まあ、一時的な処置です。
火事の原因に為っては困りますからね。
李度を処罰し、その事後処理も兼ねての玄菟郡行脚世直し旅をしているのが、俺達“徐子瓏一行”。
決して、“御老公一行”ではないですから。
其処、重要ですからね?。
…まあ、さっさと隠居したい気持ちは有りますが。
一応、まだまだ現役ですから。
先、十九年は頑張る所存です。
二十歳に成ったら、ささっと譲って隠居しますが。
──と、そんな将来設計の話は置いといて。
前世の社会問題というのは、所謂“空き家問題”。
住人が居ない為、勝手に利用されたり、犯罪者等が潜伏する為に使ったり、老朽化して危険、等々。
時折、ニュースに為ってはいても解決しない問題。
その原因は土地の所有権と、それに関する法律。
今、俺達が生きている世界、時代では余っているが未来では人口が増し、開発・発展によって局所的に人口密度が増し、空き地は確実に減少する。
その一方で国や自治体、企業等も土地を必要とし、売買の関連で揉めたりもする訳だが。
そういった一連の問題が発生する根幹に有るのが、土地の所有権に関する間違い。
曾ては恩賞・褒美として与えられていた土地だが、正確には“領主としての地位”である。
土地その物は国が所有し、それを預かる。
つまり、代理統治する役職を与えられていた訳だ。
しかし、何時しか土地は個人の所有となる。
そして、発生した問題行為が土地の売買である。
──とは言え、土地を売買する事自体が悪い事とは言わないし、否定もしない。
それも政治の遣り方の一つなのだから。
ただ、それに伴う法整備が出来てはいない。
所有権を保護する法律は有る。
しかし、“宙に浮いた所有権”の行方を定めている法律が無いから問題が起きる。
例えば、“所有者不明から満二年で国有地に”とか所有者が判っていても“固定資産税の満三年未納で国有地に”、或いは“相続放棄に伴い国有地に”や寄贈可能な法案が無いから、問題になる。
その結果、空き家が増える訳だ。
空き家自体が出来る事は仕方が無い。
それは各家庭の事情も有る事だからな。
所有者自体が不明になる事も十分に有り得る。
ただ、相続者が居なかったり、長年放置された為に書類等が行方不明な場合も多々有る。
その際、「危険だから解体を」等と住民が訴えても行政や業者は迅速に動く事が出来無い。
解体作業等も、不動産屋や県・市等の行政が行えば全ての費用を負担しなければ為らない。
その場合、自腹か税金から、という事になる。
それが、また新たな論争・問題へと発展する。
そういった問題は土地の所有権が複数存在する事が原因である事は間違い無い。
勿論、きちんとした法整備が出来ていれば、個人や企業が所有権を有していても問題ではないが。
個人的には、それでも生じる問題は有る。
だから土地の所有者は統治者──つまり、国だけに有る方が色々な問題を解決し易い。
前世の問題だった“里山と害獣”の事も同様。
国が所有者なら、管理者を国家公務員とし、里山の維持に容易く人員を揃えられる。
害獣対策にしてもだ。
そういった問題が起きる前に──俺達は潰す。
問題が芽吹くよりも先に、種の時点で取り除く。
たったそれだけで、後々が楽に為るからな。
「それに、新しい事を遣ろうとすれば、どうしても反対意見や慎重論、懐疑的な見方は出てくる」
「そうね、大体が批難囂々よね」
「批判したりする事自体は悪くないんだけどな
それが自己の利害しか考えていたい目先の理由と、しっかりと先々まで考えた物とか一纏めにされて、単純に反対意見が多いとされるのは腹が立つな
同じ批判でも「考えて物を言え」と言いたくなる
表面しか見ていない浅慮な批判と、しっかりと事の背景や経緯、状況や心理まで熟慮された批判とでは全く違う物な訳だしな
その違いさえ判らずに騒ぐ輩の気が知れない」
「だけど、人間って大多数が、そうじゃない?」
「集団性の弊害と言うか、必然性と言うか…
まあ、それを俺達は理解した上でないとな
馬鹿な批判を一々正面に相手してたら疲れるし」
「それはそれで口で言う程簡単じゃないでしょ?
だから、世界的な社会問題にも為っていた訳だし」
「いや、アレはシステム上で解決出来る問題だ
“言論や表現の自由”は尊重されるべきだ
ただ、自由は無責任という意味ではない
社会的な秩序・道徳の中での自由であって、決して遣りたい放題という訳じゃないんだ
だから個人情報の保護の在り方が重要だ
人権や守秘義務は善良な民の為の物で、他者を害し傷付けようとする悪意の有る犯罪者を擁護する為に存在している訳じゃないんだからな
その辺りを社会的に勘違いしている事が大問題で、それを正せば良いだけの意外と単純な話だ」
「でも、現実には改善されないわよね?」
「それは権力者が自己保身の為に積極的に生らず、適当に誤魔化して有耶無耶にしてるからだな
警察や検察、弁護士とかの在り方も含めて根本から正常化しないと駄目だしな
一般人の被害が数万、数十万、数百万と出ようが、全体が本腰を入れて動く気概が無いと出来無い
つまり、権力者達自体が間違っているから、問題は何時まで経っても進展しないんだよ
本当に国民に寄り添う政治を、志を持っていれば、動かない方が可笑しいんだからな
その時点で、連中の意識が何処に有るのか判る」
「……所詮は、民を食い物にしている訳ね…」
「どんなに綺麗事を言っていても結果が出なければ口先だけの出任せと同じだ
特に政治に置いては結果でしか示せないからな
「精一杯頑張りました」は一切通用しない
それが通ってしまう時点で、その政治組織は駄目
民の為の機能は死んでいるも同然だ」
「…その条件だと、世界規模で全滅じゃない?」
「ああ、そうなるだろうな
ただ、そう言えるのも今の俺だからだ
前世の俺は政治に無関心──と言うか、期待せず、自分の生活の事だけで精一杯だったからな
こんな風には考えもしなかったよ
勿論、そういう問題の解決方法としては考える事は今と大差無かったけどな
それを実行に移せるだけの権力が無い
だから解決する事が出来るのに、何も出来無い
実際問題、そういう人材は確実に居る
ただ、民意が政治を動かせないから無理だ
幾ら選挙権が有っても選択肢の政治家が大差無く、間接的でしかない、何重にも壁が有る政治だ
“伝言ゲーム”じゃないが、民意が正しく届く事は世界平和が実現するのと同等の奇跡だろうしな」
「確かにね…反論したくても出来無いわ
──と言うか、反論する人って、本当に大切な事は一切見えてないし、見る気も無いでしょうね
だって、所詮は彼方等側なんだから」
「そう言う事だな
抑の話として、“人々の上に立つ”と考えるのか、或いは“人々の未来を背負う”と考えるのか
それだけで意識に大きな違いが生じる訳だしな
その違いが理解出来るだけでも雲泥の差だろうな
…まあ、知っているからでは有るけどな」
「そうね…貴男も、私も、知っているから、よね」
「そういう意味でも、やっぱり華琳は別格だな
勿論、他の皆も世の中の権力者達とは比較する事が馬鹿馬鹿しい位に正面なんだけどさ…」
「ええ、そうね…本当に…そう思うわ…」
「これで教祖さえ無ければなぁ…」
「ふふっ、それはそれで彼女らしくないわね
ああだからこそ、彼女は彼女たり得るのよ」
「言いたい事は判るんだけどなぁ…
……絶対、他人事だと思ってるだろ?」
「他人事って言うか、私達は信者だもの
そう意味で言えば、貴男の政敵じゃない?」
「くっ…愛する妻が増えれば増える程に信者が増え俺の首を絞めると言うのか?!」
「自分の自由の為に私達を手放せる?」
「出来る訳が無い」
「そう即答出来る貴男だからよ」
「………それ、誉められてるんだよな?」
「判らないなら、教えてあげるわ」
──と言って、咲夜に手近な部屋に連れ込まれる。
うん、どう遣って教えるのかは自主規制で。
そして、逆らう気も、遠慮する気も有りません。
文字通り、たっぷりと教えて頂きました。
尚、教えてくれたのは咲夜だけではなく。
どう遣って知ったのか、華琳を筆頭に数名が。
勿論、まだ妊娠していない、出産未経験組ですが。
俺が避妊が出来無かったら妊娠大感謝祭でしたよ。
…遠くない未来ですけどね。