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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    絡み合う


連れて来ていた三千に再編成した郭家・顔家からの精鋭千人を加えた四千を率いて玄菟郡へ入る。

当然ながら侵略行為ではない為、再編成の期間中に使者を出して越境し入領する旨を伝えてある。

此処で渋れば疑念を持たれ、断れば郭栄の協力者と見なされて槍玉に上げられる可能性が高い。

そんな状況を理解出来無い程、愚かではなく。

快く(・・)、「どうぞ、どうぞ」と許可された。

そう、決して言外に圧力を掛けたりはしていない。

ただ、色々と想定し、選択出来るのが処世術。


当初は連れて来ていた三千の内、二千を上谷郡内に残して段階的に事を進める予定でしたが。

郭栄が予想以上に良い動きをしてくれましたから、御陰で残す必要が無くなって助かります。

軍事行動というのは消費過多(金喰い虫)ですからね。

正直、長期的な軍事行動は遣りたく有りません。

──とは言え、俺達だけで遣り過ぎるのも問題。

国や社会という物が組織形態を有している以上は、全体を見なくてはいけませんからね。

面倒臭いったら有りませんよ、本当に。



「その一方で莫大な富と権力を得られるというのも戦争の持つ嫌な事実でも有るけどな」


「所謂、“死の商人”という者達ですね、御兄様」


「ああ、連中にとってみれば戦争程容易くボロ儲け出来る商機は滅多に無いからな…

だから(・・・)、意図的に引き起こそうともする

勿論、商人の全てが、という訳じゃないけどな」


「“他人の不幸は蜜の味”って事よね…」


「そういう事だな」



そんな事を話しながら、馬に揺られて行軍中。

郭栄を追っている、とは言っても、「追えぇっ!、絶対に奴を逃がすなぁっ!」という感じではない。

「其方等に逃亡した可能性が高いので、失礼させて頂いて調べさせて下さい」という丁寧な感じ。

…え?、「言外の圧力(・・・・・)は何処に行った!」と?。

もぉ~、いややわ、奥さん、忘れはったん?。

そないなもの、有る様で無いんやないですの~。

証拠なんか有らしまへん。

何しろ、勝手な思い込み(忖度)なんですしね~。


──という訳で、特に急いだりはしていません。

だから、行軍中とは言え、大人数のピクニック的な気分が有るのは否めません。

適当に賊徒の一団でも襲って来てくれれば、少しは退屈しないで済むんですけどね~。



「──なんて考えていたら、まさかの振り(・・)に」


「御兄様、どうなさいますか?」


「んー…彼方等さんは千人程みたいだしな~…

指揮は()と斗詩に任せる

梨芹が稟の、凪が斗詩の補佐に付いて遣ってくれ

兵は宅の方から二百ずつ率いて行けばいい」


「畏まりました」


「が、頑張りますっ」


「緊張感は大事だが、緊張し過ぎるな

出来無い事を遣れとは言ってないんだ

自分に出来る事を遣ればいい」



そう言って身を強張らせていた斗詩の頭を撫でる。

指揮官がガチガチに為ってたら兵も戸惑うからな。

まあ、気が抜けても遣る気が空回りしても困るが。

程々の緊張って意識的には出来難いですからね。

周囲の者が干渉する事で意図的に近付けられるなら遣らないより遣って置いた方がいいので。

他意も深い意味も特には有りませんから。



「誰に言い訳してるのよ」


「さあ?、俺にも判らないからな」



──と、兵士達を率いて離れる四人を見送りながら咲夜と軽く巫山戯合う。

いや本当にね、暇潰しでしかないんですよ。

宅の兵士達だけでも勝てるでしょうからね。

──あ、フラグじゃないですよ?、マジでです。

兵士一人が賊徒三人のノルマで達成出来ますから。

この程度なら、はっきり言って余裕過ぎます。


さて、それはそれとして。

これからの事も考えないといけません。

“逃亡した郭栄の捕縛または討伐”が名目な以上、鱈々して──いや、怠々しては居られません。

──かと言って、無闇矢鱈に探し回る様な真似は、長引かせるだけですしね。

ある程度は可能性(当たり)を絞り込みます。

…まあ、そんな事はしなくても郭栄の行き先なんて最初から判ってはいるんですけどね。

茶番劇も時には必要なんですよ、政治的には。



「玄菟郡の太守は厳家だったかしら?」


「ああ、一人娘の“厳顔”が現当主で現太守だな」


「紫苑達と同い年で、独身、文武両道の才媛ね

男に負けない気の強さと統率力、人望も確かよ

美しく瑞々しく食べ頃(・・・)ですね、御兄様」


「振れないな、本当に」


「はい、勿論です、私は御兄様一途ですから」



──と、皮肉を言えば、愛を囁いて来おる。

御前は一体何処で、そんなテクニックを学ぶ?。

それとも何か?、俺や世の男達が知らないだけで、女性限定の秘密の学校みたいなのが有るのか?。

……もし有ったら、ちょっと覗いてみたいな。

尤も、結果は“女子校の現実”の様に「知らなきゃ良かった…」と男は思うのかもしれないけどね。

好奇心としては、興味は有る訳です。

怖い物見たさでね。


まあ、それは兎も角として。

今、話していた通り、玄菟郡の太守は厳顔だ。

ええ、原作の厳顔で間違い有りませんよ。

その側近には“張勲”という組み合わせですが。


調べさせて判ったのは、両者共に身内が居ない事。

張勲の父親は厳家に仕える家臣で、母親は侍女。

母親自身も別の家臣家の一人娘だった為、本当なら二人は子供を成して各々に家を継がせる予定だったらしいのだが、不慮の事故で亡くなっている。

その後、厳家に引き取られ、厳顔とは姉妹同然に、厳顔の両親──特に母親に可愛がられて育つ。

厳顔が十四歳の時に父親が亡くなり、当主と太守を継ぎ、玄菟郡を治めてきた。

母親は三年前に流行り病で亡くなったそうだ。


亡くなる直前まで娘の結婚相手の心配をしていたと聞かされた時の華琳の笑顔は忘れてしまいたい。


そんなこんなな厳顔と張勲の関係は深く、強い。

原作の厳顔と魏延の関係とは違い師弟関係ではなく姉妹同然な関係な分、遠慮は無い様だ。

………まあ、あの張勲を想像すると遠慮する様には微塵も思えないんですけどね~。



新妻(・・)候補は二人だけ?」


「ええ、御兄様の基準を満たすのは二人だけよ

張勲は武に関しては微妙な所だけれど、知謀の方は期待出来ると思うわ

白蓮達と同い年で性格的には少し曲者感が強いわね

けれど、性根は義理堅いし、尽くす気質ね」


(私達)の和を乱しそうかしら?」


「それは大丈夫でしょうね

自分の立場が理解出来ていない愚か者ではないし、身を滅ぼす様な野心家でもないわ

張家の存続と母方の楊家の復興を考えれば御兄様の反感や不評を買う真似はしないでしょうしね」


「まあ、そうでしょうね…

それでも二人しか居ないっていうのはねぇ…」


「勿論、ある程度まで下げれば他にも居るけれど…

それなら他の場所でも十分に見繕えるもの」


「その場合には先ずは啄郡──特に公孫家の家臣の中から優先するべきだものね

ただ、それはそれで色々と話がややこしいわね」


「そういう事よ

まあ、御兄様から御胤(・・)を頂くに値するとなる時点で、特に人間性が問われるもの

どうしても見極めには時間が掛かるのは仕方の無い事だから、簡単には認可は出来無いわ」


「そうね、寄生虫(・・・)は要らないもの」



──なんて会話を二人がしていますが。

迂闊に口を挟む気には為れません。

絶対に飛び火して貰い火事に為りますから。


──と言うか、咲夜は気付けば華琳の右腕です。

それはまあ?、咲夜の事は愛していますよ?。

咲夜が愛してくれている事も判ってはいますしね。

だから、咲夜が妻として成長している事は、素直に嬉しいですし、誇らしいのですが。

何故、其方(・・)に傾きましたか?。

せめて、中立を保っていてくれませんかね?。



「無理を言わないで頂戴

あんなにも貴男に愛されれば、こう(・・)も成るわよ」


「御兄様の偉大な愛が故に、です」


「くっ……そのドヤ顔が可愛いから悔しいっ…」



悪びれもせず、「御兄様の御人徳です」と言い切る愛妹(華琳)の笑顔が可愛い。

そして、こんなに可愛いドヤ顔が有るだなんて!。

いや、昔から可愛かった事は確かなんだけどね。

最近は艶っぽくなってるからなのか。

そういうのが無いと殊更に可愛く見えます。

無邪気な流琉達の笑顔とは違いますけどね。


──という話は置いといて。

厳顔も張勲も俺が娶る事が確定してるみたいな話を二人がしている件に付いて。

いや、まあ…それは……ねぇ?。

無視出来無い存在ですから、娶りますけど…。

原作だと張勲はネタキャラ・オチキャラ扱いですが然り気無く有能では有りますからね。

そうじゃないと、あの周瑜を抑え込めませんて。

最後は調子に乗って自爆、という感じでしたしね。

彼女が正面に能力を発揮すれば、意外と強敵。


もし、孫策や周瑜が袁術の助命を条件にして張勲に孫家に仕える事を要求していたなら。

多分、かなり嫌な相手に為っただろうな。

何しろ、孫家の軍将は勇猛果敢。

それを猛獣使いの様に上手く乗せて操る的な真似は張勲の得意とする分野だからだ。

積年の怨恨と鬱憤、その性格が故に苛立たせた為、袁術と共に追放される訳だけど。

ある意味、張勲と勇猛果敢な軍将の組み合わせは、かなり危険なテイストになると俺は思っていた。


そういう意味でも、張勲は放置したくない。

下手に怨恨を抱えられると後々厄介ですからね。

それなら最初から腕に抱いて愛でます。

ええ、悔しいですが、華琳達の言う通りにね。


…まあ、まだ妻の基準が高めに設定されているだけ俺からしたら増しなんでしょうけどね。

俺も男だから一生に一回位は酒池肉林を体験したい気持ちが無いとは言いません。

ええ、だって男だもん!。

そういった欲求や願望は少なからず有りますって。

ただね?、一回じゃ済まない訳ですよ。

しかも、単なる快楽目当てじゃないんです。

子作り(・・・)が大前提なんですから。

つまり、子供が出来るまでは続く訳です。

最低でも女性一人が一度妊娠・出産するまではね。

それが百人続くとか………考えただけで萎えます。

我が息子ではなく、俺の精神力が、ですが。


何にも考えずに猿みたいに腰を振れる男じゃないとハーレムは維持出来無いと思いますよ。

…え?、「いや、御前もハーレム男だろっ!」?。

それはまあ、見方によれば、ハーレムですけどね。

少なくとも一人一人と向き合ってますし、子作りの為だけの関係じゃ有りませんから。

口では「家を、血を」とか言ってますけど。

中身は現代日本人気質のままなんで。

根っこは真面目なんです。

勿論、日本人全てが真面目な訳じゃないですが。



「──とか考えてる内に終わったみたいだな」


「そうみたいね………特に被害は無さそうね」


「如何に実戦経験の無い新兵でも、あの程度の賊徒相手に負傷している様なら再教育(鍛え直し)ね」


「そうだな、それ位は楽に出来無いと困るな」


「………はぁ~……貴方達って、熟、兄妹だわ…」



そう言って溜め息を吐いた咲夜。

俺と華琳は顔を見合せ、自然と小首を傾げる。

一体何の事だ?。

いや、確かに義理ではあるし、恋人で夫婦だが。

兄妹としての絆は、他所の兄妹にも劣りはしない。

寧ろ、「いや、異常でしょ…」と言われても十分な愛情を御互いに持っていますから。

…うん、違うよ?、違うからな、我が愛妹よ。

「それでこそ、御兄様です!──では早速、新しく側室候補を取り敢えず十人程御選び下さい」とか、口にもしないで伝えない。

そして、当然の様に一覧表(リスト)を出さない。

ソレ、何処に持ってたんですか?。

──と言うか、何故此処に持参してるのかな?。

持って来る必要の無い物、ベスト3に入るよね?。

……え?、「御兄様の御要望に即座に御応えする、それが私の妻としての務めです」?。

いや、それなら華琳が自分で応えなさい。

リストで選ぶより、華琳や咲夜を望むから。

……………おや?、あの…咲夜さん?。

何故に身を寄せて来られます?。

あと、華琳、何処を触ってるのかな?。

止めなさい。





 張勲side──


大太守・徐恕。

その名を知らなければ、今の世を生き抜けません。

元は太守が不在の啄郡は啄県の県令・公孫賛さんの客将だった方が、公孫賛さんを始め、複数の名家の女性を妻として娶り、太守へと成った。

それ自体は珍しい話でもないですし、短期間で事を成された事自体も大した物だと評価出来ます。


ですが、彼の凄さ──いいえ、異常さは此処から。

隣接する漁陽郡に始まり、広陽郡・楽浪郡、更には御隣の上谷郡まで手中に収めるという快進撃。

中でも大名家の董家の一人娘を娶り、広陽郡を手に入れた事は非常に大きいと言えます。


その結果、彼の存在は最早一石とは呼べません。

何処かの田舎の、名も知らぬ青年の立身出世。

その程度なら、水面に投げ入れられた小石です。

小さな波紋を生んでも、直ぐに消えてしまいます。


しかし、彼は小石などでは有りません。

遠くて小石に見えていただけの巨石でした。

或いは、「岩山が降って来た」と言っても、決して過言ではないでしょう。

それ程に彼の存在は強大で、その影は底無しです。

彼の台頭は啄郡だけに止まらず幽州全体に波及し、明らかに大きな波と為っています。


そして、今──私達に迫っている訳です。



「御初に御目に掛かります、私は徐子瓏です」


「私は玄菟郡の太守・厳伯道(・・)と申します

此方等は側近の張伯約(・・)です」


「宜しく御願い致します」



桔梗様の紹介を受け、丁寧に頭を下げます。

女性の桔梗様に対して丁寧な言葉遣いと態度。

それが見せ掛けの物ではなく、敬意を持つ物だと。

桔梗様も私も経験から判ります。

この方は他の男性とは明らかに違います。


ですが、私にとっては其処は二の次です。

正直、事前に先に会ってから桔梗様に会わせる前に一目見て置くべきだったと後悔しています。



(………この人、私と同じ匂いがしますしね~…)



大切な存在(もの)の為なら、手段を選ばない。

決して、他者に心の深奥を見せる事はしない。

必要ならば、道化を演じる事も厭わない。

一番厄介で、一番手強く──唯一経験の無い相手。

それだけに、どうしても後手に為ってしまいます。



「本日は我々の急な話を御聞き入れ下さりまして、誠に有難う御座います」


「いや、民を苦しめる者は我等の共通の敵…

その為の協力は惜しみませぬ

──と、其方等の二人の前では不謹慎でしたな」


「いえ、御気に為さらずに…

私共にしても、それは同じ思いです

それ故に、身内の罪を恥じるばかりです…」



そう言って項垂れるのは郭嘉さんと顔良さん。

二回程ですが、私達も会った事が有ります。

御隣という事で御互いに色々知っていますからね。

含む所は有りますが、下手に隠しはしません。


出来れば、この御二人が主体で有って欲しかったと思わずには居られませんけどね。

今日は物凄~~……っく、疲れそうです。



──side out



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