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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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66話 独善と偽善の


“飽食時代”と呼ばれている現代社会。

だが、それは世界の中でも裕福な一部を指している言葉であり、正しい表現ではない。

勿論、一部とはいえ、事実には間違い無いのだが。

現実的に言えば、世界の半分以上で貧困は存在し、飢餓により失われる命が溢れている。


それでは何故、その様な呼ばれ方をするのか。

その答えは、とても単純で。

そう評する人々が裕福な生活をしているから。

それが普通の社会の中で生きているから。

そうでなければ、その様には感じはしない。

つまり、飽食時代とは一部の富裕層の生活を指した言葉に過ぎず、世界を指してはいない。


ただ、そんなズレた認識を切っ掛けにして、世界の本当の食糧事情を知る人々も少なくはない。

年間100万tを超える廃棄される食料品。

特に御弁当や御惣菜といった分野の廃棄量は多く、その一点だけを国家プロジェクトとして取り上げ、改善を推進するだけで半分以上は減らせるだろう。

しかし、そうは出来無いのが現実であり。

個人個人の裁量に委ねられているのが実状だ。

だが、それでは三人に一人が現状を理解し、改善に積極的に取り組む意志を持つ必要が有り。

問題が半減するまでにさえ、現実的には数十年もの年月を必要とする事だろう。

何故なら、その段階まで社会意識が浸透しなければ改善は望めず、継続した良化は実現しないから。


“フードロス”を意識──否、認識するという事。

それは一体どういう事なのか。

単純に無駄を無くす事なのか?。

食材の無駄遣いや廃棄を減らす事なのか?。

或いは、生産量自体を見直すべきなのか?。

その課題を挙げれば幾つも出て来る事だろう。


だが、そういう事を実施する前に考えて欲しい。

その原因は我々自身の日常的な認識に有る事を。


「夜は何にしよう?」「御昼さ、最近出来た彼処の御店にしない?」「明日の朝は軽くして」「んー、何れにしようかな~」等と考える事は日常的。

しかし、それが如何に恵まれた日常なのか。

真剣に考え、認識している人々は如何程だろうか。

少なからず一度は考えた事は有るだろう。

考えた事が無い者こそ問題を拡張する根元の一つ。

しっかりと教育(・・)すべき存在だろう。


それはそれとして、考えた事は有っても、その事を日常的に意識し、行動に移せているのか。

はっきり言って、まだまだ圧倒的に少数だろう。

世界人口の1%にも届いてはいない。

遅々として問題は改善していないのだから。


食べる物に対して想像する事が出来る。

それは恵まれた環境でなければ生まれない思考。

その日、食べられる物が手に入るか否かの状況下に置かれている身に為って想像してみて欲しい。

そんな事を考えられる余裕は日に日に無くなる。

「何でもいいから御腹一杯食べたい」と。

そう願う様に為っていく事だろう。

その段階で「あー…アレが食べたい…」と思うのは脳が極限状態に陥ってはいないから。

そして、食糧に困らない生活をしていた証拠。

そんな者が、本当の飢餓を理解出来る訳が無い。

だからこそ、この問題は進捗が見られない。

老若男女問わず、国民は一ヶ月の断食を義務とし、食糧の大切さを学ぶべきなのかもしれない。

それ程に強行的な政策をして実体験をしない限り、本当の意味での改善と継続は望めないだろう。


社会の安定は尊く、素晴らしい事だ。

しかし、その一方で失われる食への有難さ。

日常で口にする「頂きます」「御馳走様でした」の本来の意味と、その道徳心を。

今一度、考えてみる所から始めるべきなのでは?。

社会問題の改善には社会意識の変化から。

食糧を“買う物”という意識から、“作る物”へと意識を変えてみる事も一つの切っ掛けだろう。

その一石を投じるか否か。

遣るのか、遣らないのか。

簡単な様で、それは口にするより難しい事である。


ただ、十年後、二十年後。

その問題を、世界中の人々が問題視する必要の無い正しい社会が実現している様に。

自分に出来る事から始めてみる事が一歩である。



「御兄様、代郡の方は如何しますか?」


「んー…まあ、今は無視しといてもいいだろ

彼方等に宅を脅かす存在は居ないしな」


「ちょっと…そういう事言うと振り(・・)になるわよ?」


「それなら宅としては歓迎すべき想定外だろ?

そういった事が全く無いと緊張感が薄れるからな」


「…はぁ~……」



そう答えると、咲夜は一呼吸置いてから、溜め息を吐きながら小さく肩を竦める。

此処は俺達にとっては通過点(・・・)に過ぎない。

だから、この程度で躓いている様では駄目だ。

勿論、最初から出来無いと駄目な訳ではない。

学習し、鍛練し、努力して出来る様に為って。

その上で、慢心・過信・油断をしない事が大事。


それは俺達は勿論、兵士一人一人にも言える事で。

躓いてしまった結果、犠牲になるのが己自身の命と人生だけではなく仲間や家族、民にも及ぶのだと。

そういう認識を常に持つ事が欠かせない。


ただ、人は慣れてしまう生き物だ。

そして、慣れというのは本当に厄介な物で。

意識している気でも、欠落してしまう事は多々。

特に、“平和呆け”という言葉が有る様に。

日常が平穏で安心出来る程に。

人々の危機感や緊張感は著しく欠如してしまう。


平穏で安心出来る日常は素晴らしい事だ。

しかし、だからこそ。

俺達や文武官・兵士の様に政治・軍事に関わる者は民の様に日常に慣れてしまっては為らない。

勿論、切り替えが完璧に出来るのなら話は別だが。

殆んどの者は、それが出来無いのが現実。


そういう意味で、緊張感を保つ為の要素は必要。

ただ、「賊徒が居るだろ?」と思う事でしょう。


確かに跋扈する賊徒に苦しめられている時代。

賊徒を生み出し続けているのは施政者の腐敗であり男尊女卑と家柄・血統重視の価値観が柵と為って、個人の才能が蔑ろにされている社会性が原因。

その負の連鎖により、何処にでも賊徒の類いは生じ無辜の民が虐げられ、犠牲になっている。


しかし、賊徒は所詮は賊徒でしかない。

実戦の緊張感を保つ程度でなら使えるが。

それ以上の緊張感や危機感を得るには足らない。

はっきり言って役不足だったりする。


だから、そういう相手が出てくれるなら歓迎。

不謹慎な言い方だが、犠牲者(痛み)が無ければ、世の中の人々は本当の意味での危機感を覚えないのだから。

想像だけで危機感を覚え、自分で意識を切り替える事が出来る者は人口の1%にも満たない。

大体が、周囲に合わすか流されているのが現実。

だから、“必要な犠牲”という考えが存在する。


ただ、勘違いしないで貰いたい。

犠牲を肯定する訳でも、犠牲有りきでもない。

犠牲が無いなら、その方が良い事には間違い無い。


けれど、その犠牲が無くならないのは全ての(・・・)人々が

犠牲の出る社会性に対し否定する事が第一歩。

その上で、自分自身を(・・・・・)犠牲にする事。

当然ながら、今の生活や常識が変わらない限りは、本当の意味での問題解決には至らない。

自らが自らを変える決意を持って向き合い続けて、常識へと変えなくては不可能なのだから。


それが成されるまでは、犠牲は有り続ける。

それが、全ての生物の唯一無二の心理。

“弱肉強食”という自然の摂理なのだから。



「まあ、無視するとは言ってても無警戒って訳には行かないからな

祭と真桜には交替をしながら代郡との領境の警備を遣って貰わないといけない」


「祭が討伐、真桜が警備って最初に決めない辺りが貴男の意地悪な所よね」


「自主性や忍耐力は大事だからな」



仕事に遣り甲斐や楽しさを求めると社会は回らず、遠くない未来で破綻するしかない。

抑、自分の生活を中心に考えて仕事を選ぶ時点で、雇用する側からすれば要らない。

仕事を中心にして働き、その成果を認められた者が優遇されるのは当然だし、必然の事。

給料を貰っている時点で、それに見合う働きをする事は義務であり、責任だ。

働きが悪いのに給料を出す気には為らない。

仕事の内容や職種を選ぶなら給料に文句は言えず、給料を重要視するなら頑張って遣るしかない。

パワハラ・モラハラなんて言ってる世の中だが。

被害者に非が無いとも限らないだろう。

抑、給料に見合うだけの仕事を遣っているのかを、追及しない時点で順序が可笑しいんだからな。

世が世なら、切り捨てられてる案件だ。


──というのは、前世の社会への愚痴。

自分には無縁な話だったが、その手の話題を聞くと被害者ばかりが同情される風潮が怖かった。

“訴訟社会”なんて言葉が有る様に。

一歩間違えば、冤罪・誤審を量産する温床となる。

その事を想像出来無い歪で稚拙な社会性がね。

まあ、それもこれも施政者や権利者の責任だが。

言っても無駄なので考えるのも馬鹿馬鹿しい。


ただ、だからこそ、俺は上に立つ身として、妻達や家臣達、兵士達に考える力を求める。

それを養う為の機会や仕事を割り振り、経験させ、成長を促す様に心掛けている。

勿論、成長出来無かったら、出世も出来無い。

少しでも他者より上に立つ以上は、その立場に伴う己の言動に対する責任は増すのだから。

それを理解出来無い者を重用する気は無い。

それが愛する妻であってもだ。


尤も、そんな俺の考えを理解出来ず、体現出来無い相手だったら、俺は妻に迎えはしない。

どんな美女・美少女だろうとね。

俺にとっては妻として無価値なんで。

それを判っているから咲夜も華琳も何も言わない。



「御兄様、兵は率いて来た一部を回しますか?」


「いや、二人が指揮する兵は上谷郡から出す

郭家・顔家に、支持する家臣達の手勢で十分だ

二人に使われれば宅の遣り方を肌で感じられるし、篩に掛ける手間も省けるからな

あと、警備任務は文字通りに見張りだけだしな」


「無駄に兵数ばかり増やして抱えても軍縮をしたら余剰分は切り捨てられるし、行き場が無ければ結局賊徒に身を落とすでしょうしね

それなら、最初から農業等に従事させておいた方が本人達の為になるものね」


常道としては(・・・・・・)兵数は力なんだけどな

ただ、それも結局は期間限定でしかないからな

軍縮の必要が無い軍の組織造りが大事だ

…まあ、言うだけなら簡単なんだけどな

指示・管理する方は面倒臭くて仕方が無い」



そう言って凝ってもいない肩を揉んで見せる。

そんな俺を見ながら「はいはい、そうよね」と軽い相槌を打つ様に流す咲夜。

その咲夜に「其処が御兄様らしいのよ」と生暖かい微笑みを浮かべて見せる華琳。


…フッ…成る程な、そうか、そうですか。

良いだろう、その挑発(宣戦布告)、受けて立とう!。

この話し合いが終わったら、思い知るがいい!。



「宅の兵は勿論だが、郭家・顔家からも精鋭を選抜して連れて行く

選抜と準備──再編成は三日以内に終わらせる

基本的には斗詩達に遣らせるが、補佐を頼む」


「それは構わないけれど…私達が付く必要が有る?

二人共、その辺りの実力は有ると思うわよ?」


「二人に実力が有るのは判ってるって

ただな、如何に支持を集めていても、二人が女性で主犯の郭栄の近親者である事には変わらない

下手に二人に任せ過ぎると有りもしない事を疑い、二人への信頼や評価を悪くする可能性が有る」


「郭栄が動くよりも前に御兄様に接触し、意図的に郭栄が焦って動く様に仕向け、自分達は御兄様へと取り入って寵愛と地位を得る、という訳ですね?」


「あー…成る程ね、嫉妬する輩は居るわよね…」


「身の程を弁えられる者は正しく(・・・)賢い

だが、身の丈に合わない野心や欲求を持った者程、容易く道を踏み外し、自他構わず破滅させる

組織にとって、そういう連中は要らないからな」


「…つまり、私達に見極めろという事ね」


「監視付き、と思わせると二人よりも咲夜達の方にいい顔(・・・)してくるだろうからな

それだけでも見分け易いだろ?」



そう言って遣れば咲夜が溜め息を吐く。

まあ、それだけじゃないからな。

その辺りを理解出来る様に成ったのは成長の証。

咲夜も頼もしく成ったよな。





 other side──


矢を抜き取り、番えながら弦を引く。

姿勢を保ちながら静かに呼吸し、意識を視線の先の的へと集中させ──矢から手を離す。

風を裂き、翔け抜けた矢は的の藁束に当たる。

──が、それは当たったに過ぎない。

狙っていた場所からは拳二つ分も離れている。



「……チィッ…影響されたか…」



思わず舌打ちしてしまう視線の先には射た矢が。

矢は軌道上に入り込んだ落ち葉を射抜いていた。


知らぬ者は「え?、その程度で?」と思うだろうが矢は──弓術というのは、とても繊細な武術だ。

他の武術では気に為らない様な些細な事であっても事弓術に関しては大きな影響を及ぼす。


剣や槍を振るう際、その軌道上に落ち葉が一枚舞い込んでしまおうと、大して気にも留めない。

だが、弓術では無視出来無い事。

放たれた矢に落ち葉が掠っただけでも狙いや速さに小さくない影響が生じる。

それが貫通しているとなると影響は更に増す。

矢という物は構造は至って単純。

しかし、それだけに僅かな差が影響を及ぼす代物。

故に、高が落ち葉一枚であっても影響される。


まあ、それが弓術の難しさであり、面白さ。

落ち葉一枚に影響されない腕前を身に付けられれば済む話でも有るのだからな。

──とは言え、現実は視線の先に在る。

まだまだ己の未熟を感じずには居られぬな。



「──あっ、居た居た、御嬢様(・・・)~、大変ですよ~」


「……はぁ~…御嬢様は止さぬか、“七乃”」


「え~…でも、御嬢様は御嬢様じゃないですか~」


「既に御嬢様と呼ばれる若さではないわ

寧ろ、行き遅れ(・・・・)もいい所だ」


「そう思うなら、さっさと御婿さん取ってバンバン子供産んで御家を繁栄させて下さいよ~

ではないと私が奥様達に顔向け出来ませんし~」


「……はぁ~…相変わらず御前は忠誠心が有るのか無いのか判らんな…」


「えー、ちゃんと有りますよ~

それはまあ?、御嬢様に比べたら見劣りしますけど同年代の中でなら、大した物だと思いますよ?」


「何の話をしておる?」


「忠誠心で膨らんだむ──ぁ痛っ!?」


「嫁入り前の娘が何を馬鹿な事を言っておるか…

御前は少しは慎みを覚えぬか、馬鹿者め」



全く…そういう事を軽々しく口にするでないわ。

卑猥な事ばかり言いおってからに…端ない(・・・)

その様に育ってしまった事に私の方が、亡くなった御前の御両親に顔向け出来ぬわ。

………いや、私よりかは宅の亡き母の責任か。

……………だが、母を止められなかった私の責任も無い訳ではないしな……悩ましい所だ。



「…痛ぅぅ~……もお~、御嬢様~っ、嫁入りする為に折角覚えた“極楽艶技”を忘れてしまったら、どうしてくれるんですか~?」


「そんな下らぬ物など忘れてしまわぬかっ!

──ったく…で?、何が大変なんだ?」


「ああ、そうでした、上谷郡が落ちました」


「──っ!、そうか…誰が獲った?」


「徐恕さんですね~」




──side out



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