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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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  暗闇を裂き穿つ


顔良との会談から三日後。

俺達は予定通りに三千の兵を前にしている。

上谷郡では一足先に動きが有ったが…気にしない。

──と言うか、それも含めて(・・・・・・)順調だからな。

いや~、やっぱり現場仕事が一番だな。

机に齧り付いて仕事してるのは辛い!。

いや本当にマジでね。

やっぱりね、向き不向きって有ると思うんですよ。

だから今度から俺は現場一本で行こうと思う。

「俺は生涯現役だーっ!!」って感じでね。



「心配しなくても貴男は絶倫(生涯現役)

でも、それはそれ、これはこれ

終わったら当然の様に竹簡山脈(チョモランマ)が待ってるわ」



そう然り気無く、容赦無く現実を突き付ける咲夜。

最早妻達に思考を読まれる事を日常として受け入れ可笑しいと思わなくなっている自分に苦笑。

「まあ、それも幸せと言えば幸せな事だよな」と。

結婚して三十年を越え、達観していそうな思考だが実際問題、それで悪影響は大してないからね。

寧ろ、変に隠し事をしようと思わなくなりますから夫婦円満に繋がっていると言えます。

結局、言わなきゃ判りませんからね。

「気付いてよ!」は老若男女関係無く無理です。

だって、自分以外の全てが他人な訳ですから。

どんなに仲の良い夫婦でも判らないものは判らないというのが現実なんですからね。

心を読まれる位、大した事じゃ有りません。


でも、出来れば外に出して下さいっ!。

執務室(牢獄)生活には飽き飽きなんですっ!。


尚、前者の件に関しては黙秘致します。

黙った時点で真っ黒なんですけどね!、残念!。



「ネタが古いのよ

それより…はい、隠密からの御届け物(・・・・)よ」


「おっ、来ましたか」



俺の思考を読み呆れる様に溜め息を吐きながら袖の中から咲夜が取り出したのは団子が入っていそうな笹の葉を使った小包み。

まあ、実際に万が一の時に備えて怪しまれない様に隠密衆が使う小細工(カムフラージュ)ですしね。


──で、その中身なんですが。

確認せずとも判っているので、そのまま懐へ。

…これで本当に団子だったらコントですけどね。

ミステリー物なら犯人を追い詰める大事なシーンで取り出し「これが証拠の団子だ──団子っ!?」って二度見して、「済みません!、間違えました!」と部下が出て来て別の物と引き換えてから最低二回は天丼でしょう。

三回は少々胃もたれしてき易いですからね。

その後が余程面白くないと白けますので。


まあ、現時点では気にしなくていい事です。

それよりも兵達の様子を見ながら戸惑う顔良だ。



「何か気になる事が有ったか?」


「──えっ!?、あっ、い、いえっ、特には…」



「はい、ダウト!」と咲夜が相手なら言ってるな。

判り易いにも程が有るでしょ、これは。

それはまあ?、顔良って基本的に“良い人”だし、それ故の苦労性キャラだったんだけどさ。

それは飽く迄も原作(ゲーム)上のキャラ付けで。

現実(リアル)に反映・適用しなくてもいい訳です。

勿論さ、顔良自身が好き好んで「このキャラで私は行きます──いえ、活きます!」とか拳を握って、訳の判らない遣る気を見せた訳では有りません。

偶々、近い人柄(キャラ)だったというだけ。

だから、無理に拘る必要は無いんですよ。


──って、そんな事はどうでもいいんです。

重要なのは顔良との会話自体ですから。



「兵数が気になるか?」


「しょっ!?…そんな事は、有りませんよ?」


「……貴女、絶望的に嘘が下手過ぎるわね…

子供でも、もう少し増しな嘘が吐けるわよ」


「ええっ!?」


「確かにな…これは指導して改善出来るかも怪しい位に稚拙だったしな…

正直、此処まで下手なのは………初めて見たな」


「ぅうっ…其処までですか…」



咲夜と俺の言葉に思わず項垂れる顔良。

漫画やアニメなら、トホホ泣きしているだろう。

その落ち込み具合に見ている方も苦笑してしまう。


その様子に俺と咲夜も思わず顔を見合わせる。

その余りにも素直な反応が故にだ。

「これは無理だろ?」「これは無理よね?」と。

交えた視線で一発合致する程に。

だから、一瞬で演技指導は不要だと判断。

覚えさせたかったが、無理なものは無理。

顔良に駆け引きが出来るとは思えなかった。

そしてそれは「交渉の絡む仕事は遣らせない」と。

事実上の不文律の決定だと言えた。


なので、顔良に一つだけ確認をして置く。

その回答次第では俺達も方々に色々と動かなければ為らなくなるからな。



「…あー…そのな、顔良、少し訊き辛いんだが…」


「…ぐすんっ…何でしょうか?」


「父親が亡くなっているし、顔家の直系は御前しか居ないのは間違い無いよな?」


「ぁ、はい、それは間違い有りません」


「…で、郭家は腹違いとは言え、姉妹が二人と…

御前の母親に今、想い人や再婚を考えている相手は……………うん、居なさそうだな」


「ええ、居なさそうね」


「ええっ!?、どどどどうしてですかっ!?」


「「「そんな人居たかな?」って顔をしてた」」


「──はぅっ!?、ぁうぅぅ~~~っ…」



揃った俺達の答えに両手で真っ赤になった顔を隠し反射的に屈み込んでしまった。

「もう御嫁に行けませんっ!」と。

テロップでも付ければ、野郎(餓えた狼)共が萌えそうだ。

いや、吼えそうだ、だな。

勿論、心の中の野獣王な俺は咆哮しております。


同性である咲夜でさえも「あざとい訳じゃないから可愛いっ…」と萌えている位です。

宅の恋とは違う意味で天然ですね。

郭佑(御義母)さん、グッジョブです。

──とか思っていたら、脳裏に親指を立てて笑顔でドヤ顔をしている女性の姿を受信しました。

……いや、貴女、誰ですか?。

もしかして、郭佑さん?、え?、マジで?。

──というトリップ状態からは咲夜に尻を抓られて顔良には気付かれずにカムバック。

ナイスっす、咲夜さん、愛してるよ。


全く関係無い話だけどさ、“~っす”って書く時、不思議と“~”の所がカタカナだと平仮名にして、漢字や平仮名だとカタカナにしたくならない?。

これって俺だけかな?。

うん、本当にどうでもいい事なんだけどね。



「…まあ、取り敢えずだ、顔良」


「…ぅぅっ…な、何でしょうか?…」


「御前には俺の妻と成って貰うし、顔家の跡取りも産んで貰う事になるから、そのつもりでな」


「…………………………………………………え?」


「そう、御前だよ、顔子義」


「………………………………………………………」


「………あれ?」


「……………駄目ね、気絶してるわ、この娘」


「…oh~……マジでか…」



自分の顔を指差したままで、急に反応の無くなった顔良に近付き、その目の前で咲夜が右手を振るが、見事なまでに無反応で。

溜め息を吐いた咲夜に気絶していると告げられる。

その余りの初さに俺は右手で顔を覆い、左手を腰に当てて天を仰いでしまった。

いや、可愛いんだけどね、その反応自体は。

ただ、そんな娘を嫁にして、子作り?。

恋の時以上の無理ゲーな気がしてきました。

原作はエロゲーだったのに。

いや、原作とか関係無いんだけどね。

ちょっと愚痴りたくなったんですよ。

だって、男の子だもん、下心が溢れちゃう。



「ほら、馬鹿なネタ遣ってないて起こしなさい

私じゃ、まだ刺激が強いかもしれないから」



そう言う咲夜に頭を軽く叩かれながら気絶している顔良を起こす為に氣を流し入れる。

咲夜の場合、自己強化や攻守用の氣の使い方は大分上達しているが、治癒系は苦戦している。

資質が無い訳ではないが、元が女神らしき存在だし生物的に病気には無縁だったらしい。

怪我等の身体的な故障・異常は生じるが、それらも大概は神的な力で治せるらしいからね。

今、その辺りの感覚で苦労しているんです。




──とか考えてる内に顔良さんも再起動。

そして、自分が俺の妻になる件を聞いて気絶したと判ったら茹で蛸──いや、完熟トマトの様に。

其処から暫し時間を要した事は言うまでも無い。



「…でだ、話を戻すが、兵数が気になるんだろ?」


「…はぅぅ………あの……はい、そうです…」



取り敢えずは立ち直った顔良に改めて訊けば最初は言い難そうにしていたが、観念して頷いた。

うん、一々俺を見て「ぁぅ~…」「はぅっ!?」とか言われると誘ってる様にしか見えなく為ります。

いや、勿論本人は言われた事で俺を過剰に意識し、それでも嫌ではないから戸惑ってるんでしょうが。

それが判るからこそ、此方も躊躇います。

ある意味、初めて経験する恋愛のタイプですね。


まあ、顔良が意識している分、此方が平然と構えて受け止める位の気持ちで居ましょう。

その方が俺の精神的負担も少ないですからね。

引っ張られると初な男子みたいになりそうで怖い。

そして、そんな自分を見たくない知りたくない。



「兵数に関して言えば、時間さえ掛ければ五千でも一万でも宅の戦力的には集められる」


「──っ!、それじゃあ──」


「──だが、その場合、今からなら(・・・・・)間に合うものも間に合わなくなる可能性が出て来るが…

御前は、それでも構わないか?」


「──っ!?、そ、それは……………っ……」


「まあ、そういう事だ」



俺が何を言いたいのか。

それが、どんな結末を想像しているのか。

それを理解し、顔良は表情を強張らせ、俯いた。

不安や心配から来る焦燥感と期待が表面的な事しか見えなくさせてしまう事は珍しくはない。

チラッと視線を向ければ咲夜が「そうよね、それに気付いた時の自己嫌悪って凄いわよね…」と。

経験者として複雑そうな眼差しで見詰めている。


そんな俯く顔良の頭を少しだけ強く撫でる。

言外に「解ったんなら、それでいい、そして、同じ過ちを繰り返さない事が一番重要だ」と。

顔を上げた顔良を見て、頷いて見せて伝える。


咲夜からの「本当、貴男って狡いわよね…」と。

経験者が故の視線(刺々しさ)を感じますが。

それには気付かない振りをします。



「準備と移動、それが間に合う範囲内でギリギリの兵数が三千、という訳だ

決して、ケチったり軽視している訳じゃない」


「はい…申し訳御座いま──ぁぴゅっ!?」



責めている訳ではないのに気落ちして謝る顔良に、軽く苛っとしたので笑顔でデコピン。

何が起きたのか理解が出来ていない顔良は、両手で額を押さえながら「え?、え?、え?」と背景的にクエスチョンマーク乱発状態で俺を見ている。



「解らない事を考え、訊ね、理解しようとする

それの何が悪い?

御前の謝罪は何に対しての行為だ?」


「…ぇえっと…それは……………………………………………わ、私の失言?──痛ぁうっ!?」



「じっくり考えて、それかっ!」というツッコミを含めて、デコピンを再びプレゼント。

一歩後退り、その場に屈み込む顔良。

咲夜が「痛いのよね、それ」と。

デコピン被害者の友として同情する。


それは兎も角として。

そうなんだよね、“御人好し”な人って居るけど。

ポジティブだったり、気にしない訳じゃない。

寧ろ、頼まれたら断れない様な気が弱い・優しい。

そういった人が誤解されているケースも有る。

そして、それ故に一人で抱え込んでしまう、と。

その先は言うまでも無い事でしょう。

それを想像出来無いなら、思い遣りの心は無い。


顔良は身近な者に恵まれ、守られている。

ただ、自分自身の非力さを理解してもいる。

だからこそ、今の自分が情けないのだろう。



「俺の真名は忍だ、顔良、御前の真名は?」


「え?………ぁ、ぇっと、あの…“斗詩”です…」


斗詩(・・)、御前は俺に未来を捧げた

俺は御前の未来を受け取った

これは俺の意思であり、斗詩の意思だ

だから、後悔はしても自分を卑下するな

悔しいと思うなら、前を、上を、睨み付けながら、一歩ずつで構わないから進み続けろ

一人で無理なら俺が手を引いて遣る、歩んで遣る

御前は決して独りではない事を忘れるな」


「────っ!!」



そう言って降り出す前に傘を開いて身を隠す。

心まで濡れない様に。





 郭栄side──


我が野望の為、支配の安定の為に。

先ずは目障りで邪魔な姉と妹を始末する。

──つまりだが、そう簡単には事は運ばない。

忌々しい事に、姉妹揃って腹立たしい程に聡明。

幼い頃は「郭佑様が男であれば…」と。

歳を経ては「郭嘉様が男であれば…」と。

彼我を比較し、陰口を叩く連中が常に居た。

何度、「ああ、そうだな、だが、現実は違う」と。

其奴等に言って遣りたいと思った事だろうか。


そう、確かに姉も妹も優秀で──私は凡庸だ。

特筆すべき事が見当たらない位にな。

だから、そう言われる事も仕方が無いだろう。

事実、自分が連中の立場なら同じ様に思うからな。


だが、現実を見ろ!、家を継いだのは私だっ!。

私こそが郭家の当主であり、上谷郡の太守だっ!。

全ては我が意の下に!、思うが儘よっ!。


──が、そう物事は簡単ではない。

十年前、糞親父が死に私が当主の座に就いた。

だが、糞親父は亡くなる前に面倒な指示をした。

郭嘉を嫁いだ姉の郭佑に預けた上、郭嘉が二十歳に成ったら婿を迎え、郭家の当主とする、と。

死に損ないの身で、そんな事を宣いやがった。


その御陰で家臣の大半から私は一時凌ぎだと。

そう思われながら、当主に就く事になった。


しかし、当然ながら、死人の言う事に従う理由など私には欠片も見当たらないのでな。

郭嘉が成人しようが譲るつもりは微塵も無い。

その為に自分に鞍替えする可能性の有る連中を探し重用する事で自分を支持する家臣にして行った。


本当なら、さっさと郭嘉も始末したかったのだが。

如何せん、あの姉の手元に居ては手が出せない。

しかも、姉は「私は顔家に嫁いだ身です」と言って郭家の事には関わらない様にする事で、郭嘉と娘を権力争いから遠ざけ、護って来た。

此方等が下手に手を出せば折角抱き込んだ連中さえ掌を返す様に離れ、私の野望は潰える。

それが判っていたからこそ放置していたのだが。



「………何とも目障りな若造めがっ…」



今や幽州で政に携わる身ならば知らぬ者は居ない。

そう言い切れる程に武勇と名声を知られる男。

“大太守”などと大袈裟な呼ばれ方をする徐恕。

その登場で、風向きが大きく変わり始めた。

郭嘉を「女性当主に」という声が高まったのだ。

その為、五分だった支持が割れてしまう。

四割が郭嘉・郭佑派、二割が私、残る四割は中立。

この中立の連中を如何に取り込めるのか。

それが我が野望の鍵だと言えた。


其処で我が領内で好き勝手していた黒鬼党の張貘に目を付け、討伐から配下へ置く事に切り替えた。

民が犠牲になろうが知るか。

奴等を上手く使えるなら、その程度は安い物だ。


全ては順調、後は邪魔者の始末のみ。

──という所で、徐恕が動いたという報せが。

先に動き始めていた郭嘉達の事を考えると…。

奴等め、徐恕に身売り(・・・)したかっ!。

これだから女という連中は信用為らん!。



──side out



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