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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   交錯す謀略


「やれやれ…」と愚痴るべきなのか。

それとも、その見極めと潔さを喜ぶべきなのか。

正直、悩ましい所だったりする。

まあ、遣る事は変わらないんだけどな。



「………まあ、彼女の言葉を疑う気は無かったが、こうして実際に確認してみると…

「事前に此処まで出来ていても、か…」と、思わず言いそうになりそうだな

そういう意味でだと、あの場で確認しなかったのは個人的には良い判断だったと言いたいな」


「結果は変わらなくても彼女の貴男に対する印象や信頼には影響していたでしょうしね」



そう咲夜と話しながら、顔良から受け取った書状を華琳へと手渡す。


会談を終え、顔良は侍女に案内された部屋に着いて一息吐いている頃だろうな。

本人の立場以上に重く、大きく、多い責任を背負い今回の会談に臨んでいただろうから。

抱え込み過ぎる程ではないにしろ、責任感は強い。

また自分の才器を過信・過大評価はしていないから身の丈に合わない野心や理想も懐きはしない。


ただ、「自分しか居ない」というのが現状。

それ故に本人が抱える重圧(プレッシャー)は今まで生きてきた中で生涯一だと言える程なのかもしれない。

それが一先ずとは言え、結果を出せた。

だから安堵しない理由が中々思い付かないな。



「ただまあ、この会談の重要性──いや、難しさを判っていて顔良に任せる郭嘉も大したものだが」


「そうね、ある意味では貴男に似てるわ」


「俺は彼処までの賭け(・・)は遣らせないが?」


「程度の問題じゃないでしょ?

そういう思考をしている、という所がよ」



そう言われると…確かに否定はし辛い。

ただ、俺の場合は失敗しても俺自身が尻拭いをして何だかんだで経験値()にして遣れるからだ。

郭嘉の場合は、それが不可能だと言える。

寧ろ、顔良に命運を託す意味での賭け(ギャンブル)だからな。

其処は明確な違いだと言いたい。


勿論、その辺りを理解した上での咲夜の発言だ。

そうでなかったら此処で華琳が黙ってはいない。

間違い無く、咲夜の発言に噛み付いている。

…ええまあ、兄としては少々複雑ですけどね。


さて、それは兎も角として。

上谷郡の攻略に向けてです。

まあ、こうなる展開を予想した上での黒鬼党討伐の絶妙な匙加減(・・・)だった訳ですけどね。


当然ですが、顔良や郭嘉の事は把握済みです。

ええ、宅の隠密衆は、とても優秀ですから。

この程度の情報収集は朝飯前です。

──とは言え、二人を侮ってはいません。

勿論、顔良の母親・郭佑の事もです。

彼女は武人としての才器は持たないが、文官でなら要職を担える程の才媛。

亡き夫との誓いも有り、顔家の事を最優先に考えて動いているし、そういう立ち振舞いをしているが、そういった事情()を外して見れば。

遊ばせておく(・・・・・・)には惜しい人材だと言える。


因みに、顔良は俺の三つ上で今年で二十歳、郭嘉は二つ上で今年で十九歳に成ります。

冥琳達の前例も有りますからね。

郭嘉も早い段階で、となる可能性は高いです。

勿論、本人の意思を踏まえた上での話ですが。


それは兎も角、溜め息を吐いて咲夜が続ける。



仕込み(・・・)は出来ているのよね?」


「ああ、問題無く、万事(・・)順調だ」



寧ろ、郭嘉が顔良を動かす時期(タイミング)が重要。

隠密が近付いて思考を誘導する様に囁けば(・・・)、概ねは此方の思い描いている通りに事を運べるが。

それは将来的な火種を抱えるのと同じだからな。


黒鬼党の討伐に関しては意図が有ろうと関係無い。

それが民の暮らしを守る為に直結する事だからな。

それに公表しなかった事に関しては二人や上谷郡の関係者に思う所が有ろうが問題は無い。

出来無かった(・・・・・・)者と、成した者。

何方等を民が支持し信頼するのかは言わずもがな。

だから、その件は言おうが言わまいが俺の自由。

寧ろ、文句を言うなら「自分で情報を掴め」だ。

つまり、言い掛かりを付けようが無意味。

自分の首を絞めるだけだからな。

それが理解出来無い様な馬鹿なら郭栄側に居る。

そういう意味でも、そういった心配は不要。


まあ、日本人だと……いや、現代人だと、だな。

政治家同士の揚げ足取りや足の引っ張り合いという子供の喧嘩に近いが、大人が遣るだけに見苦しい。

そんな無駄な事を国政を担う連中が公共放送を使い国民に見せている事自体が低能も低能。

芸人やタレントではないが、政治家はアレを改めて見直して恥ずかしく思わないのだろうか?。

芸人やタレントなら事務所はクビ、引退をしている可能性だって少なくはないだろうに。

それを平気で繰り返せる暗愚な度胸。

侮蔑を超越し賞賛するべきなのかねぇ…。

尤も、それだけ平和呆けし、平和の意味や在り方を世界的に勘違いしているからなんだろうけどな。

今は亡き歴史に名を残す政治家や偉人達。

彼等の眼に現代は、どう映っているのか。

訊きたくても訊けない質問なのが、もどかしい。


──と、関係無い方向に逸れてしまったが。

要するに、上谷郡を獲る為に色々遣っていようとも政治的に見れば珍しくもない話だという事。

そして、民に直接危害や被害を与えた訳ではない。

何故なら、民にとっての害悪は黒鬼党や郭栄。

それを排除する俺達に民が不満を懐く訳が無い。

まあ、それを意識しているから当然なんだけどね。



「そう…それなら直ぐにでも獲りに動くの?」


「いや、流石に直ぐに動くのは早過ぎる

勿論、表向き(・・・)には動き出すけどな」



そう言えば割り切っていても複雑そうな咲夜。

当然だが、優先順位は宅の民の安全の方が上。

そういう意味では急かす事は出来無いのだが。

それでも「少しでも早く上谷郡の民を…」と。

考えてしまうのは仕方の無い事。


だから、左手を伸ばして咲夜の頭を撫で、胸元へと抱き寄せて「俺に任せろ」と言外に示す。

素直に身を寄せる事で「もう…一緒にでしょ」と。

少し愚痴る様に懐いた葛藤を小さくする。


その手の葛藤が完全に無くなるという事は無い。

俺達は万能ではないし、完璧でもない。

失敗も後悔も苦悩も妥協も取捨選択も常に有る。

それでも、その中で最善を考え、捻り出す。

一時的・短期的な事も有れば、長期的な事も有る。

それにより、考え方を、置くべき基準を変えながら臨機応変に対処していかなければならない。

それが民の未来を預かる俺達の務めだからだ。


──なんて、咲夜と良い雰囲気に為っていたから、割り込む様に腕を突っ込んでくる華琳。

邪魔された咲夜と邪魔をした華琳が睨み合う。

………俺?、“女の闘い”には関与致しません。

どの道、其処に正解(・・)なんて有りませんからね。


──とは言え、二人も状況は理解しているからな。

睨み合いも深呼吸するよりも短い時間で終了。

直ぐに御仕事モードに切り替えます。



「御兄様、兵は五千程で宜しいでしょうか?」


「三千で十分だ

入手後の統治の人材は現地調達が基本だからな

二千は南北(・・)を睨む上で残すが、それは一時的な話だ

全部獲ってしまえば領境の防衛戦力は不要…

それに過度な徴兵は生産力を下げる要因だしな」


「そうですね、それでは私達は?」


「愛紗・冥琳・月・秋蘭・春蘭(・・)は待機だ

当然だが身重(・・)で前線に出す訳にはいかないからな」


「まあ、それはそうよね」



──と、咲夜も華琳も頷く。

…え?、「春蘭が入ってなかったか?」って?。

ええ、入ってますよ、春蘭の御腹にも。

まあ、まだ兆候が出ているだけですが。

宅では確定したと言っても過言では有りません。

俺達が居るので流れたりはしませんからね。


秋蘭からは大体一ヶ月遅れですが。

その辺りは適度だったと言えます。

早い場合は言うまでも無く、遅れ過ぎるのも春蘭に要らぬ精神的なストレスを与えますからね。

ええ、本当に良い頃合いだと言いたいです。

春蘭に対し避妊してズラしていたのは意図的ですが出来たのは自然であり、授かり物ですからね。

良かったですよ、本当に。



「俺以外に参加するのは、華琳・梨芹・紫苑・祭・咲夜・凪・真桜だ」


「恋達は外すの?」


「過剰な戦力の投入は好ましくないからな

それに東部の動きも現状では無視出来無い

判断は冥琳と月が居るから心配無いが、現場に出る面子は残して置かないといけないからな

まあ、宅が幽州を東西に分断する格好だからな

その御陰で下手に共謀したりされないだけ増しだ

広域での多面作戦は面倒臭いからな」


「…どの口が言うのよ」



いやいや、本当に面倒臭いんだからね?。

それはまあ?、宅の面子と能力なら、対処する事は全然可能な事だとは思いますけど。

それでも万が一が無い訳じゃないですから。

遣らないで済むなら、遣りたくは有りません。

安全第一、安全確認は細かくしましょう。

勿論、気にし過ぎるのは頂けませんけどね。


ただまあ、それが出来るのにも理由が有ります。

…あ、宅の力量が別格だからじゃないですよ?。

それを言い出したら政治的云々とか、そういうのが一切関係無くなってしまいますからね。


宅が戦力を過剰に投入しなくてもいいのは郭嘉達、所謂“反郭栄”勢力が待機しているから。

俺達が動き出し、上谷郡にへとみ込めば、彼女達が呼応する様に各所で動き出すからだ。


勿論、それで太守の郭栄の暴政を止められなかった自分達の責任が無くなるとは思ってはいない。

だが、それでも郭栄を止めなくては為らない。

その覚悟が、あの書状だ。

まあ、書状に署名した中には「此処で郭栄に付いて共倒れするよりも噂の徐恕に清廉さを印象付けて、後々に繋げた方が美味しいだろう」等と。

そういう考えで郭嘉達に賛同した連中も居る。

…ん?、「言い切ったな…」って?。

そんなの当然じゃないですか。

宅の隠密衆の実力なら事前に把握していますよ。

ええ、何奴が使えるか(・・・・)判っていますよ。

だから郭栄の件が片付いたら、きちんと内部整理(・・・・)も遣りますからね。

要る者と要らない者は仕分けしますよ。



「何にしても動き出したら一気に片付くからな

だからこそ、此処で郭嘉には自ら殻を破って貰う

その為に、黒鬼党も残して置いたんだからな」


「……はぁ~…私、貴男を一度として敵に回さずに此処に居られる事を何よりも幸せに思うわ」


「それに関しては同感です」



おい、咲夜は兎も角、おい、我が愛妹よ。

それは一体どういう意味なのかな?、んん?。

御兄ちゃん、怒らないから言ってみなさい。

…え?、「そう言って怒らない奴は居ない」?。

ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……エェー、何ノ事ー?、僕、難シイ事判リマセーン。



「…貴男って結構面倒臭がりな癖に凝り性よね

料理や家庭菜園とかも人一倍好きだし…

何だかんだ言ってても、面倒臭い事を楽しむ下地は昔から有ったんでしょうね」


「そんな事は…………………………………………」



…あ、あれ?、可笑しいな。

咲夜に言われて振り返ってみると確かに昔から──今の自分に転生してからの人生って面倒臭い事しか遣って来てない気が…いやまあ、普通に生きる為に必要な事だったんだけどね。

前世では考えられない位に面倒臭い事してるな。


よくよく考えたら、特典(チート)自体もだし。

もっと楽な内容に出来無くも無かったのに。

あの時は「俺って天才っしょっ!」とか思ってて。

そんな事考えもしなかったけどなぁ…。

そっか……俺って面倒臭い事楽しんでるんだ。



「ほら見なさい、反論出来無い位に心当たりが多い時点で確定したも同然よ

実際の所、昔からなんでしょ?」


「御兄様ですからね」


「…まあ、何だかんだで全部誰かの為でしょうし、結局、そういう所が狡いのよね…」


「…ふふっ、だけどね、それを素直に認めないのが御兄様の可愛い所よ…」


「…ええ、確かにそうね…」



何か二人して、こそこそ・ニヤニヤしてますが。

俺の耳には何も聞こえていません。

だって、部屋が暑くて仕方無いんだもん。

クーラー欲しいぞ、畜生!。





 郭嘉side──


兄である郭栄が動き出し、直ぐに斗詩を徐恕殿へと使者として送り出しはしたものの。

それは単純に使者としてだけではない。

もしもの時…万が一の場合に。

郭家と顔家、その両方の血筋を受け継ぐ彼女を()に置いておく事で絶さず、繋げる為。

言い方は悪いですが、これは郭家の問題。

郭栄と、その姉妹が背負うべき責任ですからね。

出来る限り、巻き込まない形にして置きたい。


そんな私の意図を、会わずとも察していたらしく、姉・郭佑から届いた文を読み、苦笑。

「貴女まで背負う必要は無いのよ?」と。

嫁いだ身で有る筈の姉は私の身を案じてくれる。

早くに母も無くし、姉が母親代わりだった。

私が叔母だが、姪の斗詩の方が一つ歳上と。

珍しくはないが、少々説明が面倒な関係。

しかし、そんな二人の存在こそが、私の支え。


だからこそ、私は逃げる訳にはいかない。

姉の気持ちは本当に有難いけれど。

此処で我が身可愛さで逃げ出せば私に未来は無い。

私の意志に、語る価値は無くなる。


──そう思いながらも、淡い期待を捨て切れない。



「……最悪を想定して然るべきなのですが…ね…」



どうしても、私の脳裏には泣きながら抱き付いて、息を詰まらせながら「心配したんだからっ…」と。

その他人を怒る事が下手な彼女が愚痴る光景が。

可能性として残り続けてしまいます。


ただ、それが生や斗詩への未練からなのか。

或いは、噂の徐恕殿に対する期待なのか。

それは定かでは有りませんが。

困った事に、嫌な気がしないのが苦笑する理由。



「…まあ、それならそれで前向きに行きましょうか

どの道、郭栄(あの男)を止めない限り、上谷郡にも私達にも明るい未来は有りませんからね」



尤も、上谷郡自体は結果的に徐恕殿に治められて、今よりも確実に良い方向に進む事でしょう。

ただ、その過程で不要な存在(・・・・・)は全て排除される。

綺麗にされ、風通し(・・・)も良くなるでしょう。

少なくとも私達には出来無い事です。

それだけでも徐恕殿に委ねる価値が有りますしね。



「失礼します」


「何か有りましたか?」


「郭栄様が李洪様・韓淳様と合流されるものかと」


「成る程…先に二人と……随分と慎重ですね…」



腹心の二人では有りますが…真っ先に合流とは。

黒鬼党──張貘を警戒して、ですか?。

だとすれば、突け入る隙が有るかもしれませんね。



「四人一組で三組、黒鬼党の調査を至急に」


「畏まりました」



そう返事をして下がるのは直属の文官の女性。

私が姉と斗詩に次いで信頼している人物です。

側に裏切り者が潜む可能性が有る以上は、迂闊には私も行動出来ませんからね。

彼女の存在は頼もしい限りです。



「姉上も準備されている事でしょうし…

此方等も遣れる事は遣って置きましょうか」



一息吐き、目の前の事に集中する。

表向きには、まだ気付いていない体が必要です。

釣り(・・)は餌と忍耐が大事ですからね。



──side out



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