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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   子は正面に育つ


さて、何故、急にキャンプなんてしているのか。

レジャーに見せ掛けた敵情視察?。

単純に書類仕事が嫌に為ったから飛び出した?。

何方も有りそうだけど…………残念っ!。

答えは「初めてのアウトドア・息子達編!」です。

ええ、息子達のアウトドアデビューなんです。


いえね、まだ食事とかは出来ませんよ。

離乳期にも達してはいませんから。

普通なら、まだ免疫力の弱い赤ん坊に大自然からの洗礼は厳しい事なんですが。

ただ、俺達は氣を使える訳でして。

本当に危ないと思えば即座に処置が出来ます。

ですから、世の中の親御さん。

真似をしたら駄目ですよ?。

真似をするなら氣の扱いを身に付けてからです。



「誰に対して発信しているのよ…」


「心の向こう側に在る見えない世界の人々にだな」


「はいはい、誠達が寝たから私達も行きましょう」



そう言って右手を握り、引っ張る咲夜。

ボケたらツッコミを入れるのがマナーでは?。

ボケを流すとか無視するのは無礼なのでは?。

ボケた人の意気込みの尊重は何処ですか?。

最早、探しても見付からないものでしょうか?。

嗚呼、何と寂しく、冷たい世の中に為ったのか。

笑いの神よ、笑界を統べたもう笑いの神よっ!。

この迷える哀れな子羊に救いの手をっ!。


──とか遣ってても放置されっ放しなんで。

大人しく諦めて切り替えます。


既に日が暮れ、空は夜の帳が下りている。

前世の暮らしていた街の夜空とは比べるまでもなく大気汚染の“た”の字も無い、今の世界では。

澄み渡った空気は光を遮る事は無く。

周囲に景観を遮る物は何一つ無い。

雲も無く、穏やかな暖かみの有る色の月が浮かぶ。

見上げれば、今にも雨の様に降り注ぎそうな程に。

数多の星が黒天に敷き詰められている。


前世で見ていた夜空よりも、星空の写真等よりも、プラネタリウムよりも、ずっとずっと、ずっと。

遥かに輝いていて、遥かに綺麗であり。

──俺の記憶に有る星空とは全く(・・)違う。

改めて今在る、この世界が単なるパラレルワールドなどではないのだと思わずにはいられない。

…まあ、だからと言っても本当に今更な事。

この世界が、どんな世界で有ろうとも。

俺は、俺達は、此処に在り、生きている。

それだけは確かであり、間違い無い。

だったら、それだけで十分だと言えるだろう。


生きていく理由、生きる意味なんてものは。

所詮、自分の中にしかないのだから。

何処を探し、誰かに求めようとも。

自分が生きているから、存在しているから。

その理由も、その意味も、輝くのだから。


──なんて、イケメン俳優が言えば様になる台詞も凡人の俺が言ったら、只の痛いナルシスト。

寧ろ、勘違いしてる痛いザンメンでしょう。

ブサメンではないけど、イケメンでもない。

「ん~…何かこう、ちょっと残念な感じ?」と。

逆に訊かれしまいそうな微妙な感じがザンメン。

何方等かと言えばイケメン寄りだけど、イケメンと言い切れない感じの残念なメンズの事。

うん、俺が勝手に言ってるだけだけどね。

本当にね、イケメンって得だよね。

イケメンってだけで勝ち組だもんね。


──っと、そんな忘れていた筈の前世の愚痴なんか綺麗さっぱりフライアウェイさせて。

準備が整っている皆を見て、冥琳に声を掛ける。



「それじゃあ、冥琳、留守中の指揮は任せる」


「ああ…一応言って置くが、遣り過ぎない様にな」


「それは相手次第だな」



そう笑顔で返すと冥琳は溜め息を吐く。

他の留守番する面子も苦笑を浮かべるが。

だって、実際にそうなんだから仕方が無い。

相手が有る以上、相手次第なのは否めない。


冥琳達に背を向け、俺達は夜空に向かって跳ぶ。

山頂付近にキャンプを張っている為、少し崖下へと飛び出せば眼下は軽く十数mの断崖。

両腕を広げ、衣服に風を受けて滑空しながら足下に見えている森林地帯へと降下。

木々に着地し、そのまま反動を使って前へ。

闇夜を切り裂く様に疾駆する。


一緒に行くのは華琳を筆頭に梨芹・恋・凪・咲夜・白蓮・流琉・季衣・穏・春蘭・璃々・祭・紫苑。

秋蘭は妊娠の兆候が有る為、不参加です。

うん、秋蘭が先で心底安心してます。

本当にね…俺も秋蘭も頑張りましたよ。


尚、穏と璃々の名前が有るのは気の所為ではなく、実力的に問題無いと俺が判断した為です。

二人共、基礎から始めたとは言え、それは流琉達も同じ事だし、日々頑張ってもいますからね。

着実に実力は上がっています。


あと、真桜が不参加なのは念の為の護衛要員。

場合に因っては後始末(・・・)も必要ですからね。

その辺りを考慮してです。


そんな俺達ですが、懐かしいネタの仮面を付けて、黒装束に身を包んでいます。

ええ、正にTHE・Ninjaですね。

武器も愛用品ではなくて、特注──真桜製の直刀に手裏剣に苦無を携帯しています。

念の為、黒装束の下には黒の鎖帷子もです。


……え?、「キャンプは何処行ったっ?!」って?。

いやいや、キャンプ、ちゃんとしてますよ。

だってほら、和訳すると“野営”でしょ?。

………ん?、違う?。

まあ、細かい事は気にしない気にしない。

要は楽しければ何だって良いんです。

家族団欒の一時を満喫出来ればね。


…は?、「そんな物騒な格好して言われても説得力なんか微塵も無えってのっ!!」ですと?。

やれやれ…これだから固定概念に染まった現代人は日々の中に“楽しい”を見付けるのが下手だね。

“温故知新”って言葉を知ってますか?。

それに昔から言うでしょ?。

「人生、楽しんだ者が勝ち」ってね。

…へ?、「温故知新関係無ぇーじゃんかっ!」?。

だ~か~ら~、そういう所に一々ツッコミ入れてる時点で“楽しむ余裕が無い”って話なんですよ。

良い子の皆、判ったかな~?。


──なんて考えていたら。



「──御兄様、目標を捕捉、数、千三百と…七

報告通り(・・・・)です」


「ん、捕虜が居なくて良かったよ」



華琳の一言で現実へと引き戻される。

今回は俺は感知は使用せず、華琳に一任。

精度を上げるには実戦が一番ですからね。

見落と(失敗)した場合は、それが糧に為ります。

自分の所為で無用な犠牲者が出てしまう可能性。

それを考えれば、真剣且つ緻密に。

そして何より、今の自分を超える事が必要ですから一度の実戦で得られる経験値は侮れません。

尤も、そういう意識が無いなら別ですけどね。


さてさて、五台山のキャンプ地を後にした俺達は、太行山脈を北上し、西部中央に当たる上谷郡。

その東側に天然の防壁として広がる山中に居ます。

まあ、太行山脈の中を移動しているんだから当然と言えば当然なんですけどね。


その上谷郡の山中に、とある賊の一団が居ます。

“黒鬼党”と名乗っていた連中なんですが。

半年程前に頭が代わったら、急に動きが活発化し、当初は二百弱だった勢力は今や千人越え。

周囲に居た賊徒達や官軍崩れの破落戸達を吸収し、一気に上谷郡で幅を利かせる存在に。

ええ、我が物顔で好き勝手遣ってる連中ですよ。


それはまあ?、他所様の事ですからね。

此方から首を突っ込む理由は有りません。

上谷郡の民が虐げられていようが、他人事です。

だって、俺は啄郡等三郡を治める身ですから。

優先順位は言わずもがな。

無用な火の粉や火種はノーサンキューです。


それなのに、どうして動いているのか。

まあ、簡単に言えば狙いが有るからです。

実は、この黒鬼党の頭目である“張貘”なんですが上谷郡太守の“郭栄”と手を組もうとしてまして。

いや、正確には郭栄が「討伐するの無理じゃね?、だったら、厚遇して抱き込んじゃうっしょ」と。

そんな感じのチャラいノリで接触しまして。

それは流石に看過するには目に余る訳ですよ。


そんな訳で、キャンプの序でに清掃活動(ボランティア)です。

勿論、自分達が出す塵等は持ち帰り、処分するのはキャンパー云々に関係無く、当然の事ですよ。



「それじゃあ、予定通り、三班に分かれて開始だ」



そう言って俺が右手を上げると、華琳達は加速し、各々の班長を中心にして散開して行った。


その班分けは次の通り。

班長が璃々の華琳・凪・白蓮・春蘭の第一班。

班長が咲夜の恋・流琉・紫苑の第二班。

最後に班長が穏の梨芹・季衣・祭の第三班。


咲夜が「…また私が恋の手綱を取るの?」と本当に面倒臭そうにしていたが。

まだまだ璃々や穏には荷が重いからな。

その辺りは仕方が無い。

「だったら、真桜と一緒に留守番にしてよ」と。

言いそうだが、そういう事は咲夜は一切言わない。

以前、愚痴っていたのも自分自身が未熟が故。

恋自身に問題が有るとは言わない。

寧ろ、自分が未熟な所為で恋に要らない気落ち等をさせてしまうかもしれないから。

だから、恋と一緒になる事に困っていただけ。

その咲夜も今では十分に恋を御せている。


…まあ、咲夜ではなくても暴走した恋を止めるのは不可能に近い事だと言えるからね。

咲夜に限らず、それは普通に大変な事なんです。


──なんて事を考えながら、俺は黒鬼党の拠点から離れた高い杉の樹の上に立って傍観。

日々のDEATHクワークで溜まりに溜まっているストレスと憂さを晴らす為に参加したい気持ちは、滅茶苦茶有りますよ、ええ、超殺りてぇ~…っス。

…まっ、その分は妻達に癒して貰いますが。


それはそれとして。

今回は、じっくりと皆の手腕を拝見させて貰う。


周囲に敵らしい敵は居らず、太守と手を組んだら。

それは勿論、気が大きく為っているし、余裕綽々で油断しまくってくれていたりする訳ですよ。

一応、見張りは立てていても実質的には御飾り。

殆んどの連中は酒を飲み、馬鹿騒ぎをしている。


本当にね…どうして他人の馬鹿騒ぎをしてる姿って客観的に見ると、これ以上無く愚かしいのか。

自分が、自分達が同じ事を遣ってたら楽しいのに。

他人だってだけで、こんなにも感情が冷める。

「此奴等、世の中に要らないよな」って。

自分達の事を棚に上げて、そんな風に思うんだから人間っていうのは自分勝手な生き物ですよね~。


──で、そんな「警戒心?、何それ、旨いの?」と酒の臭いを撒き散らしている所に。

黒装束の仮面集団が降り立つ(乱入)

清光に照らされ、咲き乱れ舞う、赫き花。

日中とは違った鮮やかさ、彩りは幻想的。

しかし、その赫さが、生命の散り際だと確と判る。



「…………ヤバい、混ざりたく為ってきたな…」



別に戦闘狂でも、快楽殺人者でもないんだけど。

妻達──数名を除く──ばかりが手を汚すのは。

個人的には我慢し難いんですよ。

それはまあ…華琳達から言わせたら「御兄様ばかり手を汚している事は納得が出来ません」だが。

其処はほら…アレだ、男としての矜持と言うか?、面子と言うか?、ちっぽけな誇り?。

「それなら私達にも妻として、女としての──」と切り返されるでしょうから言いませんよ。

ええ、だから大人しくしています。


………あ、そう言えば、そういう意味でなら俺って普段は基本的に我慢なんかしてないな。

うん、何だかんだで好き勝手遣ってるね。

……いや~……マジで、ちょっと反省しないとな。

散々皆に「一人で背負うな」とか言ってた割りに、俺が一番一人で遣ろうとしてるかもな。

──と言うか、遣ってるね、遣ってたよ。



「…息子達よ、父は今から自分を改めるからな…」



夜空を見上げ、スヤスヤと寝息を立てているだろう息子達の寝顔を思い浮かべ、胸を叩いて誓う。


──という、ちょっと感動的なシーンですが。

眼下では阿鼻叫喚の殺戮地獄絵巻が公開中。

心配はしてはいませんでしたが、穏も璃々も十分に動けていますし、特に問題は有りません。

恋は………うん、まあ、平常運転ですね。

普段と得物が違うし、丸太や角材、柱とかを武器に転用しない様には注意して置きましたしね。

怪力無双は遣ってはいません。

勿論、流琉と季衣もです。

尚、宅の春蘭は猪では有りませんから大丈夫です。

調教(教育)し、猟犬と化していますから。

二人きりの時は仔犬ですけど。




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