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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    我が誇り


そんなこんなで甘寧──“思春”をゲッツです。


そして、彼女が家族と言っている中に程昱が。

思春より二つ下、俺よりも四つ下という事で。

さらっと自己紹介され、「御姉ちゃん共々、宜しく御願いしますね~」と言われた時には流石に吃驚。

肝が据わってると言えば、そうなんでしょうが。

マイペース振りは健在な様です。

良い娘なのは間違い無いので心配はしていません。

姉思い、家族思いなのは眼を見れば判りますから。


尚、頭の上に()は居ませんでした。

「腹話術を教えたら…爆誕するのかな?」と密かに咲夜と気になったのは内緒です。


それと、改めて言いますが、姓名は程昱です。

ええ、改名イベントは有りませんでしたよ。

まあ、俺は皆を照らす日輪には成れません。

皆に寄り添う月輪の方が、個人的には似合う筈。


──其処で「否!、御兄様こそが日輪です!」とか電波を送り付けてくる華琳(我が愛妹)よ。

出来る事なら、ブロック設定したいです。



「──で、実際には?」


「出来無ぇよっ、畜生っ!」



咲夜に訊かれ、直ぐに頭を抱える。

ええ、愛妹紳士()として、出来ませんとも。

妹がブロック設定された事を知り、悲しむ姿を想像しただけで胸が削岩機で抉られた様に為ります。

逆なら……まあ、ショックですが、耐えられます。

それで妹が幸せに成れるので有れば。

そう、兄は……兄はあぁぁーっ………。



「はいはい、此方にいらっしゃい」



──と、嘆き落ち込む俺を聖母の慈愛が包む。

…嗚呼、男って熟、現金なんだって思います。


勿論、そのまま御厚意に甘えて、頂きますが。






「それにしても、霞にしろ、風にしろ、意外な形で出逢う事になってるわよね…

まあ、“原作”とは違うって判ってはいるけど…」


「ああ、少なからず、その度に思う事は有るからな

それは、ある意味仕方無いんだろうな」



原作(ゲーム)の様に人生(シナリオ)は創られてはいない。

各々が、各々に、各々の、各々で、歩んでいる。

ただ、その歩み()が、偶々交じり、重なった。

言い換えれば、たったそれだけの事でしかない。

しかし、それが大きな転機となる事も確かだ。


俺が母さんに助けられ、華琳と出逢った様に。

咲夜が色々遇って、俺に助けられた様に。

偶然に思える出逢いも、何処かで繋がる事も有る。

それを、必然や運命、と。

ロマンチストな人は呼ぶのだろう。


まあ、それはそれとして。

隠れ里に居たのは十五歳以下の子供ばかり。

皆、孤児や捨て子等で、同情心や同じ境遇であると他人事ではないと感じ、集まったという事。

微妙に自分達と重なるから返答・反応には困った。


最年長は十五歳で、思春を含めて五人。

ええ、年下だとは思いましたが…華琳と同い年とは思ってはいなかったので…何と言うか…怖いです。

いやほら、だって華琳を筆頭に恋・穏・雛里・思春という面子なんですよ?。

曹操・呂布・陸遜・鳳統・甘寧と言えば、同い年の面子のヤバさが判りますかね?。

この五人で天下を獲れますよ?。

しかも、教祖と特級(・・)信者達です。

これで思春まで信者化すれば──って、其処っ!、「いや、もう手遅れだろ」とか言うなぁーっ!。

俺自身、何と無く気付いてるんだからっ!。


──ゴホンッ…まあ、考えたくない事は忘れて。

五歳以下が半数を占めていた現実には胸が痛む。

如何に自分達の政策や影響の無い場所での事でも、そういう事が有り触れているのが現実だからだ。

勿論、宅の領内では、そんな事は起こさせない。

ただ、それは飽く迄も領内(手の届く範囲)での話でしかない。

俺達は有能でも、決して万能ではないのだから。

……自分で有能とか言うのって恥ずいよねぇ…。



「…まあ、手遅れになる前に助ける事が出来たしな

ある意味、それも思春の暗殺(選択)の結果だ」


「華琳は兎も角、恋の敵意が凄かったけどね」


「それは、事情を知らない時(最初)はだろ?

今は思春に隔意や敵意は無いからな」



うん、最初は本当に物凄い思春を睨んでたからな。

尤も、その恋に睨まれて気絶しない辺りは凄い。

…決して、見えない所で俺の服の端を握り締めて、足を震わせながら耐えていた事は他言無用。

そう、思春は頑張った。

恋の敵意──殺気は純粋故に凄いからなぁ…。


──で、思春以外の子供達ですが。

宅が経営する形で運営している孤児院が有るので、その新設院として今まで通り一緒に生活出来る様に配慮して有ります。

きちんと年長組・古参組を中心にした家族の図式が出来ていたのも大きな要因の一つです。

外部から下手に手を入れ過ぎるよりは自主性の下に自立出来る様に援助する形が望ましいですから。

──とは言え、必要な部分では遠慮しませんが。

それでも子供達が笑って暮らせるのが一番です。

…まあ、思春達だけは離れる事に為りますが。

会えない訳では有りませんからね。

思春達が成長すれば日帰りで顔を見に行く程度なら余裕で出来る様に成りますから。

その辺りは暫しの我慢です。

勿論、俺達も定期的に顔を出しますけどね。


──と、咲夜と話している所に近付く気配。

俺を含め数人しか気付けない技量から隠密と判る。

個人の特定は俺と華琳だけだろうが…華琳は隠密の編成等には関わっていないから知らない。

そういう意味では全てを把握するのは俺一人。

隠密達のリスクを下げる為には必要な事です。



「──丹之捌(にのはち)、何か有ったか?」


「はい、辺章・韓遂・劉範が動きました」


「馬一族──馬騰は?」


他者()に助けを求める気は無い様です」


「そうか…継続して監視を頼む」


「御意に」



そう一言だけ返し、気配と共に遠ざかる。

咲夜が「相変わらず変な感じだわ」と呟く様に一つ溜め息を吐くのは仕方の無い事。

何しろ、隠密達は傍に居ても姿を目視出来無い。

正確には、存在感を極限まで薄く、小さくする事で認識されないだけで、触れば実体は存在する。

ただ、その技量が高いから認識出来無いだけ。

勿論、俺や華琳・凪等、数名は認識出来ますが。

咲夜は認識は勿論、感知も未熟なので厳しい。

後一年もすれば…居るのが判ってから探れば感知は出来るかもしれないな。

当然ですが、隠密は精鋭中の精鋭、超一点特化部隊ですから並大抵の技量では感知も難しいです。

その点で言えば、まだ可能性の話だとは言え、至る可能性を持っているだけで稀有なんですけどね。

まあ、華琳達と比べれば実力差は否めません。

抑、積み重ねている年月・経験が違いますから。



「…それで、どうするの?」


「どうもこうも無い、今はまだ動かない」



咲夜が何か言いたそうにして──それを飲み込む。

俺の言いたい事を理解したが故に自分の懐く甘えを噛み砕く様に歯を食い縛る。

それが判るから、俺も咲夜の頭を抱き寄せる。


助けられるのだから、助ければ良いだろう。

だが、それは政治的に見た場合には拙い考え。

人種差別的な理由ではない。

単純に、政治的な問題。

誰かを助ける事に理由は要らない。

だが、国境や領土、民族・人種という壁が有るのが覆せない現実である以上、実行は難しい。

国や領土という概念を捨てるか、完全な世界統一を実現しない限り、それは机上の空論でしかない。


その事を俺達は理解している。

だからこそ、咲夜は夢想(甘え)を飲み込んだ。


時として、流される血が必要不可欠な事を。

“痛み”を伴わなければ、人は気付かない事を。

気付かない過ちは致命的である事を。

知っているからこそ、知る必要性が判っている。



「…それが一族を背負う長である馬騰の選択だ

その結末を覆えすにしても、ある程度の結果を伴う状況に為ってからでないと意味が無いからな…

非道と取られようが、それも政治的には必要だ」


「………ええ、判ってるわ

後の世の為、人々の為に…

前例(教訓)となる事実(歴史)は必要だもの…

私達は、それが無駄に、無意味に成らない様にして繋いでいかないといけないのだから…」


「ああ、そうだ、それが施政者(俺達)の責務だ」



そう、世の施政者──政治家達は勘違いしている。

国を良くする事は、人を育てるという事で。

決して経済的・技術的に発展している事ではない。

勿論、それはそれで大事な要素では有るが。

その根幹が“人としての在り方”である事を。

政治に携わる者は絶対に蔑ろにしては為らない。

人を育てるのは、人であり、環境。

一人の歪みは、人々の、社会の、国の、歪みの証。

そういう意識を持ち続けられないのなら。

政治家には為らない方が人々の、国の為だ。


──というのが、俺の持論であり、思想だ。

その上では、こういう遣り方を選択する事も有る。

選択の正否は勿論だが、己の才器を見直す為に。

身の丈に会った考え方が出来る様に。

必要な場合が有る。

勿論、それに気付いて正しい選択をしてくれるのが個人的にも一番好ましくは有るんだけどね。


まあ、その辺りの話は置いといてだ。

西部三郡を往き来している騎馬民族の馬一族。

しかし、騎馬民族は彼等だけではない。

辺章が長の“西雲”族、韓遂が長の“邪々渡”族、劉範が長の“太崙”族と存在し、百人以下の少数の部族も十七が存在していたりするのが実態。

ただ、圧倒的に馬一族の数と知名度が高いだけ。


そんな騎馬民族事情は、西雲・邪々渡・太崙が裏で手を組んだ事で大きく動き出している。

彼等は長年に渡り騎馬民族筆頭として君臨してきた馬一族を疎ましく思っていた。

特に「騎馬民族は定住しない事が誇りだ」という、見方に因れば偏った思想(偏見)の強い馬一族。

その影響力が故に、他の騎馬民族の在り方の自由を奪っているという自覚が無い為、恨まれており。

俺達により、停滞し、緩やかに荒廃へ向かっていた幽州の情勢が動いた事で、彼等は一念発起。

馬一族の排除(・・)を決定した。


──というのは、まあ、当然ながら表向きの話。

馬一族が騎馬民族が(・・・・・)定住をしない様に他の部族への圧力を掛けていたのは政治的な配慮から。

騎馬民族が定住すれば、その戦力は軍事力になる。

勿論、少数部族なら構わないのだが。

西雲・邪々渡・太崙の三部族、その何れかが定住し軍事力に加わったとすれば、抑止力(・・・)として相対する事になるのは同じ騎馬民族。

つまり、騎馬民族同士での潰し合いに為る。

それを避ける為の、騎馬民族の在り方なのだが。

時代の潮流が変わり、翻弄されているのが現実。


そして、件の三部族──の長は領地を欲している。

「騎馬民族が定住しないというのは古臭い考え方、これからは定住し戦力・財力を高める時代だ!」と野心丸出しの考え方をしているから。

馬一族が目障り(・・・)に為っただけ。


それを恰も馬一族が悪いかの様に騙って見せる。

実に前世の政治家達と似た思考をしている訳だ。

本当に…何で、こういう輩ばっかり政治家に成って好き勝手に権力を振るえる様になるんだが。

…まあ、その裏側を理解出来ずに騙されてしまった民にも問題が有るんだけどね。

その辺りは簡単には解決出来無い事だからなぁ…。

地道に、掃除して、整備して、根気強く。

妥協せずに遣っていくしか無いんだけど。

人っていうの結果ばかり求め勝ちだからね。

“政治を理解する民”っていうのも良し悪し。

中途半端な“知ったか振り”が出て来るのが必然。

そして、そういう輩が口が上手く曖昧な表現をし、勘違いした民を支持者として獲得し、のさばる。

そして、腐敗政治が行われる訳だ。



「…もしも、一度だけ“天罰”を与えられるのなら私は世の政治家達を一掃して殺る(・・)わ」


「まあ、そうさせない為の不干渉なんだろうな」


「そうね…現実を知らない様にも隔てられるし…

でも、だからこそ、今の私には出来る事が有る

その為の覚悟を、貴男が教えてくれたもの

だから、絶対に私は描いた未来を諦めはしないわ」


「ああ、そうだな…但し、一緒に(・・・)だ」


「うん、判ってる……もう、独りじゃないもの…」






 other side──


野山の色彩を、風運ぶ季の香を、大地の息吹きを。

全身で感じながら、生きている。

それがアタシ等、騎馬民族の馬一族だ。


生まれる前から(・・・・・・・)から馬に乗り。

その背を揺り籠にして育つ。

だから、誰かに教わる事無く、知っている。

アタシ等にとっては掛け替えの無い家族だって。


そんな家族を道具としか見ない連中が居る。

勿論、見方に因ればアタシ等だって同じ事をしてる様にも思えるだろうし、結果的に同じ事も有る。

ただ、それでも違う事も確かだ。


そんな騎馬民族にとっての家族を道具にする考えを持ち始めたら、騎馬民族とは呼べない。

定住する事が悪いとはアタシは思わない。

それだって、一つの選択なんだからな。

だけど、騎馬民族を名乗るんだったら家族に対する敬意と愛情、その意識を無くしたら終わりだ。

其奴等はもう、騎馬民族なんかじゃない。

只の厩の世話人だ。


だから、騎馬民族を名乗りさえしなければ。

誰も、何も、文句を言いはしない。

長く受け継いで来た騎馬民族の誇りを捨てれば。

それだけで、事は丸く収まるんだけどな。

“騎馬民族”という肩書きが惜しいから、ごねる。

「古臭い考え方だ!」「時代の潮流を見ろ!」とか尤もらしい事を言ってはいるけど。

要するに、定住した後の事を考えると自分達の実力だけだと不安だから騎馬民族の肩書きが欲しい。

その肩書きが有るだけで重用されたり、有利に話を纏めたりする事が出来るからだ。

だから見え透いた言い訳は無様で醜い。


だったら、最初から定住なんてするなっての。

騎馬民族の誇りを無くしたら、騎馬民族じゃない。

そんな事すら解らないんだからな。


──なんて事を考えながら、散歩をしていた時。

此方に向かってくる砂塵を見付け、急いで戻る。

一昨日から天幕を張っている一族の野営地に。



「──父さんっ!、北から西雲の奴等だっ!」


「──伯父様っ!、西から邪々渡の一団がっ!」


「──大変なのーっ!、南から太崙が来たのーっ!──って、北と西からもなのーっ!?」


「糞っ!、奴等手を組みやがったんだっ!」



アタシと同じ様に父・馬騰の居る天幕に飛び込んだ蒲公英(・・・)沙和(・・)の口から嫌な情報が。

そして、直ぐに状況の想像が出来たのは皮肉な話。

何故なら、さっきまで考えていた騎馬民族としては失格な連中が、その三部族の長達なんだからな。



「………翠、御前は皆を連れ、東へ向かえ

噂の大太守・徐恕殿であれば、受け入れてくれる」


「はあっ!?、何言ってんだよっ!、アタシは──」


「──御前は私の、馬一族の長・馬寿成の一人娘

御前以外に誰が一族の皆を背負う」


「──っ!、そ、それはっ………けどっ!」


「娘よ、生きて血を、意志を、命を繋げ

御前の亡き母が、命懸けで御前を産んだ様にだ

さあ、急げ、問答している時間は無い」


「…~~~~~っ…」




──side out



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