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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   矛交えたるは


張遼──“霞”が臣下に加わり、早一週間。

霞は冥琳の一つ上、俺の三つ上だった。

ああ、真名は交換していますが、妻ではないです。

ええ、まだ(・・)妻では有りません。

妻候補者、将来的な可能性は否定致しません。

その辺りは俺も最近は半分諦め始めていますから。

──と言うか、華琳(教祖)の野望さえ阻止出来れば!。

俺としては勝ったも同然の結果だと言えます。


ええ、はっきり言いましょう。

妻が百人も居たら死ぬわっ!!。

精力的な意味ではなく、精神力的な意味でね。

元が日本人の俺にハーレム思考は厳しいです。

…いやまあ、それはね?、男の願望(ロマン)の一つとしては思い描いた事は無いとは言いません。

大抵は、男なら一度は考えると思います。

でもですね?、それは一晩だけの夢ならばの話。

現実的には嫁さん十人でも右往左往な四苦八苦。

それが百人とか…無理としか言いません。


……それはまあ、華琳が言ってる様な形式でなら、可能かもしれませんけど。

少なくとも俺の価値観的に受け入れ難い事です。

世界に俺しか男が存在せず、医療等の技術が未熟で人工受精とかも出来無い、となれば。

それは仕方が無いですから妥協するでしょうけど。

普通に考えると無理ですって。

まあ、こんな話は華琳には絶対に言えませんが。

華琳なら世の中の男性の過半数を不能・種無し化し俺ん御神体に仕立て上げる位は遣れますから。

ええ、寝言だろうが、決して口には致しません。


──とまあ、そんな事は兎も角として。

そんな霞に、物は試しと真桜と御揃いの衣装・髪型をさせてみたら──「姉妹やで」と言われたなら、先ず疑う事は無い程に似ていた。

冥琳をして、「こうして改めて真桜を見ると確かに数年前の霞を思い出しても似ていると言えるな」と納得させていた位にね。

でもな、これで血縁関係無いんだぜ?。

信じられないよな?。


──っと、ああ、そうでした。

尚、あの時に霞が不在だった理由ですが。

霞曰く、「ウチより強い奴を探しに行くんやっ!、そんで以て、其奴をウチが倒して、ウチは更に強ぅ成ったるんやっ!」というものでしたとさ。

…うん、原作では(・・・・)バトル・ジャンキーだったのは、まあ、仕様ですから、仕方有りませんけど。

現実にまで影響を及ぼすとは…。

恐るべし、バトル・ジャンキー。


いや、あのですね?、春蘭ですら、違いますから。

勿論、強く成りたい、強い相手と戦いたい。

そう思う事は向上心の現れですから構いませんが。

戦う事自体に生き甲斐や興奮・高揚感を覚えるのは危ないと思うんですよね~…。

まあ、霞の場合にも教育は怠りませんが。


取り敢えず、霞の性格からしても既に馴染んでいる感じですから、特に心配はしていません。

ええ、新たな信者が増えた気がするのは勘違い。

そう、気のせいですよ、気のせい。






(──て事を考えていたからフラグがたった?

いや、そんな簡単には立たないと思…いたいな…)



既に日が落ち、夜の帳が世を抱く中。

眠っていた意識を、常時展開している氣の警戒網に引っ掛かった接近する反応が呼び起こした。


今日は久し振りの一人寝。

いやもう、本当にね、数ヶ月振り位かな?。

………スミマセン、嘘です、数年振りです。

だってだって!、華琳や恋に甘えられたら断るとか出来無いんですもんっ!。

それに華琳達とは一線を越えてからは一緒に寝れば何もしない訳が有りません。

だから恋が居る時は平穏な団欒風景でしたよ。

………密かに悪戯してくる強者は居ましたが。

そういう時には返り討ちにして遣りましたとも。

…其処っ!、「結局遣るんじゃないかっ!」なんて言うんじゃ有りませんっ!。

御兄さんは頑張っているだけです!。

尚、「何をだよっ?!」とか追及してはいけません。

良い子の皆、御兄さんとの約束だぞ!。


──なんて馬鹿な一人コントを遣っている間にも。

我が安眠を妨げ、部屋に侵入してきた輩が近付く。

うん、氣に覚えが有りませんから初対面ですね。


ただ、初見(・・)という訳ではない。

此処数日、宅の──俺の周囲にて様子を窺っていた正体不明の観察者(・・・)さんでしょう。

まあ、もしかしたら“暗殺者”かもしれませんが。

──と言うか、状況的に想い詰めて夜這い(・・・)、という可能性は先ず有り得ませんからね。

これなら霞の夜這いの方が増し………でもないか。

これなら嫁が増える訳でもないですし。

あ、霞に不満や文句が有る訳では有りませんよ?。

ただね?、急ピッチで妻が増える気がする最近。

「これは誰かの陰謀に違い無いっ!」と叫びたい。

その衝動を抑え込みながら、健気に狸寝入り。


俺の個人的な趣味で板張りの和室造りな私室の床を全く鳴らさず移動する、殆んど足音のしない歩法。

そして、俺達の中でも数名しか捉えられないだろう気配と氣の隠行術は見事だと言える。

かなりの実力者なのは間違い無い。

勿論、俺や華琳達の方が実力は上ですが。

そして一人、噂に聞く該当者が思い浮かぶ。


寝台の傍に来て、立ち止まる。

直ぐに襲うのかと思いきや、意外にも俺を観察。

…いや、これは逡巡や躊躇している感じか。



「…噂に聞くよりも若いな………それに男前だ…」



……おや?、何やら意外な一言が。

──と言うか、氣の性質で女性だと思ってたけど、想像していたよりも、かなり若いな。

てっきり、二十歳は越えてるかと思ったが。

うむ、その若さで、その技量、大したものだ。

──って、言ってる場合じゃないけどね。

懐に忍ばせていた短刀を抜くのを感じ取る。



「……っ………貴様に恨みは無いが、死んで貰う」


「──だが、断る!」



絶妙なタイミングで布団を跳ね退けて飛び起きる。

如何に優れた暗殺者だろうとも、浸透してはいないコントネタには対応出来まいっ!。

突然過ぎる事態に思考も身体も混乱し、固まる。



「────っ!?、くっ──なっ!?」


「ほい、捕まえた」



それでも、直ぐに我に返り反射的に距離を取ろうと飛び退いた辺りは称賛に値する。

しかし、その先には既に俺が待っている。

広げた腕の中へ、自分から入る(オウンゴール)!。

しっかりバッチリ、ホールド・オォォンッ!。


後ろから左手で左手を掴み、右手は短刀を取り上げ危ないのでポイッと。

右足を外側から回し掛け、体重を自分に掛けさせる格好にして、俺自身は壁に背を預けます。

貴女ってば、結構小柄なんですね。

…あらまあ、しかも、かなり薄着じゃないですか。

俺も夜着だから薄着だし、体温と鼓動が伝え合って二人で奏でるホット・ビートッ!。


──なんて馬鹿な事を考えていると、彼女の意識は俺ではなく懐に。

即座に右手を入れようとする。



「くっ────っ!?」


「探し物はコレか?」


「──なあっ!?」



この手の台詞を言ったり聞いたり見たりする瞬間、必ず脳裏に流れる曲が有ります。

その内容により世代が判るのは仕方の無い事。

ただ、それは必ずしも自分達が生まれ育った時代と重なる曲であるとは限りません。

親の影響、友人・知人の影響、周囲の大人の影響、ラジオやCM等の影響と、要因は様々。

その結果、刷り込まれたり、印象付いているだけ。

其処に個人の嗜好は必ずしも反映されはしない。


それは兎も角、左手で彼女の右手首を掴み、左腕は彼女の身体を使って挟み込んで封じる。

その上で先に右手で摺り盗っておいた小瓶を見せ、実力の違いと、今の状況を理解させる。



「ふむ…毒……にしては妙だな、コレは?」


「っ…言うと思うか?」


「ああ、御前は言う、そう断言してやるよ」


「フンッ…アレだけ仁徳を評価されているが意外に拷問が趣味だったか?」


「趣味ではないが…まあ、下手でもないな

御前は好きで暗殺(こんな事)を遣っている訳ではない

それに覚悟し切れてもいない

だから無防備な姿に押し殺していた感情が揺れた

「何故、こんな事を私は…」って感じでな

そうだろ?、噂の鈴の音(・・・)さん?」


「────っ!!」


「そして、こんな事を御前がしている理由…

それは自分の為でも、信念や理想の為でもない

守りたいと思う存在が有るからに他ならない」


「…っ………だったら、どうだと言うのだ?

「その者達が望むと思うか?」とでも言う気か?」


「守る為だろうが、生きる為だろうが殺人は殺人

その結果と事実は代わりはしない

ただな、自分の意志で背負って殺るのと、何かしら理由を付けて殺るのとでは大きく意味が違う

自分自身で背負う覚悟が無い者は、理由を逃げ道に責任転嫁(言い訳)をして必ず背けるからな」


「…~っ………」


「足を洗え、御前の武は闇で穢れるべき物ではない

その手を染める紅蓮は陽の下で輝くべき死花だ

穢れではなく、称えられるべき、守護者の証だ」


「……………そんな物は綺麗事だ…」



そう返すが、声は弱々しく、抵抗する気力も薄い。

この手の言葉は言われてみれば、誰でも思い当たる事が一つ位は有るからな。

そういう時代、そういう社会性だからこそ。

人の生き様には、その者の性根が強く滲む。

彼女が如何に苦悩を抱え、生きて来たのか。

それは簡単には理解は出来無い事だ。

だが、未来は変えられる。

使い古された月並みな台詞だが──事実だ。



「さて、外の御前を見ていた監視()も潰れた事だし、話してくれてもいいんじゃないか?」


「──っ!………っ…判りました…」



そう言って彼女は力を抜いた。

勿論、俺は離しませんけどね。

小瓶を懐に入れ、右手で更に彼女の左手を掴む様にしっかりと捕まえて置きます。

…ええまあ、俗に抱き締めるとも言いますが。


彼女は顔を、耳を、首筋までも赤くしながら自分の事情等を話してくれました。

はい、予想通り、“鈴の音”の甘寧さんでした。

ちょっとだけ…本当にね、ちょっとだけですよ?。

悪戯したくなって、耳を噛んだり、項にキスしたりしたのは華琳達には内緒です。

だって、この娘、可愛いんだもんっ!。


──というのは置いといて。

代県県令・丁亮に依頼された事。

断れない様に家族を人質にされている事。

詳しくは知らないが、小瓶の中身の事をです。


話を聞き終え、甘寧を解放し、振り向かせる。

……うん、上目遣いの甘寧って男殺し(暗殺者)だわ。



「それで、その隠れ里に居る人数は何れ位だ?」


「…私を含めて百人弱です」


「なら、五十人も居れば十分だな」


「……あの、一体何を?」


「ん?、決まってるだろ

御前が大事にしている存在(もの)を取りに行くんだよ

そんな場所に置いておく理由は無いからな」


「……………は?」


「御前には宅の軍将として背負って貰う

その手に、その刃に、意志を宿し、覚悟して奮え

家族を、民を、領地を、自らを脅かす敵を屠れ

その代わり、俺が御前を、御前達を護ってやる

何人足りとも、汚い手を出せない様にな」


「────っ!!、で、ですが…私はっ……」


縁絲(切っ掛け)は人各々、多種多様だ

まあ、取り敢えず、もう一人で背負う必要は無い

今、この瞬間から俺が一緒に背負って遣る

だから──もう、我慢しなくてもいいからな」


「──ぁ…っ…ぁぁっ……~~~~~~~っ──」



俺を見詰めていた双眸に波紋が滲む。

顔を隠す様に俯いた甘寧の頭を右手で胸元へと抱き寄せ左手は震える背中を優しく撫でる。

細く、小さな二つの掌が夜着に皺を深く刻む。


……ええ、「…意外と有るやないか…」とか此処で感じたとしても考えてはいけません。

“女の勘”は怖いですからね。

甘寧は大丈夫でも、他は判りませんから。


ですから、意識は今後の予定に向けます。

華琳と凪が起きて動いてますから、楽進隊は直ぐに動ける状態で待機している筈。

殆んど子供なら、一人が二人ずつ抱えれば五十人で楽に運べる人数だしな。

人件費の節約は大事な政務の一つですからね。

俺と華琳と凪…あと恋が居れば護衛は要らないな。

──とか思っていれば、華琳が恋の部屋に向かう。

まだ事情は知らない筈なんだけど…流石だな。





 甘寧side──


徐子瓏を暗殺する為、数日掛けて行動や警備態勢を調査し、万全を期して挑んだ。

だが、現実は圧倒的な実力差の前に屈する事に。

しかし、それが結果的に私の、私達の未来を拓く。


……その…生まれて初めて誰かの腕の中で泣き。

生まれて初めて他者の温もりに安堵した。

私達の住む隠れ里は子供ばかりの里。

皆、孤児や捨て子ばかりだ。


私自身も賊徒に生まれ育った村を襲われ、家族を、友人を、故郷を失った身だ。

当時、まだ五歳だった私には生きる術が無かった。

飢え、渇き、倒れて死ぬ。

そんな未来(結末)しか見えなかった。


けれど、そんな私を拾い、生きる術を与えてくれた一人の女性が居た。

私の義母であり、師である、暗殺者“鈴の音”。

既に引退し、世捨て人に等しかった彼女に出逢い、私の生き方は大きく変わった。

力無き(弱い)者は、何も守る事は出来無い。

それを身を以て知っているからこそ、力を求めた。

私には才能──資質が有った。

暗殺者という、決して誇れる事ではないが。

それは私を確かに強くしてくれた。


義母が亡くなる十歳になる頃には、今の里の古参の十人程が家族となっていた。

義母は「奇妙なものだわ」と笑っていたが。

その意味を、今の私は理解する事が出来る。



「──っと、その子達で最後だな?」


「はい、他の子達は全て里を離れました」


「御兄様、丁亮の元に向かわせた隠密からです

丁亮が「里を焼き払え」と命じたと

あと、一刻程で此処に火を放つでしょう」


「自己保身主義者は無駄に動きが速くて助かるな

御陰で里が空でも確認もしないだろうしな

さて、目的の甘寧の家族(ブツ)も回収したんだ

さっさと俺達もずらかるとするか」


「……兄ぃ、盗賊みたい」


「そうか?、なら、義賊って奴だな

まあ、俺には語る正義なんて無いけどな」


「いいえ、御兄様の御意志こそが正義です」


「大袈裟だな──で、今のをネタにするなよ?」


「──ですが、御断りします!」


「せめて、俺の名を使わない様に」


「嫌です」



──と、睨み合う二人の姿を見ながら思う。

他愛無い、戯れ合う様な会話をしながら。

その掌は私達を容易く絶望の淵から掬い(救い)上げた。

本当に人生は何が切っ掛けで変わるか判らない。


──と、袖を引かれ顔を向ければ、妹の一人が。

亡き義母が、その智謀の可能性を憂いた逸材。



「どうした、()?」


「…御姉ちゃんは、これからは、あの御兄さん達に御仕えするのですか~?」


「…ああ、光栄な事に、私を必要として下さる

この御恩を御返しする事は勿論だが…

私自身、純粋に御仕えしたいと心から思う」



そう、私は徐恕様に御仕えしたい。

………ほ、他の理由も有るのだが…ゴホンッ!。



「そうですか~、それでは風も御姉ちゃんと一緒に御仕え出来る様に頑張らないといけませんね~」



──と、徐恕様を見詰めながら呟く風。

その姿に、その眼差しに、強い意志の宿灯を感じ、私は自然と笑みを浮かべていた。



──side out



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