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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    清涼の華


馬一族と言えば、原作でも三国志でも騎馬としての代表格とさえ言える存在。


白蓮──公孫賛の白馬騎馬軍も凄いんだけど。

やはり、騎馬という意味では持っていかれる。

それは“神速”と称された張遼にしても同じで。

用兵術(・・・)や統率力という面が強調されている。


その為、どうしても「騎馬と言えば馬一族」というイメージが強くなってしまうのは仕方の無い事。

決して、悪意や印象操作が有った訳ではなく。

偶々、そういう風に為っただけの話。

別段、意図も他意も介在してはいない。



「──えぇから太守に会わせぇ言ぅとるやろっ!」


「ですから、何度も言いますが、紹介状も御約束も無い者を御館様に御会わせする事は出来ません

何方等かを満たしてから、出直して来て下さい」


「んな面倒しぃ真似遣っとれるかっ!

ウチは太守に用が有る言ぅてんねんっ!

此処で待っとるから、太守に話を通しぃっ!」


「…ですから────」



非番という訳ではないんだけど。

所用と息抜きで外出し、戻って来てみれば、城前が妙に騒がしくて、見れば門前にて衛兵に掴み掛かる勢いで迫っている人物が。

何やら聞き覚えが物凄く有る口調で。

しかし、既知の人物とは声が似ている様で異なる。

ただ、脳裏に思い浮かぶ該当者が一人だけ居る。

──というか、はっきりと視界に映っている。

何故、今此処に居て、太守()に会いたいのか。

その点に関しては謎だが。

会わずに済みそうな雰囲気ではない事だけは確か。


世の中、こういう事をする輩は少なくはない。

だが、実は俺が白蓮達と結婚して矢面に立っても、この手の輩は宅の領内では見た事が無い。

何故なら、そんな事をしなくても、きちんと手順を経ていれば俺や妻達の誰かに話が通る為だ。

しっかりと、そういった部分を整備・明確化すれば規定を逸脱する者というのは確実に減ります。

まあ、だからと言って信用も実績も無い施政者には先ず出来無い事なんですけどね。

其処を勘違いすると、批難囂々な訳です。





「こないな所で突っ立って、どないしたん師匠?」


「ん?、ああ、ちょっとな…

真桜は工房(・・)からの帰りか?」


「せや、その事で師匠に相談が──って…あれ?、もしかして──()姉はん?」



俺と話をしていた真桜が背後の──まだ揉めている例の人物を見て、彼女の(・・・)真名を口にした。

いやまあ、うん…そうだとは思ってましたよ。

──と言うか、真桜?。

俺達は──少なくとも俺は関係を聞いてないが?。

ん?、その辺りの事は、どうなってるのかな?。


そう思ってる俺を他所に、彼女──“張遼”は声に反応して苛立ちそのままに此方等へと振り向く。



「ァア゛ッ、誰やねんっ?!──って、真桜っ!?

御前生きとったんかっ?!

なら、何で文の一つも寄越さんのやっ!」


「いや、姉はん、勝手に殺さんといてぇなっ!」


「阿呆っ、勝手も何も有るかいなっ!

そらぁな、人伝にやったけど…村の話を聞いたら…

「…アカンな、もう生きとらんわ…」って思うんが普通やないかっ!」


「あー…まあ、確かに、そらそうやなぁ…」



張遼の言葉に反論出来ずに納得する真桜。

うん、確かに、その通りだわ。

明らかに真桜が悪いわ。

──と言うか、その点に関しては俺達にも親族等の確認を徹底していなかった詰めの甘さが有るか。

そういう意味では真桜だけを責める事は出来無い。


…まあ、それでも真桜が一言説明してくれていれば済んだ事なのは間違い無いが。

今は空気を読んで余計な事は言わないで置く。



「せやけど、無事で良かったわ…」


「…その…心配掛けて済んません…

それから…文の事は…すっかり忘れとったわ」


「まあ、ウチも他人の事は言えんけどなぁ…」



真桜に歩み寄り、しっかりと抱き締める張遼。

その雰囲気からも、真桜より歳上なのは確定。

身長も真桜より高いが、真桜以上のスタイルは服の上からでも自己主張を控えない。

「ウチを見てや?、ウチを構ってや?、なぁ?」と言わんばかりにグイグイと押して来る感じに。

しかし、それだけ積極的にアピールをしながらも、決して自らを安売りする様な事はしない。

その絶妙な駆け引き具合は正に猫気質だと言える。

…にゃんと手強いのでしょうか。


──と、それは兎も角として。

今の張遼の反応からして、真桜の生存を知ったから俺に会いたいという訳ではないみたいだな。



「……ん?、真桜、其方の優男は誰や?」


「…は?、優男?──って、ああ、師匠の事?」


「師匠?」


「師匠がウチ等を助けてくれた恩人なんや

師匠が居らへんかったら、ウチ等は死んどったわ」


「そうやったんか…

真桜を助けてくれただけやのぉて、他に色々世話に為っとるみたいで、ホンマに、おおきにな

ウチは張文遠、宜しゅうな」


「俺は真桜の師をしている徐子瓏だ」


「徐子瓏か………ん?、何処かで聞いた様な…」


「そうか?、まあ、よく有る名だからな

それよりも御茶でも飲んで行くといい

真桜とは積もる話も有るだろう?

宅は目の前の城(直ぐ其処)だ」


「ん~…まあ、断る理由も有らへんしな

判ったで、ほな、少し御邪魔させて貰うわ」



招待を張遼が了承した事で真桜に「案内を頼む」と目配せをし、対応していた衛兵に「悪かったな」と苦笑を浮かべながら、袖口に手を入れ、手渡す。

「……?………っ!?」と驚く衛兵に「迷惑料だ」と手渡したのは、とある高級料理店の優待券。

優待券とは言っても前世の優待券とは違い、店側が設定しているコースを無料で食べられる代物。

一枚で六人前位の量なので、家族とでも大丈夫。

俺の記憶が確かなら、彼は妻と子供三人に母という家族構成だった筈だ。

一枚で十分、楽しむ事が出来るだろう。


肩を軽く叩いて「それじゃあ、仕事を頑張って」と言外に伝えて真桜達の後に続く。

尚、この遣り取りは三秒にも満たない物である。


因みに、城門の衛兵は軍属の中でもエリート。

その為、給金は十分に貰えている訳だが。

それでも、その料理店は敷居が高い事で有名。

だから、彼が背後で俺に感謝の45度(御辞儀)をしていても何も可笑しくはないと言えるだろう。

勿論、俺は振り返りはしないがな。






「────って、太守やないかっ!」



城内に入り、応接室に通し、御茶と茶菓子を口にしながら軽い談笑をした所で、張遼が気付いた。


いや、引っ張る気は無かったんだけどね。

気付かないと、何時気付くか試したくなる訳で。

ええ、別に害意や敵意は有りませんよ。

飽く迄も、好奇心と悪戯心からですから。


しかも丁度、真桜に二人の関係を確認しようとした訊いた直後、という辺りには笑魂()を感じる。

真に恐るべきは血統ではなく、精神なのかもな。

いや、そんな訳無いんですけどね。

何処其処人だから、何々人だからって面白い人しか居ないって訳ではないし、協力的でもない。

ああいうのは長い時間を掛けた認識や、本の一部の強烈な個性を持ち、それを武器にして有名になった成功例のインパクトが強いだけ。

必ずしも、そうだとは限りません。

──と言うか、笑いの壺は人各々ですからね。

好き嫌いは有って当然なんです。



「遅っ!?、姉はん、今頃気付いたんっ?!

──って、まあ、それはそれとしてや…

ウチの死んだオカンのオトンの妹の旦那の弟の嫁の兄の息子の娘が霞姉はんになるんよ」


「…つまり、直接的な血縁関係は無いのか」


「そうとも言ぅなぁ」



ややこしい関係──という程ではないが。

要は、親類縁者という事には間違い無い。

──というか、寧ろ、血縁関係が無いのに似ている事の方が俺としては驚きだけどな。



「──で、俺に何の用だったんだ?」


「そうやっ!、冥琳(・・)明命(・・)は何処やっ?!

二人に何か有ったら赦さへんからなっ!」



そう言って、叩く様に卓に手を付いて身を乗り出し俺に頭突き(キス)する勢いで睨んでくる。

その様子からして、二人とは親い関係なんだろう。


ただ、それなら何故、あの時に側に居ないのか。

ある意味、二人の、親い者達の最大の窮地だった。

あの時に何をしていたのか。

正直、そんな張遼に文句を言われても…なぁ。


少なくとも程昭の命令で何処かに遠ざけられているといった話は一切聞いてはいないからな。

その辺りの事も確認しないといけない。



「……取り敢えず、二人との関係は?」


「冥琳とは幼馴染みで親友、明命は妹分やな」


「…それが何で今更、俺の前に現れたんだ?

二人に何が遇ったのか知らない訳じゃないだろ?」


「ああ、よー判っとる…ウチが口出し出来る立場に無いっちゅう事も、その資格も無い事もな…

それでも、ウチは自分で確かめな納得出来へん

それさえ叶えば、ウチの処遇は好きにしたらえぇ

抵抗したりは一切せぇへん」


「…判った、真桜、二人を呼んで来てくれ」



そう言うと真桜は「了解や」と直ぐに退室。

冥琳が妊娠している事も有り、直ぐに二人を連れて戻ってくる事は想像に難くない。

──と言うか、「何か有ったら(・・・・・・)」か。

はてさて、冥琳が妊娠している事を知ったら、一体どんなリアクションをしてくれるのか。

いや~、今から楽しみで仕方が無いな、うん。




──で、冥琳達が遣って来て、二人が俺に嫁ぐ事は理解しているみたいだったが。

流石に、冥琳の妊娠は予想外だったらしい。

「なぁっ!?、にににに妊娠やとぉっ!?」と驚愕し。

「え~と…ちゅ~事はやな…その…冥琳は~…」と顔を真っ赤にしながら確認をし。

「そら、二人が納得しとんやったら、後からウチが文句言ぅんは御門違いやろぅけど……妊娠て…」と何だか複雑そうに冥琳を見て呟き。



「煮る為り、焼く為り、孕ます為り、好きにしぃ」


「おい、最後のは可笑しいからな、おい」



若干の──いやまあ、かなり期待の籠った眼差しを俺に向けながら、床に胡座を掻いて座る張遼。


…あっ、原作みたいな格好はしていませんよ?。

流石に、あんな痴女道一直線の格好を平気でしてる女性は普通には見掛けません。

ええ、決して居ないという訳では有りません。

そういう(・・・・)場所には居ますので。


それは兎も角、張遼の処遇な訳ですが。



「御前を御茶会(・・・)に誘ったのは俺だからな

其処で妻である冥琳達と友人であった御前が再会、それだけの事だから処遇も何も無い」


「せやけど、ウチは──」


「多少、感情的に為り過ぎて(・・・・・・・・・)言葉遣いが乱れたが、それは一々気にする様な事ではないしな

寧ろ、俺の妻達を大事に思ってくれている証だ

喜びこそすれ、咎める理由には為らないな」


「ほ、ほな、城門の所でウチ、騒いでもぅたし…」


「手を出されたなら兎も角、詰め寄っただけだしな

俺も真桜も現場を見ていたが、処罰する程ではない

抑、御前自身、常習犯という訳でもないんだ

精々、口頭による注意が妥当だろうな」


「…ぅっ……それやったら…………………………」



何とか、理由を探し出そうとする張遼。

それを笑顔で正論で看破し飲む御茶は美味い。

ネタ切れ──というか、元々手札が少ない状態だ。

粗を探そうとしても有りはしない。

だから、「あ~~~~~っ、何でやっ!?」と両手で髪を掻き乱している張遼。

そんな俺達の様子を見ながら冥琳は溜め息を吐く。

真桜は苦笑、明命はオロオロ…うん、癒しですな。

明命、此方に来なさい、撫でまくりますから。


まあ、こんな状況に為っている理由は単純。

「さて、それじゃあ、御帰り下さい」と笑顔で俺が張遼に別れを告げたから。

ええ、為し崩しに的に加入したり、嫁にしたりとか今は絶対に遣りませんから。

ええ、少なくとも、今は、です。

過去の事は過去の事なので。


最終的に張遼の口から「ウチを傍に置いたって」と言わせたので俺の勝ちでしょう。

これは恋の駆け引き、男と女の勝負(ラブ・ゲーム)です。

いや、大袈裟ですけどね。

まあ、意味的には間違いでは有りませんから。

楽しみましょう。





 other side──


小さく息を吐くと、胸に溜まっている黒い靄の様な感情が一緒に吐き出された気がする。

勿論、それは気の所為でしかない。

………もし、それで全てを吐き出せるのであれば。

幾らでも遣るのだが。

生憎と、そんな事をしても無駄な事は判っている。


気持ちを切り替える様に静かに見上げた夜空。

穏やかな清影と、瞬く星々と、涼やかな微風。

目蓋を閉じ、感覚を澄ませば命の息吹きを感じる。


そんな静寂を無遠慮に踏み荒らす足音。

一息吐いてから目蓋を開け其方等に顔を向ければ、私を呼び出した張本人が姿を現す。

護衛を引き連れた代県の県令“丁亮”が。


此処、代郡に太守は不在。

だが、この丁亮が実質的な太守に等しい。

──とは言え、対立する勢力も有る。

優勢──半数は丁亮の息が掛かった連中だが。

中立派の二割を取り込めるか、否か。

そんな状況下になる。


そして、こんな時期だからこそ。

奴の用件も察しが付く。

また(・・)その手(・・・)の仕事だろう。



「フンッ…相変わらず無愛想だな、貴様は」


「当然だ、貴様に愛想良くする理由が無い」


「…まあ、良い……用件は判っているのだろう?」


「……今度は誰を殺らせたいんだ?」


「恐らく、一度位は名を聞いた事は有るだろう

時代の寵児、大太守(・・・)──徐子瓏だ」


「────っ!?」



聞いた事が有る、という程度の話ではない。

今や、幽州の行く末を、その手に握っているとさえ言われている大人物だ。

当然、その名を知らない訳が無い。



「…それはまた随分な大物が相手だな…

…だが、本気で成功すると思っているのか?

相手は短期間で四群を手中にした稀代の英雄…

到底、容易く暗殺出来(殺れ)る相手ではない」


「ふん…そんな事は言われんでも判っておるわ」



そう言って懐に手を入れると奴は何かを取り出し、此方に向かって放り投げる。

受け取って見れば、それは小さな小瓶。

掌に感じる感触からして──中身は少量の液体。



「…毒か?」


「正確には少し違うがな

それは小さな火種に触れただけで大火となる秘薬だ

仕留め切れなければ、それを使い奴を道連れにしろ

勿論、それを使って仕留められるなら使え

その辺りの判断は貴様に任せる」


「……「死ね」と言われているのも同じ仕事を態々受けるなどと本気で思っているのか?」


「ああ、貴様は受ける、喜んで受けるとも

貴様が守る存在()を失いたくはないだろう?」


「──っ!!、丁亮っ、貴様っ…」


「この仕事が最後だ

貴様が成功させれば、二度と関わりはせん

だが、失敗すれば──判っておるな?」


「………約束を違えば、必ず貴様を殺す

「安心して眠れる」などと思うな」


「期待しておるぞ、“鈴の音(・・・)”」



そう言うと奴は護衛と共に闇の中へと消える。


己の非力さに強く握り締める拳が痛む。

再び見上げた夜空は私の心を映す様に深く曇る。

心を殺し、死鬼面を被るかの様に。



──side out



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