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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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10話 我が魂の咆哮


積雪量は積雪計を設置した場所の数値である。

その為、同じ地域であれ、積雪量には差が生じるのは仕方の無い事だ。

また、それは積雪に限らず降雪にも言える事である。

勿論、雨も同様にだ。


さて、今生の我が家が有る場所は中々に山奥である。

母さん達を始め、村の人達にも訊いてみたのだが。

これが、かなり困った事に多い年は家が埋まるらしく下手をすると凍死する者が出るんだそうだ。

勿論、それは“運が悪く”という話なんだが。

決して、楽観視は出来無い情報だったりする。

その為に、雪が降る中でも雪掻きは必須業務らしい。

死活問題だし、当然だな。


そんな雪掻きを毎年一人で母さんは遣っていたという話を苦笑しながら言った。

それを聞いたら何か出来る事が無いのかを考えるのが親孝行という物だ。

…まあ、ぶっちゃけた話、俺が遣れば済む話だけど。

七歳児なんですよ。

悉く、我が前に立ち塞がる年齢という敵(壁)。

貴様が我が宿敵かっ!。

……なんて馬鹿を遣ってる場合じゃない。

何かしら手を考えないと。


特に、未明鍛練を遣ってる俺としては足跡が残る雪は大敵でも有るからな。

どうにかしなくては。


そんな事を考えて数日。

“足跡を残さない方法”は岩と丸太を使う事で解決。

積った雪よりも高い位置に為る様に岩を持ってきたり丸太の片方を削っただけの杭を打ち込んで、其れ等を足場として跳び移りながら渡っていく訳だ。

…ん?、「丸太は兎も角、それに使った幾つもの岩はどうしたんだ?」って?。

フッフッフッ…岩をも砕く我が一撃を御忘れか?。

そして、此処は自然豊かな山奥なんですよ?。

手頃な岩の十や二十なら、岩山に行けば幾らでも砕き割って作れます。

後は運ぶだけですから。

……え?、「いやだから、その岩をどう遣って運んだのかが聞きたい」?。

それは単純に担いでです。

…………いや、そんな風に「此奴、人間辞めたな…」みたいな目で見ないで?!。

だって、そういう事も十分可能な転生特典だもん!。

頑張って鍛えてるのは何も技術的な武だけじゃなく、純粋な筋力もですから。

今なら……300kg位なら十分持ち上げられる筈。

いや、測量計とか無いから正確には判らないけど。

多分だから、うん。


──とまあ、そんな感じで未明鍛練の方は解決。

雪掻きの方は………まあ、地道に遣るしか無いかな。

“怪しまれない様に”って前提条件が有るからね。

ただ、一応の予備策として事前に、雪を集めて落とし入れる穴を掘る事にした。

屋根を付けのは忘れずに。

無かったら降り積もって、入れられなくなるもん。

後は、屋根の向きを変え、傾斜を調整した位かな。

因みに、木の伐採と加工は七歳児が遣っても変な目で見られる事は無かった。

要は“上手過ぎなければ”真似ている範疇だって事。

面倒だけど気を付けるべき事だから仕方が無い。




冬支度に於いて対処すべき問題は、寒さと雪以外にも色々と有る訳で。

まだまだ遣る事は有る。


特に、冬の間の食料問題は甘く見てはいけない。

確かに七歳児の俺一人程度増えた所で劇的に変化するという訳ではない。

しかし、食事は毎日の事。

一回一回は大した事の無い増加(負担)だったとしても“塵も積もれば山と為る”なんだからね。

母さんは気にせず、自分の食事の量を減らすだろう。

そういう人だっていう事を一緒に暮らす日々の中で、感じ取っていますから。

自己犠牲を“美徳”とする考え方も有るんだけどさ、俺個人は好きじゃない。

かと言って、「皆で一緒に幸せに為れる様に」なんて言いもしない。

“大切な存在”は必ずしも等価値ではない。

生命は平等でも存在価値は各々に異なるんだから。

だから、俺は自分の大切な存在の為に頑張る。

“その他大勢”の事なんて一々気にしない。

そんな俺を悪だ、非道だと呼ぶのであれば俺は喜んで受け入れよう。

その程度で、大切な存在を守る事が出来るなら。


──なんて、小難しい話は置いておくとして。

冬場の食料問題は死活問題だという事です。

転生特典の有る俺は兎も角としてもだ、母さんや育ち盛りの操には十分な食事を摂って貰いたいと思う。

其処で、俺は干物を大量に作る事を決めた。

幸いにも、俺は漁師の子。

例え設定上の話だとしても有効活用出来るのであれば細かい事は気にしない。


そんな訳で、日々我が家の食卓が御世話に為っている川へと遣って来ました。

夏場は川に潜ってましたが今は無理です。

潜ったら死にます。

水温が低過ぎます。

なので、網に篭に銛にと、道具を揃えて挑む。


…え?、「例の転生特典で冷水に耐性付けたら余裕で潜れそうだ」と?。

いえね?、それは俺も一応考えてはみたんですよ。

ほら、体脂肪が多いと耐性高いって聞きますし。

でもね?、脂肪って結局は燃焼されて消えますよね。

筋肉とは違って脂肪って、どうすれば意図的に望んだ方向に成長させられるのか判らないんです。

それに影響が出るのか否か判りませんから。

だから、諦めました。


まあ、正直言って、華佗に早く逢いたいです。

“氣”を学ぶ事が出来れば転生特典は更に効果を発揮してくれるでしょうから。

だから、華佗さん、ヘイ、カモーンッ!、です。

サモンッ!、でも可です。

心から、貴男様の御来訪を御待ち申し上げます。


………あ、今思ったけど、華佗って原作通りの人物か判らないんだよね。

いや、居るのは確かだって言えるんだけど。

母さんや村の人達から話を聞いた事が有るから。

ただ、情報が少ない。

だから正確な事は不明。

“実在はしている”事には間違い無いんだけど。

此方から接触する方法は…うん、無いよね。


本当、早く氣を使いたい。

だってほら、男の子だし。

色々遣りたいんだもん。

仕方無いよね〜。




「我こそは、牛若丸っ!」──なんて言いたくなる程軽やかに岩から岩へと跳び回っている俺。

うん、何か面白いね!。

テンション上がりまくりで「ヒャッハーッ!」しそうだったりする。

いや、本当に地道な鍛練が効いてるのも有るんだけど操と遣る手押し相撲も結構効果が出てるよね。

「この俺の体幹はワールドクラスだ」って言いたい。

それ位に俺、凄ぇ。

七歳児の俺、パネェ。


まあ、調子に乗って濡れた部分踏んだら滑って水中に落ちるだろうし、油断して気を抜いたら踏み損ねて、やっぱり落ちるだろうから集中は切らさない。

落ちたら最低でも風邪だ。

母さんに迷惑を掛ける事は避けたいからね。


そんな感じで約二時間。

漁──と言うより、狩猟に近かった漁業を無事に終え陸地に戻って一息吐く。

あれだけハイテンションで遣っといてから言うのも、何なんだけどさ。

両足で大地を踏み締めてる感じって安心するよね〜。

安定感が全然違うもん。

けどまあ、そう感じるのも当然なんだろうな。

大抵の人間が生まれてから死ぬまでの内90%以上を陸上で過ごしてる筈。

それに加え、人々の食料も過半数は陸上で栽培・生産されているのだから。

大地という存在が“母”と称されるのも頷ける。

海も“母”とされるけど、彼方は生物学の観点からの影響が強いと思う。

ただ、哺乳類は胎生だから“羊水の海”から生まれる事から考えると間違いとは言えないとも思うしね。

大地も、海も人間にとって“母”と言えるのは必然の事なのかもしれない。


それに対して宗教観念では主や神となる対象を“父”としている事が多い。

それはある意味では男達の女性──母性には抗えない原始的な本能に対しての、超傲慢で無意味な自己主張なのかもしれない。

だって宗教という不確かな偶像崇拝意識を用いる事で“男”を神格化しなくては大自然に起因する“女”に対して懐く畏敬や神聖さは払拭出来無いのだから。


そう、男は弱いのだ。

どんなに腕力等で勝ろうと精神的には克てない。

結局の所、男は女を求め、望み、追い、悩み、願い、憂い、愛し、請い、欲し、繋がる事で在れるのだ。


…………………いやいや、ちょっと待とうか、俺。

何変な電波受信して変な事考えてるのかな?、うん。

そんな大層な世界観なんて俺持ってないからね?。

……まさか、これも一種の“厨二病”なのかっ!?。

くっ…これも神転の後遺症だと言うのかっ…。




──なんて、馬鹿な思考を頭を振って消し去る。

テンションが上がり過ぎて振り切って、何処か彼方に突き抜けて迷走し、彷徨し混乱していたんだろう。

うん、そう思う事にした。

じゃないと、致命的な傷を負ってしまう気がする。



「…さてと、取り敢えずはこれ位で大丈夫かな」



必要な分は有ると思う。

途中──と言うかね、大分最初から数えるのが面倒で放棄したから正確な数量は判らないんだけど。

用意していた竹籠五つ全部一杯に為ってます。

うん、十分でしょう。

母子三人暮らしですから。

一応、宅は育ち盛りな子が二名居ますが、大食らいは居ませんからね。

その点は安心です。


…まあ、乱獲に近い数量を捕獲したので、生態系的に大丈夫かを心配してしまう所なんだけど、時代的にも自然が豊かですから。

この程度は大丈夫ならしく川の中を覗けば、まだまだ魚影が確認出来る。

自然の恵みに感謝です。


“自然の恵み”と言えば、やはり山菜が頭に浮かぶ。

普段なら、一緒に居る筈の操の姿は此処には無い。

母さんの手伝いをしているという訳ではない。

俺と一緒に来て、操は森に一人で山菜を採りに入って行った訳なんです。


うん、普通なら五歳の妹を一人で森に入らせるなんて先ず遣りません。

ただ危ないだけなんで。

でも、我が妹の操は非常に優秀な訳です。

普通の娘だったら、此処で兄の奇行(勇姿)を見詰めて苦笑(尊敬)している場面。

しかし、操は賢く優しい、しっかり者なんです。

五歳児とは思えない知性に俺との“遊び”により結構伸びている身体能力。

これ等を活かし、自制する精神力も有りますからね。

一人で行かせても大丈夫。

実際に、今までにも何度か一人で山菜採りは遣ってる事だったりしますので。

フフンッ♪、どうですか、宅の操は凄いでしょう。



「──────っっ!!!!」



──とか考えている時だ。

俺の“妹(操)レーダー”が「感有りっ!!」と告げる。

そして、迷わず俺は森へと駆け込んで行った。




一心不乱──とは違う。

ただただ、自分の勘を信じ“真っ直ぐに”駆ける。


そして──視界に捉えた。

地面に座り込み怯える操に今にも覆い被さろうとする強姦魔(けだもの)の姿を。



「──死に晒せーっ!!!!」



全速力からの長距離跳躍。

その勢いのまま操の身体を飛び越えて綺麗なドロップキックを決めて、俺登場。

敵を吹き飛ばし、操の前に華麗に着地を決める。



「大丈夫か操っ?!」


「………ぉ、御兄…様?……ぁぅ……ぅうぅ〜っ…」



俺を見上げていた操の顔が驚きから理解、安堵を経て泣き顔へと変わった。

その瞬間だった。

ブッヂンッ…と、俺の中で何かが断ち切れた。



「操、もう大丈夫だ

だから、少しだけ待ってろ

アレを片付けるから」



優しく、頭を撫でながら、穏やかな声で話し掛ける。

そして、先程吹き飛ばした強姦魔へと向き直る。

彼方等も殺る気らしく俺を睨み付けてくる。

同時に、思い出す因縁。

故に、俺は後悔した。

「何故あの時、俺は此奴を仕止めなかったのか」と。

操を怯えさせ、泣かせた。

その自らの責任に苛立つ。



「此処でケリを着けよう」



そう冷静に告げる一方で、「この糞猪(獣畜生)風情がなぁにしてくれてやがんだあ゛ぁ゛ん?!、ごら゛?!、お゛ぉ゛?!、シバぃたるぞおんどりゃあぁっ?!」──と、心の口調が乱れる程に激昂する兄(俺)が居る。

知ってるか?、妹の為なら軽く限界突破して覚醒して超進化するのが兄だ。

世の妹愛(シスコン)を──舐めんじゃねえっ!!!!!!。


嘗て、少年は逃げるだけで精一杯だった。

必死に生きる為に逃げた。

しかし、今は違う。

真に、守るべき(もの)が出来た時、弱く泣いていた少年は革新する。

無限の愛と、狂喜の翼で、愛妹紳士(シスコン)へと。

少年は羽撃いて往く。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.3
















 曹操side──




△△月△▽日。

今日は兄と森に出掛けた。

其処で私は危ない所を兄に助けて貰った。

兄は魚を、私は山菜を集め沢山持ち帰った。




──そう書いた所で、筆は止まっている。

正直、何を書けば良いのか自分でも判らない。


森で山菜を採り、そろそろ兄の所に戻ろうとしていた矢先の事だった。

大人よりも巨大な猪が私の目の前に現れた。

その巨猪を兄は倒し、私を守ってくれた。

その後、魚と山菜を持って我が家へと帰った。


御母様には心配を掛けない様に詳しい部分は兄と私で内緒にしている。

しかし、兄が巨猪を倒して持ち帰ったのは事実。

勿論、流石に「無手で」と言う事は出来無い為、兄は持って来ていた銛で死んだ巨猪の身体を態と突く事で上手く誤魔化して見せた。

流石は私の御兄様です。



(……………御兄様……)



兄を想うと溜め息が出る。

別に嫌な訳ではない。

御母様に隠し事をしている罪悪感は有るのだけれど、それと同じ位に御兄様と私二人だけの秘密が有る事を嬉しく思ってもいる。


その一番の要因は、初めて目の当たりにした兄の姿。

今思い出しても巨猪の事は本当に恐怖でしかない。

体当たりされれば、子供の私は容易く死んだ筈。

“死”に直面し、叫ぶ事も私は出来無かった。

ただただ怯えるしかなく、震えていた。

情けない位に私は無力で、弱いのだと思い知った。


そんな状況では普通は先ず私の窮地に気付きはしないでしょう。

私が兄の立場だったなら、気付かなかった筈。

それが普通だと思うもの。

それなのに、兄は私の元に駆け付けてくれた。

どうして判ったのかを兄に訊いてみると「んー…勘、としか言えないな〜…」と苦笑していた。

本当に、言葉で説明出来る事ではないのでしょう。

知りたいとは思うけど。

だけど、それ以上に。

御兄様が格好良かった。


まるで、物語の中の英雄。

窮地に現れ、絶望的な敵を前にしても怯む事は無く、勇猛果敢に戦いを挑む。

そして、奇跡を成す。

圧倒的に不利な状況を見事覆して見せたのだ。


私は興奮していた。

ただただ兄の姿に見惚れ、目で追っていた。

その時には既に私の心身を侵していた筈の恐怖は消え去っていた。

私自身も気付かぬ内に。


ただただ私は兄の戦う姿に魅入り、胸を高鳴らせた。

一度位は憧憬を懐く。

それが、物語の中の英雄。

その様な人物なんて滅多に現実には居ないのに。

望んでしまう。

思い描いてしまう。

私だけの、私の英雄を。


それが現実に成った。

私(姫君)の窮地に。

兄(英雄)は颯爽と現れて、見事に救い出した。

正に、物語の中の様に。



──side out。



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