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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   結われて実る


目が覚めると、普段とは違う感覚に先ず気付く。

そして、意識が記憶の糸を手繰り──思い出す。

これまでにも一緒に寝ていた事は幾度も有る。

しかし、御互いに一糸纏わずに、という事は無い。

そういう意味でなら、風呂に入る事は焼酎──否、しょっちゅうなんですけどね。


「……ぅ~……むにゃぁ~……じんしゃまぁ~…」


「……………………」



超無防備な姿で抱き付き、幸せそうな笑顔を浮かべ頬擦り&身体擦りしてくる新妻・お穏。


──あ、この“お”は日本の昔の女性に対して多く用いられていた呼称としての“お”です。

お妙さん、およねさん、お市様、お(こう)ちゃん等々。


──で、そんな穏を見て……ムラッとします。

ええ、我ながら「え?、この状況で欲情する?」と呆れてしまいそうに為りますが…仕方有りません。

だって、むっにゅうぅんっ…って。

もにゅ…ぅんっ…て。

「どうぞ、召し上がれ♪」ってっ!。

そう乳海の中で愛欲を叫んでいるんですよっ?!。

何時行くのっ?!、今この瞬間でしょうっ!!。


────という本能の雄叫び(訴え)を黙殺。

いや、流石に初夜の翌朝に寝込みは襲いません。

白蓮の時にでさえ、白蓮が寝惚けていても、一応は起きてから優しく襲った位ですからね。

…ん?、「結局は襲ってんのかよっ!」って?。

ハッハッハッ…私、まだ十代半ばですから。

まだ枯れるには早いですし、人並みに有ります。

だから、我輩の辞書に有る“我慢”の説明文には、絶対の文字は無く、“出来るだけ”と有る!。

そう!、無理なものは無理なんですからっ!。


まあ、そうは言っても俺は寝込みは襲いません。

少し悪戯する程度なら遣りますけどね。

寝込みを襲うのは──専ら妻達の方なので。

…うん、何度、その刺激で目覚めた事か…。

いや、確かにアレは癖になる感じですけどね。

気持ちと感覚のズレが著しくて疲労感が倍増しで、どっと疲れた気になるんですよ。

せめて、悪戯程度で、本気で遣るのは起きてからにして欲しいんですけどねぇ…。


──と、思考を逸らして自制心を働かせます。

こうでもしないと欲望というのは振り払い難くて、しつこく誘惑して来ますからね。


…それにしても……まあ、幸せそうな寝顔な事で。

仕方が無い事だとは言え、待たせていたからな。

そうなるのも仕方が無いんだろうな。

…尤も、その分しっかりと貪り合いましたが。

“原作”の陸遜みたいな性癖は無いにしても、穏の性欲自体は旺盛なんだと一夜で理解しましたよ。






「──で、朝から盛って二度寝して、昼起き、と」


「返す言葉も御座らぬ…」


「微塵も反省してないでしょ?」


「拙者、己が務めに励んだ次第に候う」


「ええ、それでこそよ、覚悟しなさい」



「あァ~れェ~」と言う感じで咲夜に搾られます。

ええ、御説教で絞られるのでは有りません。

物理的に搾り取られる訳です。


──とまあ、そんな感じで、夫婦団欒。

実際、仕事をサボって穏とイチャ付いて訳なんで、その仕事を代行してくれていた咲夜への感謝も含め御褒美を上げるのは夫として、主君として当然。

勿論、無制限ではなく、きちんと自制出来る辺りが咲夜や愛紗の巧みな所でしょう。

然り気無く、独占出来る状況を作ってますから。

…華琳?、始まったら他の事は全無視ですからね。

ある意味、華琳の自制心が唯一働かない事です。



「毎~日~毎~日~机の竹簡に~埋もれ~隠れて~嫌になっちゃうよ~」


「ちょっと、そんなの歌わないでよ!

無性に甘い物が恋しくなるじゃないの!」


「あれ?、言ってなかったけ?、焼き器造ったの」


「聞いてないわよっ!

──って言うか、それなら…」


「勿論、たこ焼き器・大判焼き器も造ったさ」


「流石ね、徐子瓏…恐ろしい(ひと)だわ…」



そんな事を言いながら咲夜と固く握手する。

ハイタッチ・グータッチでも良かったんだけど。

雰囲気的に、何と無くね。


因みに、何故今まで造らなかったのか。

そう!、単純に忘れてたんです。

いや~、まあ、カレーに拘ってたから、他の料理は材料・道具が有る事が前提でしたからね~。

既存の改良・派生系ではない物は避けてましたし。

経済力も得て、余裕も出来たからの道楽です。




そんな訳で、家族揃っての大試食会~っ!。

パプ~ッ!、ドンドドンッ!、パッパプパ~ッ!。

まだ幼い息子達は味わえませんから不参加ですが。

其処は仕方が有りませんからね。

離乳期に入ったら少しずつ食べさせて上げますよ。

だから今は良い子にしてるんですよ~。



「くぅ~っ…何や、この“たこ焼き”言ぅんはっ!

匂いがっ!、音がっ!、形がっ!、色がっ!

ウチの本能を激しく掻き立てて刺激すんでぇーっ!

クククッ…しゃあっ!、えぇ感じで油も馴染んだし焼いて焼いて焼きまくったるでえぇーーーっ!!!!」



そんな中、見えない遺伝子(関西魂)が目覚めたのか。

真桜が一番最初に実演して見せたたこ焼き器の前に陣取って特注の返し(・・)を手に燃え上がる。

そして、その宣言通りに猛烈な勢いで焼き始め──次々と恋と季衣が平らげてゆく。

…うん、御腹を壊しても治療しませんからね?。


そんな真桜に、たこ焼きを任せ、俺は二つの焼きを同時に遣っていきます。

使う材料としては殆んど同じで、比率が違うだけ。

たい焼きと大判焼きに生地を流し入れ、餡を入れ、再び生地を加えたら、型で挟んで焼きます。

行程も殆んど同じなのに──何故か違う美味しさ。

気分的な問題かもしれませんが…不思議ですよね。

尚、俺は稀少な“こし餡”の物が大好きでした。

小豆餡、大納言小豆餡が多いんですけどね。

勿論、それはそれですきなんですが。

まあ、要するに、あんこ大好きなんですよ。



『……………────っっっっっ!!!!!!!!!!!!!!』



──んでもって、焼き上がった二つを慎重に食べた御嬢様方は背後に雷雨を降らせながら衝撃を受け、ぱくぱく、もぎゅもぎゅ、んぐんぐンンッ!?、と。

夢中に為って食して下さって居りますれば。

この徐子瓏、感激のあまり北叟笑んでしまいます。

今日位はドヤ顔したってえぇやんか。


因みに、たこ焼きですが、青海苔・鰹節は結構早く作れたんですけど、ソースが大変でした。

一応、作れはしましたが、前世の記憶を頼りに味を再現しただけなので、正確には似ているだけ。

実際、まだまだ改良の余地が有りますから。

それでも、取り敢えずは合格点だと言えます。

真桜じゃないけど、温められて湯気に乗って鼻腔を擽る食欲を刺激する匂いは、かなり近いので。

あとは味自体の深みの追求でしょう。

ええ、要努力、要試行錯誤、要精進有るのみです。


──なんて思いながらも身体は焼き男(マシーン)と化し。

せっせと焼き続けて居ります。

そして、そんな俺に然り気無く「御兄様、はい」とたい焼きを差し出して「あーん」を誘う華琳。

しかも、きちんと頭から、だとは……遣るな。

初めてだと言うのに何故俺が先頭派だと判るっ?!。

…え?、「御兄様との愛が深ければ当然です!」。

あ、そうですか………そうなの?。

「私に聞かないでよ」と同じく先頭派らしい咲夜がはふはふっ、ほっほくっ…と食べながら視線により返事をしてくれたのですが。

……うん、何だろうね。

たい焼きを食べてる女の子って可愛いよね。

余程な食べ方じゃない限り、可愛いよね。

…まあ、其処に「元が可愛いからだろ?」といった指摘が加わる事は否めません。

ただ、たい焼きの魔力というのは確かでしょう。

勿論、たこ焼きや大判焼きにも言えますが。


そんな事を考えている俺の側で食べ終えて、御茶を飲んで一息吐いた咲夜が訊ねてくる。



「……んっ……ふぅ~………で?、どうするの?

華琳・雛里に穏、と同世代は皆、した訳よね?

亞莎と明命は、まだでも構わないでしょうけど…

これ以上は先伸ばしに出来無いわよ?

──と言うか、歳下に先を越されたら…ねぇ…」


「……………判ってるつもりなんだよ、一応は…」



そう、頭では理解しているつもりなんだ。

だが、いざとなると、どうしても踏み切れない。

ある意味、華琳の様に──は成って欲しくないが、あれ位に思い切ったアピールが有ると此方は楽。

…いや、楽か?……まあ、楽という事にして。

凪や真桜の様に切っ掛けが有れば違うのだが。

如何せん、そういう切っ掛けは特に無かった。

その上、次々と嫁さんが増えましたしね。

うん、仕方が無いって言えば、それまでだけど…。

…やっぱり、きちんと向き合わないとなぁ…。



「御兄様、沢山、愛して上げて下さい」



そう真っ直ぐな眼差しを向けて言う華琳。

聖母の様な優しい微笑みも画に成るんですが。

口元に、あんこを付けたままでは決まりません。

ええ、何て古い御約束な落ちですか。


そう胸中で苦笑しながら、華琳に右手を伸ばす。

下顎に触れ、キスをするかの様に少しだけ遣り易い(・・・・)様に角度を調整し、唇と舌で拭う。


そんな俺の不意打ちに「…ぁっ…」と声を漏らして恥ずかしそうに顔を赤くして俯いた華琳。

珍しい姿に「可愛い奴めっ!」と内心では狂喜乱舞しながらも、平静を装い、兄は微塵も動じぬ。


ふむ…成る程、こういうのには免疫が少ないのか。

──と思っていれば、あんこを口元に付けた一部の目敏い妻達が期待の眼差しを向けて待っている。

うん、それはまあ、気持ちは判りますよ。

でもね?、春蘭さん?。

そのコントの“泥棒髭”みたいなのは駄目です。

可愛さが飛び去って、面白さが降臨しています。

横の秋蘭が「姉者ぁ………ぷっ…」と、反応に困り最終的には顔を逸らした位ですからね。

少しは限度って物を知りましょう。


そんなこんなで、御期待に応えながらの夫婦団欒。

──とは言え、問題は全く解決していません。



「結局は貴男自身の問題でしょ?

恋を“妹”として大事に想う気持ちは判るけど…

それでも、恋だって一人の女なんだから」


「ああ、判ってる、判ってるよ、判ってるけど…」


「そんな言い訳三段活用なんて要らないわよ

とっとと抱き締めて引き摺り込んで鳴かせ(・・・)なさい」


「そうですよ、忍、それが一番判り易くて早いです

抑、恋が忍を拒む訳有りませんから」


「………なら訊くが、誰か恋に性教育はしたか?」


『………………………』



他人事みたいに言う咲夜や愛紗にジト目で訊ねれば華琳までも含めて外方を向きやがりました。

ええ、ええ!、ええっ!、そうでしょうよっ!!。

純真無垢な恋に性教育?、出来るかボケエェッ!!。

必要だって判ってても出来無かったからの純粋培養天然育ちなんですからっ!。

それはまあ?、白蓮達が妊娠・出産しましたから、恋にも仕組み(・・・)は教えています。

ええ、生物学的な、医学的な意味での、ですが。

流石に「鸛が運んでくる」の類いは言いません。

万が一にも恋が「…兄ぃとの子供、捕ってくる」と鸛狩りをしても困りますからね。


だから、こうして兄は苦悩している訳ですが。

本当…どうしてこう為ったかなぁ…。



「因みに、恋自身を抱きたいとは?」


「………正直、全く無いとは言い切れないな

本人には他意は無いんだろうけど、此方は色を知る身だから少なからず、そういう意識は生じるしな

ただ、それに任せて…っていう真似はなぁ…」


「ええ…まあ、そうよねぇ…

私が男でも、恋には手を出せないわ…

璃々や流琉──は知ってるでしょうから、季衣なら上手く言いくるめて………………」


「………罪悪感、半端無いだろ?」


「………ええ、御免なさい、ちょっと無理だわ…」



そう、経験者達でさえ、自己嫌悪に陥る純粋さ。

それを穢す様な事は──愛妹紳士()には出来んっ!。


──が、そうも言って居られないのが現実。

葛藤は半端無いが、もう避けては居られない。

ある意味、穏という言い訳(最終防衛壁)が無くなったからな。

………はあぁあぁぁ~~~…。

マジで気が重いけど…もう遣るしかないよなぁ…。

事前教育無しの、実戦形式で、かぁ…。

気が重いっすよぉ…。





 呂布side──


兄が白蓮達と、姉上達と結婚をしてから。

私の生活が今までとは変わった。

別に悪い事が増えたという訳ではない。

でも…兄と一緒に寝る事が少なくなって寂しい。

最低でも週に二日は一緒に寝られるのだけれど。

兄が色々と忙しくなってからは離れてる日も多い。

仕方が無い事だけど…やっぱり寂しい。


そんな中、白蓮達が妊娠(・・)した。

鶏や山鴨は卵から孵るけど、牛や馬と同じ様に人も雌──女の人が御腹を大きくして、産む。

大きくなった姉上の御腹に耳を当てると、姉上とは違う鼓動が聴こえて──胸の奥が熱くなった。

穏も雛里も「早く子供が欲しい」と言ってたけど、その気持ちが少しだけ解った気がした。

産まれた子供達──兄の息子達は可愛い。

少し力加減を間違えたら壊れてしまいそうで。

とても不安で、怖かったけど。

やっぱり、兄の子供達なんだって思った。

だって──こんな私なのに全然怖がったりしないで笑顔を向けてくれるんだから。

だから、絶対に護ろうって。

もっと、もっと、もっとっ…私は強く成ろうって。

そう、改めて思った。

護りたい存在(宝物)が増える程に。

人は、強く成れるんだって知ってるから。



「………………兄ぃ?」


「──っ!?……ァ、あ~…何だ、その…アレだ…」


「…………?」



今日は兄と一緒に寝られる。

だけど、珍しく姉上達が誰も居ない。

私一人だけ。

それに…兄の様子が変。

昔の白蓮みたいに、そわそわしてる。

………ちょっとだけ、そんな兄が可愛いと思う。



「………っ…恋はさ、俺と結婚したいと思うか?」


「──っ!!」



そう聞かれた瞬間、私は考えるより先に頷いた。

姉上達が、凪が、白蓮達が兄と結婚した。

兄妹でも家族だけど、夫婦での家族の意味が違う。

それは、難しい事の苦手な私でも知ってる。

それが──好きな(ひと)と結婚して、子供を成す事が。

女として生まれてきた私達の特権なんだって。

華琳姉様が言っていたから。

だから、私も将来は兄の御嫁さんに成りたいと。

そう、ずっと前から思っているから。



「…そうか……式は直ぐに、とは行かないけど…

今夜が俺と恋の夫婦としての初夜だ」


「…ん、頑張って兄ぃに気持ち良くなって貰って、兄ぃの子供、沢山身籠る」


「………………ぇっと…恋?、誰に教えられた?」


「……?…侍女の皆や街の小母ちゃん達」


「…………ぁ、そ、そうなんだ……」



よく判らないけど、兄の力が抜けた気がする。

いつもの優しくて、強くて、格好良くて、対好きな兄に戻った様な気がして、安心する。


その兄に抱き締められて、初めて唇に口付けする。

兄妹ではしない、夫婦としての特別な口付け。

今までに兄にして貰った、兄にしていた。

どの口付けとも違って…甘くて、痺れて、熱くて。

心が、身体が、何もかもが、火照ってく。

兄の唇が、指が、肌が、息が、触れる全部が。

私を蕩けさせる様に熱を刻んでゆく。



──side out



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― 新着の感想 ―
[良い点] 遂に、遂に恋との初めてが……(´;ω;`) ※ 後方父親面感
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