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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
113/238

    その間が


楽浪郡を手にしてから、早一ヶ月が経過した。

ある意味で手慣れてきている宅の家臣団。

今の楽浪郡に必要な人員の選抜から兵数の手配まで俺の承認のみで直ぐに動けるレベルです。

頼もしいのは頼もしいんですが…「俺、要る?」と思わず訊きたくなってしまう有能さです。



「そう出来る様に貴男が指導した結果です

ですから、暢気に現実逃避なんかしていないで手を動かして下さい、仕事が片付きません」


「君を貪る為になら我が手は労を惜しまない」


「それはそれで御願いします」



──くっ…セクハラ・パワハラ・モラハラで何とか逃げ道を切り開こうとしたのだが。

やはり、慣れているだけに効き目は薄い。


──と言うか、ハラスメント系って受け手側主体の裁量に依存してますからね~。

だからね、冤罪じゃないですけど、訴え方次第では脅迫する様な使い方も出来てしまう訳で。

前世での某訴訟大好き大国みたいな社会性だったら遣りたい放題な訳ですよ。

ええ、正に「弱者?、誰が?」状態なんです。

弁護士や検察官が利害思考に走った段階で、司法の公平性や、真実の追及は疎かになるのは当然。

しかし、それを裁く制度が弱いか、無いのも現実。

誰の為の司法なのか。

何の為の制度なのか。

一人一人自らが考えなくてはならない事です。


そんな堅苦しい事は兎も角として。

要は、“嫌な相手にされるから”嫌な訳です。

もし仮に超イケメンで、お金持ちで、独身の男性に痴漢されたとしても。

「責任を取るから、結婚しよう」と言われた女性が訴える可能性は如何程でしょうか。

逆に、超セクシーな美女に痴漢された男性が女性を訴える可能性は如何程でしょうか。

そう、結局は個人の匙加減であり、気分次第。

その基準は容姿等が好みか否か。

或いは、日常的な関係性が有る上での立場等。

そんな曖昧な判断基準で人を裁く方が可笑しい。


勿論、本当に裁かれるべきハラスメントを行う者は確実に存在しているのでしょうが。

そういう者というのは、大概が強い権限を持つ者。

だから大抵の被害者は泣き寝入りしています。

しかし、そういう者が摘発され難いのも現実。

ええ、本当に嫌な意味での現実ですよ。


その点、現世は簡単で良いです。

弱肉強食、強者である事が全てですからね。

そういう連中を根刮ぎ始末出来ますから。

罪人の人権?、更正の可能性?、哀れみと慈悲?。

クカァア~…っペッ!、馬鹿じゃないの?。

“罪を憎んで人を憎まず?”、それは事故に等しい事実や複雑な状況が有った上での場合です。

大概の犯罪者は自己利益の為に犯罪を行う者。

そんな者を生かして置くから犯罪が減らないのだと何故だか前世の“平等の意味”を勘違いした人々は考えもしないんですよね、本当に。

自分達の生活を正しく善くしようと本気で思うなら個人的には“悪・即・斬”が最適解ですよ。

ええ、そういう意味でも俺は現世が好きです。

前世の様な間違った平等を享受する世界にだけは、絶対にさせませんよ。


──という現実逃避は止めるとして。

我が仕事机の上に竹簡山脈(チョモランマ)を築いた愛紗(犯人)を見る。

涼し気な「所詮、私には他人事ですから」と言わんばかりの平然とした態度で御茶を淹れる姿。

普段は可愛らしく、甲斐甲斐しく、甘々なのに。

仕事モードになると有能過ぎて隙の無い秘書化し、俺を容赦無く働かせる敏腕振りを発揮する。

…糞っ、言ってて自分自身が惨めに為りやがるっ…こんな筈じゃ…こんな筈じゃなかったんだっ…。


おのれ、関雲長!、再び我が前に立ち塞がるか!。

──とか思っていたら、睨まれるので止めます。

ええ、この徐子瓏、確と心得ておりまする。

我、仕事スル、皆、幸セ、頑張ル。



「…それが終わったら、好きなだけ付き合います

だから、頑張って下さい」


「──言質は取った、さあ、行くぞっ!」



そして、俺の“遣る気釦(スイッチ)”を熟知している。

ええ、男って本当に単純な生き物ですよね。

これだって、一種のセクハラですよ?。

そういう餌で釣ってる訳なんですからね。

でも、俺は訴えなんてしませんよ。

それは愛紗が約束は守ってくれるからですし。

御互いの利害が一致し、供給し合えるからです。


ほら、気付きません?。

結局、ハラスメントなんて信頼の有無だって。

信頼が無いから、ハラスメントに為るんです。

信頼が有れば、それはコミュニケーションです。

つまり、ハラスメントの多い社会というのは人々が信頼の構築を疎かにし、利害重視の経済主義に傾倒していった結果の代償なんですよ。

利便性を棄て、今一度不便な生活へ。

人間性の有る社会へと原点回帰をしましょう。


──とか、頭の片隅で偽善(綺麗事)を語る俺。

うん、政治とかに関わってると住み着くよね。

だから、リフレッシュって大事なんです。



「──ちょっ!?、忍っ!、まだ仕事が──」


「──安心しろ、もう全て終わらせた」


「──なっ!?、何時の間に──と言うか、忍っ!、それなら残った仕事を先に──」


「信賞必罰は政の基本、だよな、愛紗?」


「それはァッ、そうで、すがっ…んっ、くぅっ…」


「俺は積まれた仕事は片付けたんだ

だったら、先ずは頑張った御褒美が先だろ?」


「で、ですが──」


「もう直ぐ白蓮達の出産も始まる頃だ

だからな、愛紗、俺の子を産んでくれるか?」


「────っ!!………狡いですよ、忍…それは…

そんな事を言われて拒める訳無いじゃないっ…」


「愛してるよ、愛紗」


「私も…愛しています、忍

貴男の子を私に産まさせて下さいっ」






──とまあ、そんな感じで面倒な書き仕事から一時離脱しまし──あ、いいえ、違いますよ、うん。

子孫繁栄、跡継ぎ作りも立派な御務めですから。

ええ、だから私は立派に仕事をしております。



「…流された私が言っても説得力が有りませんが、時と場所を考えて下さいっ!」


「反省はしています、後悔はしませんが」


「──っ……そういう所が狡いんですよ……」



愚痴る様に呟く愛紗の本音。

それに気付いても拾ってはいけません。

ああいえ、正確には拾っても持っているだけです。

決して投げ返したり、投げ渡したりしては駄目。

何故なら、その本音とは自分だけに向けられている彼女達なりの愛情表現(甘え方)なんですからね。


それはそれとして。

実際、白蓮達四人が出産し、産後の回復までを含め所要期間が半年を切っていますからね。

だから、次の面々とも子供を成そうという訳です。

その面子は愛紗・月・春蘭・秋蘭に──公瑾。

公瑾に関しては以前も言っていた通りです。

早い方が色々と都合が良いですからね。

春蘭と秋蘭に関しては、本当は一人ずつズラしたいというのが俺の本音だったりします。

出来れば、先に秋蘭に産んで貰ってから春蘭に。

春蘭が先なのは不安ですからね。

ただ、其処で姉妹仲がギクシャクしても困るので、一緒の時期にする予定です。

勿論、本人達にも確認を取ってからですよ。



「…ですが、忍、本当に良いのですか?

状況的には然程余裕が有る訳では有りませんよ?」


「人を育てるには経験を積む環境が必要不可欠だ

そして、その環境とは機会の有無が第一だ

俺達が主導し、担えば速いし経費削減にもなる

だが、それでは人は育たないからな」


「それはそうですが…」


「それにな、愛紗

単純な戦力という意味では多少の増減は仕方が無い事ではあるし、入れ替わりも珍しくはない

だから、実質的には現状の面子が中核を担う

しかし、政治面での戦力というのは全く違う

華琳は例外としても、雛里や公瑾達の様な人材とは育成するのに時間が掛かる

誰しもが皆の様に才器が有る訳ではないからな

だから、始めるのは早い方が良い

その為にも、使える物は有効活用していく」


「…失敗しても私達が尻拭い出来る内に、ですか」



俺の言いたい事を理解した愛紗が溜め息を吐く。

しかし、現実問題として「失敗するな」と言うのは簡単だが、中々実行する事は難しい。

無難に、問題無く、という結果が好ましいのなら、それはそれで構わない。

ただ、俺の考えとしては、それは可能性の摘芽。

失敗から学ぶ事で成長する可能性は勿論なのだが、挑戦する事で得られる可能性も潰す事になる。

何よりも、そんな消極的な遣り方では現状維持か、緩やかな衰退しか期待出来無い。

発展や進化、或いは革新を望むのであれば。

リスクを恐れていてはならない。

そして、そのリスクを背負うのがトップの責任。

政治だろうと、企業だろうと、一族だろうとだ。


──とは言え、好き勝手に遣らせるのは違う。

“温故知新”という言葉が有る様に、指導の出来る人材の有無が人の育成の成果を大きく左右する。

“餅は餅屋”とも言う様に。

経験者や専門家の存在は国や勢力の財産。

彼等を如何に活かし、次代や後継者を育てるのか。

それが責任を負う者の務めであり、教育の根幹。


そして、それは一家庭のレベルでも可能な事。

そういう意識を民が持てるか否か。

其処を見れば、施政者の力量は窺い知れる。



「まあ、愛紗達にしても今の内に産んで置いた方が後々動き易いだろうしな

一年後の状況が、どうなっているかは判らない」


「………それを貴男が言いますか?」



ジト目で「今や貴男が情勢の中心ですよ?」とでも言いたそうな愛紗。

「そんな事は無いって」と言う様にオーバーに肩を竦めて見せ、面倒臭い話を受け流す。


自分が世の中を動かしているという自覚?。

何それ、美味しいの?、ふ~ん。

その程度の認識しか持っていませんよ、俺はね。

──と言うか、そんな自覚したくないし。

する奴の気がしれないって。


俺は只の人、一人の愛妻家、家族至上主義者です。

「俺が世界を動かして遣る!」みたいな野心なんか微塵も御座いませんし、ノーサンキューです。

そんなのは欲しい人が買い占めて下さい。

集めに集めて、コンプリートして下さい。

ささっ、どうぞ、どうぞ、遠慮せずに、どうぞ。



「はぁ~……まあ、貴男らしいですけどね」


「俺以上に俺らしいなんて事、有り得ません」


「そういう意味じゃ有りません

──と言うか、判ってて言ってますよね?」


「さてと、残った仕事の続きを片付けないとな」


「………ったく、ええ、そうですね、その通りです

折角、遣る気も出て来たみたいですし、その勢いで前倒しで片付けてしまいましょうか」


「────────エ゛?」



蟀谷に青筋を浮かべた笑顔の軍神様が予備机の上の残りの竹簡山脈(チョモランマ)を置くと。

追加を取りに部屋を出て行った。


一人になった執務室に響くのは自分の呼吸のみ。

心臓の音が否応無しに大きく聴こえてくる。

状況を理解し、脳裏に浮かぶ選択肢。

全力速攻で目の前の山を踏破し、執務室(此処)から逃亡。

──いや、逃げて何処へ行くつもりだ?。

相手は正統派幼馴染み系ヒロインであり、妻だ。

逃げ場など、この世の何処にも無い。


愛紗が戻って来たら問答無用で寝技(グラウンド)に持ち込む。

──いや、誤魔化せるのは一時だけだろ?。

何処かで必ず返しの説教が始まるのが眼に浮かぶ。

──と言うか、長引かせれば積もり積もって雪達磨みたいに膨れ上がってゆくだけ。

そう、無計画な借金をして返済能力を越えた愚者が陥る借金地獄の様に。


それならば、思い切って全ての仕事を放棄する!。

──いやいやっ、待て待て待てっ!、マジでっ!!。

そんな事をしてみろ、愛紗だけでは済まないから。

寧ろ、最大の政敵とも呼べる華琳に口実を与える。

華琳なら、「御兄様、御心配要りません、後の事は全て私が引き継ぎます、ですから御兄様は後存分に血を残す為に励まれて下さい」とか言い出す。



「………………うん、真面目に頑張ろうな、俺…」



脳裏の残りの選択肢も含め──全消去(クリア)

筆を取り、墨を付けて、動かし始める。


竹簡の隅を濡らすのは、きっと労働の証()だ。

決して、鼻の奥がツーンとなんかしていません。

そう、仕事が終わったら、妻達に癒して貰うんだ。





 周瑜side──


最初から期待していなかったと言えば嘘になる。

ただ、自分自身に“可愛気や健気さ”が有る、とは思ってはいなかったが。

それでも、女としての魅力の有る肢体だとは思う。

勿論、好みは人各々の為、絶対ではないが。


だから、どういう形にしろ、彼の妻となれる事に。

私は素直に喜びを感じていた。

本来であれば、身の程を弁えるべき所なのだろう。

しかし、彼は勿論、彼の妻達も気にはしない。

いや、それ所か積極的に対等に接してくれる。


その中に身を置く事で、彼の懐を理解出来た。

彼は──()は野心家ではない。

桁違いの実力を持った、只の優しい男だ。

ただ、その優しさまでも桁違いなだけで。

飾る所も、見栄を張る所も無い。

……いやまあ、子供っぽい意味でなら有るが。


何にしても、彼と作る家庭は居心地が好い。



「ぢゅっ…ちぢゅっ…ぢゅるっ…ぢちゅっ…んっ、忍、まだ大丈夫だな?」


「ああ、俺は大丈夫だけど…冥琳(・・)の方は?」


「大丈夫だ…今日は全く火照りが引く気がしない

だから…な?……ぁっ、んんっ…ぅん、んンッ!」



そう言いながら、仰向けになった忍の身体に私から跨がって飲み込んでゆく。

触れ合っているだけでも心が温かくなる。

触れ合う程に自分の中に染み込み、染めてゆく。

狂おしく、息が出来無い程に溺れてしまう様に。

その熱を貪りたいという衝動が尽きない。


忍と初めて過ごした夜は本の少し前の事なのに。

もう既に何週間も、何ヵ月も、何年も。

ずっと、こうしていたかの様に錯覚してしまう。


何しろ、初めてなのに私は朝まで忍を求めた。

皆が機転を利かせてくれたから助かったが。

自分でも、自分の欲求が抑えられなかった。

そんな自分を客観的に分析し──気付いた。

母が亡くなり、明命という妹を守る為に。

自分が随分と無理をしていたのだと。

強がって、意地を張って、気を張って、蓋をして。

私は「楽浪郡の民の為に」と自分に言い聞かせて。

気付かない振りをしていただけだったのだと。


本当の私は泣き虫で、臆病で、弱くて、甘ったれ。

寄り掛かりたくても、誰にも寄り掛かれない。

一人で立つ事の出来無い意気地無し。

だからこそ、彼に惹かれたのだと。

だからこそ、嬉しくて嬉しくて仕方が無いのだと。


そんな求める気持ちが大きくて。

けれど、求められてこそ真に満たされて。

ただ、際限無く貪欲な渇きには自分でも戸惑う。

それでも、それが嫌ではないから困ってしまう。



「冥琳、急な話だが俺の子供を産んでくれるか?」



そう言われ、驚きはした。

だが、私に「否」と返す気は一切無かった。

自らの想いを自覚した瞬間から。

そう願い、その未来を思い描いていた。

それが現実となるのだから。


焼き尽くす様に、けれど、決して尽き果てはせず。

私自身さえも狂わせる程の猛る火照り。

欲望を際限無く湧き上がらせる様に。

ただただ恋しさと愛しさと切なさを交ぜて。

深い深い夜の大地へと種を蒔く。



──side out



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