生き歩む姿ぞ
残すは諸悪の根元たる程昭を捕らえるのみ!。
──なんて意気込む必要なんて有りません。
ええ、俺と華琳、更に隊士が居ないから部隊の指揮から解放されている凪が居ますからね。
程昭の所までは、無双モードで一直線です。
最終コーナーを立ち上がった時には影すら見せない程に圧倒的な強さを見せる神馬の如く。
「──牛丼一丁、汁ダクでっ!」
「…普通に「頼もーっ!」でいいんじゃない?」
「──な、何奴っ!?……ん?…なアっ!?、周瑜っ!?
なっ、何故貴様が生きて此処に居るっ?!」
扉を蹴破り、ド派手に入場っ!!。
──って、咲夜、折角の雰囲気に水を差すなよ。
此処は寧ろ乗っかるべき所だろ?。
「オゥオゥオゥッ!!、宅の兄貴は怖ぇんだぜぇ?、怒らせたら、どうなっても知らねぇぜぇ?、だから大人しく出すもん、出しちまいなぁ?」とか。
手下・其の壱的な感じで来いよっ!。
御前しか判らないんだからなっ!。
でも、その冷静なツッコミは悪くない。
何方等かと言えば…大好きだーっ!!。
──というのは置いといて。
どうよ?、今の蹴り姿?、ゴロツキ感たっぷりで、いかにも直ぐ遣られそうな雑魚っぽいだろ?。
…え?、「御兄様、御兄様の放つ英雄輝光は多少の演技では霞もしません!」って?。
くっ…そうか、我が身の高貴さが恨めしいっ…。
──って、愛妹よ、英雄輝光って何ぞ?。
ふんふん…「それは天より地上の支配を許されし、大偉なる真の統者にのみ備わる覇王の輝きです!」って何じゃそりゃーっ!?。
血ぃ出てなくても吃驚するわーっ!!。
「ほぉ…私が今も生きている事、此処に居る事が、そんなにも意外か、程昭?」
「────っ!?」
そんな俺達のアイコンタクト漫才を華麗にスルーし周瑜は程昭の前に進み出て言い返す。
いやまあ、アイコンタクトだからスルーするも何も普通は気付きもしませんけどね。
あと、俺と咲夜のボケ・ツッコミは無視の様です。
──で、当の程昭なんですが、顔は悪くない。
主役は厳しくても、二番手・三番手なら問題無い。
年齢は二十七歳、身長は170㎝には届かない。
黙っていれば、有能そうだし、モテそうだ。
…まあ、「そう?、私は好みじゃないわね」と言う咲夜と同意して頷く華琳と凪は置いといて。
見た目の割りに低能なのは判った。
動揺から自分が口を滑らせている事に言われてから気付く辺り、迂闊以下だからな。
「安侑は生きているし、その妹達も宅が確保した
ああ、御前が見張らせていた連中は始末したがな
生かす理由も、再利用する価値も無い連中だ
世の中を良くする為には、そういう汚れを削り取り綺麗にする地道な作業が一番確実だからな」
「くっ…」
俺が言いたい事を正しく理解した程昭。
その表情は世界の終焉の様に絶望に染まる。
同情する気も無いし、理由も無いけどな。
前世では「人権の侵害だ!」と言う声が多かったが人権というのは善良な民の為にこそ有るもの。
それなのに犯罪者の人権を守ろうとする社会に対し何の疑問を懐かない人々が怖かったものだ。
今は俺が法律を定める身ですからね。
きっちり、その辺りは遣っております。
政治家達が自分達の首を絞めない様に曖昧な法律に意図的に調整しているみたいな事は有りません。
寧ろ、自分達が法律遵守の手本と為って民に示し、厳しくする事で治安と秩序を確かにするので。
まあ、一方的に「遣れ!、守れ!」と言っただけで法律を遵守するなら誰も苦労はしません。
だからこそ、施政者自らが率先して動く事が大切。
前世の政治家には出来無いでしょうけどね。
──と言うか、弁護士の在り方も可笑しいよね。
事件とかでの弁護をする弁護士って冤罪を生まない為に居るんであって、犯罪者達の無罪や減刑を勝ち取る為じゃないでしょ?。
其処も含め、どうにかしないと駄目ですよ。
勿論、警察の捜査方法等に問題が有る事は当然。
その上で、関わる人々・組織の意識が変わらないと冤罪の無い世の中には為らないでしょうね。
科学技術が進歩すれば、それを悪用して犯罪を行う輩が必ず出て来ますしね。
芋蔓式に摘発するんじゃなくて、芋蔓式に遣ったら捕まる様に社会を変えないと。
…まあ、前世の事は今は関係無いですけどね。
俺は自分が生きて在る、現世が大事なんで。
「…程昭、今更理由など訊きはしない
だが、一つだけ、貴様に確認をして置きたい
何故、安侑だった?
如何に私に近く、信頼を得ているとは言え、安侑が忠誠心を選ぶ可能性も有っただろう…」
「……く、くくっ……ふんっ、貴様には判るまい
失う事、奪われる事を経験した者の心中など…
あの娘は捨てられ、残され、背負わされた…
貴様への忠誠心も確かだろうが、それ以上に妹達に自分と同じ思いをさせたくはないと強く思う…
だからこそ、必ず貴様を殺すと期待したが…」
「ああ、宅に来ていなかったら、成功していたな
宅に来たから失敗したし、こう為ってもいる
要するに御前は機を逸し、判断を誤った訳だ」
そう事実を突き付けて遣れば、程昭は表情を苦虫を噛み潰したかの様に歪める。
ただまあ、「焦っていたな」と言う訳ではない。
実際問題、周瑜が俺との会談を望み、俺が了承し、実現する事に為ったから、程昭は動いた。
俺と周瑜が会談をし、結婚したなら、自分の出世は愚か官吏としての将来は閉ざされるだろうと。
それを理解していたからだ。
つまり、周瑜との確執や優劣の話ではない。
程昭自身、自分が俺の下では先ず仕えられない事を理解していたからだ。
そういう意味では周瑜に罪は無いだろう。
まあ、態々自分から言いはしないけどな。
逆に言えば、今回の会談の話が出なかったら程昭は周瑜暗殺を実行に移すのは先の事だっただろう。
それから程昭が安侑を選んだのは正解だ。
ある意味、そういう心理を理解出来無いと思い付く事すら難しい可能性だからな。
周瑜や周泰では気付けない、唯一の隙だった。
もう二度と使えない手だけど。
「…安侑の心情を理解しながら、コレか…
成る程な、貴様は人を導く器ではないな」
「くっ…言わせて置けば…
もう少しで私が楽浪郡の太守と為れたものをっ…
…貴様さえ…周瑜!、貴様さえ居なければっ!」
そう言って程昭は周瑜を睨み付ける。
うん、逆ギレ以外の何でもなく、三下らしい反応。
何で、こういう奴って同じ様な事を言うのかね。
…いや、責任を負う覚悟が無いからだよな。
だから直ぐに他人の所為にして逃げようとする。
足を引っ張り合う政治家達の典型的な姿だしな。
そんな程昭に何も言い返しはしないが、周瑜自身も少なからず思う所は有る筈だ。
主に安侑の妹達の件とかな。
ただ、そうは言っても、それは話が違う。
逆に、程昭の様な輩が居なければ、安侑も安心して妹達を側に置く事が出来ただろうからな。
そういった意味では、程昭の方が俺達には要らない存在だと言い切る事は出来る。
まあ、そんな奴でも、政治的に見れば役に立つ。
俺達の踏み台として、だけどな。
「自分の無能さを棚に上げて言うのが定型文か…
少しは捻った捨て台詞を言えないのか?」
「運が良いだけの新参者の分際でっ…」
──と俺の挑発に乗った程昭の言葉に俺の背後から物凄い威圧感が発生する。
華琳と凪は判るが…え?、咲夜、御前まで?。
…え?、「愛する男を侮辱されて黙って居られる程大人しいつもりは無いわよ」ですか。
ええ、愛されているのは判りましたから。
取り敢えず、今は抑えて下さい。
──といったアイコンタクトを、程昭には判らない速度で行いながら、平静を装う。
何気に身内の方が手強くて大変です。
「その運が良いだけの奴に劣る御前は何だろうな
分不相応な野心を懐くから、こう為るんだよ」
「貴様っ…野心を懐いて何が悪いっ!」
「いや?、何も悪くはないし、可笑しくもない」
「──なっ!?…貴様、一体何をっ…」
「野心自体に善悪は無いし、寧ろ必要な物だな
純粋な向上心というのは世の中でも非常に稀だ
多くの者が上を目指すのは理由が有ってだからな」
そう、理由や方向性は人各々であり、多種多様だ。
ただ、基本的には自分の為か、自分の親い存在の為というのが、殆んどだと言えるだろう。
それが原動力となり、頑張れるのだから懐く事自体決して悪い訳ではない。
しかし、それが分不相応に為ってしまったら直ぐに捨て去る事も同時に必要となる。
固執・執着したなら、先ず待っているのは破滅。
それが自分だけの事か、或いは親い者を含めてか。
その辺りは明確には判らない事では有るが。
己を見失った時点で外れるのだから。
「だがな、御前と、俺や周瑜を一緒にするな
御前は己の野心の為に行動したんだろ?
だったら、その上で生じる利害の全てを承知して、そうしたんだよな?
まさか、利益だけを享受出来る、なんて有り得無い妄想に浸っていた訳じゃないよな?
だとしたら、滑稽な話だな
御前は俺や周瑜の足下に転がる路傍の小石にすらも値はしない存在──土中の砂粒の様なものだ
身の程を弁えなかったが故の当然の結末だ」
「────っ!?…………っ…」
そう言って一睨みして遣れば、程昭は崩れ落ちる。
決して意味を理解出来無い程に無知ではない。
結局、程昭は嫉妬に狂って己を見失っただけ。
自身の能力・才器の程度を受け入れ、野心ではなく理想の為に動けたなら、少しは違っただろう。
勿論、理想に溺れてしまっては同じ事だが。
そういう意味でも、己を客観視出来るか否か。
その能力の有無が、施政者としての寿命を決めると言う事も出来るのではないだろうか。
──みたいな事を連行される程昭を見ながら思う。
一歩間違えば、明日は我が身だからな。
“人の振り見て我が振り直せ”という事です。
そんな俺の前に来て、周瑜と周泰が頭を下げる。
周泰も周瑜に倣っている訳ではなく、今回の騒動で自身の為すべき役目を果たせなかった事に対して、色々と思っている事だろう。
そういった意味を含めて、という事だ。
「…徐恕様、何と詫びと御礼を言えば良いのか…」
「周瑜、周泰、俺には何も言う必要は無い
俺は既に対価として御前達を得ているからな
ただ、今回の件で不安を懐いた民は少なくはない
もし、御前達が自らの責を感じ負うと言うのなら、しっかりと民の為、未来へと繋げ
この手の過ちというのは繰り返され易いものだ
だからこそ、俺達は自制以上に継続を重視する
一代、二代で終わる様な意志ではなく、千年先まで受け継がれる意志を繋いで行く為にな」
「──っ………そうですね、幾度も繰り返す様では意志を繋ぐとは言えませんね」
「ああ…ただ、慣れ易く、忘れ易いのが人間だ
平和な世が続けば危機感が薄れ、人は鈍くなる
気付いた時には取り返しの付かない状況に陥り…
其処で漸く、繋ぐ意志の重要さを知る
皮肉な話だが、“痛くなければ覚えない”のが人の抱える最大の欠点だと言わざるを得無い」
「………ええ…そうかもしれません」
「だから、俺達の様に施政者の在り方が重要だ
何を見て、何処を知り、如何に行動するのか…
その一つ一つが民の未来を左右する
そういった立場であり、責任を背負っているという自覚を決して忘れてはならない」
「はい、仰有る通りです」
「ただ、それは主君として、だ
人として、男として、女としては、また別だ
取り敢えず、御互いに堅苦しく他人行儀な敬語から止める所から始めるとするか?」
「──っ……ふふっ、ああ、判った」
「はい、御堅い話は御仕舞い」と言う様に素を出し周瑜に御互いに演技を止めようと言う。
「立場上、必要だった礼節は今は要らない」と。
理解した周瑜は「…やれやれ、仕方が無い」と言うかの様に苦笑し、素顔を見せる。
“原作”では逆だったが、飾らない周瑜というのはクーデレの魅力が大爆発っ!。
…俺、いつまで我慢出来るかなぁ…。
襲わない自信?、微塵も有りませぬ。
周泰side──
私の徐恕殿に対する印象は御逢いするまでは普通の殿方よりは女性に理解の有る珍しい人物という程度でしか有りませんでした。
姉様が御自身の伴侶となる可能性を口にされていた事も有って、義兄として意識はしましたが。
ですが、そんな印象は甘いのだと。
初対面で思い知らされました。
優しく穏和な、思わず見惚れてしまう笑顔で。
一切の躊躇無く心臓を突き抉るかの様に鋭く。
容易く私達の備えを看破されて。
その底知れない実力と存在感に畏怖しました。
けれど、それは最初だけで。
姉様から聞く話でも、直接御話しした時にでも。
徐恕殿は気さくで、御優しくて、御親切で。
私達、侍女にも色々と気遣って下さって。
滞在中の日々も、とても楽しく過ごせました。
…それが、あの様な形で終わってしまった事は。
正直、残念でしか有りません。
同時に自分自身の非力さと未熟さを痛感しました。
その後、徐恕様の御言葉通りに楽浪郡へと向かい、程昭の居城へと乗り込んだ訳ですが。
(…っ………す、凄いです……これが徐恕様の…)
ただ、淡々と歩いて進んでいるだけなのに。
街中を会話しながら散歩しているかの様に気楽に。
けれど、一切近寄る事を許さず、迫る兵を、矢を、槍を、剣を制圧して行く。
先頭を行く徐恕様、三歩下がった左右に並びながら同様に進む曹操殿と学進殿。
私達を挟み、殿を務める司馬防殿。
私の想像を遥かに超えた実力──“高み”が。
今、日常の風景の様に存在している。
その中に、その高みに。
私自身も加われるのだとしたら。
そう考えただけで心の深奥から湧き上がる感情。
久しく感じていなかった、上を目指す高揚感。
その背中は、眩む程に輝いている。
しかも、その人の妻になる事も出来る。
心が弾まない筈が有りません。
(──って、つつつみゃっ、ちゅみゃっ、わわ私が妻にぃっ………ぁぅぁぅぁぅ~…)
考えながらも、経験が伴わない為、先へは進まず、現実へと意識は引き戻される。
引き戻されると、急に恥ずかしさが溢れ出す。
…い、いえ、それはとても光栄で素敵で嬉しくて、ドキドキが止まらないのですけど。
どどどどうしたら良いのでしょうかっ?!。
「──自分自身の心に身を委ねればいいのよ」
「──ぅニャアッ!?」
急に肩を叩かれたと思ったら、そう笑顔の曹操殿に言われて、思わず声が出てしまいました。
慌てて両手で口を押さえて徐恕様が見ていないかを恐る恐る確認して、姉様と談笑している姿を見て、安心したのと同時に──小さく胸が痛む。
…ぇ?……あ、あれ?、何ですか、今のは?…。
「ふふっ、良い顔ね、素敵よ、周泰」
「──ふへ?」
「──でも、御兄様の妻になる以上、あの時の様な気の抜き方をしたら──判っているわよね?」
「──ひゃっ、はいっ!」
曹操殿?、笑顔で話している筈…ですよね?。
私の目の錯覚ですよね?。
──side out




