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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    縁絲紡ぐ


仕上げの為、周瑜達を連れて楽浪郡へと向かう。

周瑜達が居るので馬を使っての移動になるのだが、当然ながら氣を使って馬達は強化されている。

「Hey、Hey、Hey!、御主人様Yoッ!、バイブスアゲアゲで行っちゃいまShowーっ!、ヒィーハァアアーーッ!!」と。

普段の性格とは全く違うキャラ崩壊を起こしているテンションMAX、ぶち上げ中の馬達。

その背中に跨がりながら、在りし日の姿を偲ぶ。

いや、失った訳でも亡くなった訳でもないけどね。

人に限らず、馬でも“一線”を超えると色んな面で影響が出るものなんだって思っただけです。

特に深い理由は有りません。


そんな俺達ですが、面子は四人だけ、馬二頭です。

俺と周瑜、華琳と周泰がペアで乗っています。

…え?、「兵士は居ないのか?」って?。

ええ、此処には(・・・・)居ませんよ、此処には(・・・・)ね。


動いているのは楽進隊だけじゃないんです。

既に楽浪郡の各地へ踏み込んで制圧戦は開始され、幾つも街や城が陥落しています。

咲夜も、愛紗も、凪や春蘭達も、です。

白蓮達の護衛に残した恋以外は総動員してますから明日の夜明けまでには全てを掌握し終えます。

宅が本気を出せば、文字通りに朝飯前ですから。


そんな移動の中、俺の腕の中に抱えられる様にして同乗している周瑜が顔を向け訊ねてくる。



「……何時から李沙──安侑の事を?」


「大体二ヶ月前からだな」


「っ…それでは程昭の件も最初から?」



──と言われて、俺と周瑜のズレに気付く。

周瑜は俺が接触する前(最初)から全てを知っていたという風に考えいるんだろうな。

まあ、宅の情報収集力──隠密隊の実力を知れば、そう考えても可笑しくはないんだけどさ。

残念だが、それは勘違いだ、周瑜よ。

貴様が見ていたのは我が影に過ぎぬはっ!。

ファーッ、ファッ、ファッ、ファーッ!!。



「勘違いしている様だが、“最初”の認識が違うな

勿論、御互いに周辺諸侯の動向や戦力等の調査等を行っている事は言うまでもないが…

話した様に宅は騙し合い・化かし合いには強い

それと同時に探り合いにもだ

御前からの書状が届いてから直ぐに身辺調査の為に其方に人手を投入したからな

俺からの返事を届けただろ?

あの時点で既に安侑と程昭の件は掴んでいた」


「……そうでしたか…」


「ただな、御前が動かなければ探りはしなかった

そういう意味では、御前の行動が結果として安侑と妹達を救う唯一の絲を繋いだと言えるな

程昭が約束を守る様な奴かは…言わずもがな

御前の方が、よく判っているだろ?」


「ええ…素直には喜べない事ですが、そうですね」


「だからこそ、「それなのに突け込まれてしまった自分の事を赦す事は出来無い」か?」


「────っ!?」



話に納得し、顔を前に戻した周瑜。

その後ろ姿に自責の念を感じたから言ってみれば、見事に大当たり。

自分でも気付いていないだうが、身体を跳ねさせ、無意識に縮こまらせながら強張らせる。


そんな周瑜の身体を両腕で強く抱き締める。

余裕が有る時なら「あの、苦しいのですが?」等と強がりを返す事も出来るのだろう。

しかし、今の周瑜には余裕が無い。

抱き締められ、引き寄せられても、されるがまま。

怯えている幼子の様に弱く、儚く思える。

そんな周瑜の耳許に、抱きながら静かに囁く。



「思考や意志、感情や心は眼には見えないものだ

ただそれが表情や言葉、声色や雰囲気等に滲むから察する事は出来る、というだけでだ

だから、心の中を見る事は出来無い

それが例え自分自身の心だったとしてもだ」


「………そうなのかもしれません…」


「ああ、だからこそ俺は会話を大事にしている

御互いを見て、感じて、伝え合う事をな

安侑の苦悩に気付く事が出来無かったのは、俺との会談に向けた準備が忙しかった事も有るだろ?

だったら、御前だけが負うべき責任ではない

俺にも一因としての責任が有る」


「──っ、違います!、それは──っ……」



反射的に振り向き声を荒げる周瑜。

しかし、言葉は続かず、息を飲む様に口を噤む。

顔を俯かせ、両手を強く握り締めている。

聡いが故に、その才器が本物であるが為に。

周瑜は自らの言葉で気付く事になる。


普通であれば、口にし、指摘されて気付く事。

それを応酬する事無く、読み切って理解する。

その才器の片鱗を目の当たりにしながら、俺は一人胸中で咲き始めた蕾を見守る気分に浸る。



「…それは御前の自己満足に過ぎない、だろ?」


「………………はい…」


「自責の念が強くなるのは仕方が無い

御前に限らず、理解が出来るなら、皆が思う事だ

それは俺や妻達にも言える

ただな、俺達は背負う以外に応える(・・・)術は無い

償う(・・)のとは似ている様で、全く違う

確かに御前に慢心や油断が有っただろう

しかし、それは安侑や周泰にも言える事だ

それなのにだ、他の者の失態まで御前が背負うのは筋違いでしかない

他者の責任を負う事に何の意味が有る?

その負うべき責任を奪われた者は何を思う?」


「…っ……………本当に貴男は厳しい方ですね…」


「それは御前が──御前達が、その経験を糧として成長する事が出来るからだ

出来無い者に期待はしないし、無理強いもしない

少なくとも、求める水準が違うからな」


「嬉しい事、なのですよね?」


「さぁて、どうかな?、それは御前次第だな」


「………本当に…狡い人ですね…」



そう苦笑し呟くと、両手の、肩の力を抜く周瑜。

椅子に寄り掛かる様に、身体を俺に預けてくる。

華琳を筆頭に俺の妻達は素直じゃない娘が多い。

だから、こういう甘え方(・・・)にも慣れている訳で。

それでも、まだ周瑜とは出逢って数日の関係。

そんな中での、コレですからね。

グッ…と来る訳です。

クククッ…遣りおるわ、美周嬢め。


──という、心の中の素直じゃない俺の一人芝居は兎も角として。

密着する身体よりも、心の距離は近いと感じる。

抱き締める俺の腕に、自らの腕を重ねて来る周瑜。

「もっと強く…」と御強請りする様に。

しかし、その一方で自らの女としての武器を惜しむ事無く使って攻めて来てもいる。

そう、密着度が上がれば上がる程に、柔軟な物とは潰れる様に形を変えながらも自己主張をする。

むっ…にゅぁんっ、たっ…ぷぁぅんっ、と。

その質量(実力)を遺憾無く見せ付ける。

それに加え、グリグリッ…と。

自ら押し込む様にして挑発してくる安産型。



「…御望みと有れば、御召し上がり下さい」



「…そんな事言われて我慢出来る男は居ないぞ」と言って抱き寄せ、行為に及びたい。

そう思う周瑜の挑発に、俺の中の雄が吼える。

──とは言え、状況が状況ですからね、自重自重。

一家の主だから自重家長。

…うん、落ち着け、俺、場数だけは多いだろ?。

いやいやいや、無理な物は無理なんで。

──と言うか、周瑜さん?、そんな潤んだ眼差しで恥ずかしさに堪えながらも挑発するだなんて。

何て高等テクを使ってくるんですか。

状況が違ったら、マジで一発KOでしたよ。

いや、一発OKですか。

何方でも遣る事には変わりませんけど。


…まあ、遣ろうと思えば現状でも出来ますけどね。

ただ周瑜とは初めてですし、周瑜は未経験なので。

流石に初めてが馬上なのは無理強いでしょう。

遣るなら、馬を止めて降りてから遣るべきです。

華琳達となら馬上でも可能ですが。

…ん?、「遣った事が有るみたいだな?」って?。

アハハハッ…エ~、ボク子供ダカラ判ンナ~イ。


──という訳で、自重し、堪えきりました。

まあ、遣られっ放しなのは面白く有りませんから、周瑜には耳と項に口付けや甘噛みを贈呈。

しっかりと、後で責任を取って頂きましょう。


因みに、華琳達は華琳が前で手綱を握り、その腰に腕を回して抱き付いているのが周泰。

衣装を特攻服変えれば、二人乗りの暴走少女に。

………似合うから、地味に笑えません。

だけどまあ、宅の華琳に限って非行に走る可能性は有りませんけどね。

もし、走りそうなら愛妹紳士()の愛を贈呈します。

フッ、フッ、フッ…愛宿る拳は効きますよ?。




そんなこんなで、走る事、約二時間。

合流地点へと俺達は到着する。

ええ、そんな非常識なスピードで走ってれば馬でもランニングハイに為りますよね~。

ランニングってレベルじゃないですけど。

最早、F1ですよ、まだ言葉自体存在しませんが。

………ハッ!?、だとすれば、俺達が世界初のF1馬ドライバーならぬジョッキーですか?!。

まあ、どうでもいい事ですが。



「ええ、そんな事は宇宙(そら)の彼方に棄てて下さい」


「それが愛しい夫に対する第一声って、どうよ?」


「自分で「愛しい夫」って言う感想は?」


「恥ずかしから無かった事にしてっ!!」



出迎えた咲夜と軽い御約束の絡みを遣る。

面倒臭そうな体で「はいはい、判ったから」という態度と雰囲気を出してはいるが。

何だかんだで咲夜も楽しんでいるのは知ってる。

──と言うか、こういう類いの悪巫山戯や悪乗りが気兼ね無く出来る相手は御互いだけだ。

真桜も居るが、やはり、咲夜とは御互いに特別。

それ(・・)が有るから、仕方が無いんだよ。

だから、ナチュラルに思考を読まれている事自体は気にしない様に意識して排除する。

…え?、「いや、気にする所だろ!」ですと?。

いえいえ、気にしたら色々と気になりますから。

だから気にしない事で、気に為らない様にします。

世の中、何でもかんでも知ればいい訳じゃない。

知らない方がいい事だって存在するんです。

信じる信じないは貴方の自由ですけどね。



「御兄様、遊んでいないで仕事をして下さい」


「立場が違ったら?」


「仕事なんて放って置いて私を構って下さい!」


「──という感じが、この娘の素顔だから」


「は、はぁ…」



珍しく冷たい華琳の態度だが、咲夜に一言言われて容易く素顔を見せる辺り、判っているな。

…まあ、言ってる事自体は本当に本音だけど。

それはそれで駄目でしょうが。

判ってて言ってるから冗談なんですけどね。

深く考えたら駄目ですよ、ええ、駄目なんです。


──という感じで、華琳の素顔をチラ見せした所で咲夜は現状の報告を始めてくれる。



「先ず東部方面指揮の関羽隊は夏侯惇隊・典韋隊・董卓隊・黄叙隊と共に、男邯・杷水・帯方・駟望・提奚・鏤方・屯有を攻略

西部方面指揮の夏侯淵隊は李典隊・許緒隊・陸遜隊・鳳統隊と共に、貪資・占提・朝鮮・遂城・増地・列口・長岑を攻略

最後に司馬防隊と抜けた楽進隊の中央本隊により、海冥・渾弥・楽群を攻略済みです

残るは程昭の居る昭明のみです」


「………最早、驚きの声すら出ませんね…」


「其処は御世辞でも驚いて欲しいけどな

まあ、今回は時間との勝負だったし…」


「…………?」


「……妻の内、伯珪達年長の四人を優先する格好で妊娠させたから、皆、鬱憤が溜まっててな

要するに、その憂さ晴らしで攻撃的なんだわ」


「…………………あ、あのっ、楽浪郡の民は…」


「ああ、それは大丈夫、其処は自制出来てるから

程昭派の連中や悪徳官吏達は、どうせ処分するから殺ってもいいんだけど、一応は非殺で捕縛してる

きっちりと罪状を読み上げてから処断するからな

…まあ、非殺なだけで、罪状の有る連中は戦の中でボッコボコにされてるだろうけど」



そう言いながら、件の程昭の居る昭明の城を見る。

決して周瑜達の視線から逃げた訳ではない。

華琳と咲夜の「早く私達にも」という催促の視線に誤魔化す様に外方を向いた訳でもない。

そう、これは飽く迄も事の始末を付ける為に。

今は集中を高めているだけだ。



「……という事は私達も他人事では有りませんね」


「…ぅっ…はぅぅ~……だ、大丈夫でしょうか…」


「御兄様に全て任せて置けば大丈夫よ」


「まだ私みたいに婚礼を挙げていない実質的な妻も少なくはないし、慣れれば判るわよ」



──という外野の声はシャットアウトッ!。

しっかり集中します。





 公孫賛side──


周家の才媛・周瑜の話は私も知っている。

一つ違いではあるが、立場上、意識するからだ。

だから、忍の妻となり、月も妻になった時点で私も彼女が妻に加わる可能性は高いと──いや、成ると確信したと言ってもいい。

ただ、まさか周瑜の方から動いてくるとはな。

……いや、雛里や月の時の事を考えると、軍師型の気質の方が意外と大胆なのかもしれないな。

別に軍将型が奥手な訳でもないが。



「………………………………………………………」



それは兎も角としてだ。

忍から私達の護衛を命じられているのが、恋。

他の身内──亞莎や流琉達まで自分の部隊を率いて楽浪郡の制圧戦に参戦しているのに、だ。

はっきり言って、不機嫌さが半端無い。

華琳とは違う意味で忍大好きっ娘なのが恋だ。

だから、じぃー………っと、見詰められていると。

正直、落ち着かなくなる。



「…………あ~…れ、恋?、大丈夫か?」


「…?……何が?」


「えっ!?、いやっ、そのっ…え~とだな…」


「恋、そろそろ御茶の時間です、準備しましょう」


「…ん、今日は何処の?」


「忍が“飴斑屋”に御菓子を頼んでくれましたよ」


「…っ、楽しみ」



空気に堪え切れず恋に話し掛けるが、言葉に詰まり誤魔化す事も出来ずにいると梨芹が助けてくれた。

そのまま恋を連れて部屋から出て行ったら、十分な間を置いて私は大きな溜め息を吐いた。

緊張も解け、椅子に深く凭れ掛かった。


そんな私の前に茶杯が置かれる。

顔を上げれば苦笑している紫苑だった。

祭は平然と御茶を飲んでいる。

その余裕綽々な姿が憎らしい。

…完全に八つ当たりで、逆恨みだけどな。



「恋ちゃんの事、苦手ですか?」


「…いいや、苦手って事は無いよ

普段は可愛い妹みたいな感じだしな

ただ…今回に関しては、どう接したらいいのか…」


「そんな事では子が産まれた時に困るじゃろうな」


「祭?」



「今、関係無いだろ?」と言おうとするよりも先に祭を咎める様に睨み付ける紫苑。

「儂は間違ってはおらんと思うがのぅ…」と言わん態度の祭の様子に違和感を感じる。

その言動が微妙にズレている気がして──あ。


思考が、とある可能性に至った瞬間、思わず両手で顔を覆って天を仰ぐ。

…天井が有るから空は見えないけど。



「………本当、宅の旦那は油断為らないなぁ…」


「もうっ…後で怒られても知らないわよ?」


「別に怒りはせんじゃろ

まあ、御主が思っておる通りじゃな

儂と紫苑は璃々が居ったし、梨芹は恋達が居る

多少なりとも育児の経験が有る訳じゃが…」


「あー…私は無いからな

同時期に妊娠したから、出産も近いだろうし…

その状況で自分一人が困ってたら落ち込む、か…

その姿が容易く想像出来るから笑えないしなぁ…」


「その為の、今回の恋の留守番じゃ、頑張れ」



…ったく、何処まで先を見てるんだか。

けどまあ、その通りだ。

妻として、女として応えないとな。



──side out



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