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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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9話 厳しさを越えて


さらさらっ…と、二ヶ月。

新たな人生を始めてから、合計四ヶ月が経ちました。


前世での御家族の皆さん、如何御過ごしでしょう。

俺は今、絶賛──初めての此方等の寒さに死にそうに為っております。

超ーっ、寒いでごさる。



(──マジで寒ぃーよっ!

何なんですか一体っ!?

昔、一回だけ真冬の旭川に行った事が有ったけどさ、此処までじゃなかったっ!

まだ増しだったよっ?!

緯度可笑しくないっ?!)



少し息をしただけで鼻水が自然と出て来る。

そして、そのまま油断して放置すると凍るんです。

有り得ないですよね?。

…いやまあ、それはね?、此処は現代日本じゃないし抑が異世界なんですけど。

それでも厳しいですって。


──あっ、因みに、今日は十一月九日です。

近年、「嗚呼っ、春と秋は何処に去った?」と愚痴と嘆きを漏らす日本の皆様。

ちゃんと此方等では四季は健在しています。

頑張って自然環境の改善に努めていって下さい。

皆様の努力無くして未来に自然は遺せませんので。



「──御兄様?」


「ん?、どうした?」



思考が次元を突破しようと傾いていると、我が愛妹は何故だか鋭く反応する。

それを“気のせい”な体で誤魔化す技術が日々無駄に向上している俺。

こんな技術、役に立つ日が来るのでしょうか?。

…来ないよね、うん。



「…いえ、それよりもです

この“羽毛布団”は、実に素晴らしい物ですね

こんなにも軽いというのにとても暖かいだなんて…

…………ふぁぅぅ………」



両手で抱き締めた自分用の羽毛布団に顔を埋めると、蕩けた様に表情を緩める。

…否、“様に”ではなく、物凄い“ほにゃぁ〜…”と為ってしまっている。

可愛い過ぎるぞ、操。

兄は鼻血(嬉し涙)が溢れてしまいそうで困っている。


一方、“贈り物”の本命の母さんはというと。



「…………………………………………………………」



返事が無い、ただの屍──ではなく、その暖かさから蓑虫状態に為っている。

羽毛布団にくるまったまま頭だけを出して感涙しつつ御礼を言ってくれるのだが感動が三割減してます。

まあ、もう日が落ちてて、後は寝るだけだから一向に構わないんだけどね。

子供の俺達よりも寒がりな母さんにとっては、本当に嬉しい一品だった様で。

詳細は内緒にしていた操も喜んでくれているので俺も頑張った甲斐が有るよ。


因みに、羽毛布団の外側は母さんが大量に持っていた布地を幾らか分けて貰って地道に縫い合わせました。

意匠に拘る余裕は無いから出来は微妙だけど。

用途として機能していれば今は十分ですから。

取り敢えず、これで最初の冬場は凌げそうです。


因みの因みに、残った分で三人分の“褞袍”を作って有ったりもします。

綿じゃなくて羽毛だから、擬きだけどね。

これ位は無いと、布団から出たくなくなりそうだし。

必要ですよね。




嗚呼、それは魔性の女。

 媚薬の様に快楽を齎す。


嗚呼、それは甘い誘惑。

 断ち切れぬ妖艶な魅力。


嗚呼、それは優しい毒。

 触れる者全てを懐いて。


嗚呼、それは人の叡智。

 未来永劫失われぬ至高。


嗚呼、それは愛しき獣。

 狂う程に溺れる温もり。


嗚呼、それは冷めぬ夢。

 我が想い決して尽きず。


嗚呼、素晴らしき汝の名は────炬燵っっ!!!!!!。


はい、皆大好き、炬燵様。

良いですよね、やっぱり。

どんな暖房器具が出来ても個人的には炬燵に勝る物は無いと思うんですよ。

特にね、昔ながらの豆炭を使ってる物や、掘り炬燵は最高だと言いたい。

それはまあ、一酸化中毒等色々言われてますけど。

あの温もりは最強です。

加減を間違えると熱過ぎて火傷しそうになりますが。

そんな“我が儘さ”辺りに人の温もりを感じます。


──とまあ、その炬燵様を造ろうとした訳です。

材料の関係上、掘り炬燵が一番出来そうなんですね。

ほら、囲炉裏を造れるなら難しくはなさそうだし。

…え?、「もしかしてさ、作り方知らない?」と?。

勿論、知りませぬ!。


「けどまあ、遣ってみれば何とか為るでしょっ!」と張り切ってはみたものの。

肝心の炭があぁああぁっ!?──状態なんです。

いえね?、作り方は一応は知ってるんですよ?。

でもね、アレって三〜四日火を絶やさずに燃やす事で作るんだった筈。

七歳児が遣る事?。

うん、絶対可笑しいよね。

だからと言って、母さんに遣って貰うのも…ねぇ。

無駄な負担は掛けたくないというのが息子心です。


一応ね、村の人達に話して手伝って貰うっていうのも考えはしたんだよ?。

だけどね、下手に広めると場合に因っては利権争いや侵略・略奪対象に為るのが容易く浮かんできます。


それにですね、俺の設定は漁師の家系な訳でして。

如何に外部との交流の無い様な村の出身でも、流石に怪しすぎますからね。

最悪、母さん達にまで害が及ぶ事に為るでしょう。

それは駄目、絶対、です。


そんな訳で泣く泣く諦める──訳が無いでしょっ!。

寒いんですからっ!。

…いや、確かに大掛かりな炭作りは出来ませんけど、遣り様は有る訳です。

要は少量ずつでも炭を作る事が出来れば良いので。


いきなり囲炉裏は遣り過ぎでしょうから、火鉢辺りで暖を取ろうと思います。

何しろ、我が家にはゴミ倉──ゴホンッ……使わない色んな物が纏められている部屋が有りますから。

手頃な甕の一つでも有れば利用出来ますからね。

……あっ、燻製も少し位は作ってみようかな。

それなら漁師の範疇だし。


さて、雪が降る前に十分な“冬支度”をしないと。

人間は凍死はするんだけど冬眠は出来無いからね。

頑張って冬を生き抜いて、越えて行かねば。

まだまだ俺の春(意味深)は遠そうだからなっ!。

泣いてないもんねっ!。




そんな厳冬本番に向けて、日課となった未明の鍛練を終えてから帰宅。

まだ母さん達が寝ているが朝食作りを始める。

健康的な生活習慣の為か、二度寝が出来無く為った。

……良い事の筈なんだけど何故か敗北感が有る。

…いや、喪失感だな。

何時の日にか、俺は必ず、二度寝(栄光)を取り戻す。

そう、必ずだ!。


因みに、そんな健康習慣も寒い事に変わりはない。

でもね?、その寒さに負け「…今日は止めとこう」と一回でも誘惑に屈したら、二度と出来無くなる。

そんな恐怖感が有る。

勿論、転生特典様々だから心配要らないんだけどね。

やっぱり、中身的に日本人だからなのか。

心配性なんですよ。

だから、止められないの。

ただ、段々と適応している感覚は有るから凄い。

ビバッ!、転生特典です。


──で、今も続けられてる訳なんですね。

その延長的な事で、朝食の準備を手伝う様に為り──寒さに弱い母さんに代わり現在は朝食を担当しているという状況なんです。

そして、この状況。

実は、かなり有難い。

だってほら、七歳児が火を堂々と扱えるんですから。

そう、判りますよね?。

これで炭作りに繋げられる理由が出来たんですよ。

しかも、火鉢に必要な灰も入手出来ますからね。

寒い季節も悪い事ばっかりじゃないんですよ。


……え?、「抑、寒くない地域なら必要が無い」?。

ハッハッハッ…エー何?、僕ニハ判ラナイナー。

何ダカ難シイ話ダヨー。



「……んにゅ…御兄様…」



──なんて現実逃避をする俺の背中にくっ付いてくる温かく可愛い妹(生き物)。

朝食の手伝いを始めてから一緒に遣る様に為った操が起きてきた訳です。

母さんよりは寒さに強い。

しかし、操は朝に弱い。

ただ、凄い娘なんです。

こんな風に寝惚けながらも身仕度を整え、起きてくる事が出来るんです。

しかもですよ、宅の操には寝惚けたままで危な気無く手伝う事が出来るという、凄技も備わっています。

もし、“世界妹選手権”が有ったなら、優勝するのは宅の操に間違い無い。

きっと毎年開催するのなら二十連覇は確実。

四年に一度でも五〜六連覇出来るでしょう。

だって、俺の妹だもん!。


──と、いかんいかん。

操の妹力(チャーム)に飲み込まれ掛けていた。

別に構わないんだけどね。

今は料理中だから。

だから、操、むぎゅっしてこしこしするのは止めて。

手に付かなくなるから。




くっ付いたまま寝息を立て始めてしまった操。

「器用だな〜…」と思うが引き離せません。

だって、抱え込んでる手を離させようとすると、操が「…ゃぁ〜…」って言って嫌がるんですもの。

世の妹愛兄(紳士諸君)。

其処で“心を鬼にして”の選択肢を選べるかっ?!。

私には……出来無いっ。

嫌がる妹を力強くで剥がすなどという非道な真似は…私には出来無いっ!。


…まあ、実際問題ね。

特に害は無いんですよ。

本当、何気に器用でね。

俺が移動すると、きちんと一緒に動くんです。

アレです、演劇の馬とかの四足動物を二人で遣る時、後ろ側を担当している人の熟練の技みたいに。

物凄い自然なんです。

ええ、正直、邪魔になる事なんて有り得ません。

勿論、妹を邪魔に思う様な兄(異種族)とは違うので、俺は全然平気です。

まあ、本当に危ない場合は引き剥がしますけどね。


そんなこんなで料理を続け朝食を準備していく。

軈て、操が完全に目覚めて顔を真っ赤にしながらも、「…おはようございます、御兄様、手伝います」と。

己の羞恥心と戦いながらも逃げる事を良しとせずに、平静を装おって動き始める操の姿に頬が緩む。

そんな俺の視線を察してか鋭く睨んでくるが「ん?、どうかしたか?」と自然な気付いてない体で聞く事で軽やかに誤魔化す。

フッフッフッ…まだまだ、兄は敗けはせんぞ、操よ。


──とは言え、我が妹だ。

回を重ねる毎に勘が鋭く、反応が洗練されてゆく。

彼の有名な「噂をすれば、曹孟徳が現れる」に繋がる様な気がしてならない。

その無意味な向上が、一体何の役に立つのか。

微妙ではあるんだけど。

素直に凄いとは思う。


そして、その才能の凄さに兄としての誇らしさと共に人としての嫉妬を懐く。

それは仕方が無い事。

「器が小さい」と言われるかもしれないが。

こればっかりは仕方が無い事なんだって思う。

ただ、それに囚われた末に大切な事を見失う事だけは絶対に有ってはならない。

その事だけは忘れない。

何が有ろうとも。




朝食を終え、洗濯・掃除を母子三人で遣り片付けると我が家の中は一変する。



「──という訳で、此所の解釈は先の説明通り──」



母さんが女教師へとクラスチェンジします。

そして、俺と操は生徒へとクラスチェンジします。

まあ、もう日課の事だから慣れましたけどね。

俺は勿論、操にも必要な事だからね。

きちんと教えて貰えるのは有難い事だと思います。


……因みに、“女教師”と聞いて、眼鏡とスーツ姿を求めてしまうのは、間違いなのだろうか?。

いや、間違いではない筈。

そして、“個人授業”とか“個人指導”という言葉にドキッ!、としてしまう。

そんな俺は正常だと思う。


あっ、でも、男教師(糞)が操に手を出そうとしたら…クカカッ…身ノ程ッテノヲ教エテヤルヨ。


──と、危ない危ない。

ダークでディープな思考を振り払いながら、母さんの授業に集中し直す。

こういう地道な努力こそが俺には必要なんだからな。


操と違い、俺は凡人だ。

如何に転生特典がチートな仕様だったとしても。

その効果は俺の理解が基に有ってこそ活きる物。

故に、学習は必要不可欠。

ただ単に覚えるだけでなく理解しなくてはならない。

楽々便利なチート特典なら苦労しないんだろうけど、それを愚痴ってても何にも変わりはしない訳で。

それなら、俺は後悔しない為にも自分から変えていく事を選んで進む。

ただ待っていても、誰かが助けてくれる訳ではない。


俺は弱者で、未熟者だ。

決して、強者でも英雄でも正義の味方でもない。

それでも、俺の物語でなら主人公なのは間違い無い。

だから俺は物語を悲劇では終わらせはしない。

維持でも平々凡々な幸せな老後エンドに至らせる。

その気持ちを忘れずに俺は教えを請い、学ぶ。

我が野望を叶える為に。

俺は、強くなる!。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.2
















 曹操side──




△△月△△日。

兄から御母様に贈り物を、といった提案を受けてから既に三ヶ月以上が過ぎた。

密かに兄が何かをしているという事は知っていた。

けれど、教えてはくれず、実際に物が出来上がるまで何を造っているのか。

想像すら出来無かった。

仕方無いでしょう。

だって、水鳥の羽根を使い布団や衣服を作るだなんて考えもしないもの。

けれど、出来上がった物は素晴らしいの一言。

もしも、きちんとした物で職人の手で作られたなら、一代で莫大な財を成す事が出来るでしょう。

しかし、兄は公にする事を望んではいない。

それは、私達を欲に塗れた下らない争いへと巻き込む事が無い様にする為。

………優し過ぎる兄だわ。




日記を付け終えて一息。

ふと、思う事は日記の場合“書く”だけではなくて、“付ける”とも言う事。

兄曰く「“書く”と言うと作業の様に思えるんだけど“付ける”と言うと何故か色々な物が一緒に含まれる気がする…からかも」と。

そう言っていた。

まあ、それを深く追及する意味は無いので、飽く迄も何気無い質問だけれど。

兄は私の質問に対し真剣に考えて答えてくれる。

其処が兄の良さの一つ。


私の兄は素晴らしいわ。

それはもう、言葉では語り尽くす事が出来無い程に。

私の兄は素晴らしいのよ。


日記にも出た話題だけれど羽毛布団は勿論、褞袍には物凄く驚かされた。

寒いのが苦手な御母様には本当に嬉しい贈り物よね。

勿論、私も嬉しいわ。

御母様よりは増しだけれど私だって寒い物は寒い。

だから、着て動ける褞袍は素晴らしい物だわ。

しかも、凄く軽いし。

一体、こういう知識を兄は何処で身に付けたのか。

私の兄への興味は日増しに強くなっていくばかりね。


そんな兄との日課の一つ。

“手押し相撲”では未だに勝ててはいない。

悔しいのは本当に悔しい。

けれど、その一方で堂々と兄に抱き付いたり甘えたり出来るので、負けてしまう事自体は損ではない。

しかし、兄に勝てば一つ、“御願い”を聞いてくれるというのは魅力的よね。

何を、という具体的な事は今は思い浮かばないけれど一度勝っておいて、後から叶えて貰うというのも私は有りだと思うのよ。

でもね、意外にも意地悪な兄は手加減はしてくれても決して手抜きはしないの。

だから本当に勝てないの。


私自身、兄に負けるまでは自分が負けず嫌いだなんて思っても見なかった。

でも、悪い気はしない。

自分が成長出来る可能性が有るのだと感じるもの。


ただ、素直に甘えられない自分には不満が有る。

出来る事なら直したい、と心底思ってしまうわ。

ええ、本当にね。



──side out。



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