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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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58話 吹く花世に


“王の器”──人々を統べる者の資質とは何か。

その答えは決して一つではなく、世の状況・価値観により幾つも挙げられるだろう。

時に、絶対的なリーダーシップにより導く力を。

時に、そのカリスマで意志を合わせ束ねる力を。

時に、差別無く全てを優しく許容する包容力を。

そういった資質が思い浮かべ易いかもしれない。


そんな多々有る中、上手く“人を使える”事、と。

そう言われる事も少なくはない。

実際問題、全てを一人で十全に出来る王というのは人類史を紐解いて見ても、本の僅かだろう。

全く居ない、という事は無い。

ただ、それは社会・文明の状態・価値観が違う為、一概に同じ様に評価する事は難しい。

しかし、現代では知識・技術として確立されている事であっても、当時は革新的だっただろう。

そういう先見の明が有るから尊敬される訳だが。

同時に異端視されるリスクも伴っている。

保守的な家臣が強い力を持つ場合、排除し合おうと対立する事になるのは陥り易い事態だろう。


そう考えると、比類無き偉大な王より、活躍出来る場を家臣に用意し、任せられる。

そういう王の方が数が多く、長期政権を築き易いと言えなくもないと思える。

勿論だが、それが適材適所でなければならないし、他の者へのフォローも必要不可欠である。


つまり、“人を見極める”力こそが王の必才と。

そう言う事も出来るのではないだろうか。

…まあ、そう簡単な事ではないのだけれど。



「周公瑾…確か、楽浪郡の太守ですね」


「ああ、月──董家の様に永きに渡って治めている訳ではないが、周家は何度も太守を務める名家だ

その現当主であり、楽浪郡で史上初の女性の太守に成ったのが、この稀代の才媛である周瑜だ」



横から俺の手元を覗き込み、呟いた華琳。

その言葉を肯定し、この場に居る皆に差出人の事を共有出来る様に簡単に説明しておく。


ただ、本音を言えば出来る事なら開きたくない。

これなら、華琳の俺物官能小説の方が増しだ。

……いや、出来るなら何方も遠慮願いたいですが。

そうもいかないのが現実なんですよ。


胸中で溜め息を吐きながら、丁寧に書状を開く。

中に剃刀が入っているとかは無いんですけどね。

万が一、破れたりして内容が解らなくなったりする可能性が無い様にする為です。

それで詐欺っぽい事を遣る輩も居ますから。

勿論、そんな姑息な真似を彼女(・・)が遣るとは俺自身は思ってはいませんが。

華琳達の手前、そういう慎重さは大事ですからね。

こういう何気無い仕草も教育に繋がる訳です。


収められていた書状を広げながら読んでゆく。

丁寧でありながら気品の溢れる流麗な筆跡。

使われている言葉選びにも彼女のセンスを感じる。


そして、目を通し終えると華琳に手渡す。

そのまま某機関の総司令の様に机上に肘を着いて、手を組み、額を預ける様に俯いた。



「…「初めまして、大太守(・・・)・徐子瓏殿

貴殿の近頃の御活躍を耳にする度、私は驚愕と尊敬を懐かずには居られません

特に御結婚されたとは言え、その奥様方が結婚後も現場にて要職に就かれている事でしょう

女性の地位の低い政治という舞台で率先して女性を登用されている懐の深さには感服するばかりです

さて、此の度、こうして筆を取らせて頂いたのは、貴殿と一度御会いし、話をしてみたい為です

御互いに太守という身です

会談する事は決して無駄ではないと思います

出来る事ならば、噂に貴殿の手腕を見てみたいので其方等に御邪魔させて頂きれば、と思います

何卒、御一考の程、宜しく御願い致します」…」



華琳が皆にも判る様に内容を読み上げた。

そう、楽浪郡の太守・周瑜からの会談希望の話だ。

はっきり言って、これは断る事が難しい。

何しろ、周瑜の側からの申し入れだから、断る事は俺が周瑜を「女性だからな」と見下している様にも受け取る事が出来無くもないからだ。

勿論、そんな気は周瑜に無いだろう。

ただ、そういう可能性を匂わせながら此方等の事を試しているのは間違い無いだろうな。


取り敢えず、破れる前に書状を放しなさい、華琳。

そのままだと指が書状を突き破るから。



「御兄様、此処は攻め込むべきです」


「その根拠は?」


「御兄様を試そうなどと笑止千万、死に晒せです」


「うん、取り敢えず、此方に来なさい

そして、落ち着きなさい、言動が物騒だから」



いい笑顔なのに目が笑っていない華琳を抱き寄せて膝の上に乗せ、頭を撫でて宥める。

放って置くと書状だけでなく周瑜まで死ぬ可能性を俺は冗談では済ませられないと感じたからだ。


それと、華琳程ではないにしても内容を聞いてから愛紗も気配が刺々しくなっている。

視線で「一々腹を立てるなって」と伝えると愛紗は不満そうにしながらも一息吐いて、落ち着く。

深呼吸一つで感情の昂りを抑えられるのも常日頃の鍛練が有っての成果ですからね。

誉めて、頭を撫でてあげたいです。

今は華琳で手一杯ですから無理ですが。


真桜は──まあ、罰を継続中なので放置して。

咲夜に視線を向けて発言を促す。



「まあ、断る理由は無いでしょうね

どの道、将来的な可能性とは言っても、幽州制覇を見据えている以上は楽浪郡も対象な訳だし…

有能なら娶るのは早い方が良いんじゃない?」


「……俺が娶るのが前提か?」


「それこそ今更でしょう?

華琳に月に雛里、将来性では亞莎も居るし、一応は私も文官側だけど…欲しい人材よね?」


「…まあ、その点に関しては否定は出来無いな

文官──軍師という立場で言えば、華琳が筆頭だと言えるんだが…軍将でもあるからな

専任の筆頭、となると現時点では月が有力だが…

月にしろ、雛里にしろ、優しさが甘さに出易い

その辺りで、泥を被って悪者に為ってでも貫き通す胆力が有る軍師の要柱が欲しいのは確かだ」


「で、その条件に彼女は合う訳よね?」


「ああ、現時点で俺の妻になる可能性を加味して、各地の人材の中で考えても…他には考え難い程だ」



咲夜との会話の中で実質的に「周瑜が欲しい」的な発言をした瞬間、膝の上の愛妹(教祖)が遣る気を見せる。

決して華琳が望む様な方向の意図ではないから。

そう撫でていた手を止め、頭を押さえて示す。

しかし、教祖は中々諦めず、グググッ…と抵抗。

いやいや、其所まで何が突き動かすんですか?。

…え?、「御兄様への愛です!」?…そうっすか。



「…イチャついてないで、決めてくれない?」


「咲夜はん、妬いとるん?──ァ痛ッ、痛アぁっ!?

ちょっ!?、何で姐さんまでっ?!」


「………何と無くです」


「何と無くなんっ!?」



我慢出来ずにツッコミを入れた罰を施行中の真桜に咲夜と愛紗が連続で一撃を入れる。

咲夜からのは兎も角、愛紗からのは八つ当たり。

「何と無く」と言っているが、判っています。

「おっきな御胸にちっさな器量」と揶揄された程のヤキモチ武神さんですからね。

ええ、可愛いですよ、ヤキモチ愛紗。

…語感的に美味しそうな感じですよね。

まあ、実際に嫉妬した愛紗は美味しいんですけど。


──とか考えていたら睨まれたので思考放棄。

膝の上の華琳も参戦すると脱線しますからね。

その辺りの引き際は理解していますとも。

この徐子瓏、伊達に経験は積んでいませんからな、はっはっはっはっはっ。



「まあ、受けないという選択肢は無いけどな

個人的にも強かな(こういう)相手は興味深いし」


悪味(・・)の有る女って妖艶だものね?」


「それは男にも言えると思うけどな」



真面目な委員長っ娘×不良少年。

或いは、不良少女×オタク系男子、とか。

ある種の王道だとすら言えるだろう。

因みに、宅の妻達は前者だろう。

咲夜でさえ素の彼女は其方なのだから。

……あれ?、だとすると、俺は不良少年?。

……………と言うより、可笑し──いや、不良だ、うん、俺も立派な不良の仲間入りでしょう。

だってほら、嫁さん沢山居る辺り、不良でしょう。

だから、決して奇人変人の部類ではない、筈!。



「気にしないの、貴男の場合は貴男だからよ

世間的な評価や一般論に当て填めるのではなくて、その在り方自体に私達は惹かれているのだから」


「咲夜……んむっ…」


「…んっ……ちゅっ………御兄様だからです」


「…ちょっと、其処で横取り?」


「私達を除け者にするからよ、ね、愛紗?」


「ええ、その通りです」


「別に除け者にしてはいないんだけど…」



咲夜の言葉に感動して見詰め合っていたら、華琳に顔を掴まれてキスされ、決め台詞を頂きました。

いや、それは咲夜も頭に来るって。

ただ、華琳の言い分に頷く愛紗──と真桜。

咲夜としては、そういう意図は無かったんだろう。

ちゃんと「私達は」って言ってた訳だし。

ただそれでも良い雰囲気に為ったのは事実。

それを客観的に見た場合の気持ちが判るからこそ、咲夜も強い反論はしないし、言い返しもしない。

そういう意味ではキスをしたのが華琳だった事も、愛紗達の気持ちを察して嫌われ役を担った華琳には咲夜も愛紗達も文句は言えないだろうな。

いや、本当に大したものですよ、宅の華琳は。


…まあ、その辺りは俺の責任でも有るので。

当然ながら、後でフォローはしますけどね。

…………まさか、其処まで計算しての連携?。

…………………いやいや、まさかね、はははっ…。



「それで、御兄様、この会談の形式・場所・時期はどうされますか?」


「現状、此方から出向く理由は無いしな

──かと言って、郡境付近に特設会場を用意して、というのも今回に限っては遣る理由も無い」


無い物(・・・)を有る様に見せる必要は無いですしね」


「そういう事だ」



流石というか、直ぐに俺の意図を察する華琳。

周瑜は勿論、それ以外に対しても疑念を懐かせたい状況であれば、そういう遣り方も有る。

特に時間稼ぎをしたい時には悪くない手だ。

勿論、相手を見て遣らないと、恐怖に負けて突然の侵攻を行う可能性が有るので要注意だけどね。

ただ、今回は時間稼ぎの必要も無いから。



「それなら、彼方の希望通りに?」


「ああ、御招待して(・・・・・)差し上げるとしよう」


『────っっ!!!!』



咲夜の問いに肯定を返す。

すると、語気から察したのだろう。

華琳達は思わず息を飲んだ。



「──って熱っ!?、ちょまっ!?、冷たぁっ!?」


「………はぁ~…何を遣っているのよ、貴女は…」


「うぅ~……今のんは不可抗力やって…」



動揺した事で集中力が切れた真桜の頭から壺が落ち中に入っていた灰と火の粉が掛かった。

それに慌てながらも軽く混乱していた真桜は両手の桶の水を使う事は無く、愛紗が奪い取って掛けた。

それを見て咲夜が呆れながら言えば、ずぶ濡れ姿の真桜が力無く項垂れ、愚痴る。

その気持ちは判るが、集中力を切らすからだ。



「全く…忍、どうしますか?」


「まあ、残り僅かだったしな、終わりにしよう」


「師匠っ、愛しとるでーっ!」


「はいはい、判ったから風呂行って着替えろ

そのままだと風邪引くからな」


「え~、師匠が温めてくれへんの?」


「────」



「あ、馬鹿…」と言うより早く、俺の膝の上からは温もりと重みが消えていた。

そして、俺直伝──と言うか、幾度も身を以て得たアイアンクローを真桜に極める華琳の姿が。

うむ、無駄に素晴らしいとしか言えない精度だな。



「ぁ痛ダダダダッ!?、割れる割れるってェッ!?」


「大丈夫よ、声が出せる内は余裕な証拠…

本気で危ない時はね──」


「~~~~っ!?、っ!?、っっ!!、っ!、~~っ!?」


「──って感じで、声すら出せなくなるのよ?」


「………あれ、貴男が教えたの?」


「教えた訳じゃなくて、覚えたんだよ、体験して」


「あー…成る程ね…」



批難する様に俺を見た咲夜だが、華琳を知るが故に簡単な説明で経緯を理解してくれた。

当然だが、愛紗は言わずもがな。

真桜が散らかした後始末を淡々と遣っている。

その然り気無い気遣いが高ポイントなんですよ。

流石は幼馴染み系王道ヒロイン。




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