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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   雛は巣立つ



「──ああっ!?、どうしてっ?!──ぁうっ!?」



殺気も攻撃意思も、予備動作も技後痕跡も一切無い抜刀術式デコピン──通称“見えない中指”を受け額を押さえている華琳。

だが、兄は修羅となり言おう。

「自業自得だ、いや、誰得だ、こんなの」と。

粉々に砕いた竹簡を釜の焚き火の中へと放り込む。

そして、濡らした笹の葉に巻いた甘藷(サツマイモ)を入れたら、蓋をして暫し待つ事に。

そう、焼き芋の出来上がり待ちです。


──で、砕いた竹簡は華琳の書いた作品です。

懲りずに、また書いていた俺がネタの艶本です。

本当に…少しは懲りなさい、何度目ですか?。



「これで十三度目です──ぁふぅっ!?」


「ったく…月、真に受けるなよ?」


「………ぇ?」



事の発端は月が騙されたと知って華琳に抗議に行き「効果覿面だったでしょう?」と言われてしまい、「…へぅぅ~……華琳ちゃんの意地悪~…」と何も言い返せずに返り討ちに合って。

「いい、月?、女は時に化ける事も必要よ?、その為には自分の魅力(武器)を知りなさい、己を知らなければ活かす事も出来無いわ」と言われて。

それで、何故だか華琳の作品を読む事に。

…いや、確かに勉強にはなるんだろうけどな。

俺の精神衛生上、止めて下さい。

その俺は、俺にはハードルが高い俺なんで。


──で、月が戻って来ないから様子を見に来れば、熱弁を振るい、顔を真っ赤にしながら熟読する月。

ええ、即座に取り上げて、Goto業火(Hell)。

──という訳なんですけど……あの、月さん?。

何故、そんなに期待の籠った潤んだ眼差しをして、俺を見上げながら見詰めるのでせうか?。



「因みに、月が読んでいたのは御兄様と月の恋愛を題材にして書いた作品(もの)でしたので」


「…………その中の俺は、例の如く、アレ(・・)か?」


「御兄様が思うよりも御兄様らしいのですが…」


「いや、違うから、あんなんじゃないよ、俺

な?、そうだよな、月?」


「…………………」



無言のまま顔を伏せた月は俺に抱き付いて。

そのまま自分の匂いを付ける様に顔を擦り寄せる。

まるで、マタタビを嗅いだ猫の様に。

こしこし、ごろごろ、にゃんにゃんにゃん。

華琳も加わり、にゃんにゃんにゃにゃん。

犬の様に盛ってはならないのですが。

無理な物は無理でごわす、ワォオヲォーーンッ!!。




そんな月との初夜から一週間。

何やら既視感を覚える状況に俺は居る。



「いや~、師匠が居ってくれて助かったわ~」


「申し訳有りません、忍様…

この様な事に御付き合いさせてしまって…」


「いや、凪が謝る事じゃないから、気にするな」


「せやで、凪、此処は「有難う」って言う所や」


「お前が先に言え」


「ぁ痛アァッ!?」



俺の休日を潰してしまっている現状を気にしている凪を気遣いながら、その元凶である真桜に対しては“見えない中指・檄”を進呈する。

檄は威力を高めた上、弾き切らず、打ち止める事で骨の奥に染み込むかの様に衝撃を通す。

その痛みは直後よりも、少し遅れてから来る。

しかも、表面的ではなく、内側から滲み出る様に。

つまり、じわじわと檄は痛みが残る訳である。


尚、この檄は真桜が初体験であり、これが初披露。

その身で受けた事、光栄に思うが良い、真桜(馬鹿弟子)



「~~っ…そんなんより受けるん遣ったら師匠のを入り切らん位に注いで欲しいわっ──ぁ痛゛アっ!?

ちょっ!?、何すんや!、凪っ?!」


「お前こそ、何を口走っているんだ馬鹿っ!」


「何って…師匠の熱~いんを中に──んぐぅっ!?」


「だから「言うな」と言っているんだっ!」



顔を真っ赤にしながら真桜の口を手で塞ぐ凪。

凪の方は本当に本気で真面目に言ってるんだけど…真桜の方は完全に揶揄って遊んでるな。

…まあ、そうしたくなる気持ちは理解出来るが。

そういう時(・・・・・)には積極的な凪も、普段は真面目だから羞恥心の方が強くなる訳で。

つい、揶揄いたくもなる訳ですよ。

だって、凪の反応が可愛いんだもん。


ただね、真桜さんや?。

今は凪が言う様に違うと思うんだ。

何しろ、俺の傍には凪以上に顔を真っ赤にしている雛里が湯気を出している状況ですから。

うん、雛里自身は未経験なんですけどね。

知識、という点では有る訳なんですよ、これが。

だから、反射的に想像してしまう訳です。

ただ、経験が無いから、正しく想像出来ているのか雛里自身は判断出来無い訳じゃないですか?。

その結果、雛里の思考は幾つもの仮定をした上での想像を繰り返してゆく訳で。

しかし、その答えが出ない為──思考停止(フリーズ)

「……きゅうぅ~…」と言って倒れました。

うんうん、その初さが懐かしいです。

………………あれ?……えっと………あ、あれ?。

可笑しいな、確か華琳達にも………………………。

……なっ!?、お、思い出せない、だとっ!?。

いやまあ……うん、無かったね。

何だかんだで、肉食系だわ、宅の嫁さん達は。




そんなこんなで、真桜の買い物に付き合わされてのデートを無事?に終えた訳です。

まあ、今後は今まで以上に真桜には色々と造ったり試作したりして貰う事になるだろうからな。

これ位は俺も付き合いますって。

……ただね?、雛里が居るのに凪と交代しながら、雛里の目を盗んでの要求は止めましょうね?。

遣る事遣った俺が言うのも何なんですが。

変な性癖(くせ)に目覚めたら困りますから。

だから、偶ににして置きなさい。


それは兎も角として。

俺は正面に座る雛里を見詰めている。

縁談の順番で言えば月よりも雛里の方が先だが。

俺との関係性──二人の気持ちと覚悟は違う。

昔から気持ちと覚悟を持っていた月は話が早い。

対して、雛里は気持ちと覚悟が有っても、関係性は未成熟だと言うしかなかった。

だから、月との初夜が先になったのだが。

これにより、思わぬ余波が生じた。

雛里が「わ、私も御願いします!」と言った。

そして、今日のデートを経て、初夜を迎えている。


緊張した姿の雛里を見ると「今日は止めようか」と言いたくなる気持ちが湧く。

しかし、真っ直ぐに見詰めている雛里を見ていると瞳に宿る決意が伝わってくる。

だから、その言葉が声に為る事は無い。



「……あ、あのっ、わ、私のは、小さいですけど…忍様に楽しんで頂ける様に頑張りましゅ!」


「うん、ちょっと落ち着こうか、雛里

“俺に楽しんで貰う為”とか誰が言ったのかな?」


「ぇ?、ぁ、えっと……ぁぅ…真桜ちゃんです…」



健気な姿や、最後の最後で噛む所は可愛い。

それはもう、「それなら、楽しませてくれるか?」なんて言いながら押し倒したくなる。

いやもう、本当にマジでね。


しかし、そうする訳にはいかない。

基本的に俺が女性からの誘惑を拒む可能性は低い。

何故なら、誘惑出来る程の距離にまで俺は近付ける事自体が有りませんから。

ええ、下心が見えている相手を好き好んで近付けて襲われる趣味は俺には有りません。

初めてが襲われたので、俺は襲う事にしたんです。

いや、それは違──わないけど。


俺としては“楽しませて貰う”というのは嫌いで。

当然ながら、女性側にも言われたくはない。

ただ、既に妻である華琳達は合意の上だから違うし娼婦(プロ)が相手の場合も違う。

後者の場合、その働きに対する対価を支払う以上はプロ意識を持って臨むべきだからね。

給料泥棒は赦せません。

──と言うかね、プロ意識って仕事をしているなら誰しもが持つべき当然の事なんですけどね。

だって、給料を受け取る以上は労働に対する責任が有る訳ですから。

義務とは違うんですよ?。

プロ意識は専門職(プロフェッショナル)の職人意識ではなくて。

給料を貰う立場に有る者、全てが負う責任。

ダラダラしてる者に給料を払うなんて変な話です。

経歴?、学歴?、そんな物より、自分の仕事に対し責任有る真摯な姿勢を大切にしなさい。

──と、俺は思うし、そう教育しています。


…話が逸れましたが、雛里の発言は看過出来無い。

しかも、明らかに雛里自身の言葉ではない。

誰かの入れ知恵だと直ぐに判ります。

──で、誤魔化そうとする雛里の顔を両手で挟み、真っ直ぐに目を見詰めると──吐きました。

成る程ね、お前か、真桜……覚悟シテオケヨ?。


ただ、今は黒い感情は胸奥に押し込める。

そして、雛里の事だけに集中する。



「雛里、俺は“自分だけが良ければ…”という様な考え方をして、こういう事はしない

相手が居てこそだからな

だから、そういう認識はしないで欲しい」


「…ぁ……申し訳有りぅむっ?」


「雛里が謝る必要は無いからな?

だから、焦らず、二人で一緒に、だ」


「忍様…はいっ…」



雛里を責めはしない。

…まあ、これから攻めはするんですけどね。

笑顔見せた雛里の唇を奪い、優しく押し倒す。

夜着を着たままの雛里の身体を優しく、強く。

しかし、逃がさぬ様に糸で絡め取る蜘蛛の様に。

雛里の事を隅々まで知ってゆく。






「…し、師匠ぉお~………もぉ、堪忍したって…」


「…あ゛ぁ?、何か言ったか?」


「──ヒィッ!?、な、何も言ってませんっ…」



根を上げる真桜を一睨みして黙らせる。

当然だが、一晩寝かせて熟した憤怒は濃厚です。

一晩で冷める憤怒なんて所詮その程度な訳です。

俺の憤怒は真っ黒に燃えていますよ。


それでまあ、その真桜ですが。

部屋の隅々、ピッタリと壁に背中を付けた姿勢で、正座をした太股の上に15㎏の石を置き、両手には10リットル入った木桶を持ち、それを腕を水平に伸ばした状態で維持させています。

プルプルと震えていますが、何か?。

厳しくしなくて、何が罰です。

教育は甘やかす事ではなく、厳しさが大事。

甘さは優しさでは有りませんから。


頭上には濡れらした手拭いを畳んで乗せ、その上に火の点いた小さい薪を入れた壺が有ります。

薪が燃え尽きるまで、維持するのが罰です。



「全く…何を遣っているのよ、貴女は…」


「いや、そないな事言ぅたって華琳も月に…」


「私は助言として、少し演出をしただけよ?

貴女みたいに御兄様を怒らせてはいないもの

大体、そういった事を冗談でも女性が言う様な事を御兄様が嫌っている事は知っているでしょう?

それなのに雛里に吹き込むだなんて…馬鹿なの?」


「ぅぅっ…反論出来ひん…」



そんな真桜を見下ろしながら、腕組みをした華琳が正論で猛省を促している。

うん、正論だけどね、君も反省しなさいよ?。

確かに月への入れ知恵は絶妙でしたが。

ええ、それはもう、大変良い仕事でしたよ?。

でも、それはそれ、これはこれです。

“他人の振り見て、我が振り直せ”です。

それを遣ったら、どうなるのか。

それをイメージする事すら出来無い愚かな大人には成ってはいけませんよ。



「貴男って、本当に躾には厳しいわよね…

勿論、今回の件は弁護の余地も無く真桜が悪いから当然だと言えるのだけれど」


「咲夜はんまでー……師匠に抱かれてから、今まで被っとった猫が居らん様になっとるし…ぁ痛っ!」


「失礼ね、別に猫を被ってはいなかったわよ

…ただ、ちょっと素直になるのが怖かっただけよ」


「………あんだけ積極的にしとって?、痛ァッ!?」



真面目な話を直ぐに茶化す。

この世に大阪なんてないし、大阪人なんて居ない。

それなのに何でも笑いに持っていきたがる。

……もしかしたら、この世界の遥か未来に大阪人が単純したなら、その祖先は真桜かもしれないな。

いや、そんな事は無い……筈……多分…きっと…。


──と、頭を抱えたくなる想像をしていると部屋の扉をノックされ、現実に戻る。

返事をすると愛紗が入って来た。

慌ててはいないが、表情には緊張感が浮かぶ。



「何か有ったのか?」


「…忍、貴男宛に書状が届けられました」



そう言って差し出された書状。

製紙技術は有るが、紙は貴重なので使用されているだけでも重要だと判る。

そして、書状の裏を見て、俺は目を見開いた。

其処に書かれていた差出人の名は──“周公瑾”。





 鳳統side──


私は“一目惚れ”を信じてはいませんでした。

少なくとも、理由が無いなんて可笑しいです。

そういう風に教えられ、育ってきましたから。

当然と言えば当然だと思います。

ですが、「誰かを好きになるのに理由は必要か?」という質問をされて、「必要有りません」とは私は答えられる気はしませんでした。


──忍様に御逢いするまでは。


「好きな所は?」と訊かれれば沢山挙げられますが「好きになった理由は?」と訊かれたら困ります。

何しろ、私は明確に「これです!」と自信を持って答える事が出来る気がしませんから。

「全てです」と言ってもいいのでしたら。

そう答えたい位にです。

それ程に忍様の事が好きなのですが。

明確な答えを導き出す事は出来ません。

それでも、答えを見付け様と考えはしますが。

正直な所では見付けられる気がしません。


…因みに、華琳ちゃんに訊いてみた所。

「全てであり、必然よ、私は御兄様の妻となる為に女として生まれてきたのだから」と。

それはもう、躊躇も逡巡も一切有りませんでした。

……うん、訊く人を間違えてましたよね。


でも、その言葉は心に綺麗に納まります。

ある意味では、それが真理なのかもしれません。


だから、月さんが私より先に迎えた事が。

私の胸奥に物凄く強い感情を渦巻かせました。

それは俗に言う嫉妬であり、羨望であり、憤怒。

「私の方が先に婚約したのにっ…」と。


その感情は自覚すると嫌な気持ちになります。

確かに、それはそうなんですが。

抑、私よりも早く、月さんは出逢っていて。

私よりも長く、忍様を想い続けていたのだから。

視点・論点を変えると、当然だと言えます。

…それで納得出来るのかは別ですが。


そんな私の気持ちを察した華琳ちゃん。

そして、口にしたくはない暗い感情を吐かされて。

でも、その分だけ、心の奥が軽くなります。

「そういう感情は誰にでも有るものよ、当然だけど私にだって愛紗達にもね」と。

華琳ちゃんは笑顔で言って。

「恋愛はね、綺麗なだけの物ではないのよ、物凄く醜く穢いものでもあるの」と。

「だけど、それが尊いのよ、心の光も闇も、それは御兄様が居てこそ生まれるわ、だから素敵なのよ、嫉妬?、羨望?、独占欲?、全てが御兄様に対する私自身の想いであり、確かなものよ」と。

迷わずに言える姿が、とても眩しかったです。


そして、最後に。

「全部、御兄様に曝け出しなさい、全部ね」と。

その意味を今、はっきりと理解出来ます。



「ァあっ、んっ、ちゅぢゅっ…忍様っ、忍様ァッ、もっと、もっとして下さいっ、ぅんっ…」


「んっ…雛里がして欲しいなら幾らでもっ、なっ」


「ァアあァンッ、おっ、奥ゥッ、ぁ、熱くてェッ、んン゛ン゛ッ!?、ャッ、ふゃァアアッ!」



感情のままに、欲求のままに、本能のままに。

忍様を求め、求められ、求め合い、交じり融けて。

全てを曝し、全てを打付け、新たに溢れ出すから。



──side out



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