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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   想い架かる路


咲夜との初夜を越えて、夜明けを迎える。

少々問題は有ったが…まあ、概ね、結果は良好だと言う事は出来るだろう。



「………何か、ムカつく…」


「出来るにしても一日じゃ流石に無理だろ?」


「悪阻じゃないわよっ、馬鹿っ…」



腕の中、見上げる様に睨んでいる咲夜。

しかし、昨夜の自身の遣らかした事が有るからか、普段なら毒舌に為りそうな場面でも大人しい。

それはもう、有言実行で刻み込んで遣りましたから二度と間違いはしないでしょう。

…まあ、その本人は顔を赤くしながら左腕を抓って睨んでいたりする訳ですが。

残念、それは逆効果だと教えてあげましょう。

……いや、ある意味では効果抜群ですけどね。



「──という訳で、いざ、実食(頂きます)っ!」


「ちょっ!?、ァンッ、ナッ、何がよォッ、このっ、ぁっ、駄目っ、バカぁあアアッ!!」






──という感じで、朝の鍛練を終えた後の朝風呂は気持ちが良いでござるなぁ~。

のぉ?、御主も、そうは思わぬか?。

ハッハッハッ、照れるな照れるな、可愛初奴め。



「…絶対に特典(チート)の効果が出てるわ…」


「まあ、効果が無いとは俺も思わないけどな」



そう湯船に浸かりながら愚痴る様に言いながらも、しっかりと身体は密着させている咲夜。

甘える様に俺の左肩に頭を預ける姿は可愛い。

今朝の事も有って吹っ切れたのか。

今の咲夜からは後ろめたさの類いは感じない。

…まあ、裏を返せば、それだけ本気で俺を想ってるという風にも受け取れる訳ですからね。

男としては悪い気はしませんよ、ええ。


尚、絶倫的な我が精力(戦闘力)も無限では有りませぬ。

更に二段階の変身を残している訳でも有りません。

変身──変形は一回限りです、人間ですから。

有限の身を鍛え上げ、現在(ここ)に到っています。

ですから、特典(チート)には感謝です、マジで。

無かったら確実に枯渇して不能に為ってますよ。

ええ、いや本当にね……贅沢な悩みですよ。



「それは兎も角としてだ

“浄化”の力は何と無くだけど理解は出来るが…

第三段階の対処に必要な“天之器(メシア)”って何だ?

俺自身が封印の器になるって話なのか?」


「違うわよ、封印なんて問題の先伸ばしじゃない、そんな面倒な事を態々“修世者(ミストルティン)”を送り込んでまで遣ろうとは思わないわ

天之器(メシア)は“歪み”を討つ為の専用の滅具…

まあ、平たく言えば修世者(ミストルティン)専用の武具の事よ

紛らわしい事に関しては私に言わないでよ?

そう名付けたのは大昔の者達なんだから」



そう言う咲夜だが、その気持ちは理解出来る。

「何で、そんな風に…」と思う名称は少なくない。

豆腐と納豆なんて、日本人的には代表格だろう。

腐ってないのに豆腐なんだし。

しかし、それだって明確には解ってはいない。

つまり、紛らわしかろうが、仕方が無い訳だ。

その辺りを気にするだけ無駄。

どうして知りたければ専門家への資金援助等をして頑張って解明して貰うのが一番だろう。

少なくとも俺は自分で遣ろうとは思わないかはな。


──で、その天之器なんだけど。

これが咲夜から受け取った第三段階の対処方法だが──使い方が全く理解出来無い。

いや、正確には力の存在自体は感じる事は出来る。

ただ、その力のイメージが………卵なんです。

ええ、あの炊き立ての白い御飯に割って落としたら醤油を掛けて混ぜ混ぜする、あの卵さんです。

因みに、俺は少量のマヨネーズと刻み海苔を加えて食べるのが好きだったりしました。

嗚呼っ、早く海苔を作りたいっ!。



「だけど、貴男が困惑するのも無理も無いわ

──と言うか、普通は感じ取れないんだけどね…

本当に…貴男って特典(チート)無しでもチートね」


「いや、その特典(チート)有ってのチートだからな

──って、自分で言ってると悲しくなるな…」


天之器(メシア)はね、宿主の性質を反映する武具なのよ

だから貴男が感じる卵のイメージは正しいの」



──と、落ち込む俺をスルーして説明する咲夜。

別に「構ってくれ」とは言わないし、寂しいなんて思いもしないんだけどね。

一言位は触れてもいいんじゃない?。

まあ、其処で過剰に反応されても困るし、それだと咲夜らしくもないんだけど。



天之器(メシア)は宿主──主である修世者(ミストルティン)の経験や情報を蓄積して最適な形状や能力を持って誕生するわ

だから、誕生するまで誰にも解らないのよ

剣技が得意で、ずっと剣しか使っていない修世者(ミストルティン)が得たのが盾型の天之器(メシア)だった事も有るしね」


「へぇ~……って、ちょっと待て

それって現時点では第三段階への対処方法は俺には無いって事になるんじゃないのか?」


「…………………ぁ…」



そう指摘をしたら、咲夜が「…え?」という感じで考え込み、意図している事に気付いて声を漏らす。

思わず、「おいっ!?」と叫びたくなった。


恐らく、前例が無いから咲夜も意識をしていないと失念してしまうんだろうけどさ。

不完全でも既に第二段階の歪みの兆候が出ている。

それはつまり、第三段階の歪みが天之器(メシア)の誕生より早いという可能性も有り得る訳で。

咲夜の説明通りなら、第三段階への対処は天之器(メシア)が無ければ不可能という事になる訳で。

要するに死刑宣告にも等しい訳だ。



「…因みに、受け渡し──いや、力を宿してから、天之器(メシア)が誕生するまでの平均的な必要な時間は?」


「………約十年、最短だったケースでも約七年よ」


「マジかぁ………お前から見て、俺の場合は?」


「………貴男なら浄化も直ぐに使えるでしょうから心配しなくてもいい──とは言えないわね…

さっきも言ったけど、天之器の誕生には蓄積が必要不可欠だし、その最適化の為の時間も掛かるわ…

だから、時間を短縮する、という方法は無いの…」


「………最短は七年だったんだよな?

それで平均が約十年なら、基本的には十年…

個人差や環境等の条件で増減するって事だろ?

短期間のケースに何かしらの共通点は無いのか?」


「…もしかしたら調べれば判るかもしれないけど…今の私には調べる術が無いわ

抑、そういった事を態々誰も調べたりはしないし、調べる必要自体が無いのよ

本来は修正者(ミストルティン)が転生する際に浄化の力も含めて全部渡してから送り出すから、世に歪みが出現するまで十年近くは普通に掛かるから…

今回(貴男)の様なケースは前例が無いのよ…」



そう言う咲夜の言葉を聞きながら天を仰ぐ。

露天風呂じゃないから天井が有るけど。


俺の転生に関する経緯は咲夜に聞かされた。

俺に限らず修世者(ミストルティン)に適合した者は例外無く意図的に死亡させられ、転生させられるらしい。

当然だが、彼等の立場からすれば人一人の人生より一つの世界、引いては数多の世界の為だ。

だから、それを否定する気はしない。

殺された側の個人的な感情は別にしてもだ。

──あ、因みに俺は「…え?、マジで?」程度。

前生に未練は無いし、既に現生が大事だからな。

加えて、咲夜が殺った訳でもない。

俺を殺ったのは咲夜の祖父らしいが、会えない以上咲夜に八つ当たりしようとも思わない。

ただ、咲夜が戻った際には一発ビンタを頼んだ。

それ位はされても可笑しくはないぞ、糞爺。


それは兎も角として。

咲夜が言った様に、基本的には修世者(ミストルティン)は転生前から自身の役目を理解し、背負っている。

俺みたいに、ゲームや漫画の勇者的な展開で始まる途中からの修世者(ミストルティン)は史上初らしい。

だからこそ、こういう想定外の事態には困る。



「……まあ、それでも遣るしかない訳だしな…」


「………その、駄女神で御免な──んんっ…」



悪くもないのに謝ろうとする咲夜の唇を塞ぐ。

今は只の人間でしかない咲夜に責任は無い。

「だから、気にするな」と言外に伝える。

咲夜も言葉にはせず、けれども、受け入れる。


尚、風呂掃除をしてから上がる事になったが。

そんな事は日常茶飯事の我が生活。

掃除の腕前も手際の良さもプロ顔負けです。






「──で?、急に連れ出して、どうした?」



そう訊ねる俺の視線の先には華琳が居る。

一切動揺は見せても感じさせもしない様にと細心の注意を払い、意識を研ぎ澄ませている。

しかし、それでも相手は華琳だ。

俺と咲夜の関係に気付いていても可笑しくはない。

──いや、男女の方ではなくてだからね?。



「………御兄様、率直に御訊ねします

御兄様は何故、力を求められるのですか?」


「────っ……」



今まで通り、「後悔したくはないからだ」といった確かに本音でもあるが表向きの答え(・・・・・・)を口にし掛けて──それを飲み込んだ。

華琳の真剣な眼差しを見て、違うと察したからだ。

華琳が望むのは、そんな上辺の答えではない。

もっと深い、より根幹に在る答えなのだと。


だから、俺は自然と天を仰いでいた。

青く、高く、澄んだ空が其処には在る。

幼い日に見た、前世でも見た、空でしかない空が。



「………いきなりで信じられないかもしれないが、俺にはな、前世の記憶という物が有る

だから知識の偏りは有るが子供の頃から色々な事を知っていたり、出来ていたりした訳だが…

それは単純に記憶が有るだけじゃない

面倒臭い話だが、俺には使命が有る

…この世界の未来を守り、繋ぐという使命がだ

その為には力も知識も必要だからな

まあ、本音を言えば、「世界を救う」なんて気概は俺には一切無くて、お前達を守り、幸せにしたい

ただそれだけが理由だったりする」


「………では、咲夜は?」


「咲夜は前世での知人だ

だから多少は気心の知れた相手だし、俺と同じ様に前世の記憶を持っているからな

そういう意味では唯一、昔話が出来る相手だ

……まあ、今は咲夜も大切な存在の一人だけどな」


「…咲夜も御兄様と同様の使命を?」


「いや、咲夜は補佐…と言うか、伝令と言うか…

まあ、その使命を生まれ変わる時に託される筈が、手違いで伝え損ねたらしくてな…

それで咲夜が託されて、という事らしい

だから、使命を背負うのは俺だけだ」


「………そうですか…」


「…いきなりで信じられないだろ?」



一通り経緯を話して、そう苦笑しながら訊ねると、華琳は不思議そうに小首を傾げた。

やだ可愛いっ!、この娘、宅の妹なんですよっ!。

──ではない、いや、それはそれで正しいが。



「いや…信じられないだろ?」


「?、何故です?」


「え?、いや、だって普通は前世だの使命だのと、いきなり言われても信じられないだろ?」


「はい、普通なら、信じられません」


「だろ?」


「ですが、御兄様ですから

御兄様が私に嘘を吐くのは揶揄うか意地悪する時に限られていますから

ですから、私は御兄様の言葉を信じられます」


「……………」



真っ直ぐに、一切迷いの無い、真摯な眼差し。

──痛いっ!?、その信頼がチクチクと痛いっ!!。

しかも何か色々バレてるのが顔をチリチリと!。

嗚呼っ!、母さんっ、貴女の娘が眩しいです!。



「──それに、私は全てを理解致しました

やはり、御兄様こそが世界を統べるべき御方…

世界の全ての女達は御兄様の子を産む為に存在し、それこそが望まれた使命だという事ですね!

フフフッ…さあ、始めましょう、御兄様!

その血で、その愛で、素晴らしき世界にっ!!」


「何もかも違うよっ?!、目を覚ませ妹よっ?!」


「御兄様、御心配は要りません

この曹孟徳、深淵へと至り理の最果ての扉を開き、疾うに覚醒しております

──私の全ては御兄様の為にっ!!」


「その気持ちは嬉しいけど何か違うっ!!」



何故か厨二病チックな台詞を目を輝かせて言い放つ自信満々の華琳に対して兎に角突っ込む。

──というか、全く振れないな、我が妹よっ!。

曹操らしいと言えばらしいが、似て非なる存在だ。

だったら少しは振れて下さいませんかねっ?!。

「何か解りませんが、断りますっ!」ってぇっ!。

読むなら、もう少し踏み込んで読んでっ!。















         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.20

















 曹操side──




△○月△●日。

“事実は小説より奇なり”。

それは幼い頃に御兄様に教えて頂いた諺。

その意味を聞き、納得出来た私の世界は広がった。

目に見える事ばかりが真実ではないのだと。

自分にとっては有り触れた事であったとしても。

一人によれば、場所によれば、奇異なのだと。

そういう認識を幼くして得られた事は大きく。

“時には周囲に合わせる”事も必要なのだと。

それを認識出来た事は外に出て役に立ちました。

……昔の事は忘れたわ、ええ、何の事かしら。


それは兎も角として。

最近、御兄様を見ていて不安に思う時が有った。

別に御兄様が私達を捨てるとかの類いではない。

其方等に関しては全く心配はしていません。

今日の昼間にも沢山愛して頂きましたから。

勿論、御兄様の愛に甘えて女として堕落するつもりなんて微塵も無いけれど。


いいえ、そうではなくて。

御兄様の真意、という物が解らなくて。

それで御兄様が遠くに感じられて……不安な訳よ。


だけれど、御兄様と二人きりになって、思い切って訊いてみて良かったと思うわ。

まさか、御兄様が私の想像以上に大きな使命を持ち生まれて来られていただなんて…最高です!。

嗚呼っ、御兄様を想うだけで火照り疼きます!。

ねぇ?、御兄様…私、もう£ゑゑξωξжゐω£…






「──という訳で、私達を導かれる御兄様は至高の御方痛タタタタタタッ!?」


「…操~ぅ?、なぁ~にを遣ってるのかぁ~?」


「御覧の通り次代の娘達に教育オヲヲォヲッ!?」



痛い痛い痛い割れます御兄様割れます本当に本当に痛い痛い割れます頭が痛くて割れてしまいますっ!?──でも、ちょっと癖になリマセンッ!、痛イ痛イ御兄様本当二痛イデスッ!。

しっかりと私の正面から蟀谷を捕らえた右手。

その指が頭蓋骨に食い込むのではないかとさえ思う握力で締め上げられれば痛くて当然。

御兄様の右腕を両手で握って抗いますが…無駄。

御兄様の手から逃れる事など不可能です!。



「…変な所で胸を張るな、ったく…」



そう溜め息を吐きながら仰有った御兄様。

解放された時には集めていた二十人程の娘達の姿は既に其処には見当たりません。

十歳以下の、教育し易そうな、将来性の有る人材を選りに選って集めていたのに…。

まあ、解散してしまった以上、仕方が有りません。

今日の所は諦めましょう。



「永遠に諦めなさい」


「それは無理です、御兄様

私の野望は御兄様の血を継ぐ子を万人成す事です!

その為には一人十人ずつでも最低千人は必要なので今から選抜して育てて行きませんと!」


「行かなくていいから!

──っていうか、一万っ!?、俺が死ぬわっ!」


「大丈夫です、御兄様なら一発必中も可能です

それなら必要最低限で可あぅっ!?」



御兄様、私は決して諦めません。

必ずや、成します。



──side out



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