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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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8話 選びしは…


更に、さらっと一ヶ月。

合計二ヶ月が経った。


…え?、飛ばし過ぎ?。

そんな事は無いでしょう。

ただ、こういった事を俺が言ってしまうと駄目な様な気がするんだけどさ。

淡々とした日常話ってさ、意外と飽き易いのね。

うん、漫画やラノベとかで“日常系”って有るけど、あれ等はキャラが有るから成り立ってる訳でして。

俺みたいな元大人の今子供みたいな特殊な状況だけど極普通の基本的な一般人なキャラには厳しい事です。

だからスキップします。

──あ、弾む様な足取りの方じゃないですよ?。


──と、そんな事は放置し今は集中する。

右前の半身に構え、右手を軽く添える様に置く。

ゆっくりと、深く。

深呼吸を繰り返しながら、間合いを計るかの様にしてタイミングを窺う。

呼吸が、拍動が、筋肉が、意識が──重なり合う。



「────哈っ!!!!」



そして、その掛け声と共に己が全てを爆発させる。

右手──掌が触れる一定に解き放たれた力が集約されズグンッ!!、と身体の内に鈍い音が響き、それと共にゴガンッ!!、と音を上げて──岩を割り砕いた。


…………お、おぉ……で、出来たああぁーっ!!!!!!。

いや、え?、マジでっ!?、出来ちゃったんだけど?!。

ここ、これ夢じゃない?、夢じゃないよね?、ね?。

痛っ!?、抓ると痛いっ!。

──って事は…って事は、マジで現実っ!?。

うっわっ、やべぇよっ!。

超ー嬉しいんだけどっ!。

上がりっぱなしだって!。

ひゃっほおぉーっいっ!!。



「…………………ふぅ〜…よし、落ち着こうな、俺」



口には出さなかっただけで身体は歓喜を抑え切れずに可笑しな舞を舞った。

何やらフィーバーしそうな賑やかな音楽が聴こえてた気がするのは幻聴だろう。

此処は森の中で、未明。

そんな近所迷惑な奴は先ず居ないし、明け方まで酒を飲み続けて迷惑行為をする酔っ払いも居ない。

寧ろ、声を出していたなら間違い無く、俺が迷惑者に為っている所です。

うん、危ない危ない。


しかし……しかしだ。

やはり、嬉しい物は本当に嬉しいから仕方が無い。

何が嬉しいのかと言うと、所謂、“寸勁”を再現する事が出来たからだ。

まあ、再現と言えるのかは正しい寸勁を知らないから「飽く迄も、俺的には」の一言が入るけどね。

でも、俺は武術の経験等は一切無い、超ド素人だ。

うろ覚えの「え〜と、確かこんな感じだったよな?」から見切り発車で出発進行してからの、この結果だ。

嬉しくない訳が無い。


…え?、「待てよ、其処は拳でだろ?」って?。

ハッハッハッ…そんなの、痛そうじゃないですか。

俺、ド素人ですよ?。

怪我するだけですって。

だから遣りませんよ。

怪我しても治す術が俺には無いんですから。


第一、未だに朝練は秘密で遣ってるんです。

下手に怪我をしたらバレて止められるでしょ?。

それは避けないと。




さて、感動に浸るのは一旦置いておくとして。

自分の右手を見詰める。

グッ、パッ、グッ、パッ…何度か繰り返してみるが、特に可笑しな点は無い。

勿論、痛みなんて無いから怪我はしていない。

…まあ、外傷が無いだけで内側は判らないけど。

そんな事を気にしていたら鍛練なんて出来ませんからポポイのポーイッ!です。

でも、無茶は駄目。


それは兎も角として。

漸く実感する事が出来る。



「うん、こうして常識から外れてみて初めて解るな

ちゃんと“特典”の効果が出てるんだって…」



そう、あの時、幼女神へと希望した転生特典。

それがしっかりと機能し、効果を発揮しているのだと先程の寸勁擬きの成功で、認識する事が出来た。


…まあ、あれだけどね。

本当は実感出来る要因なら有ったんだけどね。

此処が、【恋姫†無双】の世界じゃなかったら。

──いや、ちょっと違う。

そうじゃなくて、一般人が“俺の中の一般人の範疇”だったら、の場合だね。


どういう事かって言うと、“ヒロイン”となる英雄達以外でも基本的に兵士達の能力が高い世界。

遺伝子操作や呪術的な事で“生まれながらの兵士”は存在していないのだから、当然の様に一般人の能力は“俺の居た社会の現代人”よりも高くなる訳です。

勿論、全員ではない。

しかし、科学技術有りきの戦闘をする現代人よりも、純粋に己の身体能力を以て戦闘をする此方の兵の方が平均的に見て、勝る筈。

そんな世界に“転生”した俺だけが例外的に弱いとは考え難い──と思う。

………だ、大丈夫!。

きっと、大丈夫だよ!。


それで、なんだけど。

朝練の為に森に通い続けて二人が起きる前には戻って知らん顔をしている生活を既に一ヶ月半以上。

当然ながら、日々の成長は実感してるんだけど。

その成長分(伸び代)が今の身体の基本スペックによる成長なのか、特典によって齎された物なのか。

その判断が難しいかった。


──あっ、勿論、今の俺は七歳児だけど間違い無く、前世の俺よりも身体能力が高く成ってるって言い切る事は出来るよ。

…何か、凹むけど。


それが、寸勁擬きの成功で確信へと至るって訳。

抑、幾ら基本平均が高いと言っても、それは飽く迄も“両者を比べれば”という話であって、絶対と言える事ではない。

だから、原作内でも有った“岩を砕く”という一撃を繰り出せる様に成ったら、それは間違い無く、特典に因る物だと言える。

何しろ、それが出来るのは全武将の内の両手程。

更に言えば、得物無しなら確実に一握りだろう。


だから、間違い無い。

どんなに鍛練をしてても、所詮は子供なんだ。

その成長分は高が知れるし直ぐに効果は出ない。

──普通なら、だ。

それが僅か二ヶ月で出来る所にまで手が届いた。

その理由を考えれば自然と転生特典に至る訳です。




そんな転生特典ですが。

フフンッ、我ながら考えに考えた甲斐が有ったね。

いや、ファインプレーだと言っても良いだろう。


さて、その特典だけど。

あの時、幼女神に対し俺が望んだのは、コレ。

“自分が理想とする身体”だったりする。

それはまあ?、折角だからチートやバグに為りたいと思わなくもないけどね。

だからと言って、転生先が判らない以上、賭けをする気には為りません。

堅実に、手堅く、確実に。

役に立つ物にしました。


──で、この特典。

実は意外とチートです。

勿論、条件付きだけどね。

簡単に言うと“俺の理想を体現する事が出来る身体”だったりするんですよ。

…うん?、今一その違いが微妙で解り難い?。

では、説明をしよう!。


例えば“無限の成長力”を望んだとしよう。

それは良い特典だと思う。

でもさ、それって実際にはゲーム等のステイタス的な“能力だけに適用される”とは限らないよね?。

“成長力”である以上は、全てに有効で影響するのが正しい物な訳で。

そうすると身長とか人間の域を軽々外れてしまう。

そんな可能性も有る訳で。

そんなの嫌ですから。


──で、“能力に限って”とか条件を付けたら肉体の成長力には影響しないから筋力とか純粋な身体能力は良くも悪くも未知数。

しかも、能力や魔力とかが無い世界の場合は無意味に為ってしまう。

要らない特典()だ。


そういった悲劇を回避し、尚且つ役に立つ物を。

そう考えた結果、俺自身が理想とする自分に成れる。

そういう特典にした訳だ。


この特典のチートな理由は“理想とする身体”という部分が、限定されていないという点に有る。

つまり、“一つの理想”に填まらない、という事。

俺が生きていく中で色々と経験・学習し、俺の理想が変われば、それに合わせて変化してくれる訳だ。


例えば、筋肉の性質を全て俺の理想に沿った状態へと成長させる事が出来る。

ムッキムキで重くなって、スピードが落ちるのを防ぎ細マッチョ系でも怪力!。

みたいに仕様に。

勿論、“この世界の理”を逸脱した状態には不可能。

だがしかし、嘗ての知識や情報は無効ではない。

全てが、ではないにしても人間が人間として在るなら上手く使える訳ですよ。

ね?、中々チートでしょ。


けどまあ、飽く迄も自分が成長する事が条件だから、時間は掛かるけどね。

それでも、下手な特典より確実性は有りますから。

フッフッフッ…我ながら、良い仕事をしましたね。




──とまあ、そんな感じで転生特典がしっかりと機能していると判った事で俺は改めて“理想”を描く。

“彼女達”を参考にすれば確実に効果も有る筈だし。

原作知識、万歳っ!。



「年齢や容姿から考えるとチビッ娘軍将さん達辺りが参考例かな〜………いや、うん、待とうな、俺?

あの娘達、基本的に怪力系ばっかりじゃないの…

絶対悪目立ちするって…」



能力的には悪くはない。

彼女達にも非はない。

ただ、一般的な価値観では目立ってしまうだけ。

しかし、母さんや操の事を考えると目立つのは愚策。

俺一人だったら、数年間は山に籠って鍛練しまくってビルドアップ一直線っ!も有りなんだけど。

二人を、その平穏と生活を護る事が第一だからね。

態々、自分から面倒事とか危険を招く必要は無い。



「けどまあ、鍛える分には強くなっておく事は決して悪い事じゃないしな〜…」



要は、俺が自重・自制する事さえ出来れば問題無い。

そう、大剣様みたいにさえ成らなければいいんだ。

…アレは酷過ぎるけどさ、誇張されてるだけ──だと信じたいな〜…マジで。


そう言えば、従姉妹である筈の二人は現世では何処でどうしているのかな?。

今の俺には知る術も無いし母さんに訊くのも…ね。

あ、知る術が無いと言えば氣に関しても同じだな。

どんなに理想を描いても、俺自身が理解出来ていない事は実現は出来無い。

尤も、“氣の総量が多い”みたいな事は可能。

飽く迄、俺が氣を扱う事が出来無いだけだからな。

それに伴う方向の事以外は特に問題は無い筈。



「…そう言えば、華佗ってどうなってるんだろ…」



原作でも、華佗の設定にはあまり触れてないし。

……いや、どうだったか。

正直、完璧に覚えてるって訳じゃないからな〜…。

それに原作準拠の世界とも限らないんだし。


そう考えると為る様にしか為らないんだろうな。

これから先の事って。

…時代的な事だけでも十分前途多難なのに。

俺は平々凡々な家庭を持ち老衰で死ねるのか。

不安しかないな。




そんなこんなで今日も一日無事に生きられた。

自覚は無いから微妙だけど一回死んでいる身としては生きている事が尊い。

好き好んで「死にたい…」とは誰も思わないしね。

そうなるまでには何かしら理由は存在するんだから。

其処を見ずに結果ばっかり見てしまうと、見えている筈の事まで見えなくなる。

人間っていうのは、自分に都合が悪い事や関係無い事となると途端に無意識下で可能性を除外するからね。


まあ、“忘れる”事により生きてゆく事が出来る。

それもまた、一つの人間の在り方だって思うよ。



「……御兄様?」



ちょっとばかり、真面目な事を考えていたからか。

左隣に座る操が心配そうに俺を見上げながら、静かに呼び掛けてきた。

嗚呼っ、なんて可愛らしい──って、そうではない。

いや、可愛いのは当然の事だから間違いではないが。

あと、操だから。

……うん、危ない危ない。

今のは思考から除去除去。



「ん?、どうした?」


「…いえ、気のせいです

何でも有りません」



普段通りの俺の様子を見て「自分の勘違いだった」と結論付けて笑う操。

本当に優しくて、気配りの出来る良い娘です。

…それが何故、あんなにもドSに成長するのか。

世界七不思議です。

……操よ、兄は決して道を踏み外させはしないぞ。



「っ!?、お、御兄様っ…」



愛妹の未来を想像したら、強く決意をしました。

そのままの勢いで操の事を抱き寄せていた。

突然の事に驚きながらも、操は抵抗はしない。

しかし、幼いとは言っても精神は早熟気味の操だ。

流石に恥ずかしいらしく、耳を赤くしている。

それでも、嫌がりはせずに身体を預けてくる。


操よ、兄は誓おう。

お前が幸せに為れる様に、原作(世界)に抗うと。

シスコンを嘗めるな。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.1
















 曹操side──


兄から“日記”なる習慣を教わり、今日から始める。

この日記というのは当日の出来事を記すのだとか。

所謂、記録とは違い個人の主観による物なのだと。

だから内容には己の感情が強く反映されるのだとか。

要するに日記とは客観的な情報ではなく、個人の感想・思いを“後に振り返る”切っ掛けなのだとか。


「成る程…」と感心する。

如何に記憶力が優れている者であっても、記憶違いは少なからず起きる事。

或いは、“無駄な情報”は覚えてすらいない。

しかし、それが後々に話題となる場合も有る訳で。

其処で困ってしまうという事は珍しくない。

その場では無理でも日記を読み返す事で思い出す事が出来るのだから。


……え?、私、難しく考え過ぎてますか?。

…むぅ〜…そうですか。


苦笑する兄に頭を撫でられながら兄が用意してくれた竹簡を見詰める。

さて、何を書こうか。

其処で悩んでしまう。

兄の言葉通りならば日常の何気無い事を書き記す。

それで良いのでしょう。

しかし、それでは面白味に欠けてしまう気がする。



(………………そうだわ!

私から見た、御兄様の事を書きましょう!)



我ながら明暗だと思う。

大事な思い出なら兎も角、日常的な出来事は薄れ易く忘れてしまい勝ちだもの。

それを無くしてしまわない為に私は残しましょう。




◆月△日。

本日、兄に倣い私も日記を付け始める事にする。

単純な事だけれど、普通は思い付かない発想力を持つ兄を素直に尊敬する。

優しく、力強く、聡明で、格好良くて、でも飾らない最高の兄を持つ私は世界一幸せな妹でしょう。

いいえ、幸せな妹よ。

そう、絶対にね。




──といった感じで。

これで良いのかを兄に対し訊ねると「日記は他の人に見せる物じゃないし勝手に見ていい物でもないんだ」というの事だった。

つまりは個人の秘密。

…兄が日記に何を書いたか知りたくなってしまう私は可笑しくはない。


それは兎も角として。

私の兄は不思議な人だ。

見た目通りに私より歳上な事には変わりないけれど、それ以上に大人びていると一緒に居て感じる。

けれど、それは常にでも、絶対でもない。

所謂、“子供らしさ”も、兄は持ち合わせている。


そんな兄と一緒に居ると、私も自然と子供らしくする事が出来ている。

…“出来ている”と言うと語弊が有るでしょうね。

別に意図的に演じている、という訳ではないもの。

ただ、兄が出来る以前には抑え込んでいた物を、今は素直に出せているだけ。


言葉にしてしまうと簡単な事なのだけれど。

私には大きな事なのよ。

そう、その存在の様に。



──side out。



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