01 事故に遭いました
子供が恐怖に動けないでいた。
異変に気づいた人々が悲鳴や叫び声をあげる。
私も、その人々の中にいたのだけど。その男の子の恐怖に固まった顔を見て、反射的に走り出していた。
男の子を弾き飛ばすように押しやって、代わりに私が、暴走する車の前に立つ事になる。
そうしたことでこれから自分の身に起きる出来事は、これっぽっちも頭に浮かばなかった。その代わりに、今までの記憶がさぁっと頭を掠めていく。
見る間もなく車が視界一杯に迫って来ていたから、私は咄嗟に目を閉じた。
☆★☆★☆★☆
私は保育士になることが夢だった。
そのために、大学に通って保育士の勉強を頑張って学んでいた。子供が好きで、近所の幼稚園や小学校、保育園でのボランティアの募集があれば必ずといって良いほど、申し込んでして参加したりしたものだ。
子供好きとはいえ、別に “子供はみんな天使!”とか盲目的に可愛く思っているわけでは無い。私が行ったボランティア先にはもちろん、性格が可愛くない子や典型的ないじめっ子タイプの子もいた。子供が悪いことをすれば、ボランティアに許される範囲で叱ったり、たしなめたりする。
けれどそんな子でも、困っているのを見たらきちんと助けてやりたくなるのが私だった。
友人や知人はそれを “面倒見の良い” とも “子供に甘い” とも言う。家族ともなると、私は “誰かの世話をするのが生き甲斐” という評価になった。
自分より小さな男の子の恐怖にひきつった顔を見て、自分が死ぬことも考えずに車の前に飛び出したとくれば、重度、いや末期のお人好しのおせっかいだろう。罵られても良いレベルだと不本意ながらも自覚はしている。
死んでしまったことは、やっぱり悔しい。
大学を卒業して、保育士になって、いつか好きな人と出会って結婚して…子供を産んで、その子を旦那様と一緒に大切に育てて。そんな将来を想像して、それを実現させようと頑張っている途中だったのだから。
けれど、病院の待ち合い室で、家族に付き添われた男の子の安堵したような泣き顔を見た。
重力を失った私は、誰に気づかれることもなくそっとその様子を見て、男の子が無事だったのに安心した。それと同時に、男の子を助けられた安堵からか、今まで波立っていた私の心が凪いでいって、「 まぁ、 いっか。」と、自然とこの世への未練がほどけていった。
男の子とその家族を眺めていると、ふいに目の前が白い光に包まれた。その光はどこまでも優しく、どこか神聖な光で、だから私は力を抜いてその光に身を委ねる。
『 ハタヤマ サトミ。貴女を光溢れる世へ受け入れましょう。』
遥か高い所から、落ち着いた、透明感のある綺麗な声が降ってくる。
そこで、ふぅ…っと私の意識は薄れていった。
まだまだ序盤…ですね。
次話はタイトル通り天使様が出てきます。
作者の都合で1話の文章量がかなり少なめになっています。頑張って執筆活動しますが、投稿はマイペースになります。ご了承ください。
誤字・脱字、表現の誤り等がありましたら、ご指摘くださると嬉しいです。