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【短編独立集】闇鍋  作者: トネリコ
ホラー
4/39

笑った私が悪かった

 


 残業が長引いた。

 時計は既に日をまたいでいる。

 最悪だ、と出る欠伸に目をしょぼしょぼさせながら夜道を運転した。

 眠い。早く帰りたい。

 スピードを上げる。

 田舎道だ。

 信号機もない。

 スピードを上げる。

 通い慣れたまっすぐな一本道。

 だから、油断してしまった。


 影がライトに映った。

 ああ!

 急ブレーキを踏む。

 空を裂く甲高い音。地を滑る音。

 だが、重い衝突音と衝撃。

 少しして、車が停止する。

 やばいやばいやばい、やってしまった、どうしよう

 震えが止まらない。

 ハンドルに額を載せていたが、ハッとして車から降りる。

 血の気の引いた顔で、来た道を引き返した。


 電柱などなく、照らすのは月明かりのみ。

 一歩、携帯を持って、影まで。

 一歩、なぜこんなに寒いのか。

 一歩、なぜこんなことになったのか。

 一歩。


 暗闇。目が慣れていく。

 タイヤが滑った跡の上にある影を見、思わず、よかった…と呟いてしまった。


 影はただの野良猫。

 安堵からか、笑いながら携帯を閉じる。

 

 人じゃなかった。


 そこに安堵してしまったが、少しして罪悪感が湧く。

 ごめん、成仏してねと言いながら道脇によけた。

 重い。まだ温かい。

 ごめんね。

 

 車に乗り、今度は慎重に家まで運転した。


 翌日、古い引き戸式の玄関扉を開く。

 うわっと叫んでしまった。

 ネズミの死骸。

 朝から最悪である。

 いたずらだろうか。

 父に後始末を任せて出勤した。

 昨日の場所にあの猫の姿はなかった。

 誰かが保健所にでも連絡したのだろう。


 夜、帰る。

 玄関口。またネズミの死骸があった。

 しかも二匹。

 ため息を吐き、父に後始末を頼んだのにと文句を言った。

 父はきちんと山に帰したと言った。

 動物が拾ってきたのだろうか。


 翌々日、朝、玄関扉を開くと転々と4匹転がっていた。

 気味が悪い。

 踏まないように気をつけて外に出る。

 憂鬱だ。

 あの猫を轢いた場所で視線を感じた気がした。

 もしかして恨まれているのだろうか。

 怖くなってきた。


 夕方、気分が悪くなり、無理を言って早めに帰ることにした。

 また、同じ場所を通る時に視線を感じた。

 玄関口を見ることが怖い。

 だが、通らなければ家に入れない。

 恐る恐る伺うと、父と出くわした。

 見張りに立っていたらしい。

 家に入り、着替えてから父と一緒に立つことにした。

 父はとっちめてやると息巻いている。

 私は父がいてくれて心強く思っていた。


 日が落ちる。

 一気に寒さが増す。

 父はコートを取ってくると言って家に入ってしまった。


 暗闇の中にひとりきり。

 ライトは闇を晴らせない。

 吐く息が白い。

 何かを内包したかの様な夜で。

 もう何も起こらないんじゃないかと思った。

 だが、砂利を踏む音が静けさを破く。

 ライトをそちらに慌てて向けた。


 こども?いや、ちがう。


 もしや、あの時の猫か?


 いや、ちがう…?



 二つの光点がライトを反射する。

 生きている動物。

 死骸を咥えている姿は狸のそれだ。



 はは、……気にしすぎだったか。

 私は、しっしと声を出して追い払おうとした。


 だが、狸はそこから動かない。

 しかたなしに、一歩、足を踏み出した。

 瞬間、狸が死骸を落とし






 にゃあ と一言鳴いて笑った。


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