「冬・黒・ケチャップ」「1時間10分」
身内1からのお題。練習作1。8月27日作成。制限時間1時間だったが勝手に10分追加した
( ・´ー・`)ドヤァ
「たらいま~」
「おー、おっかえりー」
部屋に入って来たノッポは鼻を赤くさせながらドアを閉めた。外気が入ったせいでぶるりと鳥肌が立つ。さっさと閉めろと急かすと、そそくさとノッポはこたつの中に入ってきた。
「チビー、おしるこ無かったからこれにした~」
「ほう、って何でアイスにしたんだよ!? おしること一文字も被らんぞ!?」
「いやそうでもないよ? ほら」
黒こしょう味
「しとこが2文字被ってる」
「びみょいわ!」
文句言いつつアイスを食べた。妙に鼻を刺激すあっくしょんっ
「チビ汚い」
「ごめん…ってノッポお前それは…」
「あ、ごめん。おしるこは私で売り切れた」
「犯人はお前か!? よこせ!」
「えー交換なら」
その言葉にすっと黒こしょうアイスをノッポへと差し出す。そろそろ溶けかけているが、このあったかい部屋の中でもまだ形を保つぐらいには氷のキメも細かく地味に高級なようだ。真っ黒な棒つきのアイスで鼻に来る奴だったが、まあ悪い奴では無かったな
「そんなにそのアイス美味しくなかったの?」
「いや、そうでもないな」
「じゃあ悪くもないのにチビはアイスを売ってしまうんだね」
「うっ、だが私の本命はおしるこなんだ…っ」
「本気?」
「ああ! 例え愛着があろうとも後戻りはせん!」
「じゃあ仕方ないね」
ノッポが残っていたアイスを受け取る。私もおしるこの缶へと手を伸ばした。
冬にアイスなど正気を疑ったが、この部屋で食べるなら良い選択だったかもしれん。
だが私は無類のおしるこ好き。冬にしか現れぬこのおしるこちゃんを飲める機会をこの私が見過ごす筈が--
「ノッポよ…」
「ふ、ふふふ、愚かな」
「お前よくも!」
カラン…と手から滑り堕ちた空の缶
床に一粒だけ残っていた小豆が寂しげに転がった
「このノッポ様をパシらせた報いを受けるがよいわ~」
「うおおおおお」
「ふはははは」
「クッ、不平等な時点で交換ではない! 等価交換の原則は何処へ行ったのだ!」
「商人が皆そんなことしていたら誰も儲からないと思わないか? チビ、世界に目を向けるのだ。そして思い出すがよい、もう後戻りはせぬとドヤ顔で言い切ったことを!」
「クソッ! 神は死んだ!」
「ふはは~、ではいただきま~す」
目の前で無常にも悪魔の胃袋へと呑まれゆく私の物であった筈の奴
裏切った私へと絶望したのかその身体を更に黒く染め、それでも必死に命綱へと身体をしがみつかせていた
まだ食べられきってなるものか
アイスがそう言っている気がする。
しかしそんな意志すらも嘲笑うかの様に灼熱の熱波は、刻々と体力を削ってゆく。
「って、うわっ、食べる前に溶けそうっ。ティッシュティッシュ…、うえ~手がべたべたする」
くっ…、もはやここまで…か、
もはやしがみつく体力も無くなり、横にした棒の上に乗るだけのアイス
けっ、最後はお前がとどめ刺してくれよ…
「アイス…、分かった。こんな私をお前は選んでくれたんだな。任せておけ!」
たのんだ…ぜ……
「任せろ!!」
「あ~、もういいや」
ぱくっ
「アイスーーーーー!!!!!」
「え、チビそんなに食べたかったの?って………」
棒を咥えたノッポがひっくり返った。
流石にアイスの殉職に打ちひしがれていた私も慌てて駆け寄る。
「どうしたノッポ!? 腹痛か? 心臓発作か? 死んだか?」
「うう、後ろ二つだと既に死んでると思うけどさ…、うぅ…不味すぎるげばぁッ」
…1名+1本 ---- 殉 職
「儚い命だったからこそ、皆精一杯生きているんだよな。私も大らかに生きなければ。そう、私は今日人生の生き方を学んだのだ」
「げばぁ、何いい感じで終わらせようとしてるんですか~」
「そういうお前こそいつまで畳にひっくり返っているつもりだ? というかいい加減ケチャップを出せ。このまま冷めたらにっちもさっちも行かなくなる!」
調理台の上フライパンには、オムライスの途中でケチャップが切れた為か超絶薄味状態のご飯が待機している。料理がそこまで上手くない組なのでケチャップ味の付いたご飯の活かし方なんぞ思い浮かばず、じゃんけんで負けたノッポがオムライスの為だけというより哀れな薄味ご飯の為だけに新品ケチャップの買い出しに行っていたのだ。
「…それがさぁげば」
「語尾にまだ妙なのが残ってるぞ」
「忘れちゃったてへげば」
「…本命ぃーーーーー!!!!!」
結末、卵の味で乗り切った。ごはんは冷えて固かった。香りだけケチャップの風味がした。アイスの方が美味しかったと言ったらげばげばと隣が煩かった。何だか捨てるには惜しくてアイスの棒を洗って部屋においておいたら、何故かその部屋にいる時だけノッポがげばと語尾に付け始めた。変な遊びをするものである。
そんな感じ。おわり




