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【短編独立集】闇鍋  作者: トネリコ
文学?
29/39

人を殺したら

 

 人を殺した

 足元に倒れている

 いや、転がっている

 もはや呻き声も恨み言も呼吸音も聞こえない

 やっと死んだのだろう

 手に持った包丁

 こんな陳腐なもので人は簡単に死ぬのか

 こんな呆気なくあれ程に疎んでいたものが足元へと這いつくばるのか

 あれ程苦しめられ人生の全てを支配し恐怖に陥れさせた奴がこれほど――


 人を殺した

 何度も何度も頭の中で実行していたことを行動に移した

 どれほど願っただろう

 何度夢の中で殺してきただろう

 だが行動に移せなかった

 一歩踏み出せなかった

 いや、一歩踏みとどまっていた

 しかし越えた

 ついに、やっとこいつを超えれたのだ


 人を殺した

 切欠など些細なこと過ぎて思い出せない

 何だったか

 ああ、朝にいつもどおり殴られた

 たまたま包丁が目に入った

 昨日夢想した夢が刺殺だった

 息が臭かった

 深爪した

 些細な事だった

 積もったものが今日崩れた

 些細なことだった


 人を殺した

 ああ、やっと、やっと解放されるのだ

 奴は驚いた顔だった

 やけにはっきりと覚えていた

 何か言っていたが聞き取れなかった

 どうせ恨み節だろう

 聞きたくない、もう聞きたくない

 うるさい、うるさい

 早く終われよ、静かになれよ


 人を殺した

 終わった後にハッとした

 可笑しなことに目が開いているのに夢見心地であった

 終わった、そう俺は解放されて、それで―――


 人を殺した

 足元で血だまりが広がっていた

 握った包丁に目がいった



 この後は?

 俺は?



 俺はおれは―――

 

 

 急にこわくなった

 


 いつの間にか包丁は男の横に転がっていた


 サイレンの音が聞こえる


 

 足元で男の背中がひどくゆっくりと上下した




 









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