悪い子のススメ
冬童話2016
むかしむかし あるまちに とてもやさしいおんなのこ がおりました。
まちは それなりにゆうふく でした。
なぜなら まちをおさめるおうさま が それなりにかしこかった ためです。
おんなのこは かぞく4にんで くらしていました。
おかあさんと おとうさん。
としのはなれた ちいさないもうとと おんなのこです。
おんなのこは とてもいいこ でした。
あさおきると まずは にわとりさんから たまごをもらいます。
つぎは としおいた おばあちゃんやぎ から おちちをもらいます。
それをもって こんどは おかあさんのあさごはんを おてつだいします。
おんなのこは はたらきもの でした。
おんなのこのおうちは すこしまちはずれにあるので
おとうさんは えっちらおっちらと おしごとにむかいます。
おんなのこは おとうさんを みおくりました。
おかあさんは いえで ちくちくと おしごとをします。
おんなのこは おてつだいをしたり いもうとのめんどうをみたり
ちいさなはたけを たがやしてみたりしていました。
おんなのこは がんばりやさん なのです。
まちのひとは いいました。
あなたのむすめさんは とってもいいこね。
わたしのこどもに ほしいくらい。
とっても うらやましいことね と。
それをきいていた おとうさんとおかあさんは
はなたかだかで ほこらしいきもちでした。
おんなのこは てれくさそうに ほほえんでみる ばかりでした。
あるひ おんなのこのおともだちが おうちのまえに やってきました。
おおーい いっしょにあそぼうよ。
おうちのまえで おともだちはてをふりました。
でも うしろには ちくちくとがんばる おかあさんがいました。
おんなのこは いいました。
ごめんね またこんど あそびましょ。
おともだちは べつのおともだちをさそって どこかへいってしまいました。
おかあさんは いいました。
あなたは やさしい いいこだね と。
あるひ おんなのこは あるいていました。
ならいごとを ならいにいく ためです。
そこには こわいせんせいと いじわるなせいと がいました。
おとうさんは いいました。
おおきくなったときに りっぱでしあわせに なってほしいんだ。
おんなのこは さいごまであるきました。
かえると おとうさんは いいました。
おまえは かしこい いいこだね と。
あるひ おとうさんが きらきらした おひげのおじさんと
いっしょに かえってきました。
なんと おひげのおじさんは おうさま だったのです。
おうさまは おかあさんにいいました。
おまえが まちいちばんの おはりこか。
おかあさんは いいました。
はい そういわれております。
おうさまは かみを2まい おかあさんにみせて いいました。
となりまちの おうさまと しょうぶしておるのだ。
かんがえてきたのだが どちらがよいと おもう。
わしは こっちのほうが よいきがするのだ。
おんなのこが そのかみをみると どちらも へんてこりんでした。
でも おかあさんは いいました。
はい どちらも すてきですね。
おうさまのいうとおりに いたしましょう。
おとうさんは うなずきました。
おうさまも よろしくたのむと いいました。
おうさまは おんなのこにも たわむれに たずねました。
どちらがよい?
おんなのこは おとうさんとおかあさん の かおをみて
なにもいえず しずかにうつむきました。
つぎのひ おかあさんは むすめに たのみました。
むらさきの おはなを とってきておくれ。
にしのもりに あるはずよ。
おんなのこは ふらふらしながら はい といいました。
おかあさんは いもうとのめんどうをみたり
ちくちくを とてもしんけんに していました。
おかあさんは しっぱいできない と おもっていたのです。
どうじに せいこうしたら かぞくが たくさんしあわせになると おもっていました。
にしのもりは とってもふかいので
おんなのこは おそるおそるすすみました。
いつもなら めじるしのあるみち をとおるのですが
ねつのあるおんなのこは みちをまちがえてしまいました。
ようやくむらさきのおはな をみつけたおんなのこは
ここがどこか わからなくなっていました。
あたりがまっくらになってきて どこかで
ほーほーとないています。
おんなのこが こわくなってしゃがみこむと
あしもとで きらりと なにかがひかりました。
なんだろうと おんなのこがほってみると
まっくろで とうめいな きれいないし でした。
わあ きれい とおんなのこがつぶやくと
いしが とつぜん ぴかりとひかりをはなち
そうして ひくいこえで しゃべりはじめたのです。
わがはいは わるいいし である。
おまえのおもっていることを
しゃべってしまう わるいいしである。
おんなのこはびっくりして いしをなげようとしますが
ぴったりはりついて はなれません。
おんなのこが こまったわとおもうと
なんといしが おんなのこのこえで こまったわと しゃべりました。
すごいとおもうと すごいとしゃべります。
でも ぜんぶしゃべる のではなく
いしがぶるぶるぶるぶると ふるえたら しゃべるようでした。
なのでおんなのこは へんなときに ふるえちゃだめよと
いしにいいました。
いしは おどろいて すっとんきょうなことをいいました。
いっしょに いてもいいのか と。
おんなのこは ふらふらしながらいいました。
いっしょにいてあげましょう と。
ふしぎなたいけんでしたが おんなのこは ねつがあったので
なんだか うけとめてしまいました。
それよりも ひがおちてまっくらなのに
かえりみちがわからないことで とってもふあんだったのです。
じつはそのとき ぴかぴかりと いしがひかっていました。
けれど おんなのこは あるくのにいそがしくて
きづいていませんでした。
けれど なぜだかとちゅうから からだがかるくなっていたので
さくさくと あるくことができました。
そうして おんなのこは いいます。
かえりみちがわからないわ どうしましょう と。
いしは いいました。
わがはいは わるいいし だが とってもすごいいし なのだ と。
またまたいしが さんどめとなるひかりを ぴかぴかぴかりと はっすると
なんと おんなのこのまえで くさが みちをしめしてくれました。
いしは すこし つかれたこえでいいます。
これをたどればよい どうだ すごいだろう と。
おんなのこは いいました。
とっても すごいわ ほんとうにありがとう と。
いしは おんなのこのてのなかで とってもあつくなりました。
おんなのこが いえまであるくと
げんかんさきで おとうさんとおかあさんが
おんなのこをだきしめました。
おかあさんが なみだをながすので
おんなのこも きゅうにほっとして なみだがこぼれました。
おかあさんは いいました。
しんぱいしたわ なにをしていたの?
おかあさんのことばに おんなのこは こくん と
ひとつ いきをのみました。
おんなのこは ほんとうは いいたいことが いっぱいありました。
よるのもりは こわかったの
ねつが あったの
いしを みつけたの
けれど いつものように やっぱり しんぱいをかけたくなくて
りょうしんのためのことば を つむごうとしました。
そのとき おかあさんがせおっていた ちいさないもうとが なきはじめました。
おとうさんとおかあさんが よしよしと なだめます。
おんなのこは それをみて くちをつぐんで うつむきました。
そして ことばすくなに ともだちとあそんでたの と つぶやいて
おんなのこのへや へと とじこもってしまいました。
てからはなれたいしは おんなのこのぽけっと のなかで
つかれて ふるえることもできずにいました。
あさ おんなのこは おもいました。
きょうは なにもしたくない きぶんだわと。
そんなことは はじめてでした。
すると ぽけっとのなかのいし が そそのかすようにいいました。
ならば なにもしなければいい と。
おんなのこは いしのことを わすれていたので
とてもおどろきました。
けれど おかあさんとおとうさんが せかすので
いしといっしょに したへとおりました。
おかあさんは ちくちくしながら おんなのこに いいました。
いもうとのめんどうを みてちょうだい と。
おとうさんは いいました。
そのあと ならいごとに いきなさい と。
おんなのこは きょうはいきたくないなあ とおもいましたが
やっぱり こくんと のみこみました。
そして はい といおうとした しゅんかん
いしがぶるぶるぶるとふるえ そして おんなのこのこえで いいました。
きょうは いきたくない と。
おんなのこは はっとしました。
おとうさんとおかあさんは おどろいたかおで
おんなのこを みつめています。
おんなのこは ごめんなさいとつぶやきながら
いえから にげだしてしまいました。
わたしは わるいこだわ。
おとうさんとおかあさんに きらわれてしまったわ。
さめざめと おんなのこがないていると
ぽっけからとりだされたいしは ばつがわるそうに
ちんもくしていました。
けれど おんなのこは いしを せめようとは しませんでした。
なぜなら そんなことをおもってしまった
じぶんがわるい とおもっていたためです。
おんなのこは とても こころがきよらかでした。
そうして あてどなくあるいていると
おともだちが みんなであそんでいました。
おんなのこは いっしょに あそんでみたくなりました。
けれど このまえことわったのに いれてもらえるわけないと
ずうずうしくなることが こわくて にげるように せをむけようとしました。
とたん いしが ぶるぶるとふるえて
おんなのこのこえが あたりいっぱいに ひろがりました。
いっしょに あそびたい と。
すると ぼーるをけっていた みんなが おんなのこをみました。
おんなのこは まっかになって かたまってしまいました。
けれど いいよ と すぐになかまに いれてもらえました。
おんなのこは とってもとっても たのしいじかんを すごすことができました。
いしは どこか まんぞくげです。
いしのひくいこえは おんなのこにしかきこえないので
おんなのこは こころづよいみかたをえて だいかつやくしました。
ゆうがた みんながかえると
おんなのこは とぼとぼと あたりをあるきました。
ならいごとに いかなかったことや かぞくを おもいだしたからです。
すると まえのほうから ききおぼえのあるこえが きこえます。
なんと ならいごとさきの いじわるなせいと です。
いじわるなせいとは おんなのこに きづくと
ちかづいて はなしかけました。
やすんだだろう わるい うまのしっぽおんな と。
そうして おんなのこのおさげ を ひっぱりました。
おんなのこは いつも なにもいいかえしてはいませんでした。
けれど そのとき ぶる といしがふるえました。
すると おんなのこのこえが ひびきました。
さわらないで いじわる にんじんあたま と。
おんなのこは そんなこと おもいもしませんでしたが
いしが かんがえたこと でした。
おんなのこは わるいことをいったので おこられると ぎゅっとめをつむります。
けれど いじわるなせいとは ごめんとつぶやいて はしりさってしまいました。
ぽかんとする おんなのこに いしは つかれたひくいこえでいいました。
あと いっかい と。
おんなのこは なにが? とたずねました。
するといしは おんなのこのまねをするのは とこたえました。
そうして こわれてしまうだろう とも。
そうして いしは うんともすんとも いわなくなりました。
どうやら ねむってしまったようです。
おんなのこは いしのはなしをきいて とてもおどろきました。
そうして つよくいやだと おもいました。
なぜなら いしに じかんがたつにつれ とてもかんしゃしていたためです。
おんなのこのこころは はねのように かるくなっていました。
たったいちにちですが かしこいおんなのこは
いしが ただのわるいいし ではないと もうきづいていました。
そうして いしは さいごは おとうさんとおかあさんのまえと
きめているのだろうと うすうす きづいていました。
おんなのこは なら おうちにかえらないわ と
かくごをきめました。
そうして こっそりと ちかくのなやにしのびこんで いしをかかえてねむりました。
はじめてする めいかくなわるいことに しんぞうがとびでそうでしたが
どうじに あんど してもいました。
なぜなら おんなのこは じぶんのなかで
いしを いいわけにするじぶんが でてきたことに きづいたからです。
これは じぶんのいしできめた わるいこと でした。
けれど じぶんいがいを まもるための わるいことでした。
おんなのこは いいこと と わるいこと
そして いいこ と わるいこ の きょうかいをくるくるまわる
そんなゆめ をみました。
あさ めをさまして おどろいたのは いし でした。
なぜなら そこはどうみても おんなのこのおうち ではなかったためです。
いしは いいました。
おきるのだ なぜ かえっていないのだ と。
おんなのこは めをさますと いいました。
もう おうちには かえらないわと。
いしは おんなのこがひとりでいきていけるなど
とうていむりだと しっていました。
そして それは いしのほんい でもありません。
なので いしは ねむってたくわえたちから をつかって
おんなのこを いえへと むかわせました。
おんなのこは かってにうごく じぶんのあしを
ぽかすかと たたきましたが とまりません。
やめてとさけんでも いしは やめませんでした。
そうして いえへとちかづくと なんと
おとうさんとおかあさんだけでなく おうさまもいました。
おうさまは おかあさんのようすを うかがいに きていたのです。
おとうさんとおかあさんが はしって だきしめるとき
いしは ふっと ちからをぬきました。
からだが うごきます。
おんなのこは そのすきに いしを
したへと おとしました。
いしは おどろきましたが そのこえは
おんなのこには きこえません。
もう いしにたよることは できません。
おかあさんは いろいろいいたいことが あったのでしょうが
ただ ぎゅっと おんなのこを だきしめました。
おとうさんは いいました。
なにがあったんだい と。
おんなのこは ふかく いきを すいこみました。
じぶんを はげますため です。
おんなのこは わたしは わるいこ になったの といいました。
そうして ぜんぶ しょうじきに はなしました。
ほんとうは おともだちと あそんでもみたかったの。
ほんとうは こわいせんせい と いじわるなせいと に あいたくなくて
ならいごとに いきたくなかったの。
ほんとうは ねつがあったとき ぎゅって してほしかったの。
ほんとうは おねえちゃんだけど かまってほしかったの。
おんなのこは さいごまで いし のことをいいませんでしたが
たいせつな おともだちが はげましてくれたのだと いいました。
いしは あのときよりまっくろで すすけていますが
あしもとで こっそりと ほこらしげに ひかりをはんしゃしました。
おんなのこにとって おとうさんとおかあさんに えんりょせずに
いうことは わるいことでした。
ですから いいきったあとに やっぱり びくびくとしました。
けれど おとうさんもおかあさんも ぎゅっとつよく おんなのこを
だきしめたので おんなのこは びっくりして ころんでしまいました。
おとうさんとおかあさんは いいました。
いってくれて よかったと。
もっと わがままをいってくれても いいのだと。
おとうさんとおかあさんは いいこすぎる おんなのこに かんしゃしていましたが
どうじに しんぱいしても いたからです。
おんなのこにとって それは てんちがひっくりかえった ようなことばでした。
けれど あしもとでふれたいしが
それみたことか
といったので おんなのこは おおなきしながら
おとうさんとおかあさんに だきつきました。
なかまにいれて と いうことも
いじめられて いいかえすことも
おやに わがままをいってみることも
わるいことでは なかったのです。
それでも おんなのこは もう じぶんはいいこ ではないと おもっていました。
けれど わるいこでも しあわせだって おもえました。
もちろん あいてをおもいやるこころも だいじです。
おんなのこは なきながら
これからも おてつだいをがんばると いいました。
おとうさんとおかあさんは かんるいして
もっと しょうじきにいいなさい といいました。
おうさまは ほほえましそうに ちいさないもうとをかかえながら
ちかづいてきました。
なので おんなのこは いいました。
おうさまのふく どちらもへんてこりんです と。
おとうさんとおかあさんは ひきつったかおを しましたが
いしは ちいさくしんどうしました。
おおわらいです。
おうさまは ひきつりながらも ありがとう といいました。
ちいさないもうとは おうさまのひげを ひっぱっています。
そして いしは ちいさくふるえつつも いいました。
つぎからは あいても みきわめるんだぞ と。
おんなのこは いいました。
もちろん こんかいは だいじょうぶだって おもったの と。
おんなのこのせいちょうに いしは ひびがはいりそうなほど おおわらいました。
おしまい
おんなのこは いいました。
いしさん いしさん と。
いしは いいました。
ねむい なんだ と。
おんなのこは いしを つついて いいました。
これからも よろしくね やさしい いじわるな いしさん と。
いしは おみずを おゆにかえながら ねたふりをしました。