肴
私は人が怖いのです
へらへら笑って近づいて来て
さっき話した内容を
裏で歪めて流すのです
私は人が怖いのです
喋った言葉に色は無い
香りも形も無い筈なのに
やけに悪意は透けるのです
茨が妙に刺さるのです
それでも傷ついた様など見せれば
たちまちのうちにその様見咎め
裏でくすくす
影でくつくつ
弱って膿んだ傷口にこそ
群れは集るものでして
傷口こそが美味でして
膿んで熟んで倦むのでして
私は人が怖いのです
言葉を操るのが人ですが
言葉の凶器を知らぬ者
言葉の狂気を知らぬ者
あまりに多いのが恐ろしい
日々吐かれている言葉達
無数の無意味な言葉達
共感感情示した言葉
自分の吐いた言葉すら
私はすぐに思い出せぬ
そんな自分も恐ろしい
それを不自然と疑わぬ
時代と諦観する自分が恐ろしい
私は人が怖いのです
人とつながるのが怖いのです
人とつながったのならば
つながり切れるのが怖いのです
だから相手に合わせます
へらへらぱくぱく空気を読みます
だけどどうにも生き苦しい
あまりに息が苦しいので
魚は空気から逃げ出します
それでもやはり逃げ切れぬ
1匹だけでは生きてけぬ
はぐれは群れに狙わられるや?
はぐれは1匹貫ける?
だから私はおためごかし
つながる未来を恐れるならば
切れる未来を恐れるならば
それならば初めから浅くいよう
浅瀬を縫うように泳いでこう
私はへらへら笑います
つながらぬよう笑います
切られぬよう笑います
はぐれにならぬよう笑います
そうして私は眺めます
浅瀬に映る雲の下
浅瀬を流るる流木の
流れの淀んだ暗がりの
そのまた裏の影の元
はぐれを囲む群れを見て
私はぱくぱく笑うのです
ひび割れた体と顔をして
喘ぐように唇歪め
へらへらへらへらと笑うのです
私は人が怖いのです
私の周囲が怖いのです
私は人が怖いのです
こんな自分が怖いのです




