表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

いやはや今日もとてもいい日だ

冬童話2016

 


 おやおや今日はとても賑やか

 見上げる大きなツリーには、赤青黄色がきらきらり

 まん丸ボール光を弾く、しましまステッキぶらぶらり

 ピカッと一等星胸を反らせば、わあっと喚声こぼれ落ちた


「ねぇママ見てみてお星様、あんなところにお星様がいるよ」

 

 おやおやお兄さん誰かお待ちかい?

 トナカイびっくりまっ赤なお鼻

 白い煙がたなびいても、お部屋の中には入らない

 それでも寒くてうろうろり

 それとも心配でうろうろり?


「はぁー…、遅いなあいつ。まだかなどうしんだろうか」


 おやおやポテト、今日も元気そう

 小さな四つ足セカセカぽてぽて

 あったか毛皮は温そうだね

 今日のごはんはチキンみたい


「ワンッ! ハッ、ハッ」


 おやおやおじいさん、眠っちゃだめだよ

 ポテトは早く帰りたそう

 お揃いの温かい毛皮は、確か娘さんのプレゼント

 チキンを買えて良かったね 

 知ってる今日は家族パーティ


「んん…むぅ…。少し休もうかの」

 

 おやおやお姉さんいつもすごいね

 いらっしゃいませ、いかがですか

 雪まで溶けるその笑顔

 だからほらほら泣かないで

 あなたの笑顔を待ってるの


「売れないなんて…、おいしくないのかな…」


 おやおや若人どうしたの

 ぶすくれ顔にアザ一つ

 家出してやると息巻いて、

 そうしてしょんぼり肩落とす


「何で分かってくんないんだよ親父」


 おやおや美人さん早足ね

 厳めしい顔して眼鏡が光る

 電話に時計に隈持って

 こつこつヒールを踏み鳴らす


「プロジェクトはどうなっているの」


 おやおや一人の不良少女

 ミルクティー色の髪揺らし

 お目目は半分、唇ツン

 ポッケに手を入れ通りをぶらぶら

 あなたの求めるものはなに?


「つまんないなぁ…」


 おやおや必死な学生さん

 手に持つ単語帳ぺらぺらり

 試合はもうすぐ頑張って

 ゴール目指して駆け抜けて

 だけどもお外では気を付けて

 前見て歩こ、出会いは偶然?


「えーっと、この単語は…っ! ご、ごめんなさいっ」


 おやおやおじさん嬉しそう

 よれたスーツは男の勲章

 曲がったネクタイ家族のために

 磨り減った踵は家まで止まらぬ

 つもりでちょっと立ち止まる

 きょろきょろきょろり、のそのそり

 ほらほら見てみてお姉さん

 ほらほら見てみて顔上げて


「一つ一番大きいのお願いします」


 おやおや聞こえるニュースの声が

 どうやら今日は雪らしい

 ニュースキャスターはまだ仕事中

 いつもお仕事ご苦労様です

 見えない場所でも働いている

 皆々様へもお疲れ様を

 どうか体に気を付けて


「続きましてのニュースは――」


 おやおや貴婦人、優雅な野良猫

 今夜は此処で遊ぶのかい?

 隣でくるるんと丸まれば、皆が集まりたちまちアイドル

 どうやら今日は機嫌が良さげ

 リップサービスお手の物


「にゃあご」


 おやおや少年泣きそうだ

 君を見るのは四度目だ

 くるくる同じ場所を回る

 どうやら迷子の一人ぼっち

 ふえっとしゃくり上げる少年

 でも大丈夫、アザ引っ提げて

 ぽんっと頭を叩く若人


「男なら泣いてんじゃねぇ。一緒に探してやるから」


 おやおや歌を止めちゃうの?

 じゃらんと鳴らすギターは寂しげ

 寒いと呟いて立ち上がり

 歌わないけど座り直す

 

「俺、何してるんだろうな」


 おやおや奥さん怪力ね

 白い袋がひぃ、ふぅ、みぃ

 玉ねぎ人参鶏肉と

 鼻唄ふんふん今日はシチュー

 でもでも時折小首を傾げる

 あれあれ何か忘れてる?


「何か忘れてる気がするんだけど、何かしら?」


 さてはて今日はとても賑やか

 あなたは聞こえる?見えますか?

 ちらほら降りゆく友達は

 周りで愉快に踊ってる

 あなたの上からひらひらり

 みんな口開けお空見て

 手の平捧げて掬ってみせた


「雪だ」


 辺り一面真っ白に


「おはようこんにちこんばんは、君は今年も此処に居る。またまた会えて、また会えて、僕たち嬉しいハッピーさ! だけどもごめんよ僕たちと、一緒に居れば凍えるね」


「おはようこんにちこんばんは、君達くるひゅる移動する。も一度会えて、会話して、嬉しくないわけ無いだろう? 大丈夫だよお友達、寒くてもこうして此処に居る。また来年も、此処に居る。

 そういや友達お友達、白いおヒゲのあの人は、今年も一緒に来てるのかい?」


「嬉しいありがと、くるひゅるり。もちもちろんさ、リンシャララン。いろんなお家へ幸せを、いっぱい届けて廻ってる。リンリンシャララン、リンシャララン。幸せひゃっこ、にひゃっこと。リンシャララララン、シャラランリン」


 愉し気なリズムで舞踊っていた雪の精達。ですが突然ピュウーッと横切った薄水色の冷たい寒風に、大慌てであたふたし始めてしまいました。


「わあわあ大変、大変だ! 僕たち友達お友達、ごめんよ呼ばれてる行かなくちゃ! もっとお話したかったな。また来年もこうやって、僕たちお話できるかな」


「もちもちろんさ、お友達。ダンスも会話も何のその。さあさあお行き、さあお行き、また来年も会いましょう。だって君達はお友達!」


「ありがとありがとさようなら。ありゃありゃ違うね、じゃあまたね! 君に幸せになるおまじないを、ひと振りひんらりそぉーっとね。それじゃあ今度こそじゃあまたね」


 ひゅるっと風が連れて行く。

 またたきの様な時間で、

 雪は降り止んでしまいました。


 雪が空気を冷やしたのでしょうか

 肌を撫でていく風は、さっきまでよりも何だか冷たくて


 束の間足を止めた人々は、また歩みを再開しました。

 止まった時が動き出す。

 良くも悪くもチクタクチクタク、時計の針は止まらない。

  

 ついついにらめっこしていた地面

 一粒の雪の結晶が、さあ付いて来てとぴょんっと飛べば

 顔を上げたその先の、目の前で動いた時計の針は

 くるくる絡まりちんちらふんわり。光ってとっても温かい。


 おやおや貴婦人どちらへお出まし?

 くしくしお顔を整えて

 ひらりと優雅に身を投げる

 白い毛並みが寄り添うは

 歌を忘れていた青年

 一撫で一鳴き

 さあ一曲


「お客さんになってくれてありがとよ」


 おやおやお兄さん電話中

 一際おっきな白い煙

 どうやらもうすぐ会えるそうな

 まっ赤なお鼻、相変わらずね

 どきどきそわそわしちゃってさ

 やっぱりうろうろも変わってない

 そしてきょろきょろ、目印はどこ?


「目印か…、あー…なんかめっちゃいい歌歌ってる人の前だよ」


 おやおや美人さんまたまた早足

 出会う恋人たち横目に

 真っ直ぐ伸ばすはその背筋

 凛と生きるその様は

 誰しもきっと憧れる

 そうして一輪咲きました

 一際綺麗に華やかに


「そう、安心したわ」

  

 おやおや不良少女も早足ね

 勉強なんてつまらないよ

 愚痴った彼女に道示す

 学生さんの指先で

 一目であなたも

 憧れたんでしょ?


「勉強って思うからだよ。知りたいからとか、あんな格好良い人になりたいからとかでいいんだよ」


 おやおや一人の泣いてる少年

 えんえん、せっかく我慢したのに

 けれども涙の理由は違う

 出会えてよかった、親子の再開

 感謝を告げる母親に

 くしゃりと少年の髪混ぜ若人


「泣くなつったろ。もう迷子になんなよ」


 おやおや此処にも探す人影

 今夜はみんな忙しい

 とある美人さんに声を掛け

 とある少女にも尋ね歩き

 とある親子には感謝され

 そうしてようやく辿り着く

 驚く若人引き摺るが、今夜は何故か大人しい

 

「汗臭いのはお互い様だ。あいつが煩いんだ、…お土産かなんか買って早く帰るぞ」


 おやおやお姉さん疲れたお顔

 それでも今日最っ高の顔

 ありがとうございましたと呟くは

 売り切ったことへ?それとも皆様?

 そんなの勿論決まっていたね

 泣き虫お姉さんの笑顔弾けて

 もうひと踏ん張りとお片づけとんとん


「よかったぁ…、ふふ、あのおじさんのお陰ね。さて後ちょっと…あら?」

 

 おやおやポテト、駆け出した

 驚く声もなんのその

 お爺さんはまだぐうすかぴい

 わんっと吠えれば人影驚き

 ごはんはないよと頭を撫でた

 しょんぼりポテトに代わりの贈り物

 喜んだポテトはまた駆け出した


「あ、行っちゃった。帽子気に入ったのかな?」


 おやおやリンリンベルの音

 サンタさんではなさそうな?

 音がやって来る影の先

 先導するのはなんとポテト!

 キキーッと自転車ブレーキ掛けて

 トナカイポテトは誇らしげ

 人影の表情くるくる変わる

 ほっと一息、ぷんすかぷん


「じいちゃん起きて!もう! ポテトありがとな!」


 おやおや奥さん閃いた

 ポテトポテトと呟いて

 袋を確認、猛ダッシュ

 スーパーはまだ開店中?

 余分なものは買っちゃだめ

 さてさてレッツゴー!じゃがいも買いに


「じゃがいもね! すっきりしたわ」


 目を開いたその前で、いろんな人が出会ったり

 すれ違っては絡まって、独立しては輝いてみたり

 時間を忘れるほど煌めいて、目を奪われるほど眩く輝きました。


 けれどもやっぱりその分ね

 こころがひんやり冷たくなるの


 人影ちらほら、疎らになって 

 お月様は恥ずかしがって雲の中

 街の灯りが一つ二つと眠りにつくと

 一際明るいツリーまで、すやすやと眠りにつきました。

 

「きえちゃった…」

「ほら、いい加減もう帰りましょう」


 肩を落とす女の子

 同じ時間をずっと一緒に居た子もお家に帰るようで、

 おんなじ様に肩を落として、思わず体を震わせてしまいました。



 さみしいな



 ちょっと真っ暗になった夜の中で

 それでも見送ろうと顔を上げると

 可愛らしいその女の子と目が合いました。


 驚いてぱちりと瞬きすると、

 女の子はにかっと笑って

 そうしてお空を指差しました。


「ママ、あんなところでサンタさんとお星様が遊んでいるよ」

「ええー、どこどこお?」

「うーんと、やっぱりないしょっ。ちょっと目をつぶって」

「ひみつ?」

「ひみつ!」

「じゃあ三秒だけね」

「うん!」

 

 いーち


 すぐ目の前にいた少女は

 こんばんはとご挨拶

 おやおやその可愛らしいお顔は

 りんごよりもまっ赤っか

 

 にーい

 

 少し慌てたその少女は 

 ママにないしょねとポケットに手を入れ

 ふわりと広げて

 くるりとひとまき


 さーん


 いつもありがと

 今日は寒いもん

 私からのプレゼント

 ひとつ受け取ってくださいな


 もういいかい?


 まーだだよ


 きゅっと結んで頭を一撫で

 これで完成

 陽だまり笑顔

 

 もういいかい?


 もういいよ!


 ぱたぱた走っていく少女は

 お母さんの手を引っ張って

 弾むようにスキップるんるん


「サンタさんとお星様に会えたの?」

「んーん、私がサンタさんになったの!」

「なあに、それ」

「えーっとねぇ…、ないしょ!」


 去っていく小さな影が

 小さく振り向いて手を振った


 ハンカチ一枚くるりと首に

 どんなオシャレさんにも負けない気分

 お月様がまたひょっこりお顔を出せば

 星明かりすらも光りだす


 輝き出したその周囲は

 陽だまりが笑顔を分けたから

 ほら暖い、勝手に笑顔

 

 ぽかぽかほっこりうれしいな

 やってきてくれたサンタさん


 もう寂しくない寒くない

 ああ明日も楽しみだなあ

 


 いやはや今日もとてもいい日だ



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ